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障害学?の本・2

医療と社会ブックガイド・25)

立岩 真也 2003/03/25 『看護教育』44-03(2003-03):214-215
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 前回から「障害学」を紹介することにしてしまったのだが、さて「病気」と「障害」とはどんな関係になっているだろう。そう考えるほどのことでもないのだが、最近これにいささか関係することがあった。
 障害者に対する福祉サービスがこの4月から「支援費制度」というものに移行することになる。そのどさくさに紛れてというか、ホームヘルプサービスについて国がお金(基準額の半分)を出す時間の上限を設定しようとしていることが1月になってわかった。これは特に今回とりあげる本に出てくる人たちにとっては言葉通りの意味で死活問題だったから、薬害エイズの時以来の数の人が厚生労働省前に連日集まって抗議行動を行う事態になった(ことの顛末については私のHPをどうぞ)。
 ただ脳性麻痺など「普通の身体障害者」で丸1日介助が必要な人はそう多くはない。一番困るのは、在宅で暮す「難病」ALS(筋萎縮性側索硬化症)の人たち――この人たちについてまだ『現代思想』に書いていて当分終わる気配はない――だろうと思った。実際、ホームヘルプの時間が減らされて「最初に死ぬのは私です」と、この件をとりあげた1月30日放映のNHK教育「にんげんゆうゆう」で、取材に対して語ったのは橋本みさおさんだ(彼女についてもHPを参照のこと)。
 つまり、言うまでもないことながら、病気になって困るのは痛いことやあるいは死ぬかもしれないことであるとともに、一つには不自由になることだ。病気と障害とは陸続きでつながっている。(それにしては今回のことへの病気関係者?の関心はいま一つ、と思わないではない。)
 ただ障害者は「私は病人ではない」と言うことがある――他方、病気の人は障害者であると言われたくないように見えることがある。そして障害学でも「医療モデル」というのはよく槍玉に挙げられる。
 医療モデルvs〇〇の、〇〇に入るものはいくつかある。一つは「生活モデル」だ。これは(身体の器官の異常だけみる)医療・医学(だけ)ではなく(人を生活において捉える)看護とか、リハビリテーションとか、福祉とか(が大切)という文脈で言われることが多いだろう。
 ただ、治療ではなくて、看護やリハビリテーションや福祉ならOKかというと、そうでもなかったりするのがなかなか難しいところでおもしろいところである。例えば障害学では「社会モデル」という対置の仕方をする。障害者というすぐ福祉、リハビリということになって、研究もそういうところからなされるのだが、それらのすべてから、すくなくともいったん、離れてみようという志向をもっている。では、医療や福祉が問題解決、事態の改善を志向するのに比べ、障害学が傍観者的であるかというとそうではない。むしろ、人により場合により温度差はあるが、実践的、批判的な志向はかなり強い。
 だから、いったん離れるのにも離れずにはいられないというところがあるということである。それはどういうことなのだろう。このあたりの概説は前回紹介した『障害学への招待』(明石書店)の長瀬の書いたところを見ていただければよいし、私の考えはやはり前回紹介の『障害者の主張』(同)に収録された文章の後の方に少し記した。
 ただそれは、実際のところを整理した結果なので、そのもとのところがわからないとやはりなかなか伝わってはこない。私は以前、看護やリハビリテーション志望の学生向けの「社会福祉学」といった講義をもっていたとき、まず『生の技法』の第1章、安積(あさか)遊歩(純子)「<私>へ――三〇年について」を読んでもらうことにしていた。

