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伊藤 修毅

いとう なおき


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last update:20210212


■著書


■論文

◆伊藤修毅,2011,「障害者自立支援法における就労継続支援事業(A型)事業所調査結果報告」立命館大学産業社会学部 峰島研究室.
p. 1
【はじめに】この調査報告は、2010年6月に行った「就労継続支援事業(A型)事業所アンケート」の結果をまとめたものである。障害者自立支援法によって創設された就労継続支援A型(雇用型)は、障害福祉サービスであり、かつ労働法による雇用契約を締結することを原則としている。したがって、例えば最低賃金を保障しなければならず、多くの障害福祉サービス事業者にとって、。手をつけにくい事業となっている。一方で、障害者の働く場の拡大、あるいは、従来の授産施設等では保障しきれなかった労働者性を確保する場として、積極的な位置づけをすることも可能であり、参入する事業所も増えている。しかし、就労継続支援事業A型事業の現状や課題は、実証的に明らかにされていない。

p. 3
【調査方法】WAM NET登録時(4月)と調査時(6月)というわずか2か月の間に、少なくとも9事業所がA型事業を廃止・休止している。ここにA型事業の困難性を見ることもできる。

p. 5
【地域別A型事業所数】2010年の時点ですでに、都道府県によって設置数に大幅なバラツキが存在する。北海道と熊本は、極端に事業所数が多く、すでに40事業所を超えている。東京、福井、愛知、岡山、福岡が20事業所を超えており、比較的事業所の多い県と言える。【A型事業所を運営する法人種別】社会福祉法人51.8%、NPO法人28.3%、株式会社12.8%。【法人の常用労働者数に基づく規模】30人未満の零細企業が約半数である。

p. 7
【事業開始時の状況】A型事業所の前身である福祉工場から移行した事業所は2割に満たない。障害者自立支援法以降に、新規に開始した事業所が、すでに過半数に達している。障害のない人が一緒に働いている事業所はごくわずかである。

p. 8
【事業内容】食品関係87件、委託・サービス(清掃・クリーニング・ポスティング)85件を行っている事業所が多い。農園芸36件、簡易作業・軽作業30件

p. 9
【2009年度決算における売上高】売上が3000万円に満たない事業所が過半数である(N=145)。一方で、1億円以上の売上がある事業所も15%を超える。2007年に行われた福祉工場の調査(N=45)では、5000万円未満22.2%、1億円以上48.9%という結果が出ており、福祉工場よりもA型事業所は全体的に売上が低くなっていると言える。

p. 11
【雇用契約を結んでいる利用者の利用開始前の状況】一般就労からA型事業所に移行した人が19.5%に達する。各福祉事業からの移行者は42.8%で、A型事業が福祉的就労から一般就労への移行に大きな役割を果たしている。(?)9割以上が一般就労への移行を原則とするか、少なくともその選択肢はあっていいと考えている。就労継続支援事業=終身雇用の場を原則としている事業所は1割に満たない。

p. 12
【週あたりの平均労働時間】平均労働時間の平均は26.8時間となり、短時間労働の水準にある。仮に最低賃金が保障されたとしても、短時間労働では、通常の生活を送るだけの賃金に達することはなく、年金等の所得保障の課題も検討が必要となる。【利用者の平均時給】全利用者に最低賃金以上が保障されているのは126件(59.4%)、全利用者が最低賃金を下回っているのが37件(17.5%)である。4割以上の事業所が最低賃金減額特例を利用している。ごく少数であるが、最低賃金減額特例のの申請をせずに最低賃金を下回っているという違法なケースも見られる。

p. 13
【利用料の支払い状況】減免措置や減免事業で、約7割の事業所では利用料負担が発生しない状況になっている。逆に言えば、約3割の事業所では利用料負担が発生している。

pp. 10, 13-14
【労働条件・雇用契約等に関して】@「社会の一員として働いている」という誇りが持てる:85.3%(そう思う:50.0%)、A福祉的なケアと就労の保障が同時に確保される:90.3%(そう思う:54.8%)、(p.13) B 一般就労への移行を中長期的な目標にすることができる:65.8%(そう思う:25.6%)、C利用者の成長・発達の場になっている:92.2%(そう思う:57.8 %)、・・・知的障害者54.7%だからと予測、D旧来の授産施設・作業所との違いが認識しやすい:79.2%(そう思う:47.7%)、E福祉的な場としての安心感を感じることができる:82.6%(そう思う:39.7%)(p.14)・・・知的54.7% 2210人、精神障害が20.7% 836人、身体22.1% 891人、手帳なし2.5%102人いる(p.10)

pp. 15-16, 18-19
【利用者にとってのメリットに関して】@他の福祉事業所等の工賃よりも多額の賃金が保障できる:85.1%(そう思う:56.5%)、A障害者雇用の拡大の場として機能している:85.2%(そう思う:56.0%)(p.15) 、B 労働契約に一本化すべきである:54.6%(そう思う:27.3%)、C最低賃金が保障できない場合は公費で差額を補填すべき:60.8%(そう思う:41.9%)(p.16) 【職員・スタッフに関して】@福祉畑の職員の意識を「利益追求」に転換するのが難しい:66.8%(そう思う:24.4%)(p.18)、A事務量が膨大すぎる:88.6%(そう思う:50.0%)、B人員配置をもっと手厚くすることが必要である:87.6%(そう思う:45.2%)(p.19)

