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「随筆随想(1)死生と関わる主題 通奏低音のように響く」
『中外日報』2021年10月1日、第4面。

大谷 いづみ 20211001.

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last update: 20211225


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 2021年の4月からこのかた、いくつかの炎上トピックについてSNSを読みあさっている。たいていは、「不快」というのでは到底足らない、荒々しい言葉と、そこに込められた負の感情が鋭利な刃物のように突きささった。「謝罪」の言葉の軽さと「いのち」の重さとの落差にとまどいながら、それでも止めなかった。

SNSの世界がどういうものか、いまもろくにわかっていないが、死生と関わるテーマがリアルタイムで語られる重要な「場」になっていると思ったからだ。

追いかけた主なトピックは、@電動車椅子のコラムニスト伊是名夏子氏のJR乗車問題、Aオリンピック・パラリンピック開会式の楽曲担当を辞任した小山田圭吾氏の過去の言動と2度の謝罪、BメンタリストDaiGo氏の生活保護受給者・ホームレス攻撃と2度の謝罪の3つである。

ダイバーシティ&インクルージョン施策とオリ・パラを目前にした「現在」の、障害当事者である伊是名氏が求めた合理的配慮へのすさまじいバッシングと、小中高時代の「障害者いじめ」を武勇伝のように語ったという過去の雑誌記事に対する小山田氏への、「二重の過去」に対するバッシングの共存を単なる棲み分けとみてよいか。

このコロナ禍で、多くの老若男女が今日の食べ物にも事欠いている。狭い家でのいさかいやDVで居場所を失い、街をさまよう少女たち・女たちがいる。その一方で、「謝罪」動画からさえ巨額の収入を得られるSNSのシステムがある。

挙げた3つのトピックには、いずれも、死生に直結する、差別や偏見、いじめ、貧困と格差社会、加害と被害という論点が共通する。それらには、罪と罰・罪と償い・罪と赦しという、私が年来考え続けてきたテーマが通奏低音のように響く。

私はまた、人の成長を理念とし、その現場に立ち会う教育研究という生業があわせもつ暴力性を想う。そこに、どうしたら絶望ではなく希望を持ち続けられるのかを考える。

突きつけられているものは何なのか、その問いは重く、深い。



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■関連ページ

「随筆随想(2)なぜ?という問い 番組が与える影響懸念」『中外日報』2021年10月8日、第4面。
「随筆随想(3)「わきまえ」の分水嶺 端的に表れる社会のひずみ」『中外日報』2021年10月15日、第4面。
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*作成:岩ア 弘泰
UP: 20211225 REV:
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