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自立生活運動と障害文化

―当事者からの福祉論―

全国自立生活センター協議会 編 20010501
『自立生活運動と障害文化――当事者からの福祉論』
全国自立生活センター協議会,発売:現代書館,480p. 3675
現代書館のホームページ(表紙写真がご覧になれます)
http://www.gendaishokan.co.jp/

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■全国自立生活センター協議会 編 20010501 『自立生活運動と障害文化――当事者からの福祉論』,全国自立生活センター協議会,発売:現代書館,480p. ISBN:4-7684-3426-6 3675 [amazon][kinokuniya] ※ d00h

全国自立生活センター協議会編『自立生活運動と障害文化――当事者からの福祉論』表紙

紹介・言及

◆[bk1]
 親元か施設でしか生きられない、保護と哀れみの対象であった障害者が、地域で自立生活を始め、社会の障害者観や福祉制度を変えてきた。60〜90年代の15団体、29個人の生の記録。

◆立岩 真也 2001/06/00 「『自立生活運動と障害文化』――知ってることは力になる・18」,『こちら”ちくま”』23
長瀬 修 200106 「書評:『自立生活運動と障害文化』」(↓),時事通信配信,6月3日『中国新聞』掲載
◆立岩 真也 2003/01/25 「サバイバーの本の続き・3」(医療と社会ブックガイド・23),『看護教育』44-01(2003-01):(医学書院)
◆井岡潔美(応用人間科学研究科臨床心理学領域)による紹介(↓)
◆立岩 真也 2017/07/09 「聞く話す履歴・高橋修(1948〜1999)4――「身体の現代」計画補足・384」https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1917892208477757

目次

◆はじめに−編纂にあたって
 http://www.fukushibook.com/book/004/0040007/01.htm

■I団体篇

◆樋口 恵子(全国自立生活センター協議会)
 「日本の自立生活運動史」
◆中西 正司(ヒューマンケア協会)
 「自立生活センターの誕生」
◆廉田 俊二(メイストリーム協会)
 「おやじのひとりごと」
◆山田 昭義(AJU車いすセンター)
 「名古屋の「愛の実行運動(AINO JIKKO UNDO,AJU)」の軌跡」
◆光岡 芳晶(自立生活センター米子)
 「自立生活センター米子の七年間――障害者の自立生活運動新時代に向けて」
◆林 芳江(北九州自立生活センター)
 「工業で栄え、療育の盛んな街にある自立生活センターとして」
◆佐藤 きみよ(自立生活センターさっぽろ)
 「自立生活センターさっぽろのあゆみとこれから」
篠田 隆(自立生活支援センター新潟)
 「新潟市における障害者の運動の歴史」
◆宮 昭夫(視覚障害者労働問題協議会)
 「視労協がやってきたこと、考えてきたこと」
◆三上 洋(視覚障害者労働フォーラム)
 「関西視覚障害者運動史――三氏就労闘争を中心に」
◆永井 哲(全国聴覚障害者連絡会議)
 「聴覚障害者の運動史」
◆長野 英子(全国「精神病」集団)
 「全国「精神病」者集団の闘い」
◆加藤 真規子(全国精神障害者団体連合会)
 「YES。セルフヘルプを生きる――ぜんせいれんの歩みを振り返って」
◆ピープルファーストはなしあおう会
 「障害者ではなく、まず「第一に人間として」」
◆生田 進(ピープルファースト大会大阪実行委員会)
 「施設はあかん。お金を自分の好きに使えるのがほんまの自立」

