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腎移植

kidney transplantation / renal transplantation


 製作:長谷川 唯(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
 製作協力:有吉 玲子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)


○本ファイル目次
 ■歴史
 ■1995年 資料集
  ◆公開質問状
  ◆日本腎臓移植ネットワーク・記者会見配布資料
  ◆ブロックセンター回答
  ◆US腎問題中央評価委員会報告書
  ◆日本移植学会雑誌『移植』・公開質問状
 ■文献
 ■HP
○生存学HP内関連ファイル
 ◆人工透析
 ◆臓器移植


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■歴史

◆1902 オーストリア・ウィーンの外科医 ウルマン Ullmann の腎臓移植実験 自家移植(犬) 異種移植(犬→山羊)
    イヌの腎臓を摘出し、同じイヌの首に移植する実験を行った

◆1905 フランス(後に米国へ)のCarrelはイヌ、ネコで腎移植:一時正常に機能するが機能しなくなる(拒絶反応)

◆1906 フランスのJaboulayがヒツジ、ブタからヒトへの異種間腎移植を試みる

◆1910 京都大学の山内半作、第11回外科学会で臓器移植実験を報告

◆1936 ウクライナのVoronoyは急性腎不全患者を救うため死者から摘出した腎臓を患者の大腿部に移植したが、36時間後に死亡

◆1940年代:イギリス(後に米国)Medawarによる移植免疫拒絶反応の解明

◆1954 Humeの共同研究者Joseph E. Murray博士(米国)と John Merill博士が一卵性双生児の片方の人の腎臓を取り出し、もう一方に移植 成功

◆1956 急性腎不全患者に対して日本で第一例目となる腎移植が実施される。
 新潟大学の楠隆光、井上彦八郎による腎臓移植

◆1961 英国CalneがアザチオプリンAzathioprineが実用的な免疫抑制剤であることをイヌの腎移植で証明

◆1963 米国Murrayによってヒトの腎移植でアザチオプリンを使用

◆1964年
  慢性腎不全患者に対して日本で第一例目となる生体腎移植が実施される。
※ 腎移植は1964年から2000年までに14.505例実施されている。そのうち生体腎移植は10.568例、死体腎移植は3.397例実施されている。
☆(社)日本臓器移植ネットワーク・ホームページ「移植に関するデータ集」
 http://www.jotnw.or.jp/datafile/index.html

◆1967年12月
 透析療法が医療保険の適用になる。
※ これにより、長期にわたって透析療法を受ける患者が増加した。
※ 厚生省の報告では、1968年に215人であった透析患者が、1971年には1826人と急激な増加を見せている(「腎不全対策」厚生省五十年史編集委員会編[1988a:1651])。
※ しかし保健医療に組み込まれてからも、国民健康保険などの一部負担金を必要とする患者の場合は、高額な医療費の自己負担をしなければならなかった。透析機器も不足していたため、透析医療を受けることが困難な状態があった。
 1971年9月
  厚生省が「腎機能不全者の治療状況に関する実態調査」を実施。
※ 調査の結果、人工腎臓装置いわゆる透析機器が不足していること、腎臓移植を希望する人が多いこと等が明らかにされた(「腎不全対策」厚生省五十年史編集委員会編[1988a:1651])。

◆1972年
◇ 厚生省は「腎機能不全者の治療状況に関する実態調査」の調査報告に基づき、透析療法と腎臓移植の二本立てでの腎不全対策を講じた。
※ 透析療法については、人工腎臓装置(透析機器)の整備と透析医療従事者の研修の対策を講じた。
◇ 国公立病院への人工腎臓装置(透析機器)の整備。
※ 1974年までに699台の人工腎臓装置(透析機器)を国公立病院に整備。
◇ 透析療法が更生医療の対象となる
※ 更生医療の対象となったことで、医療費の自己負担が免除され、急速に患者数が増加。
※ 透析技術の進歩と糖尿病患者などの増加によって、透析を受ける患者が増加。

※ 人工腎臓装置の普及、整備に伴い、人工腎臓を扱う従事者の不足が深刻な問題になる。

◆林正秀(東京・杉並組合病院医師=外科) 1973 「臓器移植の成果と限界」『ジュリスト臨時増刊』11月25日号No.548 pp.40-45,有斐閣

 「…なお術後の成績を左右する生体からか屍体からかの、問題は、ドナーの選択、屍体からの腎剔出の時期をめぐって、ドナーの人権に抵触しうる危険のあることをみのがせない。
 …しかし、腎移植は、拒絶反応を解決できないこと、ドナーの犠牲をさけられないことから安易な適応の決定が許されないのはいうまでもない。しかも人工腎臓の適用で、患者の延命ばかりか社会復帰の可能性もある以上、腎移植の適応決定に当たっては、当然、人工腎臓を適用した場合との比較が必要であろう。…これによると、血縁者の生体腎移植では透析患者より明らかに好い成績を示しているが、屍体腎移植では、二年生存率で移植患者が60%に対し、透析患者は80%、四年生存率では、45%対75%と移植患者の成績が劣ることを明らかにしている。腎移植を選ぼうとすれば、生体腎か、屍体腎なら、できるだけ生体腎に近いものを選ぶ根拠を提示している点で注目される報告であろう。
 その上、近年では、腎移植のほうが長期透析療法よりも社会復帰の容易なこと、経済的・時間的な問題からみても有利だという理由から、腎移植のメリットが強調されてきている。この主張には一面の事実があるのも確かだが、経済的・時間的要因の考慮は本来のあり方から論外として、何よりもドナーの軽視につながる危険をみないわけにはいかない。腎移植に、たとえメリットがあるとはいえ、その適応は、死期を早めることなく屍体腎で人工臓器を上回る成績をあげられることが前提となるに違いない。
>0044>
 …しかし、腎臓移植の臨床化の過程をみると、ドナーの人権が必ずしも明確でなかったばかりか、逆に差別(人権侵害)を意識的に利用した面すらみられる。腎臓移植の進歩に囚人腎が使われたことをみのがすことはできない。たとえ同意をえたにしても、囚人のおかれている環境を考えるとき、単純に囚人の人権を尊重した同意とはいいきれない。これは腎移植での人権軽視を端的に現したものだが、その根底には人体に腎臓が二つあり、ド>0044>ナーが生体の場合、その一つを剔出しても直接、生命に影響がないこと、また、腎結石や結核などで一方の腎臓を剔出しながら長期にわたり健康を維持しているものが少なくないことがあるに違いない。…」

