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『LIFERS』を巡って

坂上香との対談
立岩 真也 2009


 *人間科学研究所の刊行物に収録されるそうです。(→刊行物は刊行されなかったようです。)

■立岩 グローバルCOE・生存学創成拠点なるものをやっています。障害とか病、老い、身体のさまざまな異なりにかかわる、さまざまなことについて調べたり、考えたりしてやっている、そんな研究をする拠点です。そういうことをめぐって大切なフィルム、映像があったりして、前々からそういうものを集めて上映できたらということを言ったりもしていますが、他のことも忙しくて、そういうところになかなか行けていません。
 あと、今日の関わりでいうと、加害者を罰しなければいけない人間、たとえば死刑を執行する人がいるわけですが、その人たちのことを調べる大学院生がいます。それから、被害者、被害者というよりは被害者の関係者というのが正確だと思いますが、そういう人たちの声はそれなりに聴かれるようになったんだけど、それはそれで、今のようなあり方でいいんだろうかといったことを考えていたりする院生もいます。そうした院生が、数は多くはありませんが、いたりします。そんなところで仕事をしているものでございます。自己紹介はそんなところです。

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■立岩 ありがとうございます。坂上さんとお話しするのは2回目です。さっき伺ったら2007年末だったようですが、同じ映画を神谷さんが京都シネマで上映した時、終わった後、対談をさせてもらいました。同じシチュエーションで2回目なんです。
 僕が坂上さんの名前を知ったのはNHKの、日本の戦争犯罪、戦争におけるさまざまな加害行為を番組にする過程でいろんなことが起こって、最終的には坂上さん、降りるというか、もともとNHKの職員ではないんですが、制作者として独立するといったことがあって、そのことで名前を存じあげていました。その件が終わったわけではないんだけど、その後、大谷というこちらの院生が、その前は京都文教大学の学生で、坂上先生のゼミ生で、そんな仕事をやってらっしゃるんだとと知ったり。当時知っていたのはそんなところだったでしょうか。今は坂上さんは津田塾で教えておられますが。『癒しと和解への旅――犯罪被害者と死刑囚の家族たち』(岩波書店、1999)といった本もおありですよね。
 2007年の対談ではいくらか私の方でもお話したのですが、今日は時間のこともありますし、私が思うことを言うというより、坂上さんにいろいろ伺うというつもりでいます。

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■立岩 一つは加害者がどんな人でどんなことになっているのか、そこのところを知らないということです。その人たちがどうやって自分たちで立ち直っていくのかということともちろん切れていないことなんだけども、その前に、まず加害者がいて刑務所にいる人たちがいるということそのもの。
 坂上さんがおっしゃったことなんだけど、加害者がいるということは僕らは知っていて、全く知られていないわけではなくて、いろんな形で、過剰に報道されるということはある。だけれども、それは限られたところであって、逮捕直後、呆然としていたり、まだ殺気立っていたり、そんな感じの人たちの写真、映像が数秒、フラッシュを焚かれて車に乗せられて、そういう瞬間がそこでは映し出される。それが報道されている。でも僕らが知っているのはそれだけのことであって、そしてその人が「俺は人を殺しちゃったんだから早く殺してくれ」と言っているとか、そんなことを漏れ聞くという感じだと思うんです。そういう面も実際あるんだろう。人を殺した直後とかって、形相もおかしくなっているだろうし、呆然としているでしょうし、それもそれで一つのリアルなことであるのだろうけど、その人はその前に、その後に、さまざまな現実があって、その人を救えとか認めろということを差しあたって措いといて、その手前のところでね、「こういふうでもある」とか「ああいうことでもある」ということは、知らなきゃいけないんじゃないかなという気がして、坂上さんの映像は、もちろんいろんな側面の中でのある面であるかもしれないけど、それを映している。
 翻って考えてみるに、これはアメリカの話ではないですか。アメリカだからあり、アメリカだから撮れた映像であるもしれないですよね。社会の中で犯罪、犯罪者がある種、常数のように位置づけられている社会であるがゆえに、それに対してある意味向かい合わざるをえないアメリカのような社会と、日本と、少しは違うかもしれない。それにしても日本にも受刑者はいっぱいいるわけです。日本におけるそういう人たちというものは、聞く前からそれは撮ることはほとんどむりなんだろうなと思いつつも聞いてしまうわけですが、今、日本でどうなっているか。それに対して映像というものがどういう形で向かいうるのか、また向かうことが困難であるのかという話を、少し、していただければと思います。

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■立岩 アメリカの収監者、刑務所に入ったり、保護観察とかあると思うけど、どのくらいの人ですか?

