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『精神医療』という雑誌

「身体の現代」計画補足・243

立岩 真也 2016/10/24

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『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』表紙    『精神医療』4-84(159)特集:国家意志とメンタルヘルス表紙    『造反有理――精神医療現代史へ』表紙
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 『精神医療』(批評社)
http://www.arsvi.com/m/p.htm
という雑誌に載った原稿
http://www.arsvi.com/ts/20160027.htm
を、と思ったが、まずその雑誌のことにふれている文章が幾つかあるのだった。それは上掲の頁にも載っているのだが、ここでも一つ再録しておく。『そよ風のように街に出よう』に書いた文章「もらったものについて・13」(2014/12/25)
http://www.arsvi.com/ts/20140013.htm
より。

 フェイスブックに載せるのと同じこの文章は
http://www.arsvi.com/ts/20162243.htm
にもある。


 「□『精神医療』
 こうして、「中身」の話は本のほうでということで、努力せずに集められる(はずの)方の文献にしてもそう簡単でもないことがあることについての苦労話、あるいは「マニア」にしか通じない自慢話をすこし。
 私の本では「造反派」という言葉を使った人たち(「改革派」と呼ばれたり名乗ったこともある人たち)が始めて今まで続いている雑誌に『精神医療』という名前のものがある。例えばその第四号が出されたのは一九七〇年の「晩秋」とある。(それでもまだ年がわかる。過去のビラの類には年がわからないことが――集会をやるといったらほとんどその年に、なのだから、書いてないのはあたり前なのだが――多い。機関紙・機関誌にも同じ号のものが二つあったり、ときどき記載の間違いがあったりする。)この雑誌は、精神医療編集委員会の独自発行(第一次)、岩崎学術出版から刊行の時期(第二次)、悠久書房の時期(第三次)、そして現在の批評社からの刊行(第四次)と発行主体が変わってきた。とくに初期・第一次の「東大精神科医師連合」の機関紙として発行されたものはもうそうは残っていないはずだ。創刊号の表紙は、六〇年安保闘争の時にブント(共産主義者同盟)の書記長として一時期は知っている人は誰でも知っている人であった島成郎(一九三一〜二〇〇〇)らが創刊に関わり、表紙は島の妻の島博子がデザインしたのだという。
 些細と言えば些細なことではある。ただ島は六〇年安保闘争で負けて「政治」から身を引いて「地域(精神)医療」の方に行ったということになっている。言葉の意味をどうとるかによるが、まったくの誤りというわけではない。ただより正確には、彼は一九七〇年の前後において(も)精神医療「という」政治に関わっていたと言うべきなのだ。(新)左翼関連には一定の「おたく」な人たちがいていろいろと書かれたものはあるのだが、こういうことにきちんとふれられたものは多くない。
 次に、島という人においてつながっているといったん言える六〇年前後のことと七〇年前後のこと・人の間にはいくらかの距離もあるようにも私は思えた。単純に言うと、六〇年前後の人たちはより幸福であり自己肯定的であり、それは(地域)医療に対する肯定(感)にも自然につながっている。ただ七〇年前後になるとすこし違ってくる。一部で(「反精神医学」といった札を貼って)言われるほど、実際にはその「造反派」の人たちは医療に反対しないし否定もしないのだが、それでもいくらか疑いや否定感が強くなっていく。そんな感じがする。そのあたりをいくらかは書いたつもりだ。だから言い方に微妙なところが出てきてしまいもする。そして微妙だとか複雑だとかただ言っても仕方がない。それをどう引き取るかが私(たち)の課題だと思っている。つまりどんな場合に、どんな理由で、なおすことは肯定されたり否定されたりするのか。とりわけ本人の決定にゆだねればよいと言ってすませされないことがあるとすれば、どのように考えたらよいのか。それを考えてようとものを考えているつもりだ。
 とまた「中身」の方にすこし話が流れたのだが、「文献」の話をするのだった。そのいわく因縁のある雑誌がそろいで売りに出ているのを古本屋のネットで知って購入した。一五万円ほどだったと思う。これはかなり、というか非常に幸運なことだった。今の批評社から出ている『精神医療』は、これはよいことかそうでないか微妙だけれども「精神もの」に一定の需要があるせいか、たぶんそこそこに売れていて、その多くは、しばらくするとすこし文章を加えたりしたものが「メンタルヘルス・ライブラリー」で単行本化されている。ただ過去のものは希少であり、その希少なものを読んで初めてわかることもある。」


UP:201610 REV:
『造反有理――精神医療現代史へ』  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa  ◇身体の現代:歴史
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