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旧優生保護法下での優生手術(不妊手術)についての実態調査に関する要望書

参議院議員 尾辻秀久様 優生手術に対する謝罪を求める会 2018年3月27日

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last update:20180328


2018年3月27日

参議院議員 尾辻秀久 様

旧優生保護法下での優生手術(不妊手術)についての実態調査に関する要望書

優生手術に対する謝罪を求める会
〒162-0065 東京都新宿区住吉町3-4 ローゼンハイム505 ジョキ内 SOSHIREN気付
Tel/Fax 06-6646-3883 「ここ・からサロン」気付
電子メール ccprc79(at)gmail.com


 私たちは、優生手術に関する実態調査と被害者の方たちへの謝罪と補償を求め、1997年から活動してきた市民グループで、研究者、専門職、障害者運動や女性運動にたずさわる者などがメンバーです。
 これまで、旧優生保護法において優生手術を受けさせられた当事者の方たちと一緒に、厚生労働省や国会、あるいは国際機関に向けて、さまざまな働きかけをしてまいりました。その経験を踏まえ、旧優生保護法下での優生手術についての実態調査に関して、以下の点を要請・提案いたします。

I.調査の範囲について
 旧優生保護法の第4条と第12条に基づいて、当時、遺伝性とされた疾患や精神疾患、知的障害のある人たちを対象に、本人の同意を得ることなく強制不妊手術が行われた。また、第3条に基づいてハンセン病や遺伝性とされた疾患を対象に実施された不妊手術も、表面上は本人の同意によるとされたものの、実質的には、拒否することができない強制的な状況下で実施されたと考えられる。障害ゆえに不妊手術を行うこと自体、著しい障害者差別であることに鑑みれば、同意の有無にかかわらず、障害などを理由とした不妊手術の実態を明らかにする必要がある。第3条、4条、12条に基づいて行われた優生手術に対する詳細な実態調査を求める。
 また、旧優生保護法の認めた範囲さえ超えて、月経の介助負担軽減を目的に、障害女性に対して子宮摘出や卵巣・子宮の同時摘出、卵巣への放射線照射が行われた。障害者の性と生殖に関する健康/権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)を否定した行為であり、旧優生保護法の存在を背景として実施されたものである。これらについても、調査を求める。

II.調査・検証委員会による調査と報告書の作成
 調査・検証を行うために、国および都道府県に第三者的な調査・検証委員会を設置する必要がある。調査・検証委員会には、優生手術の対象となった遺伝性とされた疾患や障害のある人たち、および、その人たちの権利を擁護・支援するアドボケイトらの参加は必須である。又、調査結果に基づく詳細な報告書が作成されるべきである。

III. 国が保有する資料に関する調査について
1.旧優生保護法では、都道府県優生保護審査会の決定に異議がある場合には、中央優生保護審査会(1982年以降は、公衆衛生審議会優生保護部会)で再審査を行うことが定められていた。中央優生保護審査会(公衆衛生審議会優生保護部会)に関する書類の存在の有無を明らかにし開示するとともに、精査することを求める。

2.優生手術に関する処務は、優生保護法に基づき、都道府県が国の機関委任事務として行ったものであり、判断に迷った場合には都道府県から国に問い合わせをし、国の指示に従って行われた。優生手術がどのような判断基準によって行われたのかを知るためには、各都道府県からの問い合わせに対して、国が優生手術に関連して発出した通知を全て開示し、調査する必要がある。

IV.各都道府県が保有する資料に関する調査について
 現在、いくつかの都道府県において、優生手術に関する資料の調査が進められているが、まったく手つかずの都道府県も多い。早急に優生手術の全貌を明らかにするよう、全都道府県に助言し働きかけることを求める。実態調査に向けては、以下の点を要請する。