 *COPYあり(有吉)
 ここで使われている参考文献
・林田健男他著『臓器移植の話』、金原出版
・川上武著『医学と社会』、勁草書房
・林正秀著『外科医の告白』、三一新書
・渥美和彦『人工臓器』、岩波新書
・『アサヒグラフ』1968年11月22日号
・『日経メディカル』1973年5月、6月、8月号
・『毎日ライフ』1973年9月号

◆1974年
 厚生省が医師、看護師を対象に人工腎臓を扱う研修を開始。

※ こうした透析療法の増加の一方で、腎移植は1960年代後半から各地で実施されるようになった。
※ 当時は、親子間での移植が一般であったため、移植の機会は限られた者にしか与えられなかった。
※ 1970年代には、欧米先進国で死体からの腎臓提供による移植が盛んに実施されるようになり、患者が移植を受けるために渡米をするなどの状況が見られた。

◆太田 和夫 19760220 『これが腎移植です』,南江堂,192p.,ISBN-10: 4524209581 ISBN-13: 978-4524209583 1545 [amazon] ※ ot.k01.

◆1979/12/18 「角膜及び腎(じん)臓の移植に関する法律」公布

太田 和夫 19860215 「臓器移植――その現況と将来・13 腎移植とシクロスポリン」,『医学のあゆみ』136-07:481-488

太田 和夫 19860322 「臓器移植――その現況と将来・17 臓器移植をめぐる問題」,『医学のあゆみ』136-12:921-927

太田 和夫・渕之上 昌平 1986 「わが国における死体腎提供の現況と問題点」,『移植』21-2

太田 和夫 198707 『これが腎移植です 改訂第三版』,南江堂

太田 和夫 1989 『臓器移植はなぜ必要か』,講談社

 「…腎臓の摘出は、ドナーにとって治療としての意味合いはまるでないのである。これは結局、摘出行為に、移植に役立てるという高度な文化的・倫理的目的があり、また、社会的な了解を得られているので、ドナーが成人に達しており、肉体的・精神的に健全であれば問題はないだろうという線で一応の決着がつけられている。訴訟騒ぎもおきたことはなく、まずはよしとしていい問題かもしれない。」(太田[1989:145])
さらに夫婦間での提供の是非の議論については、
 「…わたしたち日本移植学会は、最近まで原則として夫婦をドナー・レシピエント(提供を受ける人)とする手術はおこなわないよう指導してきた。医学的に見て、非血縁者間の移植は組織の適合性がよくなく、成績が若干落ちるとの事情をその根拠の一つとしていたが、シクロスポリンの登場以来、拒絶反応の発生も減って、この根拠はあまり説得力をもたなくなってしまった。
 …別の、もう一つの大きな理由がその背後に控えている。医学的な問題ではなく、人と人との関係であり…本来、提供するかどうかは個人の意思に基づくべきものなのに、社会的な風潮のなかで否応なく、提供せざるを得ない状況に追い込まれていくのは目に見えている」(太田[1989:149-150])

◆腎移植連絡協議会 編 19920610 『腎移植/新時代への展望―臓器提供の活性化・拡大を求めて』,メディカ出版,169p. 2000 ※

◆秋葉 膺右 19920725 『透析から脳死腎移植へ――東京とニューヨークの病院で実体験した患者の現場レポート』,はる書房,250p. ISBN-10: 4938133407 ISBN-13: 978-4938133405 2039 [amazon] ※ k01

◆宇尾 房子 19941125 『私の腎臓を売ります』 双葉社,262p. 1500 ※ k01

◆1995/06/12 公開質問状及び要望書「東京女子医科大学第三外科がネットワークを通さずに行った輸入腎移植について」

◆1995/06/27 日本腎臓移植ネットワーク・記者会見

◆1995/08/04 日本腎臓移植ネットワーク関東甲信越ブロック回答

◆1995/??/?? US腎問題中央評価委員会報告書

◆1995/08/22 日本移植学会雑誌『移植』30巻,第31回日本移植学会総会臨時号収載演題『INF-α併用下 HCV陽性ドナーから陰性レシピエントへの腎移植』に対する公開質問状

◆中 義智 19960301 『腎移植――透析校長奮闘記』,三省堂,205p. 1400 ※ k01
◆春木 繁一 19970718 『透析か移植か――生体腎移植の精神医学的問題』,日本メディカルセンター,247p. ISBN-10: 4888750998 ISBN-13: 978-4888750998 2600 [amazon] ※ k01.ot.(増補)

◆太田 和夫 19990710 『新 これが腎移植です』,南江堂,167p. ISBN-10: 4524221743 ISBN-13: 978-4524221745 1800 [amazon] ※ ot.k01.,

◆瀬岡 吉彦・仲谷 達也 編 20010630 『腎移植の医療経済』,東京医学社,170p. ASIN: 4885631327 3675 [amazon] ※ k01

◆霜田 求・樫 則章・奈良 雅俊・朝倉 輝一・佐藤 労・黒瀬 勉 20070827 『医療と生命』,ナカニシヤ出版

第6章 臓器移植 (pp.75‐87)
4 臓器移植は部品交換ではない

 「…一つ目の誤解は、移植すれば新車と同じように健康になるというものである。腎移植後は、水分は多めに、塩分は気にせず、ほとんどなんでも食べられるようになる。しかし原因疾患が糖尿病である>0080>とすれば、もちろん生活習慣病のための食事制限は続けられる。…しかし、まったくの健康になったわけではない。
 部品交換の誤解の二つ目は、移植すれば新車と同じ寿命を手に入れるというものである。…提供してくれる相手によって生着率が異なるのであれば、より長く生着する臓器を希望するのは、自然な感情であろう。

 …部品交換の誤解の四つ目は、臓器は機械ではないということである。つまり、貰う方も、提供する方も、人間なのである。貰う人も、提供する人も1人で生きているのではなく、それぞれを囲む人間関係のなかに生活している。>0082>…しかし、いずれにせよ患者と一緒に住んでいて、つらい透析生活をそばで見ている。そして、この血液透析の生活から解放される方法として、腎移植手術があり、腎臓を提供する人がいれば、患者が救われるのを知っている。そこで家族は組織適合検査を受ける。より移植に適している人をそうでない人に区別される。>0083>」

 この章での参考文献
・大谷貴子 1998 『生きてるってシアワセ!』、スターツ出版
・倉持武・長島隆編著 2003 『臓器移植と生命倫理』、太陽出版
・杉本健郎 2003 『子供の脳死・移植』、クリエイツかもがわ
・中山研一ほか編 1998『臓器移植法ハンドブック』、日本評論社

