last update: 20100410
医療に関わる情報が患者会活動に与える影響について
スティーブンスジョンソン症候群を例として
植村 要(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
【目的】
患者会は,セルフヘルプグループの一種である.セルフヘルプグループについては,機能や活動目標,課題などについて,既に一定の研究の蓄積がある.
患者会の重要な活動目標の一つとして,情報の共有を挙げることができる.共有される情報は,日常生活における知恵や工夫・ケアの方法,就学・就労に関わるもの,制度の利用の仕方まで,分野としても多岐にわたる.中でも,患者会は疾患を共通項とする団体であるだけに,医学的情報は,重要な情報の一つである.心身の自己管理の術,適切な治療法やそれを提供している医療機関名など,個人で受診しているのみでは入手困難な情報にまでわたる.
本報告では,医療機関と患者会との間で流通する情報が,患者会活動に与える影響について考察する.とりわけ,患者会が活動目標として,医療機関との関係のあり方を定める上で,医療に関わる情報が与える影響に注目する.
【方法】
本報告では,スティーブンスジョンソン症候群を発症した人たちのセルフヘルプグループであるSJS患者会を取り上げる.スティーブンスジョンソン症候群は,重症多形滲出性紅斑として難病の一つに加えられている.発症機序は未だ不明であるが,医薬品が原因となることが多いとされている.多くの場合で角膜混濁を中心とする後遺症を残す.
このように,スティーブンスジョンソン症候群は,不明な点が多く,また,発症した人は後遺症の治療のために受診を継続しなければならない.このような状況にある人たちの組織であるSJS患者会が,医療とどのような関係を築いているかは,本報告の考察対象として適当と考える.
方法として,SJS患者会会員へのインタビュー調査,患者会会報,およびスティーブンスジョンソン症候群についての新聞記事の分析を実施した.
【結果】
患者会の活動目標は,疾患の定義の変化によって影響を受けていることが読み取れる.
【考察および結論】
共通項とするその疾患の性質によって,患者会が組織される場とも関わって医療機関との関係のあり方も問題になる.筋ジストロフィーや小児癌のように病棟内で組織されて医療機関もその活動を支援するもの,癌のように院外で組織されはするが医療と密接な繋がりをもつもの,脳性麻痺団体のように生活資源の獲得を重視して医療とは距離をとるもの,薬害団体のように被害性を打ち出して医療を攻撃するもの,などがある.
近年では,医療機関も患者会の活動に意義を認め,患者のQOLを高めるとともに医療行為を十全なものにするための重要な資本と位置づけているといえるだろう.患者会もまた,会員の一人ひとりが必要な情報得て,適切な治療とケアを受け,あるいは拒否するためにも,医療機関を重要な資本と位置づけている.ここには,両者に一定の依存関係が見てとれる.その一方で,患者会は,医療に対して好意的な態度をとるばかりではなく,社会問題として批判,さらには告発を行なうこともある.後遺症があって,その治療やケアのために医療を必要としている場合は,批判をしながらも関係を継続するという葛藤に満ちた状況を生むことになる.ここに疾患の定義が大きく影響しているのである.
*作成:植村 要