1.現在、各都道府県の公文書館に収蔵されている優生手術に関する書類の精査を求める。その際、公文書館に該当史料が収蔵されていることが分かるように表示し、個人情報保護に留意した上で公開すべきである。個人情報保護に際しては、歴史的史料であることに鑑み、優生手術を受けた当事者や家族に関する情報以外(例えば、優生保護審査会の委員、申請医、優生手術の執刀医等)については公表すべきである。

2. 都道府県の管轄部局に存在する資料について、再度、徹底的に探索することを求める。その際、優生保護法から母体保護法にかわった1996年に、多くの行政内部で管轄が公衆衛生や精神衛生部門から母子保健部門に変更になっているが、過去の書類等の完全な引継ぎが行われなかった可能性もある。また、政令指定都市を含む都道府県においては、県が所持していた優生手術に関する資料等が、移管にともなって政令指定都市に移動した可能性もある。様々な可能性を含めて、書庫・保存庫等の徹底的な探索が必要である。
 また、「保存期限が切れて処分した」とされる書類については、処分に際して作成された「文書処分台帳」等を調べて、何が、いつ、どのように処分されたのかを明らかにすべきである。

3. 優生手術に関する書類が、保健所、福祉事務所、更生相談所、福祉施設、児童養護施設、障害者支援施設(旧知的障害者更生施設、旧身体障害者療護施設)、保健福祉総合施設(例:保健福祉センター)、児童相談所等に残されている可能性も高い。これらについても、調査する必要がある。

V.医療機関が保有する資料に関する調査について
 旧優生保護法では、医師が都道府県優生保護審査会に審査を申請し、優生手術を行うことが適当であると判断された場合には、通知により知らされた指定医師が優生手術を行っていた。申請や手術に係わった医療機関には、優生手術に関する資料が存在する可能性が高い。医療機関が保有するカルテや医療記録の保全を求め、詳細に調査する必要がある。

VI.関係当事者への聞き取り調査について
 優生保護法下では、医療・福祉・教育分野の多くの従事者が、優生手術の実施に直接的・間接的に関係したと考えられる。優生手術の全貌を明らかにするためには、関係当事者からの聞き取り調査が必要である。特に、どのような手順で優生手術対象者が選ばれたのか、手術対象者や保護者等に対して、優生手術についてどのような説明を行っていたのか、第5条にある「優生手術を受くべき者にその旨通知する」ことがきちんとなされていたのか、優生保護審査会による決定に異議がある場合には再審査を申請することができることを説明したかなど、詳細な聞き取り調査により、申請から手術実施にいたる具体的な状況を明らかにすべきである。
 その際、関係者が聞き取り調査に応じることが、第27条(秘密の保持)に抵触するのではないかという不安を払拭できるよう、対応を講じてほしい。

VII.相談窓口設置について
1. 各都道府県及び各市町村に相談窓口を設置し、優生手術を受けた当事者及び関係者らが名乗り出るよう促すことを求める。相談窓口設置にあたっては、面談以外に、電話やファクシミリ、メールなどでも受付可能とするなど、アクセスしやすい体制を整えるべきである。自ら優生手術を受けたと訴えてこられる当事者や関係者に対しては、その訴えを丁寧に聞きとり、関連する書類の調査および関連諸機関への聞き取りなどを最大限行う必要がある。

2. 上記のV〜Yの調査によって、優生手術を受けた当事者を特定できる資料が明らかになった場合には、行政はプライバシーに最大限の配慮を行った上で、本人やその関係者がどうしたら名乗りやすいか、考慮した措置を講ずるべきである。

 以上の要望に基づいた実態調査を、切に望みます。旧優生保護法の実態を調査・検証し歴史に向き合うことは、障害者差別をなくし、すべての人の人権を大切にすることにつながると信じています。


*作成:北村 健太郎
UP:20180328 REV:
優生学・優生思想  ◇優生:2018(日本)  ◇出生前診断  ◇病者障害者運動史研究  ◇障害学  ◇全文掲載

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