◆『ぜんじんきょう』No.223(2007.9.6)

「腎臓移植をめぐる動き
 …今回の徳州会病院の腎売買事件が起こり、臓器移植、臓器提供に対する悪いイメージが増幅することを危惧し、全腎協は2006年10月11日に厚生労働省をはじめとする関係機関・団体に以下の3項目を要望しました。
 1.今回の事件についての事実関係を明確にし、すべての情報を公開すること。
 2.臓器移植法の制定から7年を経て、「脳死を人の死」とすることについては、おおむね社会的に受容されている。臓器移植、臓器提供は、国民1人ひとりの意思表示が基本であり、またその意思が尊重される法的・システム的整備をいっそう推進すること。
 3.移植医療の前提となる臓器提供については、あくまで死後の「善意に基づく提供」が主体となるべきと考えるが、生体間移植に頼らざるを得ない場合について、その提供者確認と移植実施の正否等に関する審査機関を義務付ける等のシステムを確立し、決して臓器提供が強要されることのないようにすること。>0003>

腎臓移植の普及とこれまでの全腎協の運動
 全腎協が活動方針で重点項目として腎臓移植をとりあげたのは1976年度が初めてでした。この年、透析機器や患者もある程度増えて、腎臓移植登録検査等経費が初めて厚生省で予算化されました。…77年の全腎協総会で「死体腎移植の全国的普及を訴える特別アピール」が採択されました。78年には腎臓移植に医療保険が適用され80年には「角膜及び腎臓の移植に関する法律」も施行されました。全腎協は81年11月8日、はじめて「腎バンク登録者拡大全国いっせいキャンペーン」を実施しました。…行政などの協力者を増やし、腎臓移植の普及・推進を目的として市民への啓発運動に取り組んできました。
 街頭キャンペーンには患者・会員を中心に移植体験者、移植希望者、家族、臓器移植に関わる患者・家族団体、医療関係者、行政関係者、ライオンズクラブ、ボランティアなどの協力をいただき、昨年の「第26回腎臓移植推進全国街頭キャンペーン」では、全国約450か所、約1万2千人が全国都道府県主要都市の街頭で臓器移植の普及と国民のみなさんに理解と協力を呼びかけ、全腎協が作成したチラシ50万枚、臓器提供意思表示カード70万枚、シールなどを配布し、待ち行く人々に臓器移植の普及を訴えました。>0003>…86年から厚生省も10月を腎移植推進月間と設定し、10月4日には厚生大臣や東京都知事も出席した「第1回腎移植推進国民大会」が東京・日比谷野外音楽堂で開催され、国民に臓器移植に対する理解を求める活動を展開してきました。…全腎協は、89年の第19回総会で、それまでの「社会的合意にまつ」との立場から一歩踏み込んで「十分な医学的基準や技術によって判断された『脳死』は、心臓死と同様に人間の個体死といえる」との立場をはじめて明らかにしました。…全腎協は1997年に臓器移植関係団体とともに「臓器移植法案」の早期成立を要望し、2005年からは15歳未満の臓器提供を可能にするため、「臓器移植法改正」に取り組んできました。>0004>」


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■1995年 資料集   ◆公開質問状
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  ◆日本移植学会雑誌『移植』・公開質問状
 
 
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公開質問状及び要望書

財団法人日本腎臓移植ネットワーク
黒川 清 関東ブロックセンター長様

   東京女子医科大学第三外科がネットワークを通さずに行った
   輸入腎移植について

 日本移植学会理事長の太田和夫氏(東京女子医科大学第三外科教授)が、こ
の4月に発足した日本腎臓移植ネットワークを通さずに、米国のネットワーク
システム、ユノスが用いなかった腎臓を日本国内の患者に移植していたとの事
実が報道されました。この件に関しては、太田氏自らがテレビ画面において
「厚生省、ネットワークと相談の上」と発言、その目的は「国際的移植ネット
ワークを目指し、提供者の幅をどの程度まで広げられるかの研究であった」と
各報道機関にコメントを寄せるなど、その内容はまさに、一般市民の日常感覚
を驚愕させるものでした。
 私たち「臓器移植の性急な立法化に反対する連絡会」は、昨年4月の臓器移
植法上程を機に、(1) 脳死を人の死を前提とし、(2) 本人意思不明の場合家族
の代理意思で臓器摘出可とするなどの法案のあり方への疑問、不安を軸に、一
般市民から専門家まで広範囲な分野にわたる賛同人により結成された市民団体
です。
 六月七日の報道以来、私たち連絡会事務局には、この件に関して公的責任、
医療倫理面双方から関係者に事情説明を求めるべきである、との声が寄せられ
ています。
 とくに、臓器移植法案審議の最中ということもあり、法案に「慎重な審議」
を要求し続けてきた私たちの立場から、事態を正確に把握したく存じます。以
下の公開質問にお答えいただきたく、質問状を送らせていただきます。

                記

一、日本腎臓移植ネットワークが、「ネットワークを通さない死体腎の移植を
  認めない」「国際間の腎臓シェアリングについても日本腎臓移植ネットワ
  ークを一元的窓口とするものとする」と一元化を建前としているにもかか
  わらず、日本移植学会理事長の立場である太田教授がネットワークを通さ
  ずに移植を行ったと報道された件について、ネットワークとしての見解を
  お教えください。

一、太田教授はテレビ画面で、「厚生省、ネットワークと相談の上」と発言し
  ています。一方、黒川清理事長は「倫理的に問題」と新聞にコメントされ
  ていますが、ネットワークと太田教授の意思の乖離は、どのような事情に
  より生じたのでしょうか。事実関係を、具体的にお教えいただきたく存じ
  ます。

