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『子どもの虐待防止最前線』

信田 さよ子編 20010518 大月書店,219p.


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信田 さよ子 20010518 『子どもの虐待防止最前線』,大月書店,219p. ISBN-10:4272411306 1800 [amazon][kinokuniya] m.

■内容

(「BOOK」データベースより)
本書は、これまでの虐待防止のマニュアル本とは違い、多くの職種の人たちが、みずからの経験を率直に語っている。とかくハウツーが盛り込まれた本が氾濫するなかで、本書は単なる方法論に傾かないよう、個別の経験を最大限重視し、同時に虐待問題が提示する現代社会へのメッセージをできうるかぎり盛り込んだ。
(「MARC」データベースより) 虐待をどう把握するか、その原因とケア、虐待防止法と現場の課題を、子どもの虐待防止センター相談員、保健婦、臨床心理士、児童福祉司、弁護士らが報告し、討論する。方法論に留まらず、個別の経験・事例を重視した内容。

■目次

はじめに
報告と討論の参加者――自己紹介
@――虐待をどう把握するか
報告:子どもの虐待防止センターの現場から[関戸克子]
報告:保健センターの取り組みから[田村道子]
討論
A――虐待の原因とケア
報告:アダルト・チルドレンと虐待問題[信田さよ子]
報告:児童相談所の現場から[増井陽子]
討論
B――虐待防止と現場の課題
報告:ケアの充実が急務[関戸克子]
報告:児童虐待防止法の課題と問題点[磯谷文明]
討論
資料 全国の児童相談所一覧
資料 児童虐待防止法と児童福祉法の対照表

■引用

@討論
磯谷「最近しばしば耳にするのは、ミュンヒハウゼン症候群ですね。正確には「代理によるミュンヒハウゼン症候群」といって、子どもを病気に仕立てあげる奇妙な心の病気です。「病気、病気」というだけで子どもには身体的な異常がないということもあれば、親が子どもに菌や薬品を注射して「病気」にしてしまうこともあります。親が子どもの足をハンマーでたたいて折ったうえで、医者に「子どもの骨が折れやすい。骨の病気ではないか」と相談することもあります。」p.70

信田「いまのお母さんたちが大変だというのは、そういう三歳児神話とか、母性愛を持たなくてはいけないとか、あるいは離乳食は規定どおりにやらなくてはいけない。標準体重をクリアしていかなくてはならないという大変な思い込みをかかえて、育児をしていかなくてはならない。しかし、どの母親も等しく母性というものを持っているなどということ自体が幻想なんです。そんな母性の強迫の中で、「母親らしく」ふるまえなくなってしまうのは、むしろ自然なことなのに、そうできない自分を責めて苦しんでしまう。そうした状況が、さきほどの朝露市に代表されるような郊外の地縁血縁の薄いところで集中的に出てきていると思います。」p.76

A報告:信田
「(加害母親の被害者性を強調することで…引用者)主観性・客観性ということと、もう一つの加害者・被害者というパラダイムが重複していくことになります。加害者が被害者であり、その場合の被害者は親で…ということだと誰が悪いのかわからなくなるじゃないかということになります。そこで、どこで歯止めをかけるかというと、児童虐待の児童というところです。子どもには何の責任もないということにおいて、とりあえずは被害者であるお母さんが最後には加害者としての責任をとらなくてはならないというところにまた戻ってきます。でも、そこへいくまでのお母さんのケアというのは、虐待をしてしまったことをいっさい問わないということから始まるのです」p.96

「非常にむつかしいのですが、はっきりと被害者と加害者を分離してかかる必要があるということです。つまり、被害者の子どもと加害者の母親を分離するという原則が必要で双方にまったく違う原則でかかわっていかなくてはなりません。しかし共通するのは、どちらもプロセスにおいては「あなたに責任はない」ということを言わなくてはならないのです。(…)そこで便利なことばが「AC」なんですね。つまり加害者のお母さんに「あなたはACだ」とか「ACじゃなかったんですか?」と言ってあげるのです。先ほどのEG(虐待している母親のグループカウンセリング。エンパワーリング・グループの略…引用者)でも、そのグループで語られるのはなんと最初は自分の被害経験ばかりです。親との関係で傷ついたり、夫との関係で苦しかったことが語られます。」p.97

「ACの人=虐待を受けた人のケアは、とてもシンプルなんです。「あなたは被害者だ。加害者は親だよ」ということをずっとやっていけばいいのです。しかし、その場合の困難な課題は親への愛着です。(…)PTSDによる親へのゆがんだ愛着の物語がリバウンドしてくり返し語られるときに、私たちは何をしていかなくてはいけないのでしょうか。そのとき、その人たちにPTSDの説明をする必要があります。その世界観はゆがんでいることを指摘するのです。」p.100-102

A討論
信田「私は、むしろソーシャルワーカーの人に期待をしていて、臨床心理士もソーシャルワークをするべきだと思うのです。(…)私たちのような民間のところで「こういうような効果がある」と言っても、なかなか多数意見にはならないと思います。(…)そこで、病院がでてくると思うのです。(…)今度は虐待した母親に診断名をつけて、医療にとりこむことで効果を出していくというような動きが出てくると思います。でも私は、それを医療化しないで、虐待はごくふつうの人でもありうるという視点で、親と子のケアをすすめていけば解決するのだという方向を作っておく必要があると思います」p.132-133

関戸「アルコール依存症の場合は、だれかがきちっとレッテルを貼ってあげることをしないとスタートラインにつかないですよね。虐待も、「あなたのやっていることは虐待だよ」ということを、いつ言うかは別にして、きちんとしたかたちで言わないと治療にはつながらないだろうし、子どもとなぜ離れるのかということも納得できないだろうと思います」p.141

磯谷「虐待を受けて育ってきた人が、わが子に対し危害を加えた場合と第三者に危害を加えた場合とで、異なった扱いをすることになりますが、はたしてこれでよいのでしょうか。わが子を傷つければ病院へ、第三者を傷つければ刑務所へという対応は、問題の根が同じことであることに鑑みると、かなり疑問を持たざるを得ません。問題の根が加害者の生い立ちにあるとすれば、やはり同じアプローチをするのが道理だと思われるのです。そうすると、最終的には「罪と罰」という、人間社会の根源にある問題と対峙しなければなりません」p.144

■書評・紹介

■言及


*作成:山口真紀
UP:20080704
  ◇信田 さよ子  ◇精神障害/精神医療  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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