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「優生保護法被害者一時金支給法施行1年に関わる要請書」(新潟県知事・新潟県教育長、新潟市長、新潟市教育長あて)

優生保護法を考える新潟の会代表 藤野 豊 20200703.

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last update: 20200717


■本文


2020年7月3日
新潟県知事   花角英世様
新潟県教育長  稲荷善之様
新潟市長    中原八一様
新潟市教育長  前田秀子様
優生保護法を考える新潟の会
代表   藤野 豊
〈公印省略〉

優生保護法被害者一時金支給法施行1年に関わる
要請書

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、厳しい条件下で、県民市民の人権確立と人権社会の発展に向けて、日々ご健闘いただいていることに、敬意を表します。

さて、優生保護法被害者一時金支給法が2019年4月に施行されて1年が経過しましたが、一時金の支給は大きく広がっているとは言えませんので、本格的な救済への道筋はできてはいません。むしろ、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、優生思想が公然と姿を現しています。

そこで、下記について要請します。


1.優生保護法の取り組みの検証についてです。例え、優生保護法の取り組みが法施行当時は合法であったとしても、保健所設置自治体の長として被害者に謝罪することを求めます。謝罪が検証の第一歩ですので宜しくお願いします。併せて、第三者機関としての検証委員会を設置され、同委員会には障害者当事者や優生思想を批判的な態度で接してきた研究者を構成員にされますように求めます。

 1960年代〜1970年代に展開された「不幸な子どもの生まれない運動」に類する運動については、兵庫県の事例がよく知られています。県内の行政の取り組みについては藤野代表が独自調査を踏まえて、検証について既に研究者としての試論を明らかにしています。
 新潟県では1954年〜1958年、須川豊が衛生部長を務め、県公衆衛生協会を設立し、自ら会長に就任しています。この須川豊が後に兵庫県衛生部長となり、「不幸な子どもの産まれない運動」を立案し、推進しました。
 新潟県でも1955年(昭和30年)3月から優生保護法に基づき受胎調節普及運動を展開し、『受胎調節特別普及事業実施要領』を作成し、「逆淘汰現象が危惧される」ことも理由に「低所得者層に対する施策」を講じました。(「受胎調節特別普及事業について」、新潟県公衆衛生協会『衛生新潟』3巻1号、1957年2月、6頁)。
 また、1965年(昭和40年)頃、新潟県衛生部医務課が指導資料として『不幸な子どもの生まれない施策の推進について』を発刊していたことが判明しました。この資料は私どもの会のまゆずみただし幹事が県に情報公開請求して得た資料の中に含まれていたものです。
 『不幸な子どもの生まれない施策の推進について』には、結婚前から分娩に至るまで、不幸な子孫となると想定される子どもの早期発見と早期治療、障害者への不妊手術をすすめることに県民をあげて取り組む姿勢が打ち出されています。とくに、保健所と市町村に取り組むように求めています。
 具体的には、地域組織の結成・育成・活用、新婚学級・母親学級・婦人学級等での啓蒙(ママ)、母子保健手帳を使った医師や保育園長・幼稚園長・小学校長の下での助産婦(ママ)による保健指導等で、障害者への不妊手術の指導を徹底するべきと記載しています。
 県や各市町村が保健所ごとに取り組んだ「優生結婚」の相談や指導で、優生思想が広がったわけですので、市町村の責任は重いと考えます。新潟県衛生部医務課『母子衛生の現況』(1967年)によれば、1966年度(昭和41年度)には全県下の各保健所、各市町村が実施した「優生結婚」の個別指導を受けたのは男性139人、女性1426人に及び、特に三条保健所では男性126人、女性429人が指導を受けております。新潟東保健所では14人の女性が指導を受けています。

2.優生保護法による取り組みの記録の発掘についてです。2019年3月26日に私ども考える会は県・新潟市及び同教委に要請した以下のことについて、改めてご回答を求めます。