一、日本腎臓移植ネットワークは、脳死臨調答申に基づき医学界と厚生省が共
  同作業により進めてきた臓器移植法案の基盤整備の根幹であり、法成立後
  には、「心・肝移植を視野に入れた新しいネットワーク」として機能する
  前提の存在として、厚生省と関係学会が共同作業によりガイドライン等を
  作成、設立育成した機関と考えております。
   しかし、ネットワークの設立に直接かかわり、その責任の一端を担う太
  田教授が、
   (1) 日本移植学会理事長として「公正・公平」を掲げながら、ネットワ
   ーク外の移植を行ったこと。
   (2) ユノスが不用とし、ネットワークのドナー適応基準外の腎臓の移植
   を行った。
  の二点にまたがり、ネットワークを無視する行為を行った報道が事実であ
  れば、たとえ発足直後とは言え、ネットワークが本来の機能をまったく持
  ち合わせていない組織であることを世間に証明したことと言えましょう。
   またたとえネットワークが正常に機能したとしても、「研究」の名を冠
  すればネットワークの「適応基準外」の移植も施設内で容易に行われる慣
  習が容認されるのであれば、脳死臨調以来、積み上げてきた臓器移植のた
  めのガイドライン、審査委員会等の評価システムなど、臓器移植法案成立
  後の条件整備の基盤そのものが初めから意味をなさない事実を容認するこ
  とに他なりません。
   当会は、ネットワークが六月十六日に予定する理事会において、日本腎
  臓移植ネットワーク委員会規則第三条、第四条に基づく評価委員会、審査
  委員会等の評価機能を緊急に発足、機能させて本件の審査を厳正に行い、
  その結果を公表されることを希望します。

一九九五年六月一二日
 「臓器移植」の性急な立法化に反対する連絡会
     世話人 田中喜美子 堀越由紀子 丸本百合子 向井承子


 
 
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◆1995/06/27 日本腎臓移植ネットワーク・記者会見

日本腎臓移植ネットワーク・記者会見配布資料
(記者会見配布資料)
((社)日本腎臓移植ネットワーク山川専務理事・井形副理事長)
(1995年6月27日)

 本日は急な案内で恐縮でございましたが、ご参集頂きましてありがとうござ
います。
 平成7年4月1日に社団法人日本腎臓移植ネットワークが発足し、移植の公
正・公平性を目指すべく努力しております。
 おかげさまで着実に実績を積み重ねて参りましたが、ネットワーク発足後、
東京女子医科大学に米国より送られた腎臓の移植につき、様々な発言や報道が
なされています。
 私どもネットワークといたしましては、医学的事実や評価につきまして中央
評価委員会においてしかるべき調査を行い、きちんとした評価をするつもりで
おります。
 本日はいわゆるUS腎の関係につきまして、当ネットワークとしての経緯を
説明いたします。
 平成7年4月1日より(社)日本腎臓移植ネットワークのもとで新しい腎移
植ネットワークシステムがスタートし、関東甲信越ブロックセンターがネット
ワーク業務を開始しました。
 発足後まもなく平成7年4月4日付で、東京女子医科大学の移植施設長より、
関東甲信越ブロックセンター長とネットワーク理事長次ぎの主旨の文章が送付
されました。
 それによると、「1992年末より当施設へ米国UNOSより17腎の提供があり、
そのうち11腎は移植し、6腎は種々の理由により discardしました。」、「移
植された11腎のうち5腎は生着した。2腎は移植直後であり、現在ATNの状
態である。4腎はprimary non-functionであった。生着した5腎の平均クレア
チニン値は約3.0mg/dlであった。」とされています。また今後新しいネットワ
ークのもとで外国から提供された腎の取り扱いについて
 (1) ネットワークがすべて取り扱う
 (2) ネットワークが整備できるまでの間は当分の間断る
 (3) ネットワークが未整備の間は東京女子医科大学がその業務を代行する
の3案が示され、さらに手紙には公平さを考えた場合 (1)が善いと思うが、U
S腎を移植した場合は1腎につき摘出費用が約 100万円、輸送通関の費用とし
て約10万円がかかりこれをだれかが支払わなければならない、現在は移植を受
けた患者がこれを全額支払っていたが、移植を行わなかった場合ないしは移植
しても全く機能しなかった場合には女子医大がこれを支払ってきた、とありま
した。ネットワーク理事長とブロックセンター長と協議の上、4月11日付で返
事を送付いたしました。
 内容は
 (1) 米国UNOSとの契約書あるいは合意事項
 (2) 費用負担の明細
 (3) 現状のUS腎のレシピエント登録状況
についての資料提出を求めるとともに、US腎移植については保留して頂きた
いと要請もしました。

 4月17日(月)午前10時56分、東京女子医科大学医局事務の方からブロック
センターに電話連絡が入り、US腎が成田空港に到着しているので空港の担当
者と通関手続きを取ってほしい、と依頼がありました。ブロックセンターより
直ちにセンター長、ネットワーク理事長に連絡し、ネットワーク理事長は厚生
省臓器移植対策室に連絡、3者協議の結果、「今回に限り報告書の提出を条件
に、緊急避難的に東京女子医科大学での移植を認める」との結論にいたりまし
た。11時40分その決定を受け、ブロックセンターより東京女子医科大学担当者
に連絡しました。

 5月6日(土)市立札幌病院に米国USC教授よりUS腎を送る打診があり、
ネットワーク理事長に午後4時相談がありました。費用負担の問題もありネッ
トワーク理事長は上記の経過を説明、委員会の結論が出るまでは受けないよう
指示しました。なおこの件についてネットワーク理事長は、関東甲信越ブロッ
クセンターに同日午後4時33分に報告しました。

 5月7日(日)午前8時50分、東京女子医科大学担当者よりブロックセンタ
ーに電話があり、ポケットベルに自動転送され8時54分に「本日US腎が到着
するので、対応について連絡して欲しい」とのメッセージ内容を確認しました。
直ちにセンター長(米国出張中のため不在であった)、理事長に連絡され、9
時30分理事長より「法人としては、対応を決めるまでは保留していただきたい
とすでに要請してあり、そのための資料を請求しているが未着である。前回
(4月17日)に限り厚生省、センター長、理事長の協議の結果、緊急避難的に
東京女子医科大学に取り扱いを一任したが、今回は別である。これはルール違
反であり、今回は法人、ブロックセンターは斡旋を拒否する。」との指示がな
され、9時45分ブロックセンターより東京女子医科大学担当者にその旨伝達し
ました。

 5月22日(月)午前11時32分、東京女子医科大学担当者よりブロックセンタ
ーに電話があり、ポケットベルに自動転送され「US腎が送られてくる」との
メッセージ内容を11時35分に確認しました。11時42分厚生省、11時45分法人理
事長、11時50分センター長に連絡、14時35分ブロックセンターより東京女子医
科大学担当者に「ネットワークの方針が決まるまでは保留してもらいたい。こ
れまでもこのことは再三要請しているが、是非ともそうしてもらいたい」との
要請を行った。

