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パフォーミングアーツを通じた「場」の生成

<めくるめく紙芝居>という試み

渡邉 あい子(会員番号 2413) 200806**
第22回日本地域福祉学会大会 於:同志社大学

last update: 20151225

◆要旨
◆報告原稿


□1.研究目的
 障害をもつ人も「地域で暮らす」という言葉はずいぶん定着したが、「地域」で暮らす知的障害を持つ人々の多くは通所施設や仕事場と家の往復の日常で、福祉関係者以外の人と、所属する以外の場所で交流を持つことはまだまだ少ないと言える。施設における余暇支援も期待される一方、日常の関係性が余暇にも持ち込まれてしまうためリフレッシュしないというような課題も多くある。他方で近年、障害を持つ人を(も)対象にした、また当事者が主体となったパフォーミングアーツ活動が盛んになってきている。余暇活動・文化活動は個人的なものとして例えばスポーツ・音楽・美術のように分類されてきたが、現在ではボーダレスな企画も増え、単発で何かをするだけではなく舞台発表も行うことを前提としていたり、内容も共同で作り上げていくワークショップ方式が多くなってきている。とくに、今年で5期を迎えるエイブルアート・オンステージ(1)の支援プロジェクトがあり、パフォーミングアーツ活動の潮流をつくってきた。本報告では、このような流れを再確認し、その一例として、自身がかかわっている「めくるめく紙芝居」(通称MEK)(2)のありかたを報告する。さらに、このような活動を円滑にするには地域福祉として何をすべきかを提案する。

□2.対象と方法
 おもに1995年以降から現在において、各地で行われているパフォーミングアーツ活動を記録し、年表にした。昨年、今年に舞台公演を行った団体に動機、対象、目的等インタビューをし、また自身がかかわっている「めくるめく紙芝居」発足から舞台発表、継続、マネジメントの経緯をまとめ、考察を行った。

□3.内容
 2000年からエイブルアート近畿プロジェクトがスタートし、まちを舞台にした芸術表現が始まっている。2002年には「こわれものの祭典」が、2003年にはエイブルアート・オンステージの前身となる舞台人養成講座が、翌年からはオンステージ1期がスタートする。ワークショップという言葉が定着し始めたのも同時期である。また近年になるほどダンスのワークショップが増えている。「障害のある人・ない人の境界線を、作品制作および公演を通じて、いかに越えられるかという試み」をもっているプロジェクトもあれば、プロのアーティストに知的障害をもった人と関わった経験があり、またやってみたいという声が両者から上がったというものなど、動機はさまざまであった。直面した問題として、募集の情報が障害を持つ人にまで伝わりにくいこと、知っても踏み出すサポートがなければ参加できない人もいるということがある。また継続的な開催をし、参加者の負担を限りなく少なくするには運営費がかかり、メセナに申請する必要もある。

□4.結論
 どの団体も動機は違うものの、共に居る時間を楽しむ、そこからなにか生み出したいという点で共通している。その地域における、肩書きや「施設」「家族」「仕事」などの所属を超え、ともに居られる「場」の提供、表現をする、(しないということも含め)せずにはいられない人として、文化を享受し発信することの保障をパフォーミングアーツの団体は行っていると言える。これらの活動が円滑に行われるには地域の福祉関係者の情報伝達、参加するまでのサポート、活動場所にアクセスするサポート、助成の種類を増やす、活動場所、公演場所などの協力が必要であると考える。

(1)エイブルアート・ジャパンによる障害のある人を含む多様な人たちとつくる新しい舞台芸術の取り組み
(2)「めくるめく紙芝居」は、障害のある人とない人、プロのアーティストが、一緒に絵・ダンス・音楽を取り入れた紙芝居の舞台作品をつくるプロジェクトです。2006年10月から、京都市山科区でワークショップを重ねて作品をつくってきました。また、障害のある人もない人も、より「障害」なく楽しめる舞台環境づくりについて、提案・実践しています。


UP:20080424 REV:
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