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「十全会糾弾闘争の経過」

『精神医療』第2次Vol.4 No.2[通巻16]:32-39


■榎本 貴志雄* 19750129 「十全会糾弾闘争の経過」,『精神医療』第2次Vol.4 No.2[通巻16]:32-39(特集:裁判闘争/行政闘争)
 *社会福祉問題研究会−京都
 ※その社会的・歴史的意義に鑑み、以下、全文を収録させていただいています。


 患者総数が2千名をこえる超マンモス精神病院――京都・十全会(赤木孝理事長)の東山高原サナトリウム、双岡病院、ならびにピネル病院が、社会的な関心の的になっている。
 この十全会における患者虐待を初めて取上げたのは、京都府患者同盟で、昭和42年6月、患者を掃除、給食、おむつ交換、院長宅の雑役などに使っていることにたいし、抗議活動を展開した。
 ついで昭和44年11月、京都の障害者や福祉関係者の組織している社会福祉問題研究会(略称・社問研)に、ピネル病院の退職者から恐るべき医療の実態が伝えられ、きびすを接して、家族や患者の訴えも持ちこまれてきた。
 ○両手両足をしばりつけられて、CP 50ミリとヒベルナ25ミリを毎日3回ずつ注射され、6日目に死んだ。
 ○同様な処置をされて、3日目に昏睡状態におちいり、5日目に死んだ。
 ○無断外出したといって、電気ショックを施行され、まもなく死んだ。
 ○何回も電気ショックを施行され、「かなわん」といっていた夜、自殺した。
 ○昨日まで元気であった人が、今日は死んでいるといった例がしばしばある。
 ○死亡は日常茶飯事で、死ぬ前から葬儀屋が来て、待っている。
 ○看護婦と争ったら、深夜に自動車で運びだされ、路上にほうりだされた。
 ○400人の患者にたいして医師は2人。入院以来1ヵ月たっても医師の顔を見ない。医師の診察は鉄格子ごしだ。
 ○患者430人にたいして看護婦は41名で、うち10名は4時間勤務のパートである。
 ○食慾のおう盛な患者にも点滴注射をする。
 ○作業せぬといって注射、逃げかけたといって電気ショック、口答えしたといってしばりつけにあう。
 ○しばしば褥創ができる。
 ○脳波、心電図、レントゲン検査のノルマがきめられており、順番に施行される。
 ○123帖の広間に90人がつめこまれる。運動の場がない。中庭も使えない。夏の室温は34度、冬の室温は5度だ。
 ○患者は洗たく、投薬、給食、おむつ交換、掃除、医師宅の雑役などをさせられ、賃金は8時間労働で24円にすぎない。
 ○看護助手の83%は退院患者で、その賃金は1日280円にすぎない。そこで口答えでもすると、ただちに再入院させられる。
 ○パートの看護婦の賃金は、4時間までは 340円で、4時間以上は125円にさがる。
 このような訴えを、社問研はただちに府衛生部に申入れ、同年12月、職員不足、回復者の雇用、作業療法、超過入院、無許可製薬、医師の指示によらない検査などにかんして、衛生部の勧告が出された。しかし、十全会の医療の本質は改善されない。
 このなかで昭和45年4月に、精神障害者家族あけぼの会が結成され、社問研とともに十全会の件を府会に訴え、同年7月の府会本会議で三上隆議員(社会党)が質問にたち、灘井五郎議<0032<員(共産党)らの努力で、厚生労働委員会が4回も開かれ、同年10月、精神医療の充実向上、作業療法の改善、職員の確保、患者の人権擁護などにかんする府会勧告が、全会派一致で決議された。しかし、府衛生部は勧告にもとづく調査すら実施せず医事の内容にメスは入らならなかった。(⇒入らなかった。)
 そこで、末川博立命大名誉総長、住谷悦治同志大総長、三浦百重京大名誉教授ら、学界、宗教界、法曹界、社会福祉界の代表的メンバーが発起人となって、十全会を告発する会が結成され、同年12月、しばりつけや薬づけによって傷害や死亡を招いた3例について、十全会の酒井泰一、池田輝彦、ならびに国吉政一医師を、京都地方検察庁に告発するにいたった。
 この告発にたいして、検事側の当初の熱意はしだいに尻すぼみになり、いったん専門医の鑑定を依頼しながら、告発者と同じ大学であったためか遠慮されると、これにかわる専門医の鑑定も求めず、証拠不十分という理由で不起訴にしてしまった。
 そこで告発する会が、検察委員会に提訴することを検討していたさなかに、十全会が名誉き損で告訴してきた。告発する会は、十全会の実態を明らかにする絶好の機会としてこの告訴をうけとめ、目下法廷闘争が進行中である。
 しかし、時がたつにつれて、当初に十全会糾弾を強調していた人たちが姿を消してゆき、糾弾闘争の下火になることが心配されていた。そのとき、日本精神神経学会精神医療問題委員会(略称・学会委員会)が十全会の実態調査の結果を報告し、これを朝日新聞が全国的に報道、ついで毎日新聞、朝日テレビ、関西テレビ、ラジオ大阪、週刊ポスト、潮(公明党系の月刊誌)も取上げ、府会では三上議員が質問にたち、社会党国会議員調査団も派遣され、護憲連合全国大会にも提起された。このようにして、十全会糾弾闘争はもりあがり、告発する会は徹夜の府庁内坐りこみも敢行して、けん命な闘争がつづけられている。