■II個人篇

◆小山内 美智子
 「二三年の札幌いちご会の運動」
◆我妻 武
 「楽しみながらネットワークを
 ――国際障害者年から二〇〇二年DPI世界会議大会へ向けて」
◆白石 清春
 「闘争の青春を謳歌しました」
◆鈴木 絹江
 「「障害者は生きているのが仕事だ」ってね」
◆二日市 安
 「やれるときに、やれるだけのことを」
◆近藤 秀夫
 「車いすバスケットボールとジャスティン・ダートとの出会い」
寺田 純一
 「「青い芝」と四三年」
新田 勲
 「障害者に生まれて幸福だったと自分を偽るな。本音で生きろ!」
三澤 了
 「同じ頚損仲間から、障害種別・国境を超えたDPIの運動へ」
◆荒木 義昭
 「いろいろやってきた結果として今がある」
◆若林 克彦
 「「必ず日本の介護は問題になる」――三〇年前に俺たちが予想した通りになった」
◆遠藤 滋
 「愚かだったからこそ、今、自分がいとおしい」
◆高橋 修
 「引けないな。引いたら、自分は何のために、一九八一年から」
◆横山 晃久
 「不屈な障害者運動――新たな障害者運動を目指して」
◆横田 弘
 「やっぱり障害者が生きていることは当たり前じゃない」
◆内田 みどり
 「障害者であり、女であることの狭間で」
◆平井 誠一
 「相手にされなかった時代から現在の若者へ託す志!!」
◆牧口 一二
 「時の流れに身をまかせ……なんてね」
◆定藤 丈弘
 「定藤丈弘の残したもの」
◆楠 敏雄
 「私の障害者解放運動史」
◆森 修
 「障害者として生きるということ」
◆入部 香代子
 「障害者として生きることを死ぬまで追い求めて」
◆森本 秀治
 「共同連と私」
◆澤田 隆司・福永 年久
 「座談会・兵庫の「武者」たち大いに語る」
田部 正行
 「自分自身のための運動」
◆古井 正代
 「CPとして生きるっておもしろい!」
◆中山 善人
 「僕自身が考えて、運動を組み立ててきたこの二八年間」
◆古賀 稔章
 「一つの社会、青い芝の会との出会い」

■IIIシンポジウム

◆大熊 由紀子・北野 誠一・中西 正司・仲村 優一
 「自立生活運動の二十一世紀への展望」

◆自立生活センター協議会加盟団体一覧
◆杉本 章 「戦後障害者運動史年表」
◆参考文献・論文
◆索引
◆『自立生活運動と障害文化』編纂協力者一覧


…………


◆奥平 真砂子(全国自立生活センター協議会) 20010501 「はじめに――編纂にあたって」
  全国自立生活センター協議会編[2001:001-003]
◆渡辺 禮司(キリン財団) 20010501 「『自立生活運動と障害文化』発刊によせて」
  全国自立生活センター協議会編[2001:004]

