『保安処分の研究――精神医療における人権と法』
青木 薫久(あおき・しげひさ) 19930930 三一書房,548+37p.
last update: 20110718
■青木 薫久 19930930 『保安処分の研究――精神医療における人権と法』,三一書房,548+37p. ISBN-10: 4380932001 ISBN-13: 978-4380932007 \9991 [amazon]/[kinokuniya] ※ f01 m m-r
■この本紹介ファイルの項目
□内容
□本の目次
◇はじめに・序章
◇第一部
◇第二部
◇第三部
◇第四部
◇第五部
◇第六部
◇おわりに,索引など
□引用
□書評・紹介
□言及
■内容
・同書の帯より
精神医療の現場から保安処分を詳細に分析
刑法改正草案の中軸に保安処分が導入されようとしてから,今日の「処遇困難者病棟」新設の動向まで,常に「精神医療から社会治安の役割を払拭する」ことに努めてきた誠実な精神神経科医の渾身の保安処分論,ついに完成.
・同書「はじめに」より
なお,本書は,『精神医療と保安処分』(批評社)(一九八○)所載の論文以降の論文を集録したものであり,このため,本書の「論文番号」は,前書からの通し番号として,17より始まっている(2).
■本の目次
はじめに 1-2
序章 保安処分をどうとらえるか 15-22
一,保安処分は消滅する運命にある 15-17
二,日本国内の保安処分動向 17-18
三,本書の構成 18-22
第一部 世界の精神医療における人権と法 23-208
17 国連人権委員会の「精神医療原則」への若干の検討と要望 25-31 *
* 上記は逆引き36-37所収の英文学会要旨の邦訳
18 精神医療改革の原則 32-70
一,精神医療改革の原則 35-55
二,精神医学的緊急の場合について 55-56
三,精神障害犯罪者処遇制度の歴史的変遷 57-60
四,「原則」からみた世界の入院制度 60-64
五,まとめ 64-67
引用文献 67-70
19 国連「パリー草案」の問題点――精神病院入院者保護関して 71-96
一,国連「ダエス草案」批判わきおこる 72-74
二,日本の精神衛生法改正案への国際的批判 74-77
三,国連「パリー草案」の問題点 77-88
四,権利としての狂気 89-91
五,まとめ 91-93
引用文献 93-95
後記 95-96
追記 96
20 国際フォーラムと精神医療改革 97-109
一,リーガル・モデル「実験」の失敗 99-102
二,コミュニティ・ケアの諸問題 102-103
三,非自発的入院の形式について 103-108
四,まとめ108-109
引用文献 109
21 国際フォーラムと精神衛生法改正 110-119
一,「中間メモ」との関連において 111-117
二,国際フォーラムの「決議」について 117-119
引用文献 119
22 “国権による強制的心操作”の否定――一つの重要な人権 120-138
一,人類生存の危機 121-122
二,今なぜ日本国憲法か 123-127
三,「治療」という国家の強制的心操作の否定 127-130
四,わが国の強制的心操作の諸相 130-134
五,国家の情報管理における民主と独裁 134-136
六,まとめ 136-137
引用文献 137-138
23 欧米の強制入院形式からの教訓 139-159
表1 ヨーロッパ各国の一般の精神障害者の強制入院形式 140-141
表2 アメリカの一般の精神障害者の強制入院形式 142-143
一,欧米の強制入院は公権力の執行 144-146
二,「他害のおそれ」による強制入院について 146-149
三,〈刑事訴訟法なみの入院手続きを〉という主張について 149-151
四,「医学的証明」の問題 151-153
五,わが国にも,裁判所への異議申立権の確立が必要である 153-154
六,定期審査の問題 154-155
七.まとめ 156-157
引用文献 147-158
24 精神病院入院の諸問題――国連人権連盟報告に関連して 160-194
一,措置入院は国際人権規約にも違反 162-164
二,保安施設としての宇都宮病院 164-166
三,同意入院患者にも司法審査をうける権利を 166-168
四,自由入院の促進 168-169
五,精神病床数と平均在院年数の問題 169-174
六,否定されるべき「ダエス草案」 175-178
七,アメリカの強制入院の実情 178-182
八,強制入院制度の点検 182-188
九,強制入院における拘禁の質の点検 188-191
一○,まとめ 191-193
引用文献 193-194
25 精神障害者の拘禁と強制治療の条件――ハワイ宣言との関連において 195-208
一,ハワイ宣言をめぐる動き 196-198
二,強制治療における家族の同意 198-204
三,拘禁に対する訴願機関 204-206
四,まとめ 206-207
引用文献 207-208
第二部 日本の精神医療と法 209-296
26 厚生省科学研究班の「処遇困難者治療」案への危惧 211-218
27 精神保健法に関する二つの問題 219-231
一,国民の精神健康義務について 221-223
二,「処遇困難患者に関する専門委員会」について 223-229
三,まとめ 229-230
引用文献 230-231
28 精神衛生法案は三歩後退――行政の都合で人権さらに狭く 232-233
29 保安処分の網をかぶせる精神衛生法改正案 234-238
一,保安処分体制の強化 234-236
二,指定医 236-237
三,精神医療審査会 237
四,ファシズム立法 237-238
