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<精神医療をよくするための合同記者会見>  2000年9月1日





「1)大阪精神医療人権センター(山本深雪)東京精神医療人権センター(小林信子)の声明文「なぜ精神科は医者や看護者数が他の診療科よりも少ないことが認められるのでしょうか」
第三回「精神病床の設備構造等の基準に関する専門委員会」での検討メモとその議論過程に危機感を抱き、次回に向けての差別のない精神科医療実現のための議論を強く要請いたします。専門委員会での議論は、精神科職員の配置基準を医者48:1・看護4:1という他科より一段と低い基準を容認する方向のようです。
 昭和33年に制定された医療法精神科特例は、他科と比べて医者は1/3 ・看護は2/3でよいとされてきました。これは当時の精神病院建設ラッシュと密接に関わった規則であり、今日では時代錯誤で廃止すべきものです。しかし先の議論は、医師数はそのまま看護も4/1 としただけの他科と格差のある人員配置を提示しています。今日、心の時代といわれ、多くの自殺者を出している社会で、精精神科医療がやっと社会的認知を受けつつあるこの時期、国は今後もスタッフの数の少ない貧しい精神医療を行おうというのです。
 実は、精神科には、他科とは異なったニーズがあります。制度として強制入院があり、インフォームドコンセントに時間がかかったりと、実際は他科に比べてより厚い人員を必要としています。スタッフの質と量こそが治療手段なのです。
 なぜ精神科は他科より少ないスタッフ配置基準を今後も存続させていくのか、メモ作成を主導してきた厚生省は合理的説明をすべきです。
 ともかく、今回の改正で法律に盛り込むべきことは、まず医者・看護の他科と同等のスタッフ配置(16:1・3:1)です。また、施行規則には病室の構造設備に関して「・・・外部への危害防止のために、遮断その他必要な手段を講じる」という条文が存在します。危害防止とは具体的に何なのか、精神病院の鉄格子や鉄の扉が、精神病者自身をおびえさせ、彼らへの予断や偏見を社会にどれだけ与えてきたことか。それが今日でも地域での社会復帰施設建設の反対運動が起こる理由の一つでしょう。今回のメモではただ「用語の不適切な使用があり・・」で終り、言い換えでしのごうとしていますが、言葉の問題では済まされません。専門委員は精神病者に対する今までの国の差別や偏見に基づく施策を撤回させ、それを法律の中で、具現化するという作業をぜひ行ってもらいたい。
 私達は第二回専門委員会に参考人として招聘され、今まで述べてきた特例や差別的記述で精神科や精神病者への偏見を助長するので、条文を撤廃するよう揃って主張してきました。しかし、それはメモ作成や議論ではほとんど無視され、何のために意見を述べたのか納得いきません。次回の委員会では、ぜひ現状容認ではない、21世紀に向けた差別のない精神医療の実現への理念をもった議論を繰り広げていただくことを強く要請いたします。

2)精神医療サバイバー&保健福祉コンシューマーである広田和子の声明文
「精神科特例の廃止は国民的課題」
 鍵と鉄格子に象徴される閉ざされた時代遅れの精神医療機関から地域社会へ生還できた人を精神医療サバイヴァー(生還者)といいます。
 私は8月7日「精神病床の設備構造等の基準に関する専門委員会」の参考人として、先に意見を述べられた2人の参考人同様、精神科は他科に比べて医者は1/3 ・看護者は2/3 でいいと定めた精神科特例を廃止すべきだという意見を述べました。
 しかし、8月21日に行われた次の委員会での議論を傍聴していて、精神科特例が残ってしまうのではないかという危機感を持ちました。
 今迄に精神科医療を利用してことで、多くの仲間たちが「心的外傷」を受け「治療を拒否している」という現実や精神医療での辛い体験が家族関係をも不幸にしているという現実を直視すべきです。
こうした遅れている精神医療を存続させている大きな原因のひとつが精神科特例だと思います。精神科特例を40年間も放置してきた厚生省の責任は大きく、ライ予防法や薬剤エイズのように障害者や国民に謝罪して抜本的改革を図るほど大きな精神科医療の基本問題です。
 多くの精神病院に今も装備してある鍵や鉄格子は、医師や看護職等のマンパワーの少なさを補うものとして存在してきました。
 その鍵と鉄格子は中にいる患者の人権を侵害しただけでなく、精神病患者に対する国民の偏見や差別を生み続けています。
 多発している中高年の自殺等“心の病”や“精神の病”の問題が世間で重要視されている今日、精神科医療の改善は国民的課題です。
 もしこのまま専門委員会として精神科特例を残すという結論をだせば、我が国が21世紀という時代からも 、世界の先進国の流れからも取り残され、国民は問題だらけの医療に身をゆだねざるを得なくなります。
 暗くて遅れた精神医療から、“誰もが安心して利用できる明るい精神医療”にするための現実策を次回の委員会で論議されることをサバイバーの私は強く望んでいます。

