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「消費者主義」の本

医療と社会ブックガイド・2)

立岩 真也 2001/02/25 『看護教育』42-2(2001-2):
http://www.igaku-shoin.co.jp
http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/kyouiku/

韓国語頁


※全文は以下の本に収録されました。
◇立岩 真也 201510 『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』,青土社 ISBN-10: 4791768884 ISBN-13: 978-4791768882 [amazon][kinokuniya] ※ m.

『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』表紙

 前回は、人体実験に関わる医学内部からの批判をきっかけとした米国での「バイオエシックス」の始まりを扱った本を紹介した。日本でも同様に現在につながる重要な動きがあった。このことについても述べようと思うが、前回紹介したような本はないから(米国の歴史の本が何冊も出て日本についての本がないのは変だ)、こちらで探してまとめなくてはならない。時間をいただくことにし、今回はその後の米国のことから。
 ものごとを考えていく時、α:基本的な方向が定まっていて後はその実現のための手段を考え実行していくという方向と、β:どちらに行ったらよいのか自体から考えないとならない場合と、二つある。(関連する私の文章として「闘争と遡行」。最近、トップページhttp://ehrlich.shinshu-u.ac.jp/tateiwa/1.htmからこの連載のコーナーに入れるようにしました。この文章他、追加情報もあります。どうぞよろしく。)
 「バイオエシックス」と言われる時には、β:ことの「よしあし」を考える「学問」というイメージが強いかもしれない。だが、「患者の権利」を明確に打ち出し、その実現をはかっていこうとする流れもまた大きくあり、「普通」の病気の人にとってはこちらの意義の方が大きいとも言えるだろう。前回に紹介した動きもこの流れに関わる。そして一九六〇年代以降の社会運動があった。人種差別に抗議する公民権運動があり、フェミニズムの運動があり、環境破壊に抗する運動があり、学生運動、反戦運動があった。これらのある部分を体制は受け入れることはなかったが、「消費者主権」は誰もが(ではないかもしれないが)否定できない流れになっていく。医療のための社会学と一味違う「医療社会学」(別の回にとりあげる)の登場もこの「叛乱」に関わる。また「バイオエシックス」についてこの側面を強調してきた人として木村利人がいる。
 「消費者主権」に生理的?拒否感を示す人も(意外にたくさん)いるし、パターナリズムといった主題を考え出すと、これも先で述べたβの主題だと言えなくはない。ただ、これについてはどこかでふれることにし、ここでは議論の出発点だと考えることにしよう。とすると課題は現状の分析と方法の提示である。
 日本ですぐに役に立つのは日本で最近出たものだ。本だけでなくいくつかホームページもある。そういうものをこれから紹介していきたいと思う。ただ、一つには行きがかり上、一つには参考になるところがあると思うから、まずは米国から出た本。
 『アメリカの医療告発――市民による医療改革案』。刊行時に8年の歴史があり会員数 175,000名の民間団体「市民医療協会」(People's Medical Society)から刊行されている。著者はこの協会の会長インランダー、イェール大学医学部(「訳者あとがき」では公衆衛生学部)の教授レヴィン他。
 この本はそんなに多くの人が読んでいないだろう。値段も高い。原著の発行は1988年だから、最新情報が盛られているというわけでもない。米国では訴訟が多いと聞くからきっとそのような事例が並べられていて、日本にはそのまま関係がないと思うかもしれない。しかしそうではない。意外におもしろい。
 […]


このHP経由で購入すると寄付されます

[表紙写真を載せた本]
◆Inlander, Charles B.; Levin, Lowell S.; Weiner 1988 Medical on Trial: The Appalling of Medical Ineptitude and the Arrogance That Overlooks It, People's Medical Society=19971125 佐久間充・木之下 徹・八藤後 忠夫・木之下 明美 訳,e『アメリカの医療告発――市民による医療改革案』,勁草書房,307p. ISBN:4-326-70043-2 4725 [amazon][kinokuniya] ※
 http://www.keisoshobo.co.jp/

◆NPO法人大阪医療人権センター 200012 『大阪精神病院事情ありのまま(第2版)』(扉よひらけD),A4版155p.,1500円+送料500円を郵便振替口座00960-3-27152・加入者名NPO大阪精神医療人権センターに送金すると送られてくる。センター事務所は〒530-0047大阪市西天満5-9-5谷山ビル9階 06-6313-0056 fax0058


cf.
(NPO法人)大阪精神医療人権センター
◆立岩 2000/03/25「闘争と遡行」
 『STS NETWORK JAPAN Yearbook '99』:43-48
 1998/10/31 STS Network Japan シンポジウム「医療問題は科学論で語れるか」の記録
◆立岩 2000/12/15「二〇〇〇年の収穫」
 『週刊読書人』2366:2
◆立岩 2000/01/15「二〇〇〇年読書アンケート」
 『みすず』42-1(2000-1)

■言及

◆立岩 真也 2013 『私的所有論 第2版』,生活書院・文庫版
◆立岩 真也 2013 『造反有理――身体の現代・1:精神医療改革/批判』(仮),青土社 ※


REV:20140612
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