4.当事者性の不在と言う謎
なぜ当事者であると言う自覚を被害者・加害者共に持たないのか。それは先に述べたように、「暴力」=「しつけ」「愛情」という図式で考えているからである。「夫は愛しているから私を殴る」と考える、全くの被害者の自覚を持たない人間が「それは愛情ではなく暴力である」という状況の再定義を行わない限り、家庭と言う密室で行われる暴力が暴力として社会に現れてくることは無い。クライアントとしてやってくる女性たちは別の顔、別の主訴でカウンセリングの場に登場する。著者の臨床経験から次のように分類される。
@ 子供の問題を抱えた母として、夫の嗜癖問題に困った妻として
A 夫の暴力を辞めさせたい妻として
B 夫を救ってあげたい妻として
C 夫に復讐したい妻として
D 私が悪いんですと訴える妻として
彼女達にとって有効な再定義は、夫を病者としてとらえることである。「殴る夫は病気なのだ、夫を救えるのは自分だけだ」と考え、ますます夫から離れなくなる。しかしこの彼女達のやり方を大切にする必要がある。これは彼女達が自らを治療者とし、夫を病者とすることで状況を再定義し、権力を奪取しようとする試みなのである。