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■立岩 アミティというのは、映像や文章で知らされていて、よくできた、よい試みだと思いますが、全米の中のある地域、限られたところで行われているものでもあります。カリフォルニアにもたくさんの受刑者がいるでしょうけど、そのプログラムに入ろうかなと思う人が入るもの?

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■立岩 アメリカの60年代、70年代、公民権運動があったり、リブ運動があったりする中で、同じ境遇の人間、またかつてそうであった人たちが、クローズドな、他言無用の状況で、自分たちで自分たちを信頼する、同じ境遇であるがゆえに信頼して、自分の本当のことを言い合おうというところから何か変えていこうというのがあって、これもそういう流れの中に一つは位置づくものかなと思うんです。映像で見て実際そういう感じのものかなと。
 それは、いろんな形でありえて、少しノリを変えればいろんな文化圏でもありな話で、僕も日本でもそういう感じでやっているところを知ってはいます。ただ、今日の映像を見ても、そこに適応しているという言い方がいいかどうかわからないけど、そこのノリ、皆、本当のことを言って、そのことによって自分をよくしていくという流れにうまく乗れたというか、乗っている人たちだなというのがあって、そんなふうにうまくいけばいいけど、皆そうなのかしらとか、どうなんだろうという疑問が出てきてそこのところを知りたくなる映像でもあるんですね。

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■立岩 そうだと思いますね、万能なものがあるかというと、どこを探してもないし、でもこれは少なくともある部分でいけるというものであると。そして、たとえば日本なら日本で、違う形を変えたりしてやれることはやっていく。それでOKだと思うんです。
 僕は社会学を生業にしていますが、昔は、その社会学で、カウセンリングというのをコケにする、批判的な言い方がありました。ワンパターンで決まっていました。一人ひとりの心理、内面とかを聞く、語る、あるいは語り合うだけでそこにある社会的な経済的な諸々を、免罪しつつ、見ないようにしつつ心の話をして終わらせてしまう、そんなのはけしからんと。それが「心理主義」だと。そう言ってきた。
 ただアミティでなされているのはそういう単純なものではない。犯罪に至ったりした、いろんな文化的な、社会的な、経済的な背景とか、そんなものの故に、というところも皆、込み込みで確認しながらやっていく。そういう意味で言えば、単純な意味での心理主義から抜けている。カウンセリングって社会を忘れさせるために機能している、それってどうなのよという批判は当たらないとは思うんです。そういう意味でいえば、これはこれでありだと認めながら、ただ先程、坂上さんがおっしゃったように、ある年齢層のある集団で言えば、10人に1人とかになっている。そういう社会の中で、犯罪をして送り込まれる、また出ていっていくというプログラムが社会の中で常数みたいに入っているということを…。

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■立岩 刑務所の中でやるプログラムというのものとの兼ね合いは難しいでしょうね。

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■立岩 ちゃんと考えてちゃんとしゃべると、すごい話だと思うんですね。僕はちゃんと考えていないので、ちゃんとした話にならないんですけど。一つは、今、被害者の声、いや被害者の声ではないですね、被害者の関係者の声、被害者の家族の声の一部と言ってよいと思いますが、それが、限られたモードで、様式で語られるのが、今のご時世という状況であると。これは明白に、まずいだろうと私は思っています。
 加害者の声をちゃんと聞いたら実はその人はいい人だった、そんなことを言いたいわけではない。そういう話をしたいわけではなく、しかしながら、今の言論、映像も含めて、極めて現実の中のある部分しか切り取っていない。このことだけは明白なことであって、少なくともこのことだけはよろしくないことであるということくらいは最低限言える。その先の話はたくさんあって難しいと思いますが、そんな言論や映像の状況に坂上さんが切り込む、というと野蛮な感じですが、坂上さんはアメリカのことは乗りかかった船みたいなところがあるし、教員もやっていて忙しくもありますが、日本の状況が申し上げたようなことであるのだとすれば、坂上さんも日本の状況を語ってくれたわけだけど、それに対して、言論、映像が、坂上さん自身がでなくてもいいけど、どのように関わっていけるかのだろうかということについて、最後に少しお話していただければなと思う、ということマイクを渡してしまいます。


UP:20090826 REV:
坂上香  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa
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