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紹介『アジア・アフリカの障害者とエンパワメント』
(ピーター・コーリッジ著、中西由起子訳、明石書店、1999年7月、358p.、4800円+税)
立岩 真也
(信州大学医療技術短期大学部)
19991002
『われら自身の声』(
DPI日本会議
)
アジアの障害者について書いた本は近年になって何冊か出ている。この本の訳者中西由起子さんの『アジアの障害者』(現代書館)、中西由起子さんと久野研二さんの共著で『障害者の社会開発――CBRの概念とアジアを中心とした実践』(明石書店)、その前に出た小林明子さん『アジアに学ぶ福祉』(学宛社)。ただ、全然詳しくない私が言うのだからあてにはならないが、こんな本は今までなかったと思う。筆者はアジア・アフリカの障害者に会って話を聞いてた。本にはそんなにたくさん出て来ないが300人以上の人にインタビューしたそうだ。筆者自身が次のように書いている。
「途上国では障害に関する文献は、リハビリテーションの医療的、技術的側面、特に最近はCBR(Community Based Rehablitation. 地域に根差したリハビリテーション)にテーマを絞る傾向にある。途上国の障害の社会的、政治的事がらに関してはほとんど作品がない。南の障害者自身の声はほとんど耳に入ってきていない。」(p.15)
私たちの多くは、アメリカ、ヨーロッパの人だったら講演を聞いたり本を読んだりしたことがあっても、アジアに住んでいるのにアジアのことを知らない。そしてアフリカのことを知らない。この書でとりあげられる地域は、ザンジバル島、ジンバブエ、インドと占領地域、レバノン。海外とのつきあいを考えていこうとか、そういうところで何か仕事をしてみたいとか、そういう人はどうしても読んでおかないとならない本である。
だがそれだけではない。知らない(場所の)ことが書いてあっても、ただ事実が羅列されているだけだと、つまらないことが多い。この本のおもしろいところは、筆者自身がいろんなことを考えながら、人に話を聞き、そして書かれているところにある。4部構成で、第1部「序論」、第2部「問題点」、第3部「ケース・スタディー」、第4部「結論」となっていて、第3部が全体の半分弱を占めているのだが、その前後では、障害者のことを巡って、アジア・アフリカにもそして(もちろん様々に異なる点はありながら)どこにでももちろん日本にもあるある重要な論点が出され、ケース・スタディーを経て、さらにそれらが考察されている。リハビリテーション、施設、慈善、開発、出産管理と自己決定、エンパワメント、解放…。たとえば第2部の章立ては、「障害の経験」、「障害の政治学――問われているのは何か?」、「障害と開発――基本」、「社会的活動を目指して」、「言葉と数」。「社会的活動を目指して」の章には「全ての国で、国家と民間のボランティア活動の役割と義務の間には緊張関係がある。」(p.144)と始まる「国家の役割」、「本書のインタビューを受けた人々の何人かは非常に攻撃的であったが、一方、他の人々は好戦性は機能しないと考えている。怒りと劇的な活動が十分に適切で正当化される時が明らかにあるし、不適切であるその他の時がある。事例研究の資料から…」(p.150)と始まる「好戦性は機能するか?」、等々の節がある。
そこに何が書いてあるか、中身は実際に本を読んでください。(訳文は、少し直訳的で堅いように思うが、言いたいことは伝わる。)といっても、はっきり定まった何かが書いてあってそれを教わるといった本ではない。筆者(非障害者、男性、中東地区のオックスファォムの地域マネージャー、オックスファムは英国・アイルランドのNGO)自身も考えてみるけれど、調べたことはここに書いたから読者も考えてくださいと促している。例えば、この本は「過程を示した本であり、入門書でも入り組んだ主題の決定的な分析でもない。本書は土台であり、他の人たちがその上に建物を作ることが可能である。」(p.26)「本書の意図は、主として思考と議論に刺激をあたえることである。」(p.29)
さてこの本にはいくつも「名言」が収めてある。紹介するときりがない。DPIに関係するところだけ一つ。南アフリカのマイク・デュ・トワ。自身も障害をもつ彼は、ソーシャルワーカーとして1981年にカナダのウィニペグで開催されたRI(リハビリテーション・インターナショナル)世界会議に参加するのだが、ここでDPIの誕生に立ち合う。
「その時まで私にとって障害は非常に明らかに個人的なものであり、悲劇であったと思います。自分で悲しいと感じるものでした。それは、どんな点でもわくわくするような類いのものでありませんでした。ウィニペグは私をそれほど変えました。論文を発表していたのは全て、これらの介護専門職の人たちで、障害者への援助のために自分たちが実践していることに関する内容でした。そして、まっこうから彼らと対立し、関係する質問を行い、障害者のためのサービスが全く不適当であると暴露する障害者たちがいました。彼らは会議中毎日、前日の講演者を風刺した新聞を出しました。それは興味をそそる、建設的なものでした。」(p.73)
……以上……
cf.
中西 由起子 19960510 『アジアの障害者』 現代書館,247p. 2300 ※
「私たちが拒絶するものは実行されている仕事の多くの不適切性、彼らの態度の不適切性、彼らが私たちを代表しようとすることの完全な不適切性です。私たちは専門家を必要とし、サービスを必要とし、リハビリテーションを必要とします。しかし、リハビリテーションは人生の非常に短い期間に私たちに起こる何かであると急いでつけ加えるでしょう。それは、決して障害者の生活における最も重要なものではありません。」(マイク・デュ・トワ、南アフリカ、p.123)
■Coleridge, Peter 1993
Disability, Liberation, and Development
, Oxfam Academic, ISBN-10: 0855981946 ISBN-13: 978-0855981945
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=19990712 中西 由起子 訳,
『アジアとアフリカの障害者とエンパワメント』
,明石書店,358p. ISBN-10: 4750311758 ISBN-13: 978-4750311753 5040
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