@県と新潟市は保健所設置自治体として、優生保護法に基づいて取り組んだことについての責任を認められるように求めます。とくに、新潟県公衆衛生協会発行の『衛生新潟』6巻2号(1960年4月)に、県君健男衛生部長(1974年より県知事)寄稿「母子衛生について」で、これに付された「行政統計」のなかで「優生手術についてもいろいろ問題もあるが真の該当者については手続きを行い実施したい」と明言しているように、県当局も強制的な不妊手術には「問題もある」と認識しつつ、「真の該当者」には実施していたことが判明しています。1959年は、優生保護法第3条(「任意」による場合)により男性12名、女性2397名が、第4条(強制による場合)により男性5名、女性4名が、第12条(遺伝性ではない精神疾患などで保護義務者の同意を得る場合)により女性2名が、それぞれ不妊手術を受けています。

A県は1955年(昭和30年)3月から優生保護法に基づき受胎調節普及運動に関する文書、『受胎調節特別普及事業実施要領』と、この要領の発信等に関わる文書、1965年(昭和40年)頃に新潟県衛生部医務課が指導資料として発行した『不幸な子どもの生まれない施策の推進について』により、具体的に取り組むために発信した文書について調査し、公表されるように求めます。

B保健所を設置している県は各保健所で、同様に新潟市は担当課と各保健所で、県所管課から発信された優生保護法に基づく受胎調節普及運動に関する文書、『受胎調節特別普及事業実施要領』と、この要領に関わる文書、1965年(昭和40年)頃に新潟県衛生部医務課が指導資料として発行した『不幸な子どもの生まれない施策の推進について』と、この指導文書を具体的に取り組むために発信した文書について調査し、公表されるよう求めます。併せて、結婚相談や結婚指導、受胎調節指導等を通じて、県民に優生思想を普及させ、障害児を生むことは不幸だという意識を形成させた優生結婚相談所の実態を解明し、公表するように求めます。

C県教育委員会と新潟市、新潟市教育委員会は、県の指導資料『不幸な子どもの生まれない施策の推進について』で指導徹底されるべき対象であった医師や保育園長・幼稚園長・小学校長、各地域の保健婦(ママ)、自治町内会長並びに区長、民生委員に対して、この資料がどの様に配布され、どの様に徹底されていたのかについて調査し、公表されるよう求めます。

D優生保護法が廃止されたのは1996年(平成8年)ですので、当時の県職員や新潟市職員が現役職員として在籍しているはずです。県と新潟市は聞き取り調査を取り組む等、調査されるように求めます。

優生保護法は今から24年前の1996年(平成8年)まで施行されていました。法施行当時の職員は今も在職しているはずです。とくに、保健所設置自治体である県と新潟市については、法施行当時の取り組み状況については、現職員の方や退職された方の中で、当時の担当職員か関係職員からの聞き取り調査を徹底されること、併せて調査結果を公表されることを求めます。記録はなくなっても記憶は残っているはずですので、宜しくお願いします。

3.優生保護法による取り組みの記録と、その扱いについてです。

(1)県と新潟市では、優生保護法による取り組みの記録の一部が2018年5月末頃に見つかりましたが、その後に見つかっているのであれば、明らかにされるように求めます。

(2)優生保護法被害者一時金支給法では、被害者につての記録が残されている方については、審査会での審査を経ずに一時金の支給を受けることができるようになっています。そこで、個人名が判明している方については、ご本人や家族の人権に配慮しながら、調査と周知に努められたものと思います。どの様に対応されたかについて、ご回答願います。対応されていない場合には早急に対応されますように求めます。

(3)県と新潟市が公表した県・新潟市及び各保健所に残された記録について、個人名などをマスキングしたうえで、優生手術を必要とした理由等が記載された書類を公開されるように求めます。

4.県と新潟市は再発防止策を明らかにされるように求めます。それは、新型コロナ禍の下で、例えば治療順番等で高齢者より「若者を先に」との論議が起こり、トリアージでの優生思想が露骨に浮上しているからです。治療薬を巡っては副作用として「催奇形性」が指摘されるに至っています。この様な情報については、今の社会が障害者にとって生きにくい状況であることもあり、「命の選別ではないか」と違和感が訴えられてもいます。そこで、命の価値に差はなく、人は個々に違う個性を持ちながら、同じ社会の構成員として別々の役割を果していることで、この社会が成り立っているとの社会観に基づく啓発活動に、力を注がれるように求める意味でもあります。

