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『よくわかる自治体の男女共同参画政策――施策のポイントと議題』

広岡守穂・広岡立美 2001年10月25日 学陽書房

last update: 20170426

この本の紹介の作成:須藤美香(立命館大学政策科学部3回生)
掲載:20020731


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1章 自治体の男女共同2章 参画政策八つの課題
(1) 男女共同(2) 参画とこれからの自治体の課題
(3) 自治体の八つの課題


2章 子育てを支える
(1) 子育ては地域社会をつくる
(2) 子育て中の母親には何が一番大切(3) か
(4) 子育てをささえ、母親の自分育てをささえる
(5) 子育て中の母親の活動をコーディネートする

3章 女性センターは女性のエンパワーメントの拠点
(1) 女性センターはどんな役割を果たしているか
(2) エンパワーメントの進め方
(3) エンパワーメントは21世紀型行政の課題
(4) 女性センターの現状と課題

4章 女性に対する暴力
(1) 女性に対する暴力とは何か
(2) 視点の転換が進みつつある

5章 男性の意識を変える効果的な手段とは
(1) 意識改革のかなめは学校教育
(2) 男性の意識改革にはどんな手段が有効か
(3) 農業における男女共同(4) 参画をどう進めるか
(5) 地域の人材との連携

6章 働く場での男女共同参画の取り組みを促す
(1) 自治体にできることは何か
(2) 企業のとりくみを促す方法はあるのか
(3) 雇用の場における男女の格差

7章 男女共同参画条例の課題と焦点
(1) 何のために男女共同(2) 参画を作るのか
(3) 苦情処理にどう取り組むのか
(4) 事業者の責務-(5) 実効性をどう担保するか
(6) まちおこしとDVに取り組む-(7) 石川県(8) 羽昨市の男女共同(9) 参画条例
(10) 事業者の取り組みを促す-(11) 福岡県(12) 福間町の条例案
(13) 審議会の役割、その他の論点

8章 行動計画と政策評価の課題
(1) 行動計画は男女共同(2) 参画のカリキュラム
(3) 行動計画と行政評価の問題

要約

1章 

 自治体は、女性行政の最前線である。男女共同参画社会の形成を着実に進めるには、まず自治体自身が変わらなければならない。女性政策を「メインストリーム化」(社会のあらゆる領域に関わる問題として、例外や聖域なしにとりくむこと)が重要であり、そのためには自治体は根本的な発想転換が迫られる。また、市民の女性問題に取り組む活動を、これまで以上に強くバックアップしていかなければならない。もちろん男女共同参画社会は行政主導で進められるものではないが、さまざまな活動をネットワークし、促進することが行政の役割である。
 自治体の具体的な課題は8つある。①推進体制、②政策の実効性、③基本計画、④政策効果の評価、⑤意識改革、⑥エンパワーメント、⑦人権擁護、⑧基本条例である。

2章

 男女がわかりあえなくなる最初のきっかけは子育てである。母親は相談相手もおらず、一日子どもとべったり、自分の人生はどうなってしまうのかと悶々としている。一方男性はこんなに可愛い子どもと24時間一緒にいられるのだから母親は幸せなはずだと思い込んでいる。
 子育てを支えることは地域社会をつくることも意味している。子は親だけでなく地域社会全体のかすがいだ。社会が子どもを育てる、という観点が必要だろう。かつての社会が地域の大人みんなで子どもを育てるものであったように、これからの社会もそういったものにならなければならない。子育て中の親が地域の人間関係をつくるのをバックアップするのが行政の役目だ。まず親が子どもと一緒におとずれることのできる公共スペースをつくるべきだ。もちろん地域の人々もそこに自由に集い、相談にのったり、親どうしが仲良くなることもできる。商店街の空き店舗にそうしたスペースをつくれば、商店街の活性化にもつながるだろう。
 子育て中の母親は、一人の時間を切望する。一日一時間だけでも、自分の自由になれる時間がほしいものだ。これは子育てに限らず介護などをしている女性にもあてはまる。少しの時間でも、子どもを預け、リフレッシュしてまた子育てや介護をがんばることができるのではないか。母親が働く場合でもそうである。子どもを上手に預け、母親自身のことに時間を使うことのできる機会が必要だ。そのためには保育園の充実や、親しいものどうしで子どもを預けあうことなどが挙げられるだろう。
 また、子育てサークルなど、子育て中の母親の活動をサポートすることも自治体のすべきことだ。たとえば会誌が子育て情報誌になって書店に並ぶようになった例もある。福岡県の「子連れでCHACHACHA」のように、大きく成長して企業になることもある。このように、母親の自分育てをサポートしていくことも重要である。

