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素朴唯物論を支持する1(『精神医療』掲載稿01)

「身体の現代」計画補足・244

立岩 真也 2016/10/25

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『希望について』表紙    『精神医療』4-84(159)特集:国家意志とメンタルヘルス表紙    自由の平等    On Private Property, English Version
[表紙写真クリックで紹介頁へ]


 前回その雑誌がどんなものであるかについて紹介した『精神医療』の第84号(正確には、第4次の84号で通巻では159号、原稿などでは4-84(159)と記しているが、表紙には「84」と大きく書いてあるから普通には84号ということになるのだろう)
http://www.arsvi.com/m/p4084.htm
に載った原稿を分載していく。この号の特集は「国家意志とメンタルヘルス」。アマゾンをみたら――この雑誌についてはいつもそうなるのだが――既に新本は買えなくなっている。そんなこともありその全文は「精神」関連で書いたものをまとめた『精神』
http://www.arsvi.com/ts/2016m3.htm
に収録した。短いから、また長い本たちをどう読むかの見当をつけるためにも、これはこれで役に立つと思う。
 その文章は「国家・権力を素朴に考える」。なんだかさえない題で変えようと思ったが、思いつかないうちにそのまま載ったものだ。
http://www.arsvi.com/ts/20160027.htm
この号の他の執筆者よりは長いがそれでも一つひとつの部分はかなり圧縮したものになった。細切れにしてここに載せていく。そこで「天下国家」を(きちんと)論じようと書いているが、それは前から言ってきたことでもあり、例えば『希望について』という本でもそういうことを言っている。
http://www.arsvi.com/ts/2006b1.htm
『私的所有論』はその基礎的なところを考え、『自由の平等』はすこしそれを進めている。
http://www.arsvi.com/ts/2004b1.htm
『現代思想』での連載に「素朴唯物論を支持する」という回がある。その部分をとりあえず冊子?にしようと思っている。

 フェイスブックに載せるのと同じこの文章は
http://www.arsvi.com/ts/20162244.htm
にもある。


 「■1 素朴唯物論を支持する
 「国家(意思)」というお題であったから、すこし「大上段」なものを書こうといくらか思っていた。けれど、そんな文章をいくらか書き始め、締切を過ぎた7月26日、相模原で19人が死亡、26人が負傷という事件が起こった。それは、その日から精神医療に関わらせられてしまった事件でもあったから、「天下国家」を論ずるよりそちらについて書こうと思いなおして、いったん書いた部分を削った。ただ、その事件については後で紹介するいくつかの文章に書くことにもなったため、いくらか場所があいた。やはりすこし大きな話から入る。
 私は、古びたものと思われているマルクス主義の思想に今も当たっているところ、現在の把握について使えるところがあると思っている。それに大きくは二つある。  一つは、技術の進展、生産力の増大に伴って余剰労働力が増大し、安く買われるあるいは仕事につけない労働者が増えていく。それがまったく放置されることもないだろうが、近代社会の基本的な所有権の規則(→次節)のもとで、富は集中していく。一つは、国家が分立し国境が存在しながら、物や人が、完全に自由にではないが、流入し流出するとき、国家は「主体」として機能せざるをえないことになり、利害が交錯する場になる。例えば先進国において、所謂単純労働者の流入は社会のある部分に歓迎されるとともに、その流入する層にいる人たちにとっては脅威と感じられる。「労働者階級」に排外主義が起こる。他方安く労働力や商品を買いたい側は「自由(貿易)」を支持する。この問題をまともな方向に解決できるのは論理的には「国際主義」だが(世界同時革命という語もあった)、それは困難である。すると分配は難しくなる。例えば、税の累進性を△058 強化することが難しくなる。
 だいたいの見立てはそんなものだ。いまざっと描いた図式のもとで多くのことが説明できると思う。ただ、なんのことやらという人もいるだろう。そして私は、このごろは病気や障害やに関わる細かな話をえんえんと書いていて――何冊かの本になっている、そして『現代思想』での連載が続いている――時間がとれないということもあり、そうした話を手頃な分量でまとめた本などを出すことができないでいる。これまでに書いたものを列挙するので関心がある人はどうぞ。
 まず、生産力・技術の亢進に伴う過剰人口という把握について。むろんこれは現在の私たちの社会における主流の言説、つまり少子高齢化社会において人も金も足りなくなるというお話の真反対、対極にある。後者が間違っていて前者が現実だということはいくつもの文章に書いたり講演で話したりしているのだが、それが19世紀以来の社会思想の文脈に乗る話であることには気づかない人もいるかもしれない。『現代思想』(青土社)でもう10年以上させてもらっている連載の1回、2013年の1月号、連載第85回が「素朴唯物論を支持する」というものだった(立岩[2013]→以下筆者のものは[2013]のように記す)。(この前後それに関わることを書いていた。本1冊分にはなっているのだが、読む人がどれだけいるだろうとも思い、そのままになっている。)
 足りなくはないという話は[…]」



UP:201610 REV:
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa  ◇身体の現代:歴史
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