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国家・権力を素朴に考える

立岩 真也 2016/10/10 『精神医療』4-84(159):58-73

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『精神医療』(批評社刊)定期講読をお勧めします。
 http://www.hihyosya.co.jp/books/10002/

※収録→立岩 真也 『精神』(2016・期間限定版) \500 →Gumroad

『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』表紙    『精神医療』4-84(159)特集:国家意志とメンタルヘルス表紙    『造反有理――精神医療現代史へ』表紙
[表紙写真クリックで紹介頁へ]
■目次

 ■1 素朴唯物論を支持する
 ■2 事件/優生安楽死尊厳死思想〜基本的な体制
 ■3 国家・権力を素朴に考える
 ■4 強制〜国家権力が肯定される場合
 ■5 「強制医療」
 ■6 細かに見ていく+すぐに言えることは言う



◆2016/10/24 「『精神医療』という雑誌――「身体の現代」計画補足・243」
 https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1794159920850987
◆2016/10/25 「素朴唯物論を支持する1(『精神医療』掲載稿01)――「身体の現代」計画補足・244」
 ☆
 ……

■抜粋

 ■1 素朴唯物論を支持する
 「「国家(意思)」というお題であったから、すこし「大上段」なものを書こうといくらか思っていた。けれど、そんな文章をいくらか書き始め、締切を過ぎた7月26日、相模原で19人が死亡、26人が負傷という事件が起こった。それは、その日から精神医療に関わらせられてしまった事件でもあったから、「天下国家」を論ずるよりそちらについて書こうと思いなおして、いったん書いた部分を削った。ただ、その事件については後で紹介するいくつかの文章に書くことにもなったため、いくらか場所があいた。やはりすこし大きな話から入る。
 […]」

 ■2 事件/優生安楽死尊厳死思想〜基本的な体制
 「ではそれと――――さきに発達障害・自閉症にはすこしふれたのだったが――精神障害・疾患(「精神」等と略すことがある)となにか関わりがあるか。無理に結びつけることはないように思っている。むろん様々なことが言われていて、その多くは当たっているのだろう。世の中だんだんたいへんになっているという話はしたくないのだが――そして、ここまで書いたのは「余剰」がある「足りている」という話なのだから、「最も基本的には」実際すこしもたいへんではないと考えているのだが、それをうまく処理できないがために――多くの人に負荷がかかる度合いは高くはなっていると言えるだろう。そしてたぶんそれは、病気を増やしているのだろう。ゆえに医療の前に社会を、というのは原則正しい。精神病には金が一番よく効くというのは、少なくとも多くについて、当たっているはずだ。
 そして次に、[…]」

 ■3 国家・権力を素朴に考える
 「さてこの体制が批判され変革されるべきだとして、変革されるべき方向に世の中は向かうのか。そしてそこに国家はどのような位置を占めることになるのか。民主主義なんだから投票で世の中を変えればよいではないかという筋の話に対して、それが思う通りにはならないわけ――一番単純なそれは、民衆は権力者に騙されているというものだ――を言い、だから投票・議会はあてにならないから、まず前衛が革命を起こして、それで社会を変えてしまうと後は(だんだんと)なんとかなるという思想・運動があった。この理路は[…]」

 ■4 強制〜国家権力が肯定される場合
 「私自身を含めて国家だとか国家権力といったものが嫌いな人の多くは「強制」がき△06065 らいなのだと思う。きらいで、それがあるのはよくないと考えて、それをなくすことをよしとする。マルクス主義においても(やがては)強制力がなくなる社会、国家の廃絶が夢想された。客観的な法則があって、やがて自然とそういうことになるのだと言われたこともあったが、まずそれは願われることであった。望ましいかと考えると、それは望ましいように思われる。したくなくてもさせられるのが強制である。したくないことをさせられるのはいやなことである。ならばそれがない方がよいという単純な話である。そんな主張をする人たちがアナーキストだということにされる。
 しかしそれで人殺しやいろいろが起こってもそれはそれでよいとなるか。権力があるよりもそこに自由があることのほうが大切であるというようなことを言う人もいる。その気持ちはわからないではない。私ににもそういう気分が(かなり)あるように思う。しかし[…]」

 ■5 「強制医療」
 「それを「強制医療」について考えてみるとどういうことになるか。7月26日の事件があって、措置入院等のことがまた取り沙汰されることになってしまったこともあって、本稿でこれについて書こうとした。だが、『現代思想』の9月号の特集が「精神」の関係だったこともあり、いつもの連載――その中で[2016/01/01]がこの主題に関わる――の代わりに、この主題について急ぎの、しかしかなり長い文章([2016/09/01])を書いた。そこにひとまず考えたことを書いた。また拙著『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』([2015])の書評(桐原[2017])で検討されているのが強制医療・強制入院についての私の記述であったということもあり、そのリプライでもその事件にも関係させていくらか関係することを述べた([2017])。それらを読んでいただければと思って△067 本稿では略すが、概略以下のようなことを述べている。
 […]」