◇◇◇

 いちおうこの本全体を紹介しておく。この本は「自立生活」と呼ばれたりするものについて書かれた本である。それは、副題の通り、家族に世話になることをやめて、かといって福祉施設に入ることもせずに、地域で生きていこうとする人たちの暮しのことである。これは1970年代に始まって全国に広がっていくのだが、東京の西の方、三多摩と呼ばれる地域にそんな暮しをしようという人たちが集まってきていて、その人たちの活動・運動が活発だった(それには、ボランティア――当時は介助のかなりの部分をボランティアによっていた――の供給源である大学が多くあったという事情もある)。
 どうもこれはおもしろいということになって、1985年から聞き取り調査を始めた。やがてこの動きには過去があることがはっきりしてきた。それで、1970年代からの動きを、障害者団体の機関誌等を探し出して調べたりした。そんな部分も加え、今から考えればかなりの時間をかけて(当時は職もなかったし、時間をかけることができた)、1990年に出版した、というか出版社に原稿を持込み、出してもらった。初版3刷の後、1995年に増補改訂版が出て現在第7刷になっている。
 そこには、うるわしくもあるが双方にとって息苦しいものでもある家族と本人の関係のこと、様々に改善されるべきしかし改善されても施設は施設である施設のこと、介助(介護)における人間関係のこと、自立生活プログラムと呼ばれる試みのこと、この生活・運動の歴史的な展開、介助に関わる制度の推移と現状の紹介とどこから誰から介助を得るかについての考察、等がある。
 95年の増補改訂版では、私たちが調査していた80年代後半、ぼつぼつ各地で始まった「自立生活センター」の活動が、91年に全国組織も発足して活発で重要なものになってきたことも受け、その活動を紹介しその意義を考察した章等を加えた。手前味噌だがよい本だと思う。前々回(1月号、44巻1号)紹介した『自立生活運動と障害文化』 は個々の人や組織について書かれた文章が集められているのだが、こちらはその全体を捉えようとしたもので(その捉え方が偏ったものであることは認めよう)、両方合わせて読んでいただけたらよい。
 最初に記した支援費制度、ホームヘルプサービスについての行動でも、他の全国的な障害者団体といっしょに、先頭に立って、連日厚生労働省の前に集まり、官僚との交渉に当たったのはこの人たちだった。細々としたものだった運動が大きくなったことを、またなだらかではないだろう今後の道程のことを思った。

◇◇◇

 さて安積遊歩(戸籍名は純子でこの本では純子になっている)。彼女は1956年福島県生まれで、骨形成不全という障害がある。私が初めて会った1985年には東京都の国立市に住んでいて、今でも住んでいる。最初の単著は『癒しのセクシー・トリップ――わたしは車イスの私が好き!』(太郎次郎社,1993年,230p.,1800円)。他はHPに掲載。
 『生の技法』の第1章の方は一人称の語りの形をとっている。彼女の約30年が語られている。親に連れられ病院に通って、よくわからないまま手術を何度も受けたが、痛いだけでよいことはなかったこと、病院が横にある寄宿制の養護学校に入るが看護師が厳しくて辛かったこと、等々。医療・看護にとってうれしいことはすこしも書いてない。かといって「特殊教育」を含む福祉業界がよかったという話になっているわけでもまったくない。それが全体の一部であることをまずは認めよう。しかしそういう人が一人いることはまず事実であり、そしてそういう人は、私は聞き取りして思ったのだが、たくさんいる。(この辺をきちんと押えておいた方がよいと述べたのが、昨年の6月号(第17回、43巻6号)で紹介した『臨床社会学の実践』所収の「なおすことについて」。)さてこれはどういうことなのかと考えると、最初に記した「医療モデル」vs…という話につながる。
 ただそれはたくさんのことが語られている中の一つだ。なにより、人生が変わることについて語られる部分が幾つかある。米国に半年行った時の話もその一つなのだが、その前、1976年、20歳の時、彼女はその日付を覚えているのだが、福島青い芝の会という小さな組織の花見大会(と当地では言うのだそうだ)に、もう一人その前に人生が変わってしまった人(本には名前が出ていないが前掲の『自立生活運動と障害文化』に「「障害者は生きているのが仕事だ」ってね」が載っている鈴木絹江である)にかどわかされて、行くのである(28-30頁)。この辺りが私にはおもしろく、重要であるに違いないと思われ、講義で、朗読しても感じが出ないのでそのまま読んだりはしないのだが、なにがしかの熱情とともに、紹介してきた。
 そしてさらにその20年後、1996年に宇宙(うみ)と名付けられた女の子が生まれる。その宇宙さんも骨形成不全で二人は骨形成不全親子をやっている。出産の前後のことは、96年、97年と2度NHK教育テレビの番組でも放映されたからご覧になった人もいるだろう。そしてその後のことは、99年に出版された2冊目の単著『車椅子からの宣戦布告――私がしあわせであるために私は政治的になる』に描かれている。

[表紙写真を載せた本]
『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学』(安積純子・尾中文哉・岡原正幸・立岩真也,藤原書店,1995年,366p.,2900円)
◆安積 遊歩 19990920 『車椅子からの宣戦布告――私がしあわせであるために私は政治的になる』,太郎次郎社,198p. ISBN:4-8118-0654-9 2100 [amazon][kinokuniya][kinokuniya][bk1] d

[他に取り上げた本]
◆安積 遊歩 19931120 『癒しのセクシー・トリップ――わたしは車イスの私が好き!』,太郎次郎社,230p. ISBN:4-8118-0623-9 1800 [amazon][kinokuniya][kinokuniya][bk1] ※ d


UP:20030205 REV:0213(誤字訂正)
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