30 「第三者機関の落とし穴」――脳死・強制入院の押しつけにも 239-240
31 強制入院治療は制限を――精神障害者の人権保障の第一歩 241-243
32 人権からみたわが国の精神衛生法 244-290
一,強制入院の対象となる精神障害 246-250
二,保護義務者制度について 250-260
三,強制入院制度について 260-275
四,強制入院における人身救済制度 275-281
五,入院患者の諸権利 281-285
六,合併症者の入院について 285-286
七,措置入院費の徴収について 286-287
引用文献 287-289
付記1 289-290
付記2 290
33 保安処分新設を推進している日弁連「要綱案」 291-296
一,保安処分についての政府の動向 292-293
二,要綱案が出るまでの経過 293-294
三,「精神障害犯罪者」と精神衛生法体制 295
四,要綱案のゆくえ 296
第三部 日本の精神医療と人権 297-346
34 登校拒否児情緒障害児短期治療施設問題 299-306
一,登校拒否児に対する国のまなざし 299-300
二,「治療」方法の問題 300-301
三,「治療」・教育のおしつけの問題 302-304
四,教育への正しい視点の必要性 304-305
引用文献 305-306
35 宇都宮病院事件の三つの問題 307-310
36 精神衛生実態調査は精神障害者への人権侵害(質疑応答) 311-316
一,安あがり医療と管理強化 312-313
二,強い反対の声に中止する県も 313-314
三,手直しして強行狙う厚生省 314-315
四,コンピュータ支配の危険性 315-316
37 日本における精神障害者の人権認識の発展 317-323 *
一,日本精神神経学会の近年の動向 317-318
二,精神医学は刑事政策の道具ではない 318-319
三,精神障害者の権利の明確化 319-320
四,ハワイ宣言へのコメント 320-321
五,国家権力による強制入院制度は廃止にむかう 321-322
六,まとめ 322
引用文献 322-323
*英訳が逆引き31-35にある
38 電撃ショック療法に対する患者の拒否権 324-326
39 精神外科治療は完全追放を――「精神病質」に医学的根拠なし 327-329
40 保護義務者の義務について 330-332
41 精神病院入院患者の手紙の自由について 333-334
42 精神病院入院患者の作業と人権 335-337
43 精神病院=患者作業の三原則 338-346
引用文献 346
第四部 日本の裁判・行刑と保安処分 347-373
44 報道の主権在民にむけて――『人権と報道を考える』を読んで思う 349-350
45 あらためられるべき日本の行刑制度とその思想 351-352
46 健康を破壊する監獄の生活と医療 352-354
47 在監者の電撃ショック療法――横浜刑務所での強制使用に思う 355-357
48 死刑制度は廃止すべきである――人を殺すことに正義はない 358-362
49 日本におけるえん罪の構造――「小野さん獄中手記」出版を記念して 363-365
50 在監者への強制的診療は世界の医師の決意に逆らうものである――「監獄法改正案」批判 366-373
引用文献 373
第五部 世界の保安処分は廃止に向かう 375-479
51 各国の保安処分制度とその実情 378-479
一,アメリカ 379-388
二,イギリス 389-401
三,西ドイツ 402-413
四,オランダ 414-424
五,デンマーク 425-431
六,スウェーデン 432-438
七,ノルウェー 439-443
八,フランス 444-447
九,スイス 448-450
一○,オーストリア 451-454
一一,イタリア 455-456
一二,ソ連 457-469
一三,中国 470
一四,まとめ 471-474
引用文献 475-479
第六部 日本の保安処分案批判 481-546
52 保安処分の刑事局案へのコメント 483-495
一,犯罪行為およびそのおそれと精神障害との因果関係 485-487
二,中毒犯罪者の問題 487-490
三,治療施設の問題 491-492
四,まとめ 493
引用文献 494-495
53 犯罪白書にみる「精神障害犯罪者」の情況(その2)――ことにその処遇と「再犯」情況 496-517
一,成人刑法犯検挙人員中の精神障害者の率 497
二,心神喪失・耗弱犯罪者の率 498-499
三,精神障害者の再犯者率 499-501
四,精神障害犯罪者の拘禁率 501-505
五,精神障害者の再犯率 505-514
六,まとめ 514-516
引用文献 516-517
54 保安処分賛成論者の見解と態度へのコメント――世界の保安処分制度は崩壊にむかう 518-525
引用文献 524-525
55 保安処分をどう考えるか――法務省見解をめぐって 526-546
一,精神障害犯罪者の実情 527-530
二,措置入院制度との関連 531-535
三,保安処分の手続きと内容 535-546
引用文献 546
おわりに 547-548
索引 逆引き1-30
■引用
・欧米における強制入院制度――(旧)ソ連と同じこと*は欧米(や日本)でも起こりうる
欧米における強制入院制度は〔中略〕社会治安のための警察権力による強制入院もふくむ・すべての強制入院に対して〔中略〕入退院は,裁判官権限(裁判官収容)あるいは医師の権限(医学的収容)できめられており,ポリス・パワー(警察権力)またはパトリエ・パワー(保護者としての公権力)という・いずれにしても公権力による強制入院の形態をとっている〔中略〕.