 ■6 細かに見ていく+すぐに言えることは言う
 「私たちはわりあい頻回に「国家権力が」といった言い方をしてしまうところがあるのだが、その国家が何を目指しているのかを言うのはときにそれほど簡単ではない。このことはこの文章の前半にも記したとおりだ。それでも、そのうえで、ことを大きく捉える必要はあると考えている。だから最初の二つの節を書いたのでもある。そしてそれと同時に、「べた」に、ものごと・できごとに関わる要因を挙げつらっていくという作業が必要だと思う。なにごとかを成立させているあるいはその成立を妨げているものは何かと見ていくのである。そこには国家の決定となったものにどのような要因が関わっているのかを推定していく作業も含まれる。これは政治学では「政治過程論」と呼ばれるような領域でなされていることだ。「アクター」を数え上げ、それらがどのように行動し、何を帰結させたのかを見る。
 ただ、社会のできごと、国の決定…に関わる種々の「成分」が各々どれだけの割合で関わっているのかを挙げきることはまずできない。それにはいくつか理由があるが、[…]」


■文献(18→26→31)
 ※のあるものはこの文献表(立岩真也で検索)からウェブ上の全文を読める

◆樋澤 吉彦 2016 「保安処分構想から医療観察法体制へ――日本精神保健福祉士協会の関わりを中心に」,立命館大学大学院先端総合学術研究科博士論文
稲葉 振一郎・立岩 真也 2006 『所有と国家のゆくえ』,NHKブックス→Kyoto Books
石川 憲彦 2015 「書評:立岩真也『自閉症連続体の時代』」『精神医療』78:156-160
◆桐原 尚之 2017 「書評『精神病院体制の終わり』」、『解放社会学研究』
中島 直 2014/07/10 「書評:『造反有理――精神医療現代史へ』」, 『精神医療』75 ※
◆精神保健従事者団体懇談会+『精神医療』編集委員会 編 2014 『第7回精神保健フォーラム 変われるのか?病院、地域――精神保健福祉法改正を受けて」(『精神医療』別冊),批評社
◆立岩 真也 1997 『私的所有論』,勁草書房
◆―――― 2000 「たぶんこれからおもしろくなる」,『創文』426(2000-11):1-5→立岩[2006]
◆―――― 2004 『自由の平等――簡単で別な姿の世界』,岩波書店
◆―――― 2006 『希望について』,青土社
◆―――― 2008/09/05 『良い死』,筑摩書房
◆―――― 2009/03/25 『唯の生』,筑摩書房
◆―――― 2013/01/01 「素朴唯物論を支持する――連載 85」,『現代思想』41-1(2013-1):14-26
◆―――― 2013/05/20 『私的所有論 第2版』,生活書院
◆―――― 2013/11/23 「病院と医療者が出る幕でないことがある」,第7回 精神保健フォーラム「変われるのか? 病院、地域――精神保健福祉法改正を受けて」 主催:精神保健従事者団体懇談会 於:大手町サンケイプラザ→2014 精神保健従事者団体懇談会+『精神医療』編集委員会 編[2014:15-28]→立岩[2015:]
◆―――― 2013/12/10 『造反有理――精神医療現代史へ』,青土社
◆―――― 2014 『自閉症連続体の時代』,みすず書房
◆―――― 2015 『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』,青土社,433p.
◆―――― 2016/01/01 「加害のこと少し――生の現代のために・8 連載 119」『現代思想』44-(2016-1):-
◆―――― 2016/07/28 「0726殺傷事件後に」,『朝日新聞』2016-07-28朝刊(取材:07/26-27)
◆―――― 2016/07/29 「0726殺傷事件後に」,ホウドウキョク『あしたのコンパス』
◆―――― 2016/08/02 「0726殺傷事件後に」,共同通信配信(『新潟日報』『静岡新聞』『高知新聞』等に掲載,原稿送付:08/01)
◆―――― 2016/08/07 「0726殺傷事件後に」,NHK・Eテレ『バリバラ』緊急企画「障害者殺傷事件を考える」(収録:07/31)
◆―――― 2016/08/31 On Private Property, English versionKyoto Books
◆―――― 2016/09/01 「0726殺傷事件後に」,『現代思想』
◆―――― 2016/09/10 「『造反有理』書評へのリプライ」,『障害学研究』
◆―――― 2016/09/23 「「意思決定支援」を巡る基本論点」,障害学国際セミナー 2016「法的能力(障害者権利条約第12条)と成年後見制度」,於:立命館大学
◆―――― 2017 「『精神病院体制の終わり』書評へのリプライ」,『解放社会学研究』
◆立岩 真也・有馬斉 2012 
『生死の語り行い・1――尊厳死法案・抵抗・生命倫理学』,生活書院
◆立岩 真也・堀田 義太郎 2012 『差異と平等――障害とケア/有償と無償』,青土社
◆立岩 真也・村上 慎司・橋口 昌治 2009 『税を直す』,青土社
◆立岩真也・村上潔 2011 『家族性分業論前哨』,生活書院
◆立岩 真也・齊藤 拓 2010 『ベーシックインカム――分配する最小国家の可能性』,青土社
◆立岩真也編 2015 『与えられる生死:1960年代――身体の現代・記録:『しののめ』安楽死特集/あざらしっ子/重度心身障害児/「拝啓池田総理大学殿」他』,Kyoto Books
◆立岩真也・アフリカ日本協議会 編 2007 『運動と国境――2005年前後のエイズ/南アフリカ+国家と越境を巡る覚書 第2版』Kyoto Books
◆渡邉 琢 2011 『介助者たちは、どう生きていくのか――障害者の地域自立生活と介助という営み』,生活書院


UP:20160730 REV:
精神障害/精神医療:2016  ◇病者障害者運動史研究  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
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