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『毎日新聞』「兵庫県立こども病院 障害者不妊手術称賛?団体など抗議文」でコメント
立岩 真也
2017/10/31
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[表紙写真クリックで紹介頁へ]
■上東記者に送った文章
「この「生まれない運動」の中心は、医療でもなんでもなく、優生手術、障害児の選択的中絶を進めようという運動だった。その当該の文章はそのことにまったくふれていない。ただ私はこの記念誌をひっこめたり、当該の文章を削除すべきとは思わない。鈍感と無知を知らせるためにも記念誌はそのままに、説明と釈明を加えることを望む。」
■掲載された記事
◆「兵庫県立こども病院 障害者不妊手術称賛?団体など抗議文」
『毎日新聞』2017年10月31日 20時04分(最終更新 10月31日 20時20分)
http://mainichi.jp/articles/20171101/k00/00m/040/052000c
『毎日新聞』紙版では2017年11月1日朝刊。ただし死体がたくさん見つかった事件報道のため、古井さんと私のコメントは掲載されていないとのことです。
「兵庫県立こども病院(神戸市)が昨年発行した「病院移転記念誌」に、かつて実施されていた精神障害者や知的障害者への強制不妊手術を称賛するかのような記述があったことが分かった。全国40以上の障害者団体や市民グループが1日、病院や県に抗議文を提出する。
問題の記述は小川恭一名誉院長の寄稿で、1970年の病院設立当初を振り返った部分。当時の金井元彦知事が「子供に障害が起こってしまってからでは遅すぎる」との信念から、「本邦では初めてのユニークな県民運動となった『不幸な子供の生まれない施策』を展開されました」と書かれている。
「不幸な子どもの生まれない運動」は66年に兵庫県が開始。障害児や遺伝性疾患を持つ子を「不幸な状態を背負った児」と位置づけ、精神障害者や知的障害者への強制不妊手術費用を県が負担して「出生予防」を進めた。運動は全国に広まったが、障害者団体が激しく抗議し、74年に県は対策室を廃止した。
抗議文では、障害者差別解消法が施行された現在なお、この「運動」を肯定的に取り上げていることを問題視。病院側に削除・訂正を求める。呼びかけ人の一人で脳性小児まひの古井正代さん(64)は「かつての抗議活動は何だったのか」と憤る。
抗議文に名を連ねた立岩真也・立命館大大学院教授(社会学)は「この『生まれない運動』の中心は医療でもなんでもなく、障害児の選択的中絶を進めようという運動だった。当該の文章はそのことにまったく触れていない」と批判したうえで、「鈍感と無知を知らせるためにも記念誌はそのままに、説明と釈明を加えることを望む」という。
県立こども病院総務課は取材に「病院設立の背景を説明したものと理解している。もらった原稿を掲載しただけで内容を評価する立場にない」と説明している。【上東麻子】」
■
◆
小川 恭一
(兵庫県立こども病院名誉院長) 2016/03/**
「兵庫県立こども病院誕生当時のこと」
,『兵庫県立こども病院移転記念誌』,兵庫県立こども病院,p.17
[PDF]
◆わたしたちの内なる優生思想を考える会 2017/10/31
「『不幸な子どもの生まれない運動]への称賛を公言してはばからない兵庫県立こども病院と、それを容認する兵庫県に抗議し、記載の削除・訂正を求めます。」
[PDF]
◆「障害者の強制不妊「ユニーク」と記載 兵庫県立こども病院記念誌」
『神戸新聞』2017-11-02 07:02
https://news.goo.ne.jp/article/kobe/nation/kobe-20171102002.html
「兵庫県立こども病院が昨年、神戸市須磨区から中央区に移転した際に発行した記念誌に、同病院名誉院長による寄稿として、県がかつて進めた障害者らへの強制不妊手術などを促した施策を「本邦では初めてのユニークな県民運動」と記載していたことが1日、分かった。全国の40以上の障害者団体や120人超が抗議文をまとめ、同病院や県に発送した。
小川恭一名誉院長が1970年の同病院開設当時を回顧した寄稿文。抗議文は「歴史的事実を隠蔽(いんぺい)し、運動が著しい障害者差別であったとの反省もなされていない」と批判。施策への認識を改めて問い、記述の削除、訂正を求めている。
県は旧優生保護法に基づき、66年から「不幸な子供の生まれない施策(運動)」を展開。精神障害者や知的障害者への強制不妊手術の費用を負担するなどした。障害者団体が激しく抗議し、74年に施策は中止された。
抗議文に名を連ねた視覚に障害がある女性(53)=神戸市=は「今なお誇らしげに書いた文章にショックで憤りを感じる」と批判した。
同病院の中尾秀人院長は「病院設立当時の時代背景を説明した。関係者の皆さまの誤解につながるような寄稿文を掲載したことは深くおわびする」とコメントを出した。(山路 進)」
◆2017/11/01 「精神障害者強制不妊を「ユニーク」と表現 病院記念誌に名誉院長が寄稿、障害者が抗議」
産経WEST 2017.11.1 12:23