 告発した3例について

 十全会医療の実態を如実に知ってもらうため、告発する会が傷害罪、致死罪などで告発した3例について、患者の手記と十全会のカルテの要約を示そう。
 Aさん(27歳、女性)の手記
 診療を受けるなり、あばれもしないのに、両手をひっぱられ、冷たく閉ざされた鉄のドアのなかにほうりこまれ、重い鍵の音がガチャン。「何をするのですか」という私の声も聞かれぬままに、両手をベッドにくくりつけられ、はずかしいことに下着までぬがされ、おむつをあてられましたが、両手をくくられているため、抵抗もできません。驚きと興奮で叫ぶと、「やかましい」と注射をうたれ、3日間ほど何も知らずに眠りつづけました。やっと目がさめ、あたりを見まわすと、8人の患者さんが、私と同じように両手をしばられ、きんきんにはれあがった両足に、リンゲルを注射されていました。
 恐怖感に目をそむけようとした時、看護婦さんがリンゲル液をもち、私の方に近よって来ます。私は食欲もありますので「まさか私に」とは思いませんでしたが、くくられた両手の方におふとんをめくり両足にリンゲルを注射されていました。あまりのはずかしさで、太い注射の針の痛みを感じることもできませんでした。そして翌日、翌々日とはずかしめられ、痛めつけられて、心の傷が重なりました。
 やがて、リゲンル(⇒リンゲル)液も注射されなくなり、外に流れでる液の冷たさを感じながら、「もう今日で終りやろ、もう今日で終りやろ」と心を慰めていたのですが、流れ出る涙も、自分の手がベッドにくくりつけられているため、ぬぐうこともできず、孤独の世界で、十分すぎるほど、苦しみと悲しみを味わいました。ようやく看護婦さんから「今日で終り」といわれたとき、「明日からはずかしい思いをしなくてすむ。がまんすることなく1人でトイレにゆける」と心がはずみ、入院後の日数を数えてみましたら、<0033<はや3週間という日が流れていました。
 1ヵ月後に家族の面会を知らされ、暗い病室が想像できないほどみがきのかかったロビーに、母の姿を見つけました。少ない口数の中から、今まで出した数通の手紙が一通も届いていないことを知り、心がふるえ、歯がふるえて、涙がとめどなく流れ、腹立たしくなりました。そのとたんに「興奮していますから」といって面会を中絶され、冷たい鉄格子の中へいれられてしまいました。
 看護婦さんはパー卜制とかで、来られる時間がかぎられており、何を頼んでも、「もう時間やし、次の看護婦にいって」といわれます。バスルームがついていますが、看護婦さんは時計ばかり見つめて落ちつかず「お湯をわかすのは面倒くさい」と申します。
 非常ベルがならなくなり、看護婦さんにたずねたところ、「いちいち行くひまがないし、元の栓を切ったのや」とのこと、私はあいた口がふさがりませんでした。首つり自殺をされた患者さんを見つけたときも看護婦さんは間にあわず、私たちの手でひもをほどき、ベッドに寝かせて、心臓の部分をさすってあげるのがせいぜいで、死の世界に送ってしまいましたが、怒りがこみあげてきました。
 ロビーや開放病舎のように、人が自由に出入りする所では冷房が完備していますが患者がくくられている病室には、扇風機が2台あるだけで、その風は、ベッド拘束で息のむせる患者さんの口元にはとどいていません。
 看護婦さんは「1日18円の作業療法をつづけ、よくなればこの病院の準職員にして、1ヵ月1万円の給料をあげる。こんなによい話はどこにいってもない」と、患者の身と心にいれこまれる毎日でした。
 私には月5万円の医療費の支払いは不可能でした。そこで知事さんにお願いし、措置患者になったら入院費はいらないということでしたので、その言葉に甘えました。ところが外出をお願いすると、「措置患者はよくなっても、退院はもちろん、外出もできない。いつまでも鍵部屋にとじこめられ、面会のとき以外、部屋の外に出られない」との言葉に、強いショックをうけ、まるでサギ師にかかったように、あきらめざるをえませんでした。