5.優生保護法被害者一時金支給法による申請年限は残り4年間です。優生保護法被害者一時金支給法について県民市民に衆知されるように取り組みを強化さるように求めます。とくに、医療機関や福祉施設等に周知し、県民市民への衆知について一定の協力を求めることを要請します。併せて、申請手続きについては被害者にとっては煩雑に感じるところがあると想定されますので、サポート体制を確立されることを求めます。

6.この項目は県に対する要請内容です。厚生労働省の公表している一時金支給法に基づく相談件数、申請件数、中央での審査会での認定件数についての資料(別紙)を見ますと、新潟県は他の都道府県と比較して人口の割に相談件数が少ないことが明らかです。その原因の一つとして、全国4番目に面積の広い新潟県の相談窓口が、新潟市内の新潟県庁だけになっていることか想定されます。県内では糸魚川市の旧西頸城郡からは新潟県庁に来るより富山県庁に行く方が近い状況、妙高市や津南町からは新潟県庁に来るより長野県庁に行く方が近い状況、湯沢町からは新潟県庁に来るより群馬県庁に行く方が近い状況が、それぞれ起点によってはあるようです。そこで、県内の相談窓口について各保健所に設置する等、複数個所に増設されることを求めます。

7.ご多忙のところ大変恐縮ですが、7月末日までに文書回答をお願いします。併せて、意見交換の機会を設定されることを求めます。

◆優生保護法を考える新潟の会幹事:青木 学(新潟市議会議員)、朝倉安都子(女のスペース・にいがた代表)、池田千賀子(新潟県議会議員)、石附幸子(新潟市議会議員)、太田信一(新潟県精神障がい者親の会)、黒岩海映(弁護士)、黒田 玲(新潟県人権・同和センター理事長)、近藤 洋雄(「同和問題」にとりくむ新潟県宗教教団連帯会議議長)、近藤正道(弁護士)、高野秀男(新潟水俣病共闘会議幹事長)、辻澤広子(弁護士)、内藤織恵(新潟市精神障害者自助グループココカラ代表)、西澤真知(ウイメンズサポートセンターにいがた代表)、野田尚道(東岸寺住職/村上市)、長谷川均(部落解放同盟新潟県連合会執行委員長)、藤野 豊(敬和学園大学教授)、牧野茂夫(連合新潟会長:日本労働組合総連合会新潟県連合会会長)、まゆずみただし(巣立っ子診療所医師/障害児を普通学校へ全国連絡会世話人)、室橋春季(新潟県人権・同和センター事務局長)、横山陽子(新潟ヘルプの会代表)*五十音順:敬称略
◆連絡先(事務局):〒951-8133 新潟市中央区川岸町2-11-4 高校会館1F 電話025-211-4740
新潟県人権・同和センター(室橋) FAX 025-211-4739 / E=MAIL hum-ngt@arsvivendi.comsea.plala.or.jp



■資料:2018年(平成30年)4月5日 新潟県知事 定例記者会見(粋)
旧優生保護法について
Q 新潟日報

旧優生保護法下で強制的な不妊手術をされていた問題なのですけれども、中央の方での救済に向けた動きがだいぶ出てきて、与党のプロジェクトチームの方から厚労省の方に調査という要請があって、さらに都道府県の方に資料の調査とか保全というような要請と言うか指示をしていると思うのですけが、それとは別に被害者の相談窓口の設置とかということを求める声も出てはいるのですけれども、調査の現状と相談窓口とかというそういうところも含めた対応方針とか現状があれば伺いたいのですが。