http://www.sankei.com/west/news/171101/wst1711010046-n1.html
「兵庫県立こども病院が昨年、神戸市須磨区から中央区に移転した際に刊行した記念誌に、同病院の名誉院長による寄稿として、同県が1960(昭和35)〜70(同45)年代に展開した精神障害者らに強制不妊手術などを促した施策を「本邦で初めてのユニークな県民運動」との記述があることが1日、分かった。
この表現を知った障害者らが、障害者らの抗議で施策が中止された経緯を隠蔽し、差別を助長しているとして、削除を求めている。
県は施策を「現在の価値観からすると不適切」とし、こども病院は「昭和45年に病院が設立された当時の社会情勢を書いただけで、決して運動を称賛する趣旨ではない」と説明している。
県は41年に「不幸な子どもの生まれない施策」として始め、不妊手術費用を負担するなどしていた。49年には、県の担当部署の「対策室」が廃止された。
抗議を呼び掛け、自身も脳性まひがある大阪市の古井正代さん(64)は「記述を知った時は驚いた。障害者の気持ちを考えておらず、許せない」と話している。」
■関連
◆
出生前診断
◆松永 真純 200112 「兵庫県「不幸な子どもの生まれない運動」と障害者の生」,『大阪人権博物館紀要』5:109-126→立岩・定藤編[2005]※
※立岩 真也・定藤 邦子 編 2005.09
『闘争と遡行・1――於:関西+』
,Kyoto Books,120p.45字×50行×120頁 MS Word 646k bytes→\800:
Gumroad
◆立岩 真也 1992/09/01
「出生前診断・選択的中絶に対する批判は何を批判するか」
,生命倫理研究会生殖技術研究チーム
『出生前診断を考える――1991年度生殖技術研究チーム研究報告書』
,生命倫理研究会,pp.95-112→
『私的所有論』
「「不幸な子を産まない県民大会」が公然と開かれ(兵庫県,1973年10月),同月,母性衛生学会で「不幸な子供を生まないために」といった特別講演がなされる。彼らの提起がなければ,それが良いこととしてそのまま公的な衛生・福祉の施策として通ってしまうような状況にあって,これは重要な提起だった。だった,というだけでない。実際には,今でも,そのことの問題性が意識されることは少ない。また,他者,社会にとって有益でない,負担のかかることを理由に,そうした存在を社会の成員としないのがよいという発想もまた,やはり現在でも,自然に流通している(引用A)。このことに対して,他者の都合で,ある存在(の可能性)を消去するという発想に異議を唱えたことの意味は大きい。これは,我々の主題を考える時に,決して落とすことのできない論点であり,後戻りできない地点であり,繰り返し確認されるべき点である。
しかし[…]」
■1974/02/25 大阪青い芝の会→兵庫県知事・兵庫県衛生部長・兵庫県不幸な子供の生れない対策室長 「兵庫県「不幸な子供の生れない運動」に対する公開質問状」
兵庫県「不幸な子供の生れない運動」に対する公開質問状
兵庫県知事殿
兵庫県衛生部長殿
兵庫県不幸な子供の生れない対策室長殿
兵庫県における、県衛生部を中心とした「不幸な子供の生れない県民運動」に対して、我われ、障害者の立場から、県責任に対する抗議と疑問点を明らかにし、公開の質問状を発することになりました。以下、この質問状に誠意を持って回答されんことを質問致します。
1.様ざまな事実
我われ、障害者に与えた、貴対策室の影響は、はかり知れない物があります。そして、それは、現行、優生保護法に基づき行われて来た事は明白です。
A.昨年開かれた「不幸な子供の生れない県民集会」に対して、障害者の問題に関わる集会であるからと、参加を要求したのにもかかわらず、拒否された。我われの眼の届かぬ所でなにをしようと言うのか。
B.県当局は、対策室を制度化することによって、行政の責任としての、障害者を、不幸と言われる状況においやっている原因をとりのぞく努力を放棄し、障害者の存在そのものが不幸であるとするキャンペーンを自ら行っている。
C.ある県経営の施設を舞台に、障害児をモデルとして、対策室のキャンペーンフィルムを作り、ハレンチにも、各界の反対を押し切り、テレビで放映したこと。
D.現実に、県経営の施設において羊水チェックを行っていること。
2.我われの基本的な考え方
現在の日本は資本主義の社会であり、そこで必要なものは、高率的な生産力であるし、それを統轄しているのが行政と言えるでしょう。かつて、ナチス・ドイツで行なわれた、民族の純粋性の名による障害者殺しを原基形態として、日<0118<本は、優生保護法を作りだし、今日の近代合理主義を完成させた。つまり、障害者に、生産力たりえない、劣悪者の地位をあたえることによって、今日の社会はなりたっているのです。優生保護法は、それの、国家的、法的、表現です。そして、これは、現実の障害者殺しを頂点とする情況によって支えられているのです。秩序総ぐるみによる、このような障害者をあってはならない存在とする運動に対して、人間の未来を要求する人びとからの批判の声はたかい。
