HOME > BOOK >

『元刑務官が語る刑務所』→『刑務官』(文庫版)

坂本 敏夫 19970215 三一書房,258p.


このHP経由で購入すると寄付されます

■坂本 敏夫 19970215 『元刑務官が語る刑務所』,三一書房,258p. ISBN-10:4380972038 ISBN-13:978-4380972034 [amazon][kinokuniya]→20030601 『刑務官』,新潮社,409p. ISBN-10:4101037213 ISBN-13:978-4101037219 \590+税 [amazon][kinokuniya] c0134

■内容(「BOOK」データベースより)
日本の刑務所が見えた!元幹部刑務官が初めて明らかにする死刑囚と懲役刑の実態・内部告発。

■内容(「MARC」データベースより)
著者は三代にわたる刑務官。生まれた時から約50年近くを刑務所の官舎に暮らし、刑務所を見てきた著者が、初めて明らかにする死刑囚と懲役刑の実態。その官僚主義・秘密主義を告発する。〈ソフトカバー〉

■文庫版・内容(「BOOK」データベースより)
私は一九六七年、大阪刑務所の看守になった、祖父、父に続き三代目の刑務官であった―。官舎で育ち、以来半世紀、全国の獄を回った著者だからこそ書ける、生々しい内側。死刑執行に立会い、所内殺人を目の当たりにし、ある日には脱獄者を追う。一方で受刑者の酷い処遇、服務違反を目撃。なぜ獄中での不審死が相次ぐのかにいたるまで、その闇を鋭く告発する。

■著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
坂本 敏夫
1947(昭和22)年、熊本県生れ。法政大学法学部中退。’67年、大阪刑務所管理部保安課看守を拝命。以後、神戸刑務所処遇係長、大阪刑務所処遇係長、法務大臣官房会計課主任、東京矯正管区矯正専門職、長野刑務所課長などを経て、広島拘置所総務部長。’94(平成6)年3月、退官。二条睦名義で小説も執筆(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次

文庫版発刊にあたって
はじめに
第一部 死刑
 第一章 死刑執行
 転勤/広島拘置所/死刑台/死刑執行計画書/起案用紙/刑務官の苦悩/死刑執行手当
 第二章 死刑と向き合った男たち
 死刑を逃れた男/妻も殺害、死体遺棄/長野拘置支所/長野刑務所/死刑判決を受けた男/処刑を待つ男
第二部 刑務所内の重大事件
 第一章 殺人
 同性愛のもつれから
 第二章 恐ろしい新人苛め
 入所手続き/新人訓練/作業指定/少年院仕込みの苛め/懲罰/刑務官会議
 第三章 逃走
 非常招集/所長官舎/張り込み/四十八時間経過
 第四章 来日外国人脱獄
 イランからの郵送差し入れ書籍/巡回表示装置の功罪/過去の死刑囚脱獄事件/言葉の壁――心情不安定な外国人
第三部 平成監獄事情
 第一章 日本の監獄の特質
 均一化された処遇/現在ある監獄の歴史/私が刑務官になった頃の監獄/第一次管理強化の背景
 第二章 刑務官
 採用試験/複雑な階級社会/研修制度/上命下服/行刑の救世主――沈黙の刑務所の出現(第二次管理強化)/情報管理
 第三章 受刑者処遇
 世界に誇る日本の刑務所/分類処遇――刑務所の種類/一年間に出入りする受刑者の数/圧倒的多数の再入受刑者/絶対服従――奴隷化された受刑者/刑務作業
第四部 「階級社会」のはざまで
 第一章 女子刑務所
 骨折/軽作業なんかないわよ!/受刑者による職員傷害事件/弁護士に相談/ギロチン所長
 第二章 認められなかった過労死
 思い上がった幹部たち/死への残業/長野刑務所の対応/公務外認定通知書
 第三章 ある懲戒免職
 熊本刑務所/受刑者の告発/五昼夜監禁――作り上げられた服務違反/受刑者の反則を握り潰したことから辞職を決意/服務違反――釈放者のお礼の宴席/巻き添えにされた受刑者/全国に荒れた綱紀の保持に関する指示/審査請求書を提出
第五部 名古屋刑務所刑務官暴行事件と刑務所改革
 第一章 最新刑務所事情
 二〇〇二年の矯正の回顧(法務省矯正局)/名古屋刑務所刑務官の特別公務員暴行陵虐致死事件/革手錠は危険な道具/もう一つの逮捕事件/検閲を免れた受刑者の手紙
 第二章 一石を投じた現職看守部長
 審査請求の顛末/孤高の男/国と争う/告発は事実無根だった
 第三章 刑務所改革は出来るか
 名古屋刑務所の暴行事件に関する中間報告/刑務所長/どうしようもない刑務所幹部の実態
あとがきに代えて
文庫版あとがき

