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『夏の庭―The Friends―』

湯本 香樹実 19920500 福武書店 → 19940225 新潮社(新潮文庫),218p.

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last update:20160929

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湯本 香樹実 19920500 『夏の庭―The Friends―』,福武書店  → 19940225,『夏の庭―The Friends―』,新潮社(新潮文庫),218p.  ISBN-10: 4101315116 ISBN-13: 978-4101315119 400+税  [amazon][kinokuniya]

■内容

町外れに暮らすひとりの老人をぼくらは「観察」し始めた。生ける屍のような老人が死ぬ瞬間をこの目で見るために。 夏休みを迎え、ぼくらの好奇心は日ごと高まるけれど、不思議と老人は元気になっていくようだ――。いつしか少年たちの「観察」は、老人との深い交流へと姿を変え始めていた。 おじいさんが僕たちに教えてくれたのは、心の中にしまっていた花の名前や花火の色、そして様々な記憶……。3人の少年と老人のかけがえのない夏を描く。 喪われゆくものと、決して失われぬものとに触れた少年たちを描く清新な物語。児童文学者協会新人賞他受賞作。福武書店1992年初版の再刊。

■著者略歴

1959年東京生まれ。東京音楽大学作曲科卒。オペラの台本を書いたことから、テレビ・ラジオの脚本家となる。 児童文学の第一作『夏の庭―The Friends―』は、日本で各新人賞を受賞し、映画化・舞台化されたほか、十数カ国で翻訳出版され、アメリカでも三つの賞を受賞した。

■目次

■関連書籍

湯本 香樹実 19970701 『ポプラの秋』,新潮社(新潮文庫),218p.  ISBN-10: 4101315124 ISBN-13: 978-4101315126 400+税  [amazon][kinokuniya]

■引用

「つまりさ」河辺は目を輝かせている。こわい。「ひとり暮らしの老人が、ある日突然死んでしまったら、どうなると思う」
「どうなるって……ひとりぼっちで死んでしまったら……」
 どうなるんだろう。友だちも家族もなく、もし何か最後の言葉を言ったとしても、だれにも聞かれることがなかったら。 その言葉は部屋の空気の中をさまよって、やがて消えてしまうのだろうか。何も言わなかったのと同じように。 「死にたくない」「苦しい」「痛い」「くやしい」「しあわせだった」そんなどんな言葉も。(p.019)

■言及

北村 健太郎 20130220  「老いの憂い,捻じれる力線」,小林 宗之・谷村 ひとみ 編 20130220  『戦後日本の老いを問い返す』,生存学研究センター報告19,153p. ISSN 1882-6539 pp.120-142.
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■書評・紹介

 ひとり暮らしの老人と子どもたちとの奇妙な交流を描いた中編小説。世界各国でも翻訳出版され、映画や舞台にもなった児童文学の名作である。 アパートの大家のおばあさんと少女のふれあいをつづった『ポプラの秋』や、「てこじい」という異形の老人が印象的な『西日の町』など、 死に直面した老人と子どもというモチーフは、著者が一貫して描きつづけているテーマである。 子どもだけではなく、幅広い年齢層に支持されている本書は、その原点となる作品だ。
 小学6年の夏、ぼくと山下、河辺の3人は、人が死ぬ瞬間を見てみたいという好奇心から、町外れに住むおじいさんを見張ることにする。 一方、観察されていると気づいたおじいさんは、憤慨しつつもやがて少年たちの来訪を楽しみに待つようになる。ぎこちなく触れあいながら、 少年達の悩みとおじいさんの寂しさは解けあい、忘れられないひと夏の友情が生まれる。
 少年たちがおじいさんから学ぶのは、家の手入れの仕方や包丁の使い方、草花の名前、そして戦争の悲惨さである。 物語の終盤、父親に将来の夢を聞かれ、小説家になりたいと答えるぼくは「忘れられないことを書きとめて、ほかの人にもわけてあげたらいい」と語る。 少しだけ大人になった少年たちを、目を細めて見つめるおじいさんの姿が目に浮かんでくるようで、思わず目頭が熱くなる場面だ。 本書は、他人への思いやりと、世代の異なる者同士が語り合い、記憶を語り継ぐことの大切さを説いているのである。(西山 はな)
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*作成:北村 健太郎
UP:20160929 REV:
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