『森の小さな〈ハンター〉たち 狩猟採集民の子どもの民族誌』
亀井伸孝 20100222 京都大学学術出版会,292p.
last update:20101030
■亀井伸孝 20100222 『森の小さな〈ハンター〉たち 狩猟採集民の子どもの民族誌』,京都大学学術出版会,292p. ISBN-10:4876987823 ISBN-13:978-4876987825 \3,570 [amazon] /[kinokuniya] ※
10億を超えたアフリカの人口の過半数は15歳以下、アフリカの子どもに関わる報告やニュースがもっともっと紹介されてもいいのではと感じています(CF.アフリカの子ども)。そうした中、2006年に「アフリカのろう者と手話の歴史」を書いた亀井伸孝さんが、「森の小さな〈ハンター〉たち 狩猟採集民の子どもの民族誌」という興味深い本を出しました。
「おわりに」から印象に残った部分を抜き書きします
今日、「万人のための教育(Education for All)」が国際機関によって唱導され、また、人間の豊かさと可能性を測る「人間開発指数(Human Development Index)」の重要な要素のひとつとして「教育」が位置付けられている。教育がなされないことは子どもにおける権利の剥奪であり、自由が奪われていることにほかならないとする価値観は、人類共通の了解事項になったかのようである。
私もこの思想には一理あると考えており、それを支持する趣旨の文章を書いたこともある。しかし、どこか心の底で、本当にそうなのであろうかと疑う視角も残っている。
本書で取り上げた、ミッションの学校をめぐって起きた様々な事件(第六章 ※森の中での狩猟が可能になる乾季になると子どもたちも森の中へ移動してしまい学校を休校にせざるをえなくなったことなどが書かれている)は、一見失敗のように見えるかもしれない。しかし、よく見れば、普遍的価値の追求を個別状況に沿わせて多少なりとも実現させ、子どもたちが取りうる選択肢を拡充しようとする、ひとつの達成と言えなくもない。子どもたちが秘めた潜在能力とそれが生み出す文花を受け入れつつ、現地の文脈に沿わせて教育を達成していこうとする姿勢は、今日の教育問題を考える上でも有効なヒントとなるのではないだろうか。
■内容
アフリカの狩猟採集民バカの子どもたちに人類学者が弟子入り.「子ども=文化的未完成」という枠組を超え,子ども集団への参与観察によって,彼らが「教育のない社会」で,主体的な行動選択と文化創造を通じ成長する姿を描く.子どもたちは学校まで一種の遊びにしてしまう.教育とは何かを問い直す愉快で可愛い民族誌.スケッチの効用も力説
★圧倒的なリアリティで迫る,森の子どものフィールドワーク★
[推薦] 箕浦康子(お茶の水女子大学名誉教授)
本書は、カメルーン共和国東部の森の狩猟採集民バカ・ピグミーの子どものなかでの1年半の記録である。まず、近代的諸制度導入前の社会で子どもはどう生きていたかをトータルに捉えている点が、専門分化し特定の視角から子どもを見がちな研究への反省をせまる。また、日本の子どもたちとは正反対の社会状況で生きるバカの子どもたちの記録は、文化や時代が子どもの生活をいかに変えたかを逆照射する。子どもの発達や社会化に関心のある心理学、教育学、社会学、社会福祉学、学校教育関係者、保育関係者、必読の書である。
本書は、子どもを相手とするフィールドワーク研究としても出色である。一人前の男性が子どもたちに仲間として受け入れられていくプロセスやスケッチを描くことを通じて形成されるラポール、スケッチ自体がバカ社会の物質文明の巧みな記録になっている点などは、従来の研究書にない特色で、フィールドワークを研究手法としている人にも一読を勧めたい。
■目次
人類学者、森の子どもたちに弟子入りする
狩猟採集民の子どもたち
子どもたちの仲間に入る
森の遊びとおもちゃの文化
小さな狩猟採集民
子どもたちのコスモロジー
子どもたちをとりまく時代
狩猟採集社会における子どもの社会化
狩猟採集民の子どもたちの未来
フィールドで絵を描こう ほか
■引用
■書評・紹介
http://kamei.aacore.jp/kyoto-up2010-j.html#review
■言及
*作成:斉藤 龍一郎