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審査報告書再掲:樋澤本に・2

「身体の現代」計画補足・427

立岩 真也 2017/10/28
https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1962581570675487

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樋澤吉彦『保安処分構想と医療観察法体制――日本精神保健福祉士協会の関わりをめぐって』表紙

[表紙写真クリックで紹介頁へ]

 樋澤さんの本が出た。その本に「不可解さを示すという仕事」という短文を収録してもらった。その分載の2。

樋澤 吉彦 20171010  『保安処分構想と医療観察法体制――日本精神保健福祉士協会の関わりをめぐって』,生活書院,312p. 3000+

 「■審査報告書再掲
 まず短く告知・広告した。さて、本書は博士論文がもとになっている。私はその論文の主査だった。主査という役の人は(主)担当教員が就くことが多く、それはこちらでもそうだ。そしてこの役の人は、私の勤め先では、教授会による博士号授与の合否を決める投票に際して、「審査報告書」を書いて朗読することになっている。そしてその書類は、教授会での朗読に際して誤字等の指摘、修正の提案を踏まえて書き直されることがあり、そうして作られた書類は全学の会議体――これが最終的な決定機関になる――の際にもその場に提供される。
 この十年あまりの間、もう五〇ほどそうした書類を書いてきた。多くが春に提出されるので、多くは七月の終わり、一年でいちばん面倒な仕事だと愚痴を言うことがある。通る(通す)ためには、(いろいろ課題はあるにせよ)基本的にはよい論文であったと書くことになる。そのことに、私は、私が担当するすべての場合に異論はないのだが、とはいえどのように書くかということになる。その報告書には大きくは三つの項目があって、三つめは形式的な記述だから略。一番目は「論文内容の要旨」で、これは筆者が書いた要約が使えるものであれば、使わせてもらう。でないと自分で作ることになるが、樋澤さんのは使えたので、ほぼそのまま。だから、ここに再録するまでもない、とも思うが、とにかく短いので、引用。△292

 「□論文内容の要旨
 本論文は、日本における保安処分に対して、少なくとも1980年代前半までは強固に反対の立場を堅持してきた「日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会」(現「日本精神保健福祉士協会」、以下、協会)、そして精神保健福祉領域のソーシャルワーカー(PSW、資格としては精神保健福祉士)が、2000年代以降、その構造的類似性から一種の保安処分と同定できる「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(2003年成立、2005年施行、以下医療観察法)に対して実質的且つ積極的に関与を表明するに至った過程を整理し、検討を行うことを通して、PSWの医療観察法への関与の正当化論理、及びその鍵概念となる本法における「社会復帰」の意味について明らかにすることを目的とする。
 論文の構成は、序章、第1章「保安処分の概要」、第2章「日本における保安処分導入の過程」、第3章「協会の保安処分に対する「対抗」の過程」、第4章「協会の医療観察法への関与の過程――保安処分とPSWとの親和性」、第5章「PSWの医療観察法への関与のロジック――協会機関誌『精神保健福祉』における2つの特集の検討」、第6章「「精神保健観察」にみる社会復帰の意味」、終章「本研究のまとめと今後の研究課題」。
 まず第1章・第2章で戦前から刑法学者による保安処分に関わる主張が整理される。第1章では、後述される医療観察法につながる始点として、保安処分の定義、執行形式、そして保安処分と刑罰との関係が整理され示される。第2章では、日本における保安処分導入の経過が概観される。そこでは保安処分の主張が多様であったことが確認されるが、その上で、後に成立する医療観察法を保安処分と捉えるのは妥当△293 であることも示されることになる。第3章では、1960年代後半以降、保安処分が日本精神神経学会や精神障害者たちの運動において批判の対象とされていったその歴史が辿られる。そしてこの動きに連動し、協会もまた反対の側にまわったこと、以後その反対の立場自体は明確に否定されてはいないこともあわせて示される。
 そうでありながら、協会は「同時に」医療観察法に関与していく。第4章では、医療観察法成立の過程を整理した後、協会による医療観察法に対する見解等の内容の整理を通して、協会が「迷走」しながらも、徐々に本法に積極的に関与していく様相が明らかにされる。第5章では、PSWがどのような論理によって、あるいは言葉の運びによって、医療観察法への関与を肯定しているのかについて検討された。第6章では、医療観察法におけるPSWの職務のなかでもその使命を具現化した社会復帰調整官の「精神保健観察」に関する論考の整理検討を通して、PSWの医療観察法への関与の正当化論理及びその鍵概念となる本法における「社会復帰」の意味について明らかにすることが試みられる。そこでは「社会復帰」を支援する職務がPSWの職務であり、その一部に医療観察法のもとでの職務が位置づけられ正当化されていることが確認された。」


 生存学研究センターのフェイスブックにあるこの文章と同じものは
http://www.arsvi.com/ts/20172427.htm
にもある。


UP:201707 REV:
博士号取得者
病者障害者運動史研究  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
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