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飽和と不足の共存について

立岩 真也(2012/08/20送付)
『日本生命倫理学会第24回年次大会予稿集』 p.26

日本生命倫理学会第24回年次大会・大会長講演要旨
講演:2012/10/27 於:立命館大学衣笠キャンパス以学館 9:40〜10:40
https://sites.google.com/site/seimeirinri24/

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 以下、プログラムに記した御挨拶より。

 このごろ、「生命倫理学」はそこにあって、あとは教育されたり普及されたりものであるかのように見えてしまうことがあります。もちろん、議論すべきことがみな決着しているのであればそれにこしたことはなく、以後、啓蒙したり相談に乗ったりすればよいのでしょう。ただ、残念ながら、そんなことばかりでもなく、「倫理」について、それを論じるに際しての「事実」について、詰められていない、あるいは単純に知らないことがまだたくさんあるではないか。そしてそんなこんなの間に、生きるためのことを止めることやしないことは、なんだか当たり前のことになりつつあるようにも見えます。そんなことを、2011年度をもって終了し、これから大学内の研究センターとしての活動として引き継がれていくグローバルCOEプログラム<「生存学」創成拠点――障老病異と共に暮らす世界の創造>の活動を行っていく中で感じてきました。調べ、考え、報告し、議論する。それを続けていかねばなりません。学会とその大会はそのためにあるでしょう。そこで非力ながら会場校をお引き受けすることにしました。闊達な議論がなされることを期待します。 […]

 そんなことを感じ、考えています。では私自身は何を考えて、それでどうなったのか。それを限られた時間でお話しすることは難しく、書いたもの、これから書いていくものを読んでいただく他ないのだろうと思います。講演では、むしろ、なぜこのようなことになってきたのか、と私が思うのかについて、いくらかのことをお話してみたいと思います。
 倫理学が行なうのは、やはり基本、是非を論ずることでしょう。それがどれだけいまできているのだろうという思いが一方にあるのですが、その前にもう一つ、世界でなにが起こっているのか、過去に起こったのか、きちんと記録し記述するというごく基本的なことがあまりになされていないのではないか。もちろん様々が輸入され翻訳されてきて、それは随分の量になっているのですが、しかしやはり足りない。他方、わかりやすく読みやすくそして同時に(題名だけであったりするのですが)挑戦的であると称する本はおびただしい数出版され、読まれてもいるようです。そうした中で私は少数派であるように思えてしまうことがないでもなく(本当はそんなことはないとも思っているのですが)、しかしここで嘆きを語っても仕方がないのですから、冷静にこのかんのことを振り返り、こんなにすることがある(それは研究者にとってはおおいに歓迎な事態のはずです)と言おうと思います。

■当日販売予定の本

◆立岩 真也・有馬 斉 2012/10/31 『生死の語り行い・1――尊厳死法案・抵抗・生命倫理学』,生活書院,2000+

『生死の語り行い・1――尊厳死法案・抵抗・生命倫理学』表紙

■cf.

◆立岩 真也 2015/01/31 「死/生の本・1増補――「身体の現代」計画補足・17」
 https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1553411651592483
◆立岩 真也 2008/01/31 「学者は後衛に付く」,『京都新聞』2008-1-30夕刊:2 現代のことば
歴史
◆2013 講演要旨
 日本生命倫理学会ニューズレター

◆立岩 真也 2022/12/20 『人命の特別を言わず/言う』,筑摩書房
◇立岩 真也 2022/12/25 『人命の特別を言わず/言う 補註』Kyoto Books
 第1章★19「日本では、一九八〇年代以降のしばらく、多くの翻訳がなされ紹介が書かれた。それらを紹介し整理し続ける人たちもいる。ただそれはもうそう多くない。多くの人たちはそういう議論からはほぼ撤退して、一つにはより個別の主題について現実の推移を調べたりする。また教育・実践に役立つ手立てを開発し普及させようとしている。全体について批判的な人たちは、私も含めて、依然としていくらかはいるが、教育と普及に注力している人からなにかを言ってもらえることは少ない。その事情はわかるが、あまりよいことであるとは思えない。日本生命倫理学会大会の大会長を、まったく何もできなかったのだが、務めたことがあり、その「大会長講演」を「飽和と不足の共存について」(立岩[2012])という題にしてそのことを話した。△071
 生命倫理学という世界の仕組みを概観する手頃な本がないのはよくないと思ってきた。新書では『医療の倫理』(星野一正[1991])があるが、これを読んでも何が論点なのかはわからない。いくつかの仕事の後、本文でごく簡単に記したこと、つまりもっともな原則に何が加わるとよろしくない(と、私を含め少なくない人が思う)ことを説明する本を書いたらよいのかもしれない。


UP:20120820 REV:20120824, 1023, 20150131, 20221225
生命倫理学  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa
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