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本拠点の本

医療と社会ブックガイド・99)

立岩 真也 2009/10/25 『看護教育』50-10(2009-10):
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http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/kyouiku/


  前回『流儀――アフリカと世界に向い我が邦の来し方を振り返り今後を考える二つの対話』(生活書院、2009)の半分を紹介した。小児科医の山田真さんへのインタビューについて書いた。そこに収められているもう一つのインタビューが、アフリカ日本協議会(AJF)で働いている稲場雅紀さんに対するもので、加えて稲場さんの文章を収録している。本の序文には次のように書いた。
  「稲場さんとの話にいま加えることはない。私たちは、たくさん勉強して、知って、知らせて、考えなければならないと思う。そして、基本的な線をはっきりさせ、すぐに実現しないとしても、そちらの方に向かうことと、今の社会にある力の配置を読んで、今取って来なければならないものを取って来ることと、その両方が必要であること、それぞれを志向する者たちが互いを軽く見るなどということがあってならないこと、むしろ双方が双方を強め合うような過程が必要であり、それは実際に可能であることが言われた。」
  そんなわけで中身は本を見てください。ここでは話の内容の外側のことについて。稲場さんが働いているAJFは大きな組織ではないが、様々な活動をしている。その重要な一つとして、アフリカにおけるHIV/エイズに関わる活動がある。この長い(あと3回で終わる)連載の第53回(2005年10月号)でAJFの代表を務める林達雄さんの『エイズとの闘い――世界を変えた人々の声』(2005、岩波ブックレット)を紹介した。またAJFといっしょに作った冊子の紹介をした。そして続く2回を「エイズとアフリカの本」と題して、関連する本を紹介した。
  その後、2007年度から、私たちは立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学創生拠点――障老病異と共に暮らす世界の創造」を始めることになった。その際、AJF代表の林さんに特別招聘教授(なんだか偉そうだが、いかほども払われてはいない)になってもらった。林さん個人というより、重要であることはわかっているが、こちらの手勢ではなかなか対応できない領域について、AJFにお願いしようということだ。
  結局のところ片手間にしか主題に取り組むことのできない研究者より、それに関わる実践的な活動をやっている組織の方が、知るべきことをよく知っていること、事実をきちんと追っていることがある。こちらでいくらか支援しながら、やってもらえることをやってもらいたいと思っている。
  もちろん、大学院生等が加わってくれればさらによい。昨年度から博士後期課程(分離制の大学院の博士課程に相当)にいる(日本学術振興会特別研究員でもある)新山智基が、「ブルーリ潰瘍」という、彼が入ってくるまで私は聞いたことのなかったアフリカにある――だけではないのだが――感染症に関係する研究をしている。彼には、AJFといっしょに作るHIV/エイズに関する本にも関わってもらうことになっている。また視覚障害のあるアフリカからの留学生に話を聞いたり、日本のことを話したりといった企画を一緒に行なってもきた。
  そんなこんなでいくつか始めてはいるのだが、そのいくつかも含め、アフリカについてはかなりの部分をAJFにやってもらっているというのが現状だ。基本的な情報収集は事務局長の斎藤龍一郎さんがやってくれている。アフリカ関係の新聞記事などを丹念に拾ってくれて、主題別・国別に分けて、ホームページに集積していってくれている。今数えたら、169のファイル(ページ)があり、18メガバイトの容量がある。これはそれなりの分量の単行本30冊分ぐらいの文字量に相当する。
  もともと私自身はまったく不案内なので、他にどんな情報源があるのか知らない。だから、たぶん、としか言いようがないのだが、すくなくとも現在アフリカで起こっていることの情報の集積場所としては、突出しているはずだ。
  それにしてもなぜアフリカかと問われるかもしれない。しかしその問いに答える必要はないと考える。あるいは、この本を読んでもらったらよいと思う。ちなみに、この本については、三人の著者しめし合わせて、印税をぜんぶアフリカ日本協議会に寄付することになった。立命館の客員研究員(といっても無給)も務めてもらっている小川さんがアフリカ地域エイズ・性感染症国際会議に参加するためにセネガルに行ってくるお金にあててもらうことにした。
◇◇◇
  こんな具合に、この本はCOE「生存学」創成拠点の活動の一環として作られ、そしてその後も、アフリカの関係の仕事を、HP上の情報の蓄積・掲載以外はそうてきばきとは行ってないのだが、続けている。ではその企画の全体は何をしているのか。説明すると長くなる。とにかくなんでも載せているから、拠点のホームページをご覧ください(「生存学」で検索すると出てきます)。』