pp. 20-23
【統計的分析:賃金の決定要因】A法人規模:大規模法人による事業所が最も賃金が高かったために、この仮説が想起されたが、統計的な妥当性はない。B事業開始時の状況:仮説とは異なり、障害者自立支援法以降に新規に参入した事業所が高賃金となっている。(p.21) C売上:売上が高くなれば賃金も高くなるという明確で強い関連とは言えず、賃金決定には売上以外の要因も影響していることを示唆している。(p. 22)、D受注形態:仮説は正反対であり、官公需を受注している事業所の方が、むしろ賃金は低くなる傾向にある(p. 23)

pp. 25-28
【A型事業の新機能】@一般就労への移行:各事業所の方針は、利用者に一般就労へと移行してほしい(p. 25)あるいは少なくともその選択肢はあってよいと考える事業所が9割を超えている。就労移行は原則2年間と期限を区切った目標になる。これに対し、A型事業では、中長期目標として支援することができる。およそ3分の2の回答者が、A型事業は一般就労への移行を中長期的な目標にできると考えている。(p.26) そのような意識をもっているのは、旧福祉工場よりも新規事業所、社会福祉法人よりもNPO法人や営利法人の方が強い傾向にある。>>>特開金のことがあるから、本当は3年以内に退職してほしいと考えているはず A企業活動の推進:A型とB型では、人員配置や報酬単価等において基本的に同等となっている。すなわち、A型事業に対するサービス報酬は福祉活動を支援する者であり、企業活動を推進することへの支援は行われていないということになる。(p.27) 【B型事業とは異なる支援の必要性に言及した自由記述の回答者別構成】旧福祉工場は0、営利法人+NPO法人の回答が52.6%。企業活動推進のための支援についても、強く期待されている。(p.28) >>>でないと最低賃金が支払えないということだろう。

p. 29
【給与】何人の利用者が時給換算で何円程度の賃金(12階級)を得ているかを問うた結果、全利用者に対し最低賃金以上を支給している事業所は59.4%、一部の利用者に対して特例を利用している事業所が23.1%、利用者に対して特例を利用している事業所が17.5%(N=212) 。平均賃金はの平均は676.8円で、2009年度の最低賃金の全国加重平均713円を36円下回っている。営利法人では最低賃金を上回っている一方、社会福祉法人では最低賃金を60円も下回っている。【平均労働時間の平均の比較】旧福祉工場:34.0時間、新規事業所24.4時間、法人別:社会福祉法人:29.6時間、営利法人:24.2時間、NPO法人:24時間。平均賃金と平均労働時間と元に、月給を換算すると、77994円となる。(p.29) 従来の福祉的就労の工賃額と比較すれば格段に高額である。しかし、雇用契約に基づく労働という点では不十分さを否めない。現在の給与水準の身生計を立てることは困難であり、年金等の所得保障の問題も、併せて考える必要がある。

pp. 30-31
【一般就労への移行】旧福祉工場は、一般就労への移行に積極的ではない実態にある。新規に参入した営利法人やNPO法人は、A型への新機能を一般就労への移行に求めながらも、実態が乖離していることを示唆している。(p.30)【一人当たり売上の平均の差の比較】一人当たり売上高は、新規事業所より旧福祉工場の方が圧倒的に高い。にもかかわらず、新規事業の方が平均給与は高い。新機能を求めている事業所は、障害者の賃金保障を重視していると言える。その結果として、経営的には人件費が高くなっていることを示唆している。

p. 32
【賃金補填への意識】A形事業において、第一に求められていることは利用者に最低賃金を保障することである。しかし、多くの事業所が最低賃金減額特例を用いており、平均的な賃金水準が最低賃金を下回っている。ILOは保護雇用に関して「適切な政府による援助」を求めており、主要国の実例に照らし合わせれば、この差額に対して賃金補填を行うことが考えられる。「最低賃金が保障できない場合は、最低賃金減額申請ではなく、公費で差額を保障する制度をつくるべきである」の結果、そう思う 41.9%、ややそう思う 18.9%、あまりそう思わない 24%、そう思わない 15.2%(N=226) であった。回答者の6割強が公費による賃金補填制度を必要と考えている。しかし、自由記述では、意見が大きく分かれている。「最低賃金との差額を公費で保障する制度が必要」(NPO法人・サービス管理責任者)という意見も多かったが、「公費に頼るのではなく、『工賃支払能力』をいかに高めていくかがA型の使命」(NPO法人・理事長)、「賃金補填で社会の一員として労働しているという実感がわき、誇りを持てるかは疑問。」(社会福祉法人・生活支援員)、「最低賃金の引き上げが前提である」(社会福祉法人)、「障害基礎年金市度を見直し、社会全体のセーフティネットの構築が必要」(社会福祉法人)、「所得保障とは別に考える必要性がある」(社会福祉法人・生活支援員)




*作成:伊東香純
UP:20210212 REV:
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