樋口 恵子(全国自立生活センター協議会) 20010501 「日本の自立生活運動史」
 全国自立生活センター協議会編[2001:012-032]
中西 正司(ヒューマンケア協会) 20010501 「自立生活センターの誕生」
  全国自立生活センター協議会編[2001:033-040]
◆廉田 俊二(メイストリーム協会) 20010501 「おやじのひとりごと」
  全国自立生活センター協議会編[2001:041-048]
山田 昭義AJU車いすセンター) 20010501 「名古屋の「愛の実行運動(AINO JIKKO UNDO,AJU)」の軌跡」
  全国自立生活センター協議会編[2001:049-056]
◆光岡 芳晶(自立生活センター米子) 20010501 「自立生活センター米子の七年間――障害者の自立生活運動新時代に向けて」
  全国自立生活センター協議会編[2001:057-064]
◆林 芳江(北九州自立生活センター) 20010501 「工業で栄え、療育の盛んな街にある自立生活センターとして」
  全国自立生活センター協議会編[2001:065-073]
佐藤 きみよ(自立生活センターさっぽろ) 20010501 「自立生活センターさっぽろのあゆみとこれから」
  全国自立生活センター協議会編[2001:074-080]
篠田 隆(自立生活支援センター新潟) 20010501 「新潟市における障害者の運動の歴史」
  全国自立生活センター協議会編[2001:081-088]
宮 昭夫(視覚障害者労働問題協議会) 20010501 「視労協がやってきたこと、考えてきたこと」
  全国自立生活センター協議会編[2001:089-097]
◆三上 洋(視覚障害者労働フォーラム) 20010501 「関西視覚障害者運動史――三氏就労闘争を中心に」
  全国自立生活センター協議会編[2001:098-105]
◆永井 哲(全国聴覚障害者連絡会議) 20010501 「聴覚障害者の運動史」
  全国自立生活センター協議会編[2001:106-113]
長野 英子全国「精神病」集団) 20010501 「全国「精神病」者集団の闘い」
  全国自立生活センター協議会編[2001:114-122]
◆加藤 真規子(全国精神障害者団体連合会) 20010501 「YES。セルフヘルプを生きる――ぜんせいれんの歩みを振り返って」
  全国自立生活センター協議会編[2001:123-132]
ピープルファーストはなしあおう会 20010501 「障害者ではなく、まず「第一に人間として」」
  全国自立生活センター協議会編[2001:133-138]
◆生田 進(ピープルファースト大会大阪実行委員会) 20010501 「施設はあかん。お金を自分の好きに使えるのがほんまの自立」
  全国自立生活センター協議会編[2001:139-144]
小山内 美智子 20010501 「二三年の札幌いちご会の運動」
  全国自立生活センター協議会編[2001:146-153]
  cf.札幌いちご会
◆我妻 武 20010501 「楽しみながらネットワークを――国際障害者年から二〇〇二年DPI世界会議大会へ向けて」
  全国自立生活センター協議会編[2001:154-160]
◆白石 清春 20010501 「闘争の青春を謳歌しました」
  全国自立生活センター協議会編[2001:161-168]
◆鈴木 絹江 20010501 「「障害者は生きているのが仕事だ」ってね」
  全国自立生活センター協議会編[2001:169-176]
二日市 安 20010501 「やれるときに、やれるだけのことを」
  全国自立生活センター協議会編[2001:177-187]
◆近藤 秀夫 20010501 「車いすバスケットボールとジャスティン・ダートとの出会い」
  全国自立生活センター協議会編[2001:188-195]
寺田 純一 20010501 「「青い芝」と四三年」
  全国自立生活センター協議会編[2001:196-204]
◆新田 勲 20010501 「障害者に生まれて幸福だったと自分を偽るな。本音で生きろ!」
  全国自立生活センター協議会編[2001:205-214]
◆三澤 了 20010501 「同じ頚損仲間から、障害種別・国境を超えたDPIの運動へ」
  全国自立生活センター協議会編[2001:215-224]
◆荒木 義昭 20010501 「いろいろやってきた結果として今がある」
  全国自立生活センター協議会編[2001:225-230]
◆若林 克彦 20010501 「「必ず日本の介護は問題になる」――三〇年前に俺たちが予想した通りになった」
  全国自立生活センター協議会編[2001:231-238]
遠藤 滋 20010501 「愚かだったからこそ、今、自分がいとおしい」
  全国自立生活センター協議会編[2001:239-248]
高橋 修 20010501 「引けないな。引いたら、自分は何のために、一九八一年から」
  全国自立生活センター協議会編[2001:249-262]
◆横山 晃久 20010501 「不屈な障害者運動――新たな障害者運動を目指して」
  全国自立生活センター協議会編[2001:263-270]
  cf.HANDS世田谷
横田 弘 20010501 「やっぱり障害者が生きていることは当たり前じゃない」
  全国自立生活センター協議会編[2001:271-279]
◆内田 みどり 20010501 「障害者であり、女であることの狭間で」
  全国自立生活センター協議会編[2001:280-288]
◆平井 誠一 20010501 「相手にされなかった時代から現在の若者へ託す志!!」
  全国自立生活センター協議会編[2001:289-296]
◆牧口 一二 20010501 「時の流れに身をまかせ……なんてね」
  全国自立生活センター協議会編[2001:297-305]
定藤 丈弘 20010501 「定藤丈弘の残したもの」
  全国自立生活センター協議会編[2001:306-312]
楠 敏雄 20010501 「私の障害者解放運動史」
  全国自立生活センター協議会編[2001:313-321]
◆森 修 20010501 「障害者として生きるということ」
  全国自立生活センター協議会編[2001:322-327]
◆入部 香代子 20010501 「障害者として生きることを死ぬまで追い求めて」
  全国自立生活センター協議会編[2001:328-335]
◆森本 秀治 20010501 「共同連と私」
  全国自立生活センター協議会編[2001:336-343]
  cf.差別とたたかう共同体全国連合(共同連)
◆澤田 隆司・福永 年久 20010501 「座談会・兵庫の「武者」たち大いに語る」
  全国自立生活センター協議会編[2001:344-355]
田部 正行 20010501 「自分自身のための運動」
  全国自立生活センター協議会編[2001:356-363]
古井 正代 20010501 「CPとして生きるっておもしろい!」
  全国自立生活センター協議会編[2001:364-370]
◆中山 善人 20010501 「僕自身が考えて、運動を組み立ててきたこの二八年間」
  全国自立生活センター協議会編[2001:371-377]
◆古賀 稔章 20010501 「一つの社会、青い芝の会との出会い」
  全国自立生活センター協議会編[2001:378-383]
◆大熊 由紀子・北野 誠一・中西 正司・仲村 優一 20010501 「自立生活運動の二十一世紀への展望」
  全国自立生活センター協議会編[2001:385-402]
◆杉本 章 20010501 「戦後障害者運動史年表」
  全国自立生活センター協議会編[2001:409-438]