  見れば、教員の本はたくさん出ている。それが仕事なのだから、これは当然のことだ。ただ私たちは当初から大学院生に仕事をしてもらうこと、その成果を世に出してもらうことを重視してきた。また、今度のCOE全体でも「若手研究者の育成」――年齢的には若手でないがこれからという院生がたくさんいるので、この言葉は適切でない――は重視されている。
  本COEの母体である先端総合学術研究科は2003年度に始まった歴史の浅い研究科だから、大学院生や修了者の成果が本格的に出版されていくのはこれからということになるが、今年になって幾つか出ている。一冊は、『生存学』創刊号(生活書院)だが、これは第93回(2009年4月号)で紹介した。その後、分担執筆者として関わった本は別として、4冊出ている。
  一冊は訳書。6月に出たP.ヴァン・パリース『ベーシック・インカムの哲学――すべての人にリアルな自由を』(勁草書房、原書1995、訳書2009)。この連載には関係しなさそうに思われるが、少しもそうではない。教員の後藤玲子と大学院生の齊藤拓が訳し、両者の解説が付されている。この本については『現代思想』(青土社)で、何回か書いてみようと思い、9月号から始めている。
  一冊は共著の本。9月に刊行された 『税を直す』 (青土社)。第1部の「軸を速く直す――分配のために税を使う」は私が書いているが、他に大学院生(で日本学術振興会特別研究員)の村上慎司橋口昌治が執筆している。とくにここしばらく貧困や格差についての本がずいぶんたくさん出たように思うが、どんな本が出て、どんな人が何を言っているのか、まず手早く知りたい人は、橋口の「格差・貧困に関する本の紹介」を読んでもらったらよい。税制関連の本を含め600冊余りの文献表があり、解説がある。この部分だけでこの本を買う価値はある。
◇◇◇
  一冊は単著の本。6月に出た田島明子『障害受容再考――「障害受容」から「障害との自由」へ』(三輪書店)。田島は、大学院が開設されて2年目、2004年に入ってきた大学院生で、別の大学の大学院の修士課程を出ていて、あと3年で後期課程(博士課程)を終えることもできたのだが、最初から入りなおす形をあえてとった。東京都の老人保健施設に勤めながらの大学院生となった(そういう人たちはたくさんいる)。最初は障害者の就労・労働のことで研究をということだったのだが、だんだんと「障害受容」について考えてみようということになった。
  例えば外から見て無理だと思うのに「一般就労」の希望を言い続ける人がいると、「障害受容ができていない」と言われたりするのだが、「それってどうなのよ?」といった「問題意識」からのことだ。この主題で田島は博士予備論文(修士論文に相当)を書き、それをこちらで印刷して自家製本して、通信販売することになった。たいへんよく売れた。そんなことがあって、『地域リハビリテーション』(三輪書店)から連載の提案があり、連載が始まって終わり、そしてそれが本になった。ちなみに、田島は、そのつもりで大学院に来たというわけではないのだろうが、この4月から吉備国際大学の教員になっている。
  もう一冊が共編の本。8月に出た川口有美子・小長谷百絵編『在宅人工呼吸器ポケットマニュアル――暮らしと支援の実際』(医歯薬出版)。小長谷さんは看護学の研究者で東京女子医科大学の教員で、川口が(ALS/MNDサポートセンターさくら会、日本ALS協会理事、(有)ケアサポートモモ社長であるとともに)大学院生。やはり2004年度の入学。題の通りのすぐに役に立つ実用書であり、同時に、呼吸器を付けて家で暮らそうという明確なメッセージをもった本である。私も一章書かせてもらっている。川口は医学書院から単著の本を出すことになっている。連載終了にまにあえば紹介できるかもしれない。


田島 明子 2009/06/25 『障害受容再考――「障害受容」から「障害との自由」へ』,三輪書店,212p. ISBN-10: 4895903389 ISBN-13: 978-4895903387 1890 [amazon][kinokuniya]

◆稲場 雅紀・山田 真・立岩 真也 2008/11/30 『流儀――アフリカと世界に向い我が邦の来し方を振り返り今後を考える二つの対話』,生活書院,272p. ISBN:10 490369030X ISBN:13 9784903690308 2310 [amazon][kinokuniya] ※
川口 有美子・小長谷 百絵 編  20090810 『在宅人工呼吸器ポケットマニュアル――暮らしと支援の実際』,医歯薬出版,212p. ISBN-10:4263235290 ISBN-13:9784263235294 \2730(本体 2,600円+税5%)  [amazon][kinokuniya] ※ v03


UP:20090825 REV:20090829(校正)
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