 5月23日(火)、4月11日付で請求した書類が未着であったため、資料提出
の再確認、US腎提供についての保留の再度の要請、ならびに本年4月以降の
US腎提供についての結果等の報告の要請がなされました。

 5月25日(木)、午前7時頃東北大学のある教授よりネットワーク理事長に、
「本日未明、米国よりUS腎を送りたいとの連絡が入った。4月18日、全国腎
バンク連絡協議会幹事会の席上でのUS腎についての理事長発言から判断して
断るつもりである。」旨の電話連絡が入った。これに太子て理事長は事情を説
明し、断るよう要請しました。
 同日9時40分頃、東京女子医科大学担当者より関東甲信越ブロックセンター
次長にUS腎についての連絡があり、ブロックセンター次長はネットワーク理
事長、ブロックセンター長に連絡の上、その指示に従って中止するよう、東京
女子医科大学担当者に要請しました。

 6月6日(火)、東京女子医科大学移植施設長よりネットワーク理事長宛に
送付された「US腎に関する質問についての回答と私見」を添付資料と共に受
領しました。
 この報告によると、UNOSとの契約書あるいは合意事項については、自然
発生的に開始されたため、書類としては存在しないこと、US腎については使
用した場合は腎および移送費を、使用しなかった場合は移送費のみを支払うこ
と、US腎レシピエント登録は特別に登録を分けておらず、血液型の適合を原
則に、東京女子医科大学で移植を希望している待機患者の中からHLAの適合
度のよい順に連絡して、希望者があれば行っているとのことだありました。

 以上がUS腎について私共が知り得る事実経過であります。
 関東甲信越ブロックセンターにおいては4月1日以来、チーフコーディネー
ターが中心となって日本腎臓移植ネットワーク運用骨子及びドナー、レシピエ
ント適応基準に厳正に準拠し公正、公平なネットワーク業務を行っており、献
腎情報も着実に増加しております。
 このような中、5月26日東京女子医科大学よりネットワーク理事長に対し、
一連のUS腎移植は研究として行ったものである、との説明がされております。
 私共ネットワークとしては、これらのUS腎の移植がネットワークを通した
と主張することは、これらの事実関係からも、私どもの認識からも、全く無理
のある話であると考えております。
 今後ネットワークでは、海外からの腎臓のシェアリングをどう扱うか、また
腎移植に関する研究等の問題については企画管理委員会で、また4月以降のU
S腎移植の医学的問題等については、中央評価委員会で詳細に議論し結論を出
すことになっております。
 重ねて申し上げますが、私共ネットワークは移植医療定着のため公正、公平
性を保証する役割を持っていると考えております。
 この度の出来事につき事実関係を明らかにし、その責務の一端を果たすもの
であります。


 
 
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◆1995/08/04 ブロックセンター回答

                           平成7年8月4日
「臓器移植」の性急な立法化に反対する連絡会 御中

 1995年6月12日付けで貴会より(社)日本腎臓移植ネットワーク・関東甲信
越ブロックセンター長宛に出された公開質問及び要望書に対してお答えします。
 関東甲信越ブロックセンターは(社)日本腎臓移植ネットワークの法人支部
であり、ご質問のUS腎移植についての日本腎臓移植ネットワークの見解につ
きましては6月27日山川専務理事および井形副理事長により行われた記者会見
で配布された資料に示されています。また最終的な結論につきましては、ご指
摘のように日本腎臓移植ネットワークの評価委員会で審議された後に公表され
るものと存じます。
 しかし今回のUS腎移植は関東甲信越ブロック内で発生したことであり、当
ブロックセンターとしても緊急運営委員会を開催してこの問題について十分に
協議し別紙の結論に至りました。関東甲信越ブロックセンター運営委員会とし
てのUS腎移植に対する見解についてはこれでご理解いただけるものと存じま
す。
 関東甲信越ブロックセンターでは、4月1日以来チーフコーディネーターが
中心となって、日本腎臓移植ネットワーク運用骨子、およびドナー適応基準、
レシピエント選択基準を厳正に遵守し、公正・公平なネットワーク業務の運営
を行っており、少しづつではありますが着実に成果をあげつつあります。しか
しネットワークは発足したばかりであり、ご指摘のように今後解決すべき問題
が山積しているのも事実です。移植医療に対する社会の理解と信頼を得るには、
関係者全員が生まれたばかりのネットワークを育てるべく一致協力し、さらに
ルールを遵守し公正・公平な移植医療を実現すべく最大限努力することが前提
と考えております。
 以上、大変遅くなりましたが関東甲信越ブロックセンターとして貴会の公開
質問状及び要望書にお答えいたします。なお資料として日本腎臓移植ネットワ
ークより公表された文書、ならびに「とらんすぷらんと」を同封いたします。

                (社)日本腎臓移植ネットワーク
                 関東甲信越ブロックセンター長
                           黒川 清

--別紙----------------------------------------------------------------

日本腎臓移植ネットワーク関東甲信越ブロック運営委員会見解

1.今回関東甲信越ブロック内で実施されたUS腎の移植は、日本腎臓移植ネ
ットワーク運用骨子に以下の点で抵触する。
 (1) HCV抗体陽性者からの腎移植を禁ずるドナー適応基準に違反している。
 (2) 臓器は本ネットワークを通して提供されることとするネットワーク運用
 骨子に違反している。
2.今回のUS腎移植が日本腎臓移植ネットワークの保留要請、ならびにブロ
ックセンターの再三の要請にもかかわらず、強行されたことは遺憾である。今
後US腎の移植については中断する。
3.太田和夫顧問には関東甲信越ブロックセンターの顧問を辞退していただく。
4.本件については今後さらに地域評価委員会において検討する。

 日本腎臓移植ネットワーク
   関東甲信越ブロック運営委員会(順不同)

   運営委員長 黒川 清  東京大学 第1内科
      顧問 小柳 仁  東京女子以下大学 循環器外科
         荒川正昭  新潟大学 第2内科
         雨宮 浩  国立小児病院 小児医療研究センター
         大和田隆  北里大学 救急救命センター
         川口良人  東京慈恵会医科大学 第2内科
         小崎正巳  東京医科大学 第5外科
         小柴 健  北里大学 泌尿器科
         島崎修次  杏林大学 救急医学科
         平沢由平  信楽園病院
         古瀬 彰  東京大学 胸部外科
         柳澤信夫  信州大学 第3内科
         横山健郎  国立佐倉病院


 
 