 

長瀬 修 200106 「書評:『自立生活運動と障害文化』」
 時事通信配信,6月3日『中国新聞』掲載

 街を車イスに乗った女性、男性が歩いていく。日本でもようやくそれはありふれた光景になってきた。バリアフリーという言葉もよく耳にする。しかし、例えば車イスに乗った人の暮らしぶりを私たちはまだまだ知らない。「障害者」と呼ばれる人たちが何を求め、どのように社会を変えてきたのか、世に知られていないことが多いのである。
 この本は障害者が日本でどのように自立生活運動、障害者解放運動に取り組んできたかを、一五の団体、二九人の個人を選び、執筆、インタビューを通じて明らかにする画期的な取り組みである。
 日本には現在、障害者が主導権を持って権利擁護、情報提供、介助派遣サービスなどを行う自立生活センターが九七カ所ある。アメリカから刺激を受けて、東京都八王子市に日本で第一号のセンターができたのは一九八六年である。
 しかし、自立生活運動と呼ばれる、障害者自身が自らに誇りを持って「障害文化」をはぐぐみ、自分の暮らし方を自分で決める力を持つ運動、障害者が施設や親元でなく、街で暮らせるようにする社会変革、価値観の転換を訴える動きは、少なくとも六〇年代から日本にもあった。本書はそうした動きを担った団体、個人もしっかりと取り上げている。
 編者である全国自立生活センター協議会の前代表で自らも脊椎カリエスの樋口恵子さんが述べているように、障害者である自分を否定するのではなく、「自分は自分なりに精一杯生きてきた、かけがいのないすてきな存在なのだ」と認められる社会を実現するための運動の歴史がここにある。
 障害者の自立生活運動は二四時間介助の実現など行政サービスの向上を実現させてきた他、利用者が主体となり、サービス提供の担い手となることで良質のサービスの保証するという斬新な手法を定着させてきた。これは高齢者の介護保険にとっても重要な教訓である。
 障害者、日本の社会全般のありように関心のある人にとって聞き逃せない肉声が本書からは伝わってくる。

長瀬修(障害学研究会共同世話人)


