① 研究の目的
2000年から施行されている介護保険法は一般に,「介護の社会化」として捉えられている.また2006年には障害者自立支援法も制定され,高齢者・障害者を問わず「施設から在宅へ」と,近年日本の医療・福祉にかかわる政策的指針は確立してきているといえよう.たしかに病院や施設に入院(入所)している人々からは「早く家に帰りたい」といった希望が多く聞かれることから,この方針はこの点において評価できると考える.しかし一方で「社会化」とは何か,といった問いを含めてここにはさまざまな問題も浮上してきているといえよう.本報告の目的はこれらの中に含まれる多くの問題群のうち,とりわけ「家族の位置/中立性」について考察する.
日本救急医学会は2007年,「日本救急医学会の終末期医療に関するガイドライン(指針)」を提示したが,ここでは本人,家族,医療専門家集団の順にその意思決定を優先するとある.終末期の定義などについては別稿にゆずるとし,こういったことを鑑みても,「意思決定に関わる『家族』」という「位置」を充分に考察することはとても重要である.すなわち無条件にそれが良いものである,あるいは妥当性がある,という前提を置くことには危うさがあることを本報告では提示したい.
② 対象と方法
「家族のいない」単身者であるALS療養者が「在宅移行」した事例,その他の事例分析と,文献による考察を行う.
③ 結果と考察
「急性期」を越えた患者(療養者)はいわゆる「慢性期」となり,医学的には「入院加療」の必要性がなくなる.そういった場合は速やかに「在宅移行」となるのが普通の流れではある.しかし「難病」や「高齢者」の場合はそれが困難となる場合がある.その「困難」の理由は経済的問題他それぞれにさまざま輻輳していることが多いが,特に「家族の介護力」というタームに集約されることがある.看護系の専門書などにもこの「みきわめ」の重要性が言われているが,「家族」はそういった意味でも「運命共同体」あるいは「積極的担い手」というような位置取りを「せざるを得ない」状況下に置かれる.ここで重要なのはすなわち,一方では「家族」が「中立」的立場で「客観的に」判断することが期待され,また一方では「積極的介入」も期待されることと,さらには,「家族」は「患者(療養者)本人に『成り代わり』判断し」また実際に「患者(療養者)本人が望むように介護する」ことが期待されるという,この複雑な「距離/位置取り」をどれもバランスよく,連続的に適宜取捨選択し,さらにそれを実行するという「困難」を与えている,ということであり,それに委ねることを第一義的に考えていては,望む「生」を享受できない状況下に陥ってしまう危うさがあるだろう.