■引用(文庫版より)

「一月中には所長から転勤先の施設とポストを告げられる。内命という。毎年、転勤を希望する施設名、職務の内容などを書いた身上書を提出するが、大半は希望通りに>26>にならない。この内命を断る者は、ほとんどいない。転勤命令を拒否することは、全体の秩序を乱すこととして嫌われる。理由が何であれ断った者は、相当期間冷遇される。以後の出世はあきらめなければならない場合もある。見せしめである」(pp.26-27)

「一九六七年(昭和四十二年)、私は刑務官の初任者研修で大阪拘置所に実習に行った。(中略)
 「君たちは、死刑の仕事をしなくてもいいが、大阪拘置所の職員は順番でこの仕事をする。新しい死刑台は押しボタン式になった。五つのボタンのどれが踏板を落す電動スイッチにつながっているかわからないようになっている。ハンドルを引いていた職員のことを思うと少しは負担が軽いかな……」
 刑務官になりたての十数名の研修生に向かって、研修担当の警備係長が説明してくれた」(p35)

「三年四ヵ月振りに死刑執行が再会されると、拘置所の職員の空気が微妙に変わった。
 死刑が行われた場合、直接執行の役を命じられ手を下すのは階級が下位の看守、看>39>守部長である。処遇部門の六十名余りの看守、看守部長はかなりの確率でその役を引き当てることになる。彼等は公には口にしないが、予想を立てる。まず次の者を除く。
 一 執行をしたことがある者
 ニ 定年前の者
 三 病院通いをしている者
 四 家族に病人がいる者
 五 妻が妊娠している者
 だいぶ絞られてくる。選ぶ側としては失敗は許されないので、なるべく気丈でしっかりした刑務官を選定するだろう。候補者は十数名になる。
 実際選ぶ場合は、各刑務官のプライバシーの領域にまで立ち入って一人一人について個別に検討することになる」(pp.39-40)

「死刑囚の処遇の基本は、
 「殺さず・狂わさず」
 である。死刑確定囚は、絞首刑以外には死ぬことが許されないのである。自殺防止>50>のためテレビカメラの付いた特別な独房に拘禁する。
 また、気が狂っても死刑の執行に着手出来ない。わがままいっぱいの死刑囚も多いが、彼等に手を焼きながらも、第一線の刑務官は気分を損ねないように堪え忍ぶ。下手に刺激して騒がれようものなら、上司からこっぴどく叱りつけられる。
 死刑囚監房の担当刑務官は、毎日大変なストレスの中で勤務している。人気の限界はせいぜい二年である」(pp.50-51)

「超秘密主義の下では、騙し討ちに近い処刑が実際に行われる可能性は非常に高い。そういう処刑は恐怖と憎悪に荒れ狂う死刑囚を力で捩じ伏せ、首に縄を掛けるものだと思う。刑務官の心を一層傷付けるものである。>53>
 殺人をしたような後味の悪い職務執行だろう。
 以前、ある著名な死刑廃止論者に死刑執行という刑務官の苛酷な職務について話しをしたことがあった。
 「あなたはそう言うが、死刑という仕事があるのを知っていて刑務官になったのでしょ」
 彼は言った。
 「刑務官採用試験の案内には、そういったことは書かれていません」
 私は『刑務官のしおり』を示して答えた。
 「採用面接の時には言うでしょう」
 彼の表情と物言いは、刑務官を見下しているものだった。
 「死刑廃止をおっしゃっている人は皆ヒューマンで他人の意見を聞ける人かと思っていました……」
 私は、何年か振りに激しい怒りを覚えた。頭から血が引いて顔面が蒼白になるのが分った。眩暈がした。「こういう輩にとって『死刑廃止という運動』は自己の存在を示すための道具でしかない。一見整然と死刑廃止という目的に向かって活動している市民運動にも問題はあるものだ」と思った。>54>
 刑務官のしおりや国家試験案内の書籍には次のとおり書かれている。

 刑務官の職務内容
 刑務官は、各地の刑務所、少年刑務所又は拘置所に勤務し、被収容者に対し、日常生活の指導、職業訓練指導、集会やクラブ活動、悩みごとに対する助言指導などを行うとともに、施設の保安警備の任に当たります。