 長い入院期間中、医者の先生は病室をのぞかれることはありますが、お話をした印象はありません。いずれにしても、今までに入院した3つの病院に比較しますと、患者の苦しみが長くつづき、逆効果のようでした。
 Aさんのカルテから
 病名は心因反応。温和に入室と記されているのに、入院後11日間は、昼夜をつうじて手足をしばられ、その後9日間は、午後4時の夕食後から翌日の朝食時までしばられ、内服薬として M2 (内容不明)とセレネース1.5mg 3錠が連続投与されたうえに、CP 50mgとP 25mg(内容不明)が15日間毎日2回ずつ注射され、食事は入院後3日間は欠食で、5日目以後は3回とも給食されているのに最初の7日間は、5%ぶどう糖500ml、皮下用ポリタミン500ml、スプラーゼ500mlが毎日皮下注射され、その後の15日間は、ソリタT3号500ml、20%ぶどう糖20 ml、ビタノイリン1管、B2 200mg、C 500mg、コルK1管を毎日静注されている。
 ところが本人は、入院前に両肘窩部を刃物できずつけ、両上肢切創化膿という病名で、入院後7日間クロマイゾル1gを注射され、入院後 19日間にわたって、毎日全肘の包帯交換をうけており、静脈注射は不可能である。本人にただしてみると、8日目以後も大腿に皮下注射されていた。濃度のこい静注液が吸収されるはずはなく、入院後10日目に大腿部に発赤腫張疼痛を招き、せつ(⇒やまいだれに節、おでき)という病名のもとに、その後7日間湿布を施こされ、6日間アイロチイシン8錠が投与されている。そして、入院後33日目にはじめて、母と面会している。
 Bさん(23歳、男性)のカルテから
 病名は精神分裂病。外泊のさい帰院をいやがったが、父親のすすめた玄米食を差入れるとい<0034<う条件に納得して、帰院した。ところが、帰院後玄米食の差引れ(⇒差入れ)を禁止されたため、きげんが悪くなって、8日間も拒食状態をつづけ、3日目にガラスをわって鍵部屋に移され、6日目に看護人にぶつかり、傷つけたということで、ベッドにしばりつけられた。薬としては、CP 散2.0、フェノバルビタール0.2、P 散(内容不明) 0.7、セベラーゼ3Cap、ハイシー3.0と、睡眠剤が連日投与され、帰院後2日間はCP 50mg、P 25mg、セレネース1管、アキネトン1管を注射され、6日目から9日間は、CP 50mg、P 25mgを1日3回注射、その後10日間は、この注射を2回、セレネース2管、アキネトン1管を1回注射、11日後には、さらに1%コントミン5ml、ヒベルナ1mlが追加されている。
 そして、しばりつけ開始後12日目に、右上肢にきずのあることを看護婦が発見して、医師に報告し、両側前腕打撲擦過傷という病名をつけられ、その時すでに運動障害も認められている。ただちにしばりつけを解除されて、連日創処置がつづけられたが、帰院後43日目には、右肘関節部にも、右手関節部にも7×3cm大の創面ができていて、右第1指、第2指の運動障害が認められている。面会は、帰院時までは週に1回の割合で行なわれているが、その後は一度も行なわれていない。
 Cさん(33歳、男性)のカルテから
 病名は精神病質兼肺結核。その日までは1本の注射もうたれていなかったのに、「飲酒のうえ殺してやるといって暴力をふるう」ということで、鍵部屋に移されて、両手足をしばりつけられ、No.28、点1(点滴注射液、内容不詳)と、トリペリドール5mg 2管、アキネトン1管と、イソミタルソーダ500mgとを、それぞれ1日3回注射することが指示され、しばりつけ2日目からは、さらにセレネース5mgと、イソ……(判読困難)を注射され、4日目には「血をとるな、注射をするな」と叫ぶ患者にたいし、以上の注射を1日間に(⇒一日に?)18回も施行(カルテには記されていないが、このうえに電気ショックを1日3回施行)、5日目も、午前0時からNo.28 点1とイソミチルソーダを注射、午前2時手足をしばりつけられたまま、口や鼻が吐物におおわれた状態で、死亡した。

