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「随筆随想(2)なぜ?という問い 番組が与える影響懸念」
『中外日報』2021年10月8日、第4面。

大谷 いづみ 20211008.

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last update: 20211225


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人生のどこかで、予想だにしなかった理不尽に直面することがある。突然の病に襲われることもあれば、事件や事故に巻き込まれることもある。その瞬間から「なぜ私が?」「なぜ私に?」という問いと向き合わねばならない。

2019年6月2日、NHKスペシャル『彼女は安楽死を選んだ』が放映された。タイトルから内容の予想はついたが、神経難病の小島ミナさんのスイスでの医師幇助自殺を、実名の二人の姉ともども、およそここまで描くとは思わなかった。迷惑をかけたっていいと説得し続けた妹のその後も気になった。

バランスを考えたのだろう。呼吸器をつけて生きることを選んだ同じ神経難病の女性とその家族も登場するが、まるで当て馬のような描写だった。番組のつくりが与える影響を、即座に懸念した。

これを視た京都在住のALS患者、林優里さんがSNS上で知り合った医師に嘱託殺人を依頼して亡くなったのは、その年の11月30日「人生会議」の日。厚労省の啓蒙ポスターがSNSで炎上していた。

Nスペ放映後、負に引きずり込まれるような感情を立て直すために、いくつかの番組を繰り返し視た。ひとつは6日後に放映されたEテレ「こころの時代――宗教・人生」の『隣人といのちの電話』だ。和歌山県三段壁白浜で長年自殺予防に取り組んできた、藤藪庸一牧師へのインタビュー番組である。

もうひとつは「事件の涙」『そこに寄り添う人がいれば〜清輝君いじめ自殺と家族』。1994年にいじめ自殺した大河内清輝君の家族のその後を描いたものだ。父祥晴さんがいじめ自殺撲滅の活動を続ける一方で、兄伸昌さんは自責の念から双極性障害を発症し、事件の13年後、自らいのちを絶つ。弟の洋典さんは「壊れてしまった家族から距離を置いて人生をリセットした」という。大河内家の誰もが「なぜ」という問いとともに「どうすればよかったのか」と自らに問い続ける25年である。

強い意思で医師幇助自殺を遂行した小島ミナさんと、執拗ないじめや自責の念から自殺に追い込まれた大河内清輝君と伸昌さんでは、「選択」の有無で異なると了解できるだろうか。「なぜ?」という問いに、メディアやSNSは、教育は、どんな「答え」を用意してしまうのだろうか。



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*作成:岩ア 弘泰
UP: 20211225 REV:
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