 死刑場のある施設に勤める刑務官、全体の十パーセント弱の者だけが処刑の任に当たる可能性がある。彼らの多くは採用された後に死刑執行官という命令が下ることがあることを知る。
 もっとも中には人が嫌がる難しい仕事をビシッと決めて出世の足掛かりにしようと思っている刑務官がいることも否定できないが……。
 法務省という組織は、上位の意思決定機関は皆検察官が占めるようになっている。法務省には百人の検事がいる。人事も予算も全て担当課長は検察官である。
 刑務所長の人事も検察官である法務省矯正局の課長、局長が握っている。かつては刑務官の間でも比較的おおらかに死刑廃止の是非について語られた時代があった。し>55>かし、官僚体制が確立し固定化されてからは、検事総長を頂点とする検察の意向に背くような発言は事実上御法度になっている」(pp.54-56)

「死刑執行に携わった副看守長以下の一般の刑務官には、人事院規則によって特殊勤務手当(死刑執行手当)が支給される。現在の手当額は一回の死刑について五人以内に一人二万円を支給することが出来ることになっている。特殊勤務手当というのは国家公務員が従事しなければならない不快な職務、困難な職務に対して支給されるものである。解説書によると死刑執行は極めて特殊な業務で著しい心労等を伴うものとして、その支給対象業務になっていると説明されている。
 また、その日酒席を設けたり、二、三日の休暇や出張を与えて傷付いた刑務官の心を少しでも慰めようという努力も払われる。
 一方、幹部刑務官には手当も支給されない。それどころか処刑の残像に苦しめられ>56>ながら、いつもと変わらない素振りを見せて、その日も通常の勤務を続けなければならないのである。
 死刑制度の存続・廃止という問題は、刑事政策の領域のことである。刑罰を執行する刑務官が声を大にして論議することではないと言われるかもしれないが、多数の犯罪者を客観的に見られる立場にあるのも刑務官をおいて他にない」(pp.56-57)

「採用試験
 刑務官の大部分は刑務官採用試験によって採用される。国家公務員T種及びU種試験の合格者も採用しているが僅かである。また、警備隊要員という名目で武道有段者の選考採用も毎年行われている。
 刑務官採用試験は毎年一回全国五十七の都市で行われる。刑務所が試験会場になる。受験資格は年齢制限(四月一日現在、満十八歳から二十九歳までの者)だけで、試験内容>185>は高卒程度のものである。最近は就職難で志願者が多い。一九九四年(平成六年)度の競争率は男十五倍、女三十倍であった。
 第一次試験は一般教養の択一試験と作文。択一に合格した者については面接試験と体力検査等が実施される。面接試験は所長、部長等の幹部が行っている。試験は十月、合格発表は十二月である。
 本人に非行歴がなく、親兄弟近親者にも非行を犯した者はないというのが合格の条件になっている。警察照会は憲法の平等原則等から、表向きには取り止められたことになっているが、現住所を管轄する警察署にそれらの調査を依頼している。もっとも警察官の採用ほど根堀葉堀り親族のプライバシーまで立ち入るような調査を要求するものではない。追跡調査などはしないので、情報は現住所に限られる。住所が転じられていれば以前のことも親のことも分らないままの回答が来るが、「分らない」は「ない」と見なされている」(pp.185-186)

「複雑な階級社会
 刑務官には部長、課長といった役職名の他に階級がある。一九九三年(平成五年)>186>四月からは一般の刑務官にも専門官制によって役職名称が付けられ複雑な階級構造になっている。
 これらを整理すると次のようになる。
 役職名称 階級 俸給の等級
 所長 矯正監 矯正長 十一級・十級
 部長 矯正長 矯正副長 十級・九級・八級
 課長 矯正福長 看守長 八級・七級・六級
 課長補佐 看守長 六級・五級・四級
 係長 副看守長 五級・四級・三級
 首席矯正処遇官 矯正副長 看守長 八級・七級
 次席矯正処遇官 看守長 七級
 上席統括強制処遇官 看守長 七級
 統括矯正処遇官 看守長 六級・五級・四級
 主任矯正処遇官 副看守長 五級・四級・三級
 矯正処遇官 副看守長 看守部長 三級・二級
 なし(一般職員) 看守 一級
  注……ゴシック体は平成五年四月に新設されたもの
 一般の人にはよく分からない組織と階級になっているが、給料の等級とリンクされているのが階級である。階級は制服の銀線や金線あるいは階級章の星の数などで表されている。刑務官にも収容者も一目瞭然で階級を知ることになる。
 採用試験の種別によって最初に格付けされる階級も違っている。
 国家公務員T種は副看守長、いきなり金線を巻いた制服を着る。キャリアと称される刑務官たちで高等科研修を経て看守長に昇進する。
 国家公務員U種は看守部長で採用される。
 刑務官採用試験及び選考採用試験は看守である」(pp.186-188)

■書評・紹介

■言及



*作成:櫻井 悟史 
UP:20080912 REV:
「死刑執行人」  ◇身体×世界:関連書籍 1990'  ◇BOOK
TOP HOME(http://www.arsvi.com)