 十全会医療の現状

 告発後4年の間に、糾弾闘争も影響して、精神患者の入院数は減少してきた。その一方で、老人医療費の無料化も促進剤となって、老人内科という違法の看板がかかげられ、脳卒中などによる寝たきり老人を中心に、老人患者の入院が増加し、肺がんや骨折の老人までが入院するようになった。49年3月末の届出では、入院患者の64%が脳器質性精神障害、その他の障害、あるいはその他となっているが、これらの病名の患者の大半は、老人と考えられる。
 地域的にも、地元の京都では壁にぶつかったのか、他府県に手をのばして、病院の外観を示した写真いりのパンフを、福祉事務所などに配付し、自動車で無料で輸送する。つきそいはいらないというキャッチフレーズで引きつけ、他府県の患者が全患者のなかば近くに達している。
 しかし、医療の実態は、告発の当時とまったく同様で、本年に入ってから後にも、患者、家族、勤務者から、社問研やあけぼの会に次のような訴えがよせられている。
 ○心臓が悪いのに、病院に運ばれると、診察もせずに眠り薬を注射され、手も足もベッドにしばりつけられて、はだかにされ、食事はもちろん、水さえ与えられなかった。
 ○しばりつけの結果、背中一面に褥創ができたのに、十全会は不動症のためという。
 ○作業をすれば、外泊させてあげると、看護婦がいう。
 ○医師はほとんど回診せず、看護婦の記録をみて、指示している。
 ○老人が外泊を許されず、沈みがちになったら、点滴注射を開始された。
 ○老人が徘徊すると、たちまち酸素室につれていかれ、しばりつけられる。
<0035<
 ○入院した母が泣いてひきとめるので、付添うことを頼んだのに、甘やかすといって拒絶された。
 ○点滴をうけた老人たちは、しだいに衰弱してゆく。
 ○カルテにあらかじめ死亡診断書のはさまれていた例がある。
 ○良心的な看護婦はすぐやめるが、十全会側のいいなりになる看護婦は、月30万円ももらっている。
 このようにして、昨年の1月から9月までの間に、859名の死亡者を出しているのである。
 そして、本年9月学会委員会の調査報告が発表されたが、そこでは次のような点が指摘されている。
 ○運動や散歩をする場がない。東山高原サナトリウムの病床利用率は、47%で、ベッドの間隔は30センチたらずである。
 ○シレランデレート6錠、エンボール3錠、インテルザル3錠、カリナクリン3錠、フィブレートC3T、アデノホリン6錠(77点)と記したゴム印がつくられていて、同一の薬剤が投与されている。
 ○プロピタン300mg、クロルプロマジン600mg、レボメプロマジン300mg、ハロペリドール13.5mg、クロールジアゼポキサイド60mgといったように、上限量をはるかにこえる多量が、重複して投与されている。
 ○精神患者は18円で作業をさせられている。
 ○東山の3病棟では部屋に鍵をかけられており、多数の患者が手をくくられていた。
 ○医療費が15万円の人がいる。それ以外におむつ代1万5千円、室料差額1日百−2千円をとられ、入院時には10万円を預けねばならない。
 ○ほとんどの患者がおむつを当てられ、排尿指導などは皆無で、6時から19時30分までの間にかぎって1日6回定時に交換される。
 ○重症者には食事がはこばれても、20分ほどして、そのままさげられる。
 ○看護婦はパートが多く、3病院兼務になっているという。
 ○病棟で医師を見かけることは、ほとんどない。
 ○遠方から集められて、家族から遮断され、独歩部屋、寝たきり部屋、重症室と移動させられて、隣りの老人との会話もたたれ、外出外泊は禁止され、私物の持ちこみも制限される。かくて、生涯かけて形成された他人との連鎖が、短期間のうちに取り去られ、生きる意欲を失なわざるをえない。入院後1ヵ月以内の死亡より、それ以後の死亡が多いのは、死ぬのは重症のためではなく、精神的支持が奪われた結果であることを示す。

