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「NPPV(非侵襲的人工呼吸療法)とTPPV(気管切開による人工呼吸療法)のインフォームド・コンセントに係る問題」

DPI全国集会 函館大会
特別分科会4 「呼吸器と使用者の権利」
於:函館市総合福祉センター2F第1会議室 20090614
パネルディスカッション 「呼吸器と使用者の権利」
司会 中西由起子(アジアディスアビリティインステテート代表)
講師 石川悠加(国立八雲療養所医師)
川口有美子(ALS協会理事)
花田貴博(自立生活センター ILイズム代表)


NPPV(非侵襲的人工呼吸療法)とTPPV(気管切開による人工呼吸療法)のインフォームド・コンセントに係る問題
日本ALS協会 川口有美子


 ALSは嚥下障害があり、唾液の誤嚥は必発なので気管切開は必ず行う。そうしてTPPV長期人工呼吸療法に進むことになるが、昨今NPPVだけで治療を終了する傾向があり、その説明が十分になされているのだろうかという疑問が生じている。NPPV導入時点では、患者に意思決定を迫るべきではなく、不安にさせないほうがいいと判断した医師が、先々の治療について説明を控えていると考えることも、患者家族が医師の説明を忘れてしまうとも解釈できるが、日ごろから気管切開を行うタイミングや呼吸不全等の緊急時の体勢については、当事者を交えてよく話し合っておく必要がある。
 ALSにおけるNPPVの限度について、地域では誰がどのように予想し、次の段階へ進むための見極めをおこなうのかが問題である。当然、診療所医師の仕事と思われるが、患者家族に明確な説明がされていないケースもある。この場合、気管切開のタイミングの見極めが遅れてしまうと、死亡することになる。
 また、NPPV開始後に改めて治療の継続に関するインフォームド・コンセントが行われなければならないが、そのタイミングも難しい。気管切開は療養者にとってもっとも避けたい話題であるからだ。しかし、たとえ、本人が話し合いを拒み、気管切開を渋っても、NPPVの限界を患者の自己決定に委ねることは疑問である。
 2007年QOL班研究報告書においても、「根治できない疾患のインフォームド・コンセントでは「死」か「延命処置」を患者がチョイスするインフォームド・チョイスではない」とある。 (注1)
 NPPVと併せてTPPVの必要性については、当事者がまずその医学的必要性を知ることが重要である。さらに、並行して保健師や行政福祉職が自宅訪問し家族を安心させ、家族以外の者の介護力の充当を積極的におこなえば、将来の不安も幾分解消され、施術に納得する者も大勢いる。これらは地域医療チームと連携したピアサポートによっても、行われるべきことである。
 ここで大切なのは、福祉的サポートが停滞したまま、医療関係者だけで気管切開等の施術の話を進めては、家族や介護事業所の負担が極めて重いまま、TPPVに移行してしまう点である。だから、公的支援の導入をせずに、治療のさらなる継続を家族に納得させることは、非常に難しいと考えるべきである。
 この頃の患者は、家族の負担を気に病み、また同時に家族にこそ励まして欲しいと望みながら、治療を受けたいとは言い出しにくい状況に置かれている。また、家族も疲労困憊で生来の希望が持てず、治る可能性も社会的支援の可能性もないままでは、次のステップに積極的に進む気持ちになれないでいる。
 ALS療養者の生活を振り返れば、確かに家族だけで長年介護を行わなければならないような状況であったが、2003年度の支援費制度(後の自立支援法)の開始やヘルパーによる気管吸引の容認により、国もようやくALSの介護支援に乗り出している。
 それらの制度を利用して、患者家族のそれぞれが、互いに束縛されない療養形体が実現している地域もあるので、他の地域でも同じように実施できるように、先に述べた制度を活性化できるよう、地元の人々が協力して推進すればよい。介護に関する有用な情報は、ALS本人よりもむしろ家族の前向きな意思決定を支える。ALSの呼吸器中止の議論が始まった今、介護に疲れた家族が、意思伝達困難な患者から呼吸器を外すことがないよう、介護情報の提供と支援は継続して最期まで家族に対して行い続けることが重要である。
 地域によっては、介護事業者がいないとの理由で、満足な情報提供がなされていないようであるが、通常は患者会や障害者団体のアドボカシーにアクセスできれば、有用な情報はキャッチできる。
 このように、異なる領域の支援が重層的に継続的に行われ、家族の負担を軽くした結果として、ALS療養者の在宅長期療養という選択肢を、消滅させることなく保つことができる。
 まだ日本では、NPPVからTPPVへの移行期間は、生存のために必要な技法を学び、資源や支援者を集める貴重な期間と考えることができる。難病や重度障害者の自立支援を志す私たちは、NPPV開始を糸口とする長期療養への導入を極めていきたいものである。

注1 参考文献(2)「筋委縮性側索硬化症の包括的呼吸ケア指針
呼吸理学療法と非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)第一部」研究報告書分冊、厚生労働省難治性疾患克服研究事業平成17〜19年度『特定疾患患者のQOL向上に関する研究』報告書、主任研究者 中島孝、
ALSにおける呼吸管理ガイドライン作成小委員会、小森哲夫


*作成:岡田 清鷹
UP: 20090320 REV:
介助・介護  ◇ALS  ◇患者の権利/インフォームド・コンセント
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