県当局は、広はんにある「障害者は、かわいそう、気の毒」とする差別意識をたくみに利用し、「不幸な子供の生れない運動」を展開することで、実質的な優生保護法改悪の先取りを行っている。1個の人格を「幸」、「不幸」とたやすく決める事が、この運動によって、社会的に浸透し、それが、観念としてうえつけられて行く、障害者は、不幸な存在ではなく、不幸にされてしまった存在なのです。
「福祉、福祉」と全国で叫ばれているが、そして、あたかも障害者がすくわれて行くような幻想がふりまかれているが、しかし、それは、健全者の「愛」と「正義」につつみこまれた、障害者のまっ殺を意味する。兵庫県における「不幸な子供の生れない運動」のもつ意味を問いかえし、そのいつわりのベールをはぎとることによって、我われの「生」を幸いなるものとしなければならない。
3.我われの決意
県当局は、この質問状が、ただの紙きれであると考えてはならない。この内には、まっ殺され続けてきた、我われの、兄弟の想いがこめられている。誠意ある回答のない場合、我われは、決意をもって行動する用意のあることを表明する。
4.質問
1.「不幸な子供の生れない運動」とは、いかなる考えによって、実施されているのか。
2.昨年の県民集会に、なぜ、我われ、障害者を参加させなかったのか。
3.我われを「不幸」とする根拠はなにか。
4.優生保護法を、どのようにとらえているか。
5.優生保護法改悪を、どのようにとらえているか。
6.貴対策室をなくす意志はあるか。
以上、県当局の責任ある回答を要求する。なお、この質問状は、発行と同時に、公開されます。
3月10日までに、書面で回答されたい。
1974年2月25日
※大阪「障害者」教育研究会『大障研』創刊号、pp.25−27,松永真純[2001]に全文再録
■1974/04/26 大阪青い芝の会→兵庫県知事・衛生部・母子保健課 「要求書」
要求書
兵庫県知事
衛生部
母子保健課殿
兵庫県母子保健課に、対して「不幸な子供の生れない運動」の持つ、差別的な意味について、私達、大阪青い芝の会は、度々の抗議行動の上に立って、要求書を提出するものです。
先般、私達の公開質問状に対して、県当局からの回答がありました。そして、その中で明らかにされたのは、「不幸な子供の生れない運動」とは、「五体満足に生れてほしい、健康な子供を生みたい。」という気持ちこそが、私達、障害者を差別する具体的な表現なのです。
この気持ちを表現する言葉が、健全者の言葉であり、健全者の発想です。母親もふくめた健全者が優生であり、優生こそが、この世にあるべき存在である。つまり、劣性障害者は、この世にあってはならない。と考え、劣性を生む事をイミキライ、その気持ちが、上記の願いとして結実するのです。
そして、また、回答中の別項にある、「世に、母性なり、家族があるかぎり、母子保健の問題は、重要な問題であり、核家族化が進む現状にあっては、経験者による指導、助言がうすれ行く昨今、若い母性に正しい知識と、理解をふかめ、不安をなくして行く事が大切であり、県民大多数の支持を受けている事もあり、廃止する意志はありませんが、名称については目下、検討中であります。」については、全的に、私達に対する差別そのものです。これは、「世に健全者があるかぎり、あってはならない障害者と考える、一般的差別意識によりかかって、健全者の不安をとりのぞく事に重点をおき、健全者エゴを貫徹します。」と言っているに等しいのです。私達は、このような、名称を変えても、どんな事をしても、なりふりかまわず、障害者の存在を否定し、合理的(?)な社会を維持する事を言明する、差別宣言を許す事は出来ない。母子保健課のパンフレットには、「心身障害児を生まないようにしよう。」とハッキリ書いてある。
私達は、「健康な子供を生み、健全に育てよう。」「働く婦人の健康をまもろう。」「母子保健の推進体制を確立しよう。」とする母子保健課の運動こそが、名称が変わっても、障害者差別の国家的表現である。優生保護法改悪の行政レベルでの先どりである事を、ふたたび明らかにし、兵庫県に対する、百年戦争の名を持って、次の事柄を要求する。
1974年4月26日
(1)障害者差別である、羊水チェックを中心とした、母子保健の名による行政指導を中止せよ。<0120<
(2)その中止時期を明らかにせよ。
(3)先般の回答にみられる様な、障害者差別に充ちた県行政の姿勢を改め、総合的な福祉行政計画を作成せよ。
(4)計画作成にあたっては、障害者の参加を保障せよ。
具体的には、当面、等級に関係なく、医療費の全額免除を実施せよ。
私達は、この要求に対する、県当局の誠意ある回答を、この交渉の場で要求する。即答出来ぬ場合、文書で持って、4月30日までに回答される様、要求する。
※ 関西青い芝の会連合会『関西青い芝連合』1、pp.98−99,松永真純[2001]に全文再録
UP:20171101 REV:20171102,03
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生を辿り道を探る――身体×社会アーカイブの構築
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病者障害者運動史研究
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立岩 真也
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