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◆1995/??/?? US腎問題中央評価委員会報告書

目次

1.中央評価委員会名簿
2.中央評価委員会の役割
3.中央評価委員会でUS腎問題を扱うことになった経緯
4.8月21日中央評価委員会小委員会における、東京女子医科大学太田和夫教
  授の関東甲信越ブロックセンター運営委員会見解への意見
5.4.太田氏見解に対する問題点
6.US腎をめぐる中央評価委員会の見解(案)
7.その他の問題点

1.中央評価委員会委員名簿

 委員長 : 長澤 俊彦 (杏林大学医学部 医学部長)
 委 員 : 石川 勲  (金沢医科大学病院 腎臓内科 教授)
       大和田 隆 (北里大学病院 病院長)
       北村 勝俊 (九州大学 名誉教授)
       黒川 清  (東京大学医学部 教授)
       座間 幸子 (関東甲信越ブロックセンター 
                       チーフコーディネーター)
       園田 孝夫 (大阪府立病院 病院長)
       手塚 一男 (兼子・岩松法律事務所 弁護士)
       中谷 瑾子 (大東文化大学 教授)
       野本亀久雄 (九州大学生体防御医学研究所 教授)
       森井 浩世 (大阪市立大学付属病院 病院長)
       吉永 肇  (東北労災病院 病院長)
       若杉 長永 (大阪大学医学部法医学教室 教授)

2.中央評価委員会の役割

 中央評価委員会の規則によると、この委員会の目的は、死体腎移植のすべて
の症例に関して、下記の事項について地域評価委員会から提出された移植関連
資料に基づき評価を行い、これらの評価結果について、定期的に公表すること
である。

 (1) レシピエントの選択
 (2) 臓器配分の決定
 (3) 移植施設決定の過程
 (4) ブロックを越えた事項
 (5) 上記以外に本委員会において必要と認めた移植症例に関する事項の評価

3.中央評価委員会でUS腎問題を扱うことになった経緯

 東京女子医科大学で行われた米国から提供された腎の移植について、本年6
月以降新聞等に様々な報道がなされた。その中には我々が確認した事実と異な
る報道もあり、ネットワークとして事実経過について6月27日記者会見を行っ
た。7月1日Lancet誌にもこの移植に批判的な記事が掲載され、ネットワーク
内部の見解として8月3日関東甲信越ブロックの見解が発表された。この後移
植関係者からも腎移植ネットワークとしての公式見解を表明してほしいとの要
請もあり、問題は1つのブロック内のみで対応するべき問題ではないとの判断
から地域評価委員会での検討を経ず、8月9日第1回の中央評価委員会を開催
することになった。

4.8月21日中央評価委員会小委員会における、東京女子医科大学太田和夫教
  授の関東甲信越ブロックセンター運営委員会見解への意見

(1) 8月3日関東甲信越ブロックセンター運営会議見解については一方的なも
  ので、承服できない。
(2) 4月17日午前、厚生省、ブロックセンター長、法人理事長(当時)により
  決定された「今回に限り緊急避難的に東京女子医科大学での移植を認める
  が、報告が前提である。」という内容を承知していない。
(3) 東京女子医科大学の実務担当者・渕之上昌平氏は「4月17日関東甲信越ブ
  ロックセンター次長より、上記の要請を受けていない。またその後もUS
  腎が送られてくる毎に関東甲信越ブロックセンターに相談の電話を入れ、
  その都度ブロックセンター次長からもコーディネーターからも中止要請は
  受けていない」と述べた。
(4) 法人理事長(当時)よりの手紙は2通のみであり、4月11日付文書で保留
  という意味が分からなかった事、また5月23日付文書で何故中止要請をし
  た事実を書かなかったのか。
(5) 本来ネットワークが国際的窓口になることが決まっていたのであるから、
  US腎はネットワークが受けるべきであった。ネットワークが受けないの
  で腎を捨てるわけにいかないので移植を行った。
(6) HCV 抗体陽性ドナーからの腎移植を禁ずるというドナー適応基準に違反し
  ているという見解に対し、「US腎移植をネットワーク側から断られたの
  で、それでは、日米共同プロジェクトで従来やっていた基準で移植を行っ
  た。」ネットワークを通して移植をしたという認識はなく、ネットワーク
  通らなかった腎を移植したので従来の基準には違反しない。

5.4.太田氏見解に対する問題点

(1) 法人理事長(当時)は4月17日以降すべてのUS腎情報について対応して
  いた。その事実経過について6月27日記者会見をおこなっている。
   4月17日経過については厚生省、ブロックセンター長と共に対応し、時
  間的経過を含めすべてブロックセンターに対応が記録されている。これに
  よれば東京女子医科大学の担当者・渕之上氏にブロックセンター次長より
  決定を伝え、法人理事長(当時)は伝えた事を直ちに報告を受けている。
  この事実経過については、8月3日付関東甲信越ブロックセンター運営会
  議見解理由として認められている。太田氏の見解は、これら中止要請を全
  く知らなかったとする点で、ネットワーク側見解と全く異なっている。
(2) 4月以降のUS腎第1例目、4月17日ドナーは HCV抗体陽性であった。 H
  CV抗体陽性ドナーからの移植についてルール違反でないとする太田氏見解
  4-(5)、4-(6)ですでに「ネットワークが断った、ネットワークを通って
  いない腎」という認識を示されたことは、中止要請が伝わらなかったとす
  る意見と矛盾する。
(3) ブロックセンターが中止要請をしたことが伝わっていることは、太田氏自
  身が述べられているように、ネットワークを通っていない腎であるという
  認識4-(5)、4-(6)からも明らかである。仮に伝わっていないとしても、
  ネットワーク外の死体腎移植を4月1日以後認めていないのであるから、
  移植するべきではなかった。

6.US腎をめぐる中央評価委員会の見解(案)

(1) 4月1日日本腎臓移植ネットワークが発足してから、6腎が米国より送付
  され、5腎が移植された。この内2例は HCV抗体陽性のドナーから HCV陽
  性のレシピエントに移植された。
(2) 本委員会は8月3日に示された関東甲信越ブロックセンター運営委員会見
  解について、基本的にこれを支持する。
  即ち、
  1.今回関東甲信越ブロック内で実施されたUS腎の移植は、日本腎臓移植
   ネットワーク運用骨子に以下の点で抵触する。
   (1) HCV 抗体陽性者からの腎移植を禁ずるドナー適応基準に違反してい
     る。
   (2) 臓器は本ネットワークを通して提供されるこことする、国際シェア
     リングは本ネットワークを窓口とするというネットワーク運用骨子
     に違反している。
  2.今回のUS腎移植が日本腎臓移植ネットワークの保留要請、ならびにブ
   ロックセンターの再三の要請にもかかわらず、強行されたことは遺憾で
   ある。今後US腎の移植については中断する。

