HOME > 全文掲載 > 安楽死・尊厳死 2012 >

「尊厳死法制化に対する反対意見書」

 TILベンチレーターネットワーク 呼ネット 代表 小田 政利 20120406

last update:20120712

尊厳死法制化を考える議員連盟
会長 増子輝彦 様

2012年4月6日
TILベンチレーターネットワーク 呼ネット
代表 小田 政利
東京都自立生活センター協議会内
〒190-0022 東京都立川市錦町3-1-29 サンハイム立川1F
TEL042-540-1844 FAX042-540-1845

尊厳死法制化に対する反対意見書



 私たちTILベンチレーターネットワーク 呼ネットは、人工呼吸器使用者やその家族、支援者同士による情報交換や交流などを通し、人工呼吸器を使用しながらも地域で暮らしていけるよう支援している人工呼吸器ユーザー当事者による団体です。今回の貴議員連盟で検討されている法律案について、私たち自身の存在意義をも根底から否定される可能性を強く危惧しております。

1.終末期において延命を希望するかどうかについて、本人の本当の意思を事前に確認することは不可能である ―「リビングウィル」を否定する

 この法案では、「延命措置の不開始を希望する旨の意思を書面その他厚生労働省令で定める方法により表示している場合」とありますが、健康で健常な状態のときには、通常、人は「終末期の自分」を想像することはできません。私たちは、人工呼吸器をつけ、時には経管栄養を使い、場合によっては瞬きひとつでコミュニケーションをとりながら生活を送っていますが、そのような生活は、健康で健常な人には、「単なる生存の延長」にしか見えないかもしれません。「そこまでして生きていきたくはない」と思い、そういうような延命措置に対し拒否の意思表示をする人がほとんどだという事は、容易に想像できることです。

2.誰もが「死んだ方が良い」と思わない社会を目指す!

医療技術と社会保障の発展により、人々の価値観はいかようにでも変貌します。
生まれた直後に死にたいと思う人がいないように、生きる事を望む事が人間の本質です。
同時に、突然の事故や障害の進行により、それまで必要としていなかった医療的ケアを受けなければ生命維持が困難になった時、誰もが自分自身の存在に対し否定的になり、「死んだ方が良かった」「なんでこんな措置を施してくれたのだ」という気持ちしか抱けない期間があるのも事実です。しかし、そう感じるのは新たな障害に愕然とし、その受容に時間がかかるからであり、「死にたい」というのが本心であるわけではありません。また、家族等へかける介護の負担、経済的負担、社会の中における自分の役割や位置に対する喪失感、将来に向けた生活維持の見通しのなさ、などなど、社会環境の不備が、医療的ケアを必要とする私たちの「生」に対する想いをそぎ落としていることは憤然たる事実です。
それでも、「死んだ方が良かった」と思いながらも命を繋ぎ止めた者たちは、自分に残された環境の中から、自分の存在意義や生きる目的、生きがいを自ら発掘して、手に入れていくのです。これは、人が生まれながらにして持っている本質です。いざ死に直面した際に、ともすれば「単なる延命」にしか見えない処置を受けながら生きていくことを想像し、選択・決断するためには、多くの時間と膨大な情報が必要になります。多くの迷いに寄り添いながらも、その「人としての本質」を信じ、最後までサポートするのが社会の義務であり、責任ではありませんか?

3.人の「いのち」の在り方を法律化することに反対する

 法律と言うのは、客観的に全ての国民が納得するための基準です。「医師が医療的措置をどう施すか」には一定の基準があったとしても、「個人が生きること・死ぬことをどう決めていくか」に客観的な基準を作ることは間違っています。迷い方、生き方と同様に、「死」もその個別性を尊重することこそが「尊厳」です。「生きるか死ぬか」を選択する機会を与えるのではなく、「どうしたら最後まで尊厳のある生を貫けるか」を支える仕組みが必要なだけです。

 このような「医師を守るためだけの法律」を、「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律」などとすり替えないでいただきたい。
以上の点について強く意見を表明し、この法制化に反対します。

 以上

*作成:櫻井 悟史
UP: 20120712 REV:
全文掲載  ◇安楽死・尊厳死 euthanasia / death with dignity 2012 
TOP HOME (http://www.arsvi.com)