欧米において,強制入院制度に対する人権保護のためのハンド・ブックが出まわっているのは,欧米における強制入院制度が公権力の執行を意味するだけに,国家権力の強権的発動に対する市民の闘いとしての意味あいがあるという点をみておく必要がある.魔女狩り裁判ではないが,うかうかしていると,個人とかかわりのない・第三者の力によって,精神病院にぶちこまれるという・市民にとっての危険性は,なにもソ連のことだけではないのである(145-146).
*旧ソ連と同じこととは,〈政治的理由による強制入院〉+〈強制的心操作〉を指す
・〈合意入院〉の〈強要〉に荷担する学術権威者
わが国において,静岡のI氏,東京のSさん,宇都宮病院における安井氏などのケースにみられるように,同意入院の不当性があらそわれている事件には,その間に「学術権威者」が介在していることが多くみられ,医学的証明は,このようなケースの人権保障のチカラにならないばかりか,かえって,この種の〔実質的な〕強制入院の「合法性」の補強とすらなりうる〔中略〕(152; 亀甲カッコ内はコンテンツ作成者加筆).
・強制入院に備えて〈患者の友人〉をあらかじめ「保護義務者」に選任できるようにすることの必要性
身寄りのない精神障害者は,前もって,自分の友人のなかから,実質上の「保護義務者」をえらんでおくのも,一つの便法といえよう.もちろん,この「友人の同意」は,現在は,法的なチカラをもってはおらず,同意入院は,形式的には,市町村長同意によることになるが,この「友人の同意」も同意入院の必要条件に加えるように,医療の側が配慮することは,一つの方法といえよう〔中略〕.
このことは,世界の経験からも,精神障害者の人権保障は,公的な人権保証機構のみでは不十分で,患者に密着した個人の目も必要であることがわかってきている〔中略〕(273).*
*コンテンツ作成者のコメント
しかし,実際にはむしろ〈家族員〉〈親族〉が〈強制入院〉を主導し,プライバシーを盾に,精神障害当事者の権利保障のための介入を妨害する事例も多い.そのため,家族員や親族の存在の有無にかかわらず,友人にあらかじめ委任状を託し,弁護士依頼等を一任しておく「委任状運動」なるものも出現している(長野 2008: 181; 183).
→cf. 長野 英子 20080430 「ピープルファースト 私たちはまず人間だ――障害者権利条約と日本の実態」,日本社会臨床学会 編 『精神科医療――治療・生活・社会』,現代書館,144-195 [amazon]/[kinokuniya]
・統計数値やその二次利用の結果を無批判に受容することの危うさと,数字のトリックを見抜くことの困難
「学術権威者」が,統計で国民・世論をミス=リードすることなど,あってはならないことである.数字をみる目をもつ人には,「おかしい」と,すぐ見抜ける程度のことであっても,この誤りを数字で立証することは,必ずしも容易ではない(517).
・国権による〈究極の強制的心操作〉としての死刑
死刑とは,極悪な心をもった者の心を廃絶させる制度とみれば,もっとも,すぐれて“国権による強制的心操作”であり,絶対に許容されるものではない(132).*
*コンテンツ作成者のコメント
欲を言えば(日本における死刑執行とその担い手の現状を勘案した場合)死刑囚に対してだけでなく,〈死刑執行人〉=〈刑務官〉に対して死刑執行が拒否する余地のないこととして強要されることも,(死刑囚の場合とは機能的に差異/隔りがあるにせよ)〈国権による究極の強制的心操作〉たりうる可能性を否定できない,という点を加味していれば,なお良かったように思われる.
→cf. 櫻井悟史 20110122 『死刑執行人の日本史――歴史社会学からの接近』,青弓社 [amazon]/[kinokuniya]
■書評・紹介
■言及
*作成:藤原 信行