◆井岡潔美(応用人間科学研究科臨床心理学領域)による紹介

【本書を選定した理由】
 現行の社会福祉制度利用下の生活は障害観に基づく自己像・自立概念等自我同一性の確立が前提条件となるが、そうした生活の根拠となる自我同一性、すなわち障害者としてどう生きるのかという"障害者アイデンティティ"は当事者のなかでも大きく異なる。障害者の自立は自我同一性形成上の問題として、親子の関係、特に母子の密着した関係と親の養育態度が大きく影響するものとして常々取り上げられるが、その背景に経済、教育、さらには民族・文化に至る様々な要因が絡み合っていることは言うまでもない。特に、1960年代以降の当事者運動の流れは従来の障害者に対する認識─家族あるいは介護援助職の庇護のもとでの生活を基本とするという─を大きく変換させることとなった。本書については、青い芝の会の中心的人物である横田を初めとして、運動の先駆的役割を果たした障害者達の語りを中心にこれまでの運動の軌跡をたどり、当事者の視点から障害を一つの文化として体系だてようと試みた点に関心をもった。

【概要】
 本書は、T部 団体編、U部 個人編、V部 専門家を交えたシンポジウム「自立生活運動の二十一世紀への展望」、の三部構成になっている。T部・U部を通じ自立生活運動の先駆者たちの語りによって構成されているが、T部では主として各々の団体の活動の経緯を中心にしながら自立生活運動史をまとめあげるかたちになっている。U部では、個々人の団体との関わり、その中で培われていった彼等の人間観・障害観などが語られている。V部では、T部・U部を踏まえ、専門家を交えて運動の将来的展望を探る討論となっている。また、巻末には全国自立生活センター協議会加盟団体一覧、戦後障害者運動史年表も載せられている。

 一般に障害者の自立生活運動が広まったのは1980年代初めとされるが、それ以前から日本の障害当事者運動は激しく展開していた。そのひとつが1957年に活動を始めた"青い芝の会"である。彼等は脳性マヒ者を中心としたサークル的な集まりとして活動をはじめたが、その目的は、家族介護を余儀なくされる重度障害者が、家族が年老いた後の自分たちの生きる場所を求めたものであった。T部では会がその後の自立生活運動に与えた影響についても様々な人の語りによって詳しく描かれている。
 その後、アメリカ型の自立生活運動を推進する全国自立生活センター(JIL)が1991年、また日本に第1号のアメリカ型の自立生活センター(CIL)が1986年に設立され、障害者が地域で一人で生活する事も徐々にではあるが浸透している。U部では、これまでの活動によって"普通の暮らし"を勝ち得るまでのプロセス、それを通して障害者本人が意識する"障害者アイデンティティ"とも表現できるような障害観・人間観が語られている。
 一方で、アメリカの自立生活運動がマイノリティの公民権運動あるいは消費者運動として世論を味方にして発展したのに対し、日本での当事者運動は障害者の中でも過激な集団というイメージが強く、脳性マヒ者だけの運動として展開していったきらいがある。本書においても、語り手の多くは脳性マヒを中心とした先天性(もしくは出生時点での)障害者であり、他の障害者(例えば中途障害者)のもつ障害観を包括したものとは言い切れない部分もある。また、運動の成果として社会福祉制度・年金制度が整うにしたがって次世代の障害者達がもつ障害観との間にいわゆるジェネレーションギャップが存在することも否めない。先駆者達が老年期を迎え、自立支援法改正などの社会福祉の構造改革が断行される今日、運動の行方に課題も残している。