7.その他の問題点

 以下の問題については十分に解明されていない。
(1) US腎の自己負担分について
  米国UNOSによれば、腎提供の為の経費は1腎につき約1万ドルかかり、
  この請求書は東京女子医科大学に送られてきており、少なくとも昨年12月
  までは支払いを完了しているという。また本年度分は6月にUNOSより
  請求書が届いたが、使用されなかった腎の分もあり請求書の不備があるた
  め、訂正を求めているという。支払いは、移植を受けた患者が直接UNO
  Sに支払い、東京女子医科大学はこれにタッチしていないので支払いの完
  了については現時点では未確認の状態である。保険診療上の一部自己負担
  (混合診療)等の問題もあり、中央評価委員会としては十分な関連資料の
  提出が得られなかったので確定的な判断が出来なかった。
(2) 東京女子医科大学のデータベースの存在
  本年4月以降US腎移植を受けた患者の HLAタイピングは、東京女子医科
  大学から報告されたものと、佐倉のナショナルセンターに登録されたもの
  が異なる。これはナショナルセンターに登録後、リタイピングが行われ、
  東京女子医科大学に登録し、ナショナルセンターへの更新が行なわれてい
  ない事によると推察される。従ってこれらのUS腎の患者選択は、東京女
  子医科大学に登録されたデーターのみから行なわれていることが推察され
  る。
  緊急性の問題はあるものの、レシピエント選択に公平の原則に関わる問題
  があると考えられる。今後すみやかにナショナルセンターへの更新が行わ
  れるよう提言する。
(3) 1993年より1995年3月31日までのUS腎移植について、現在のところ東京
  女子医科大学よりのデーター提出は不十分なものであり、中央評価委員会
  としては上記について評価不可能である。

8.中央評価委員会の結論

(1) 移植医療の健全な発展を期すためには、国民に十分な理解と協力を得る必
  要がある。本委員会では事実の検証と真偽の結果、今回のUS腎問題では
  運用骨子に示されたルールに違反する行為があったことを認めこれを公表
  する。
  尚太田氏は、これまでの行為については、ルール違反をしたとは考えてい
  ないが、今後全面的にネットワークのルールに従う事を約束したことも公
  表する。
(2) 4月1日新ネットワーク発足直後は、国際シェアリングに関する明確な指
  針は確定されていなかったが、既に厚生省化学研究班の研究成果も報告さ
  れており、太田氏の報告書を受けた後理事会を開催し速やかに方針決定す
  る予定であった。今後の国際的な腎臓のシェアリングについては相手国、
  時期、方法、体制等の問題を国際委員会で早急に審議し、ガイドラインを
  策定することとする。
(3) 今回のUS腎をめぐる問題によって、移植医療に対するイメージが傷つい
  たことは、はなはだ遺憾であり、今後ネットワークは国、関係団体、関係
  学会とも挙げて緊密に連絡を取り、そのイメージダウンの回復に努め、移
  植医療の明るく健全な発展のため最善を尽くし、移植を待ち望んでいる患
  者の期待に添うよう謙虚な努力を重ねるべきである。
(4) US腎問題の医学的側面についても充分議論したが、今後、関係学会と協
  議調整する。


 
 
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◆1995/08/22 日本移植学会雑誌『移植』30巻,第31回日本移植学会総会臨時号収載演題『INF-α併用下 HCV陽性ドナーから陰性レシピエントへの腎移植』に対する公開質問状

移植学会雑誌『移植』30巻、第31回日本移植学会総会臨時号収載演題
『INF-α併用下 HCV陽性ドナーから陰性レシピエントへの腎移植』に対する
公開質問状

日本移植学会理事長(東京女子医科大学第三外科)     太田 和夫 殿
日本移植学会雑誌編集委員会 委員長
並びに第31回日本移植学会総会会長(京都府立医大外科)  岡  隆宏 殿
東京女子医大泌尿器科(論文執筆者)           徳本 直彦 殿
東京女子医大泌尿器科(論文共同執筆者)         東間  絋 殿
東京女子医科大学第三外科(論文共同執筆者)       寺岡  慧 殿

                            1995年8月22日

 日本移植学会雑誌『移植』30巻、第31回日本移植学会総会臨時号(1995年)
に収載の『INF-α併用下 HCV陽性ドナーから陰性レシピエントへの腎移植』(p
162)について、患者(レシピエント)の人権の侵害の懸念、すなわち『インフ
ォームドコンセント』の名の下に行われた事実上の人体実験ではないかどうか
についての深刻な疑念から、以下の各点について公開で質問させていただきま
すので、誠意をもってご回答くださいますようお願い申し上げます。

はじめに

 ある個人についての特定の治療方法が患者にとって有益であるかどうかにつ
いて最終的に決定するのは、もちろん治療を受ける患者自身でなければなりま
せん。一般に、医師は当該患者に適用しようとする治療方法の得失について、
患者にその時点で知られている基本的な情報について提示するとともに、その
治療法以外の治療法との得失・相違点について十分な説明(インフォームド・
コンセント)を行わなければなりません。ことにそれ以前に効果と限界が明ら
かにされていないような治療法を実施しようとするときには、細部にいたるま
で十分な情報を提供することと、最終的な判断をくだすまでに熟考のための時
間を保証しなければなりません。
 しかるに上記論文は『インフォームドコンセントを得ている』とは書かれて
おりますが、その内容は、移植は禁止とされてきた『B型肝炎に罹患している
ドナーからの移植』と背景が似通っているため、今まで危険度不祥とされたま
ま見合わされてきている『C型肝炎に罹患しているドナーからの移植』である
ため、具体的にはどのようにして『インフォームドコンセント』を得られたの
かについて検討の対象とすべきであると考えます。
 ことに小児を対象とする実験的医療に際しては、未成年者は高度な判断を自
らなす責任能力に欠けると考えられるために保護者(親権者)の代諾も必要と
されており、かつ保護者はいかなる場合も本人の不利益が予想されるような内
容に代諾してはならないし、しても無効であるとされています。理解しやすい
一例をあげれば、金銭的な代償のために親が子供の臓器を売ることに同意して
はならないのと同じことです。6例の中に14才の症例が含まれていることは、
この点では特に注意を要することがらであると考えます。

