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所得税の累進性強化
どんな社会を目指すか議論を
立岩 真也
2010/05/27 『朝日新聞』 私の視点
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政府と政府税制調査会は、所得税・相続税を見直し、収入・資産の多い人から税をより多く得る方向(累進性の強化)をはっきりさせてきている。今月6日には、民主党がその方向の公約原案を示した。
今まで、政策遂行のために予算はいる、しかし余裕はない、無駄を削ろう、だが限界がある、では結局消費税の引き上げか。そんな枠組みで議論がなされてきた。ようやく別のことが現実的に語られている。
税の大きな意義は、市場で多くを得た人から得られなかった人に、また、得る必要のある人に渡すことにある。そうでなければ、政府が強制して徴収する税という仕組みを取る必然性もない。その機能を果たす直接税、とくに累進的な所得税の役割がここ二十数年の間に低下した。その方が経済によい影響を与え、税収も増えるといったことが語られた。ところが、税収は減り、なすべき政策ができなくなった。昨年の所得税収は27年ぶりの低水準だった。
じつは所得税を立て直さねばならないことは、政権交代前の政府税調でも認識されていた。だが消極論もあった。増税は敵をつくるという思惑もあっただろう、政党は選挙で争わず、報道でも経費節減と消費税にもっぱら焦点が当てられてきた。ただ1987年の税率に戻すと所得税収が1・5倍になるとの試算もある。
政権が代わった昨年秋から事態は具体的に動き出した。10月に首相の諮問があり、12月に税制改正大綱が発表された。そして税制調査会の専門家委員会の顔ぶれを見ても、委員長ほか所得税の役割をより重視するべきであるという立場の人たちが多い。改革の方向は明確である。だが、異論も出されるだろう。累進性を強くすると高額所得者が働かなくなる。海外逃避が起こる。そして経済が悪くなる。根も葉もないことではないが、うのみにする必要もない。
勤労意欲の喪失という懸念には、理論的にも実証的にも根拠のある異論がある。むしろ格差が大きすぎない方が多くの人は自分の仕事にまじめに取り組むはずだ。
他方、国境を越えた逃避の可能性は考慮すべきことではある。ただ、税率をしばらく前に戻す程度のことで、税収の総額を減らすほどの国外逃避が起こることは考えられない。税制の安定は国際的な課題でもあり、既に長く逃避の規制はなされているし、国際的な協調・協力体制も十分ではないにしても存在する。
政権の選択とは、基本的にはどんな社会にするかの選択である。公正・平等の方向に行くのかそうでないか。対立軸をはっきりさせた方がわかりやすい。本当に財源が足りないなら必要なものも我慢しよう。だがそんなはずはない。この素朴だがまともな認識からこれからの社会を構想しよう。税制の改革はその重要な一部である。
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最初に新聞社に送った原稿等
◆立岩 真也・村上 慎司・橋口 昌治 20090910
『税を直す』
,青土社,350p. ISBN-10: 4791764935 ISBN-13: 978-4791764938 2310
[amazon]
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[kinokuniya]
※ t07.
UP:20100522 REV:20100529, 20100616
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