A 知事

(資料の)調査は、まず県庁内にあるかというのは、それは全部調査して、ない。全然隠蔽でも何でもなくて、本当にないという状態です。県医師会もやはりないということなのです。あとは、年齢上関係がありそうと言いますか、基本的にはこれは昭和30年、40年代がほとんどで、あとからは数件なので、30年、40年代ぐらいにしていた可能性のある先生にお聞きしているのですが、ほとんど優位な情報は出てこないという感じです。やった記憶はあるのだけれども、個別のことは全然分からないなというぐらいです。30年代、40年代に第一線にいた先生は、もはや70、80歳(正しくは80、90歳)になってしまっているので、なかなか有意な情報が今のところないというのが現状です。もちろんあれば保全させていただきたいと思っております。窓口(の設置)も、検討はするということですね。作る検討はしてもいいというところではあるのですが、今のところ、例えば県庁に「そういうことなのですけれども」という相談は1件も寄せられていないです。ただ、おそらくですけれども、対象となりうる人には網羅的に調査をするようになるのだと思います。今の国動きを見ていれば。それに合わせて、その時に、例えば「これはどう書くのですか」みたいな問い合わせがあり得ると思うので、窓口というのは作っていきたいと思っています。現状では、国の調査がどうなるか待ちながら、それに合わせていきたいと考えています。

Q 新潟日報

県としての現状の調査の範囲と言いますか、どんなところまで想定されているのでしょうか。

A 知事

あまりにも分からないので、もう網羅的にやるしかないのだろうと思うのです。ただ(女性の手術に関しては)男性に言う意味はないですし、年齢上も絶対違うという方もおられるわけなので、年齢・性別、あとは対象の方で網羅的にやるのでしょうね。医療機関に対しても、対象となったような方に対しても、同じようにそのようにしていくのだろうと予想していますし、それ以外の方法があるというは感じがしないです。当たりをつけられる元がほとんどないという状況です。

Q 朝日新聞

国の動きを見ながら窓口を作る検討はしてもいいかなという。

A 知事

はい。むしろすべきと言うか、きっと調査の段階で、それは調査で、書き方が分かりませんといった質問は多々あると思うのです。それは必ずしも国に行かずに県に来るということも多々あると思います。

Q 朝日新聞

窓口の役割、国の動きを見ながら来る窓口の役割というのはどういったもの。

A 知事

その(調査の)意義を説明するということはあると思います。まずは書き方みたいなものはもちろんあるのですが、書き方みたいな質問はもちろんすぐ答えられるのでしょうけれども。同時に、我々は関心がありますから意義は分かっていますが、おそらく分かっていない人も多々おられるのだと思います。一体どのような趣旨の調査なのかといった話が多々あると思うので、それに対して国の法律が間違っており、手術をされた方は全く悪くなく、おそらくはこれで分かれば、その時の進行状況ですけれども、賠償の対象になる可能性もあると思われますし、そもそも現状把握が必要ですというような、そういう調査の意義をきちんと説明するということだと思います。また医療機関には、医療機関の先生が悪いわけでもないわけなので、そういうことではなくて調査ですということを言うことになると思います。

Q NHK

東京都の方だと全ての都内の医療機関とかに照会を掛けているという話らしいのですが、新潟県の方でも同様のことをやっているということなのでしょうか。

A 知事

照会の仕方によって同様と言えるかどうかだと思いますが、東京都がどのぐらいものすごいことをやっているかどうかはともかく、新潟県はそこまで網羅的にということではなくて、それぞれ医師会にお伺いして可能性のありそうなところをピックアップしてもらえますかと言って、可能性のありそうなところを聞いてもらえますかというぐらいな感じです。そこまで網羅的にやっていない。それは事実ではあると思います。そこはやはり正直二度手間になるところもあって、今のところある意味でサンプル調査みたいな状況なのですが、国の調査(の要請)が出た時点でやることでいいのではないのかなとは思うのです。今はものすごく網羅的にやってもほぼ二度手間と言いますか、おそらく同じことをもう一回やることになると思っております。

Q 読売新聞

先ほどのご発言の中でちょっと聞き間違いだったら申し訳ないのですけれども、調査対象が男性はないというご発言があったように思うのですけれども、他県では提訴の動きとかが。

A 知事

すみません。女性の手術は女性がという意味で、男性の手術は男性と。それぞれの手術ごとに性別がということです。失礼しました。そういう意味です。


以上


■原文

優生保護法を考える新潟の会代表 藤野 豊 20200703 「優生保護法被害者一時金支給法施行1年に関わる要請書」(新潟県知事・新潟県教育長、新潟市長、新潟市教育長あて) [PDF]




*作成:岩ア 弘泰
UP: 20200717 REV:
優生保護法を考える新潟の会 藤野 豊  ◇優生 2020(日本)  ◇全文掲載
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