 以上の視点から、本演題の内容と倫理的背景について公開で質問をさせてい
ただきます。

        記

(1) 本治療法の得失について(徳本、東間、寺岡氏に)
 1995年8月19日付朝日新聞夕刊によれば、『このため、同大では二年前、HCV
の抗体陽性者から陰性者への移植はしない方針を決めた。』とされています。
 結果から見ても、『B型肝炎に罹患しているドナーからの移植』での経験は
『C型肝炎に罹患しているドナーからの移植』にも当て嵌まると考えられるこ
とになった訳ですが、そういう結果が出る可能性についてレシピエントの皆さ
んにはどの様に説明されたのでしょうか。インフォームドコンセントを得るた
めに患者に提示された書類の写しをご提示ください。
 また14才症例については同じ書式でなかったとすれば、その書類もお示しく
ださい。(もちろん、患者さんの氏名など、患者さんを特定できるように情報
は削除してお示しください。)

(2) 本治療のために不利益を被った患者さんについて(徳本、東間、寺岡氏に)
 6例中2例に肝障害が発生したとされていますが、その方たちにはどの様に
謝罪されましたか。(社)日本腎臓ネットワークの発足により、臓器の公平、
公正な配分が実施されることになりますと、HCV 陽性となった患者さんが今後
レシピエントとして不利な立場に置かれることはありませんか。そうした可能
性も考慮に含めて、肝炎ウイルス保持者に免疫抑制剤を使用するデメリットも
含めて、HCV 陽性ドナーから HCV陽性レシピエントへの移植は解決策として有
用であると考えておられますか。

(3) 東京女子医大倫理委員会の判断について(徳本、東間、寺岡氏に)
 今回のような患者さんの危険が通常予想されるような場合とは異なって大き
い可能性のある臨床研究について、倫理委員会が許可された条件(方法・同意・
症例の限定など)をお示しください。特に14才症例について許可された理由が
明らかであればその点もお答えください。

(4) 演題の採用について(岡、太田氏に)
 この報告が学問的に重要な内容を含んでいることは間違いありませんが、同
時に研究方法において倫理的に検討されなければならない問題を含んでいるこ
とも間違いのない事実です。個々の演題の採否は査読者が決定するものであっ
たとしても、本演題が今回の総会の学術発表として受理できるかどうかの最終
決定は、会長の権限として岡会長がなされたものと考えます。この点について
会長のお考えをお聞かせください。
 今後も研究者の問題意識と研究方法の倫理性との間で摩擦が生じることは多
々あるのではないかと考えますが、学会として論文採否の倫理的基準を明らか
にされ、私たち会員にお示しください。

(5) (社)日本腎臓ネットワークの発足について(岡、太田氏に)
 私たちは、患者さんの権利の侵害が起きないために、臨床研究の場合には治
験にあたる者に日常診療よりも数段階厳密な節度が要求されること、およびそ
れを保証するための制度が必要とされることは当然であると考えております。
『公平、公正』を主要なモチーフとする(社)日本腎臓ネットワークとの関係
で、リスクの大きな治験には臓器の配分が行われなくなって移植学の進歩が止
まりはしないかとの危惧に、移植学会としてどのように応えられるのでしょう
か。移植学の節度ある発展に必要な研究が、日本腎臓ネットワークの中でどの
ように位置付けられるべきだとお考えでしょうか。今後、そうした研究が満た
すべきガイドラインについて、諸外国のそれを念頭に置いた理事長および会長
の見解をお伺いします。
                                 以上

追伸:学会雑誌を手にしてから学会までの時間が短かったため、時間的な余裕
に乏しく誠に勝手ですが、8月30日までにご回答をお寄せくださいますようお
願い申し上げます。

                    日本移植学会会員  本田 勝紀
                              池谷  健
               連絡先:〒113 東京都文京区本郷7−3−1
                     東大病院第一内科 本田 勝紀


 
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■文献

◆雨宮 浩 197808 「死体腎移植について」,『日本腎臓学会雑誌』
◆腎移植連絡協議会 編 19920610 『腎移植/新時代への展望―臓器提供の活性化・拡大を求めて』,メディカ出版,169p. 2000 ※
◆秋葉 膺右 19920725 『透析から脳死腎移植へ――東京とニューヨークの病院で実体験した患者の現場レポート』,はる書房,250p. ISBN-10: 4938133407 ISBN-13: 978-4938133405 2039 [amazon] ※ b k01
◆宇尾 房子 19941125 『私の腎臓を売ります』 双葉社,262p. 1500 ※ b k01
◆中 義智 19960301 『腎移植――透析校長奮闘記』,三省堂,205p. 1400 ※ b k01
◆太田 和夫 19990710 『新 これが腎移植です』,南江堂,167p. ISBN-10: 4524221743 ISBN-13: 978-4524221745 1800 [amazon] ※ ot.k01.,
◆春木 繁一 19970718 『透析か移植か――生体腎移植の精神医学的問題』,日本メディカルセンター,247p. ISBN-10: 4888750998 ISBN-13: 978-4888750998 2600 [amazon] ※ k01.ot.
◆瀬岡 吉彦・仲谷 達也 編 20010630 『腎移植の医療経済』,東京医学社,170p. ASIN: 4885631327 3675 [amazon] ※ b k01


 
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■HP

◆静岡県腎臓バンク
 (歴史・組織の紹介、献腎登録案内、移植希望者登録案内、コーディネーター向け情報、イベント案内、質問コーナー等)
 http://www.hama-med.ac.jp/w3/jinbank/index-j.html
◆腎移植の現況(金沢医科大学)
 http://www.kanazawa-med.ac.jp/~urol/transplant/index.html
 (腎臓移植の解説、献腎移植・生体腎移植の案内、石川県腎臓移植コーディネーターのページなど)
◆トリオ・ジャパン
 http://square.umin.u-tokyo.ac.jp/trio/
 (TRIO(国際移植者組織)の日本支部。移植者やその家族をサポート)
◆移植の広場(腎移植 up to date)
 http://www.ishoku.crown.co.jp/
 (名古屋第二赤十字病院移植外科で腎臓移植を受けた患者の会(朋友会)のページ。)
◆東京大学医科学研究所附属病院 外科・移植科
 http://ishoku.ims.u-tokyo.ac.jp/WelcomeJ.html
 (腎移植の患者向けマニュアルあり)


UP:20070419 REV:20080424, 20090604
臓器移植  ◇人工透析
TOP HOME (http://www.arsvi.com)