 十全会医療の本質

 精神患者や老人を扱かっているのは、世間には秘密にされて、家族からも敬遠されているので、ひどい仕打を加えても、泣き寝入りになる。それどころか、信書や面会の自由を奪うことも黙認されていて、ひどい仕打ちがもれない。とくに老人は死んでしまって、死人に口なしの状態になる。万が一外にもれでも、精神患者やもうろく者のたわごとして(⇒として)片づけられる。しかも、老人の医療費は公費負担なので、遠慮なく医療費をとれるためである。
 ○十全会の許可病床数は、精神科病床1,875であるのにたいし、一般病床は70にすぎないのに、このままの状態で手数のかかる老人患者をどんどん入院させているが、精神病床としておく方が、医師や看護婦の数が少なくすむうえ、公然として鍵部屋を活用でき、また精神患者を老人の世話などに使って、人件費を浮かせるからである。
 ○看護婦にパートが多いのは、員数をそろえやすい。しかも、人件費が少なくてすむし、労働組合も組織しにくいからである。
 ○患者に作業させ、回復者を準職員として雇用するのは、医療法としてできない。人件費を節約するためである。
 ○しばりつけ、おむつをあてるのは、精神指<0036<導、排尿訓練、看護の手間をはぶき、人件費を浮かすためである。とくにしばりつけや電気ショックは、懲罰の役割も果している。
 ○食欲のある者にまで大量注射をするのは、医療収入をあげ、あわせて食事介護の手間をはぶくためである。大量投薬も、看護の手間をはぶき、収入をあげるためである。ノルマ制でひんぴんと検査を行なうのも、医療収入をあげるためである。
 この結果、十全会病院は増大して超マンモス病院となり、十全会の医師は、日本医事新報に広告が出ているように、年収千万円−千二百万円・住宅つきで募集され、赤木理事長は、御殿のような邸宅でぜいたくのかぎりをつくしている。そのかげで、不幸な患者は、屈辱的な人権の侵害に泣き、病状は悪化して、傷害や褥創もともない、死の脅威にさらされているのである。
 南ベトナムの虎のおりでも、収容者は、下着をつけ、手足を動かし、食事をたべ、自分で排尿排便をしている。しかし、十全会の患者は、手足をしばりつけられ、下着をはがされておむつをあてられ、便所にもゆけずに大小便をたれながし、食事がわりに大量注射をされている。これほどひどい人権じゅうりんが、外にあるだろうか。
 精神患者だから、こんな仕打ちをうけても、仕方がないのではない。精神患者であればこそ、なおさらいけないのだ。なぜなら、その弱い心は、一般人にもましてきずつけられるからである。老人だから、死んでも仕方がないのではない。死亡率が高い年齢層であればこそ、なおさら手厚い保護が必要なのである。
 医師であるがゆえに、こんな仕打ちを施してもいいのではない。医師なるがゆえに、一般人にまして糾弾せねばならない。なぜなら、医師は、病気をいやす人として患者から生命を託されており、また、ひどい仕打ちの恐ろしさを、誰にもまして熟知しているからである。
 とくに、しばりつけ、下着の剥奪、食事代りの大量注射、過剰投薬(⇒は)、暴行、りょう辱、あるいは傷害に相当する犯罪行為であり、このようなことを行なう医療は、学会委員会がいうように、殺人医療にほかならず、十全会は、患者や老人を材料にして金をしぼりだす処理工場化である。

 十全会医療の背景

 このような殺人的医療が、革新といわれる京都の地で、治外法権的に繁栄しているのは、何故か。ここで改めて、精神障害者にたいする社会の偏見と、そのうえにあぐらをかいている京都府と医師会の特殊関係を指摘せざるをえない。
