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相模原市障害者殺傷事件の見解

日本脳性マヒ者協会全国青い芝の会 2016/08/17

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相模原市障害者殺傷事件の見解
日本脳性マヒ者協会全国青い芝の会 会長福永年久
                     山口県周南市周陽2丁目2番55号
                     電話 0834−53−2104

 私たち全国青い芝の会は、脳性マヒ者はじめ全ての障害者を地域社会であるがままの姿で暮らしていけるように60年近く運動を展開してきています。
 出生前診断や障害者を否定する医療や、脳死、尊厳死を強く反対しています。決して現社会がいいとは思いませんが、障害者が地域社会で、健全者と共により良い社会を作っていける相互理解の関係を作り上げていくことに尽力してきました。
 2016年7月26日未明に神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた障害者殺傷事件によりお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りし、負傷された方々に心よりお見舞いを申し上げます。また、同施設に現在もなお入居中の皆さんが心に負われた傷を想像すると、つらくて冷静ではいられないのです。
 日本は優生保護法により、障害児を産まない政策を続けていました。今もなお、出生児前検診や、障害児と健全児を分けた学級・学校など多様性を認めてない社会なのです。要するにこの事件はそのような社会が生んだ事件ではないでしょうか。

 私達は、容疑者を弁護することはしません。しかし言えることはこの事件は容疑者個人の問題ではないということです。人間に隠されている優生思想の問題であり、障害者を殺す側になることを確認した事件でした。時代錯誤と言える障害者支援学校・支援学級、又もろもろの障害児・者収容施設等によって分離隔離し、共に学び生活する場を奪ってきている地域社会があり、そしてそれらを組み込み支える文部科学省や厚生労働省による国家体制があります。この地域社会と国の障害者に対しての分離隔離収容政策に根強く残っている優生思想こそが、この度の事件の誘発要因なのです。
 この4月1日から「障害者差別解消法」が実施されてきていますが、この度の事件を通してあらためて地域社会を見つめ直す時、障害者への制約は増々強化され、決して生きやすい世の中へと向かってはいないこと、そしてこの流れは障害者にとどまらず全ての人におよぶ事が考えられるのです。
 私たちはこのような事件を二度と繰り返さないためにもこの「障害者差別解消法」を生かしながら、障害児・者と健全児・者とが共に学び、共に生活するインクルーシブ教育による相互理解を生み出し、障害者が正々堂々と生きていくことができ、互いに尊重し合える社会の創造に尽力することを決意し、全国青い芝の会の見解とします。そして最後に次の2点を全ての人たちに提起をし、新たな展開をもとめるものです。

(1) 施設からの完全な地域移行計画と地域生活支援の飛躍的拡充を
 今回の事件の背景に、とりわけ重度の知的障害のある人、重複障害のある人、高齢の障害のある人の地域移行が遅々として進んでいない状況があります。
 事件に遭われた施設の管理体制を直接批判するものではありませんが、今後の在り方として入所施設ではなく、地域での生活を基本に進めていくべきです。
 国も「施設からの地域移行」を掲げて10年余りが経ちますが、今回の事態をきちんと受け止めて抜本的な地域移行策を打ち出すべきです。施設や病院に誰も取り残されることなく完全な地域移行が可能となるような計画と、どんな重度の障害があっても地域で暮らせるように重度訪問介護などの地域生活支援を飛躍的に拡充して下さい。
(2)「殺されてよい命、死んでよかったというような命はない」との毅然としたメッセ―ジを社会全体で
 多くの障害者、関係者は今回の事件に強い衝撃と怒り、悲しみと恐れを抱いています。私たち全国青い芝の会は優生思想を絶対認めません。「殺されてよい命、死んで良かったという命はない」といったメッセージを社会全体で共有していくことが求められています。優生思想というと、戦前のナチス時代にあった過去のことと受け止められがちです。しかし、日本では「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止することを目的に掲げる優生保護法※が1996年まで続きました。障害者や関係者の粘り強い運動でようやく廃止されましたが、優生保護法下で行われた不妊手術などの被害者に対する謝罪や補償は、いまだになされていません。
 過去を反省し、「優生思想は認めない」とのメッセージを託し、政府は優生保護法の被害者に対する謝罪・補償を早急に行うべきです。
 なすべきは、措置入院制度の在り方検討会の立ち上げではなく、まず優生保護法の被害者への謝罪を行い、検証・保証の検討会の立ち上げを行うことであります。
以上
                       2016年8月17日

※ 1948年に、優生保護法と言う名称で施行されたこの法律は、1940年国民優生法に沿革に有するもので国民優生法と同様優生学的な色彩が強い法律であり、不良な子孫の出生の抑制を目的とし、母体の保護はそのための手段という位置づけがなされています。


UP:20160818 REV:
青い芝の会  ◇7.26障害者殺傷事件  ◇全文掲載
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