【自分のコメント】
 概要でも述べたように、日本における障害者の自立生活運動は、それまで常に庇護の対象としてのみ認識され自己決定権を与えられることのなかった脳性マヒ者を中心とした運動として展開していった経緯がある。1970年代の関西における健全者運動グループゴリラの運動展開の軌跡をたどった山下(2004)は、障害者のペースのままで生きることを強く求める彼らと、それを受けとめつつも介護者は手足に過ぎないのかという葛藤に悩む介護者の思いのすれ違い、自己犠牲のうえに成り立っていた当時の介護体制の限界を描いている。本書U部でみられる「親の愛と正義は毒」「やっぱり障害者が生きているのは当たり前じゃない」(横田)、「重度障害者がいきいき生きられる状態でなければ誰にとってもいい社会じゃない」(鈴木)などの言葉には、運動の先駆者たちが"障害者のままで生きる"ために親との依存関係を障害者の側から断ち切る強い意志と社会に介護の受け皿を要請していく権利の主張がこめられているといえよう。
 一方、年金や各種福祉サービス、教育制度など運動の恩恵を充分とはいえないまでも享受する現代の障害者の中には、自身のハンディキャップをキャリア(あるいは技能・能力・特徴)のひとつとして考えるという発想の転換もみられる(八巻ら2005)。30名余の障害者との面接から障害者─介護者の関係構築のために意図的に行う動作、言葉などの働きかけ全てを分析した八巻らの記述は、障害者意識におけるヒューマンサービスの消費者としての側面を示唆するものであり、これまでの自立生活運動の成果を感じさせると同時に世代による障害観の変化も示している。実際の若者たちはどのように感じているのか、CIL活動の一つであるピアカウンセリングで知り合った20才代後半の重度先天性障害者に協力を依頼した。
 昨年から一人暮らしを始めCILに勤める脳性マヒの青年は、「ボク自身は何とか就職もできて給料と年金で食べていける。ほんまはデモまでするのはちょっと…でも、もっと障害の重い子や知的障害の子は一生無理やから、親が死んでもその子らが生きていけるようにはせなあかんと思って」という。ヘルパー派遣事業を起業した別の重度の先天性身体障害者は次のように答えている。「自分が障害者やと思ったことがあまりないし、障害の意味とか将来の目標をもってたわけでもない。だから運動にも興味もないし参加したいと思わない。それよりどうやったら自分の頭だけで勝負できるんか考えてきた」「昼間誰もいない家で転んだりしたらどうしようもなくて何時間でも転がったままや。俺、このまんまやったら死んでまう、なんとか周りに人を集めなって。それで母親が帰ってきたとき"俺、ヘルパーの事業所やるわ"て」「俺らは生まれた時から人の世話になりっぱなしや。そやから小さい時からこの人は飴くれる、とか、車椅子押してくれるとか、会った瞬間に判断せなあかんわけ。そやからヘルパーとか雇う時に自信あった」。
 彼等は障害者であることについての価値づけ・意味づけはさておき、障害を一つの能力としてみるという人間観をもつようである。しかしその根底にあるものを考えてみれば、先天性障害者は「生きること」それ自体が目標になっているといえないだろうか。彼等が生きることにおいて、多くの場合、身体的制約あるいは社会的構造に内包される「健全者の論理」による様々な抑圧という障壁がある。権利の主張も障害のキャリアへの転換も、表現こそ違え、そうした社会側からの抑圧的なドミナントストーリーに対して独自のストーリーへの書き換えを通して生きること自体に目標をおくことに"障害者アイデンティティ"があるのであろう。本書にはそのエッセンスがぎっしりと詰まっている。

【参考文献】
・「自立生活運動と障害文化――当事者からの福祉論」 全国自立生活センター協議会編 (2001) 現代書館 
・「自立生活を志向する障害者――介護者関係構築の方略とスキル」 八巻(木村)知香子、山崎 喜比彦(2005) ソーシャルワーク研究 Vol.31 No.1 46〜51
・「障害者と健常者、その関係性をめぐる模索─1970年代の障害者/健全者運動の軌跡から」山下 幸子(2005)障害学研究 1巻 213〜237

■言及

◆立岩 真也 20140825 『自閉症連続体の時代』,みすず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon][kinokuniya] ※

◆立岩 真也 2018 『不如意の身体――病障害とある社会』,青土社

◆立岩 真也 2018 『病者障害者の戦後――生政治史点描』,青土社


UP:?? REV:20090703, 20140825, 20170716
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