 京都では、医師会が革新知事を支持する立場をとり、府と医師会の間には覚書まで取りかわされていて、医療機関の監査や調査は医師会の承認なしに行なわれないことになっているし、診療報酬の審査は、全員医師会員である委員にまかされている。したがって、府会で十全会勧告決議がされても、十全会にかんする知事答弁がされても、医師会の圧力によっておじゃんになるし、府当局に殺人的な投薬や注射について抗議しても、委員の審査をパスしているので、信頼されるという回答しか返ってこない。かくして、どこの府県でも通るはずのない殺人医療がまかり通る。その一方で、東京、北海道、その他の県で実施されたような悪徳病院の規制は、きわめて困難である。そして、社会主義をめざす政党や労組の幹部が、自由開業制を固守する医師会幹部に迎合して、どん底の患者や老人を守る運動を迷惑がるといった事態すら、発生している。
 この事態を打破するためには、一般大衆の力に期待するほかはない。ところが、精神障害者のことになると、つねづね人権の尊重を訴えている人たちも、無関心であり、逆に患者の人権侵害を当然視する論も少なくない。老人も、老衰してくると、同様な偏見の対象になってしまう。
 偏見の根底には、「精神病は特定の家系にのみ発生する遺伝病であり、精神障害者は極悪非道のやからであるから、社会から疎外した方が<0037<よい」という考えが支配している。そして「精神病はガンと同様、誰でもいつでもかかる病気であり、かかっても正しい医療を行なえば、必ず社会復帰させられる」という主張にたいして、一般の医師、ときには専門医からさえ、反発がくる。とくに、しばりつけについては、「短期間ならやむをえないこともある」といった見解も少なくなく、大脳切除にたいするように、歯切れのよい見解が打出されていない。
 このような情勢を背景にして、日本の精神衛生行政は、患者の人権を守ることより、患者を疎外することに重点をおいて、進められている。その証拠に、精神衛生費として666億円の予算がくまれているが、その大半は措置入院費に使われるのである。医療の面においても、精神病院における職員数は低くおさえられており、薬づけをすれば収入がふえるのに、社会復帰を促進するために時間をかけても、収入が上らない場合が多く、社会復帰のために必須ともいうべき外来診療所は、経営そのものが困難である。さらに就職の面におよぶと、身体障害者に適用されているような助成制度も雇用促進制度も存在せず、逆に職場から閉めだすような法令が幅をきかしている。このなかで、保安処分強行の動きが進行していることを、決して忘れてはならないのである。
 老人についても、精神障害者と共通する問題点が少なくなく、今後は精神医療のなかに占める老人医療の比重が重くなることが予想されるが、特殊な問題点として、旧家族制度にかわる社会保障制度がまだ確立されておらず、老人ホーム、在宅サービス、老人病院、とくに脳卒中リハビリテーション施設の貧弱な点が指摘される。
 そして残念なことには、革新といわれる京都の府政も、こと医療問題や精神障害者問題になると、国の政策に対決するかまえが見られない。その逆に、全国のトップをきって医療の営利性が守られているといっても、過言ではなく、精神障害者についても、「あばれる学生は気違いとみなされるから、退学させろ」といった府会発言が、弁護されるような空気も存在している。かくして、革新のメッカといわれる京都の地で、反動的な政策につけこむ営利的、殺人的な十全会医療が温存されているのである。

