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小川恭一氏宛て公開質問状


立岩 真也 2017/12/31

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*(答になっていない)小川恭一氏の回答(2018/01/19)。

*以下の公開質問状の趣旨に同意される方は「いいね」でその意を表してくださるようお願いします。→「いいね」できる人はフェイスブックをしている人に限られるということにいまひとつ思い至っておりませんでした。すみません。2018年1月7日現在その「いいね」133。→


 兵庫県立こども病院名誉院長小川恭一殿

 貴殿は、兵庫県立こども病院から刊行された『兵庫県立こども病院移転記念誌』(2016年)に収録された「兵庫県立こども病院誕生当時のこと」という文章において、「当時の兵庫県知事金井元彦氏は、小児医療に深い関心を持ち「子供に障害が起こってしまってからでは遅すぎる。予防は治療に勝ることを真剣に考えるべき」という信念を持っておられ、本邦では初めてのユニークな県民運動となった「不幸な子供の生まれない施策」を展開されました」と記されています。
 これは当時の兵庫県知事の信念を紹介した箇所ではありますが、その信念とその施策について肯定的であることは、この文からもまた前後の文脈からも明らかです。さてそのようにとりあげられている「不幸な子供の生まれない施策」(「不幸な子供の生まれない運動」)は、その重要な一部に、優生手術(断種・不妊手術)、出生前診断(当時は羊水診断)を含むものでした。むろん、1965年にこの病院に心臓外科部長として務め始め、その後院長を務め、現在は名誉院長である貴殿が、この運動において、これらが行なわれていたことを知らないはずはありません。しかしそのことにはふれられておらず、そして、その全体が肯定されています。これは不可解に思われます。
 それでも一つ、貴殿にとっては不名誉なことであると思いますが、すっかり忘れたというわずかな可能性はあるのかもしれません。しかし、それは忘れられてよいようなことでないと考えます。▼もし、忘れてしまっていたのであれば、そのことをお知らせください。そして、その忘却についてかつて院長であり現在名誉院長である貴殿がどのようにお考えになるかをお知らせください。…1▲
 ただもちろん、そのようなことは普通にはありえないことだと私も思います。とすると、知っているが書く必要がないと考えた、順序を逆にすれば、書く必要がないとは考えたが、もちろん知っていたということです。まずそのことが不思議に思われます。出生前診断、選択的中絶の是非については種々の議論があります。ここでは貴殿がそれに反対するべきであると言いたいのではありません。優生手術についても、当時の優生保護法において認められていたこともあります。ただ、だからといって積極的に推進すべきだとはなりませんし、全国的にも法の範囲を超えてなされていた事例があることが近年ようやく明らかにされてきたこともあります。だからこそ、この実践が責任ある人々によって、当時どのように理解されていたか、またどのように理解しているのかが問われているのです。これらの実践を肯定するか否定するかという以前に、▼全体を知っているにもかかわらず、その部分にはふれず、しかしその全体を肯定するというのは、事実を不正確に伝えており、また不誠実であるとも思えるのですが、無知であったいうわけではない(はずの)貴殿はなぜそのような記述をされるのでしょうか。その理由を示してください。またその姿勢についてお考えを示してください。…2▲
 そしてさらに、とくに不思議なのは、この「施策(運動)」の全体を「小児医療」として括っていることです。「小児医療」がときに「予防」としてなされ、また機能することがあることは認めましょう。しかし普通、予防にしても、まず人がいて、初めてその人に対して、予防も治療も成立するもののはずです。次に、中絶手術にしても断種手術にしてもそれは医療技術を用いてなされるものではあり、その限りにおいて「医療」と呼ぶことを認めるとしても、この「施策(運動)」の一部であった優生手術・出生前診断の対象とされたのは子どもではありません。それは少なくとも子どもの生命を救ったりしようとする営み――それが普通には小児医療と呼ばれる営みであるはずです――ではない。▼にもかかわらず、貴殿は「小児医療」と書かれています。このことをどのように考えておられるのでしょうか。お示しください。…3▼
 貴殿は兵庫県立こども病院の役職、院長を務めた方であり、名誉院長です。私は2017年から、障害と人間、障害と社会との関係について過去を検証し、現在を調査し、未来を展望すべく研究する人たちの学会である障害学会の会長を務めることになりました。私たちに求められる検証には、重要な立場にあった人が過去そして現在をどのように把握しているのかを確認することも含まれます。より広く、優生手術が実際にどのように行なわれてきたのか、それに関わった人たちが何をどのように考え何を行なったのかは、現在においても様々な壁に阻まれ、明らかになっておらず、ようやくその一部が本学会員を含む研究者らによって明らかにされつつあります。その解明が妨げられないこと促進していくことは、研究者たち、また学会によって求められていくだろうと考えます。ただ、この質問状はまず貴殿個人に宛てた質問でありますから、学会会長からのものといたしました。障害と人間、障害と社会のあり方に関わる重要な問題が、以上に指摘したように扱われていることについて、どうしても公人としての貴殿に説明を求める必要があると考えたのです。
 この文書とそれを収録した記念誌に批判がなされ、質問がなされたことは知っています。それに対する対応が、その機関紙のHP掲載中止というものであったことも、この質問状を出す一つのきっかけでもありました。2017月12月1日付の『毎日新聞』に掲載された私のコメントにもあるように、私は、削除すればよいとは考えません。書かれたものは書かれたのです。その事実は事実として残し、その上での対応がなされるべきものと考えます。しかし病院側の対応は残念と言う以外にないものでした。いったいこのようなできごとを、問題となった文章の著者であり、そして幾度も繰り返しますが、その病院の院長であったそして現在も名誉院長である貴殿はいったいどのように捉えておられるのか。2018年1月20日までに御回答いただきますよう、要請いたします。質問1あるいは2にお答えください。そして質問3にお答えください。送付先は障害学会事務局(〒162-0801東京都新宿区山吹町358-5国際文献社アカデミーセンター内)とさせていただきます。
 なお「小川恭一氏宛て公開質問状」で検索するとこの文章をご覧になることができ、そこから関連する情報も得ることができることを申し添えておきます。

                                        2017年12月31日
                                        障害学会会長・立岩真也


 ※この質問状は病院事務局の年末年始の休みのためもありまだ小川氏には届いていない(20171231)。
 ※20180107速達で発送。

◆小川 恭一(兵庫県立こども病院名誉院長) 2016/03/** 「兵庫県立こども病院誕生当時のこと」,『兵庫県立こども病院移転記念誌』,兵庫県立こども病院,p.17 [PDF]

優生:2017(日本)

◆2017/10/31 「『毎日新聞』「兵庫県立こども病院 障害者不妊手術称賛?団体など抗議文」でコメント」
 『毎日新聞』2017/10/31(紙版では2017/11/01)

◆立岩 真也 2018/02/01 「兵庫県立こども病院名誉院長小川恭一氏への公開質問状――「身体の現代」計画補足・469」
 https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/2005487279718249


UP:201712 REV:20171231, 20180107, 0202
小川 恭一  ◇優生:2017(日本)  ◇優生:2018(日本)  ◇障害学会  ◇障害学会理事会 2018/03/07 「旧優生保護法に関する障害学会理事会声明」  ◇生を辿り道を探る――身体×社会アーカイブの構築  ◇立岩 真也 
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