3)公衆衛生審議会精神保健福祉部会・精神病床の設備構造等の基準に関する専門委員会の委員である、池原毅和(全国精神病者家族会連合会)・伊藤寛哲(全国自治体病院協議会)・岡谷恵子(日本看護協会)・金子晃一(日本総合病院精神医学会)・末安民生(日本精神科看護技術協会)
「時代にふさわしい精神科医療を実現するために―第4次医療法改正に剥けて」とする声明文。
○精神病床における人員配置について
 精神科の入院医療については、他の診療科よりも医師や看護婦の配置が少なくてもよいとする、いわゆる「精神科特例」があり、その人員配置基準は、内科や外科などの他診療科に比べて医師約1/3、看護婦約2/3と低く抑えられている。これは精神病院が精神障害者の収容を主たる役割としていた時代の負の遺産であり、精神障害者に対する偏見を助長する一因ともなっている。
 今や、精神障害者の早期治療とリハビリテーションが期待される時代である。この障害者差別ともいうべき、旧態依然たる基準は早急に改善されるべきである。
 しかし、精神科医療の専門職、特に医師は残念ながら不足しており、現時点で全面的に特例を廃止することは困難である。他診療科の入院病床並みの医師配置基準にしようとすると、36万床ある精神病床を1/3にするか、精神科医師数を3倍にする必要がある
からである。
 そこでやむを得ず、まずは、手厚い治療を必要とすべき一部の精神病床において、医師や看護婦の配置を濃密にしていく施策をとる必要がある。
 現状の診療報酬制度でも、精神科急性期治療病棟や精神療養病棟などが定められ、精神病棟の機能による区分が少しずつ進んでいる実態がある。そして一部関係者からは「機能区分は診療報酬制度で行えば十分だ」 との意見もある。しかし、強制入院制度などを含み、利用者が良質な病院を選択する機会の少ない精神科医療の現状では、経済的な誘導のみで人員配置基準等を決めることは望ましくない。どこに手厚い人員配置が必要であるか、法体系のなかに位置付ける必要があると考える。
○手厚い治療を必要とする精神病床
 医師や看護婦が手厚く配置されなければならない精神病床は、次ぎにあげた機能を有する病院とするのが適当である。
@ 急性期治療病棟入院料を算定している病棟
 これらの病棟では、短期集中治療を必要とする救急急性期患者の治療を行っている。
A措置入院・応急入院・精神保健福祉法34条移送による医療保護入院の患者が入院する病  棟
 行政的に強制入院となった患者が治療される病棟であり、高水準の医療を保障する必要がある。
B児童・思春期専門の病棟
 精神的発達段階に応じて教育的な配慮も含めた複雑な治療システムが必要であり、医師・看護婦等の十分な配置が必須である。
C覚醒剤等の薬物依存患者のための専門病棟
 薬物による精神運動興奮など激しい急性精神病状態患者が多く、手厚い人員配置が必要になっている。
D一般病院精神科病棟
 重症な身体疾患を合併する患者の治療には身体病治療と精神病治療の双方が必要で、手厚い人員配置で医療が行われているのが実情である。この病棟を有する病院は旧医療法上の総合病院の総合診療を行う機能を備えているべきである。
○手厚い治療を必要とする精神病棟の条件
 精神科医療においては、「人手こそが治療の道具」である。手厚い治療が必要とされる精神科病棟では、医師や看護婦を内科や外科の病棟と同じ基準で配置すべきである。
 精神科医療における隔離や拘束が問題になっているが、できるだけそれを回避し、万全な診察や看護によって最小限とし、また早期に解除しなければならない。そのためには、医師や看護婦等を十分配置する必要がある。
 したがって、「医師は入院患16人に対して1人・看護婦は2人に対して1人」が必要である。またそれ以外の精神病床において看護婦の配置基準は入院患者3人に1人とすることが必要である。そして医師の算定は、その病棟での医療の質を担保するため、看護
婦と同様に病院全体ではなく、病棟毎に行う必要があるのではないか。
 また「チーム医療」の観点から、医師や看護婦以外の専門職(精神保健福祉士・作業療法士、等)の配置についても検討する必要がある。
 なお、精神障害者の社会参加を勧めるために、外来医療の充実も大切であり、医師数や看護婦数算定基準は内科などの他診療科と同等にすべきである。
○病床面積について
 精神科医療では、その治療効果を十分にあげるために、特に療養環境の整備が重要である。一般病床と同等に1人当たりの居室面積を6,4平米とすべきである。
○精神病床の規定について
 現行の医療法施行規則第16条第1項第6号には「精神病室・感染症病室及び結核病室には、病院又は診療所の他の部分及び外部に対して危害防止又は感染予防のために遮断その他必要な方法を講ずること」とあるが、これは任意入院を原則とする開放的精神科医療の推進の妨げになる規定であり、精神障害者に対する偏見を助長する要因でもある。直ちに削除すべきである。
 また、医療法施行規則第10条第3項には「精神病患者又は感染症患者をそれぞれ精神病室又は感染症病室でない病室に収容しないこと」とあるが、精神障害者の身体合併症治療の機会を奪うことにもなり、身体合併疾患の早期理療を阻害する。この規定の見直しも必要である。
 第二回専門委員会で3人の参考人全員が、この二つの規定を廃止すべきであると意見を述べたところである。
○医療計画について
 精神病床は現時点で約36万床あり、精神疾患の受療率は全ての疾患の中で第二位という多さである。それにもかかわらず、精神病床の医療計画は、精神病床より明らかに少ない感染症病床(約9万床)や結核病床(約3万床)と同様に、都道府県単位で医療計画が立てられている。速やかに2次医療圏単位の地域医療計画を立てられるようすべきであるが、精神病床の偏在という現状を考えて、当分の間は現行の「精神科救急ブロック」などを精神科医療圏として、地域医療計画を策定すべきである。
 今回の医療法改正では、時代に相応しい精神科医療を実現するための、具体的な施策が検討されるべきである。公衆衛生審議会精神保健福祉部会への専門委員会報告書をまとめるに当たって、上記のような考え方にそって十分に審議を尽くすべきであると考
える。」


(金子晃一(2001)「第四次医療法科医政と今後の課題」『精神神経学雑誌』〔103(11)pp907−910〕 より引用)

*作成:仲 アサヨ
UP:20090612 REV:1216, 20100114
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