 十全会糾弾闘争の目標

 いかにも現状のもとでは、すべての医師がある程度営利的にならざるをえないし、一般の病院が手数のかかる老人患者をひきうけることは困難である。だからといって、十全会医療を容認すると、いつまでも現状を打開されず、良心的な医師が苦悩するなかで、悪徳医が繁栄するという事態がつづく。十全会では、いまも数多くの患者がしばりつけられ、薬づけにされて、苦しんでいる。この人たちを解放する闘争こそが現状を打開し、国や府の政策を転換させる突破口となる。
 蜷川知事は、私たちとの話合いの場で、「十全会が患者から搾取することは、資本家が労働者から搾取することにまして、許せない」といい、府会では「十全会にかんする三上議員の指摘は正しい。十全会にたいしてもう一度勧告し、きき目がなければ、国の力でやってもらう」と答弁した。当面、この蜷川発言の具体化をめざして、私たちはたたかいを進めている。
 おりしも、京都に十全会調査団を派遣した社会党は、医療の営利性を克服し、障害者の人権をまもる立場にたって、措置入院制の解体と保安処分の阻止、作業療法にたいする正当な賃金、看護者の増加と看護単位の縮小、生活の場としての病院への転換、国公立精神病院の充実、民間精神病院にたいする公費補助、人件費を重視する診療報酬、精神障害者をうけいれる企業の優遇、官公庁や公共企業のうけいれの義務づけ等をうたった精神医療基本方針案を発表し、国会の労働委員会に十全会問題を提起することを考えている。公明党のなかにも、十全会問題を取上げる動きがあると聞く。このようにして、政策転換の場である国会で、精神医療問題が論<0038<議され、666億円の精神衛生費が、患者を退院させ、社会の受入れ態勢をつくるために使われるようになることが要望される。
 現行の精神衛生法は、ライシャワー事件を契機にして、おえら方を精神障害者から守るという偏見的な立場で、つくられた。こんどは、十全会糾弾闘争に勝利するなかで、精神障害者を社会の偏見から守るという立場にたって、正しい開放的な精神医療の道をきりひらかねばならない。このような念願は、京都段階の動きでは、とうてい達成されない。ここに全国の皆さんのご指導を願ってやまないしだいである。


UP: 20110729 REV:
十全会闘争  ◇精神障害/精神医療  ◇精神医学医療批判・改革  ◇精神障害/精神医療・年表
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