3章

 女性の社会参画を後押しするために、女性の力をつけること、つまりエンパワーメントが必要だ。女性の社会参画の形態はさまざまであり、エンパワーメントの手段も多様であるが、なかでも大きな役割を果たしているのが地域の女性センターである。女性センターは地域の女性たちの活動や交流の場となっている。ここから女性たちがネットワークを広げ、また、女性の人材が育っていくのである。さまざまな講座があり、ここでネットワークが広がることもあるし、子育て中の母親にとっては子どもとべったりの生活から少しの時間でも解放されるチャンスだ。
もちろん相談事業も活発である。いろいろな悩みを抱えた女性たちの相談の場を提供するのだ。たとえば夫や恋人からの暴力(DV)に苦しむ女性の駆け込み寺の機能をはたすことは非常に重要である。しかしこうした相談事業では、相談に乗る側の対応の仕方が問題だ。「男女共同参画の視点から」対応しなければ、DVやセクハラ、子育てで悩む女性に「あなたにも非があるのでは」といった言葉をかけかねない。こうした事態を避けるために、相談に乗る側の視点の転換が最重要課題といえる。
女性の自立には男性以上に支えが必要だ。それは能力の問題でなく自立に対する社会のバックアップの姿勢・体制が男性にくらべ女性のほうが格段に乏しいからだ。同等の力があれば、女性より男性が優先される社会である現実をまえに、女性のエンパワーメントを進めることが望まれる。

4章

 女性に対する暴力の根絶は、男女共同参画社会づくりの最も重要な課題のひとつである。近年DV防止法が制定され法的な体制は整ったが、一昔まえまで女性に対する暴力は大目に見られる雰囲気があった。現在でさえ、水面下ではそういった風潮が続いている。
 女性に対する暴力といってもDV以外にもセクハラやストーカー、売買春もこれに入る。女性に対する暴力の根絶のためには、視点の転換が不可欠である。たとえばDVにしてもそれを行う男性の治療が最優先であり、女性はそのために耐えなければならないというこれまでの視点から、まず女性の救援が最優先である、という視点へと転換されることが重要だ。こうした転換をもとにDV防止法などは制定されている。
 女性を暴力から守るために、民間シェルターなどの活動をする人々が重要な役割を果たしている。また、こうした団体のある地域では、自治体の取り組みも進んでいる。これからは民間グループと自治体が連携し、被害女性の自立を支えていくべきである。自治体は民間グループを育てていかなければならない。こういった活動を続け、女性に対する暴力を許さない社会をつくりだすことが重要である。

5章

 意識改革は以前から取り組まれてきたが、これからももちろん重要である。いくら制度が整っても、人々の意識、とくに男性の意識が変わらない限り本当の男女共同参画社会は実現しない。
なかでも学校の取り組みは最も重要で、最も成果が期待できる。意識改革は年齢がいってからでは不可能に近いからだ。学校でおこなわれる男女一緒におこなう家庭科などは、小さい取り組みだが非常に重要だ。男女混合名簿も、これからもっと普及されるべきものである。
意識改革の最大課題のひとつが聞いてもらいたい人にどうやってメッセージを届けるか、である。たとえば各地の女性センターでおこなわれる講演などは、聴衆は女性がほとんどだが、実際は男性に聞いてもらいたいものである。こうした現状の解決のために、自治会・学校・PTA・各種団体・会社などに出前講座をすることが効果的である。土曜日の幼稚園での出前講座などは、休日に子どもを送りに来た父親がそのまま参加するケースが多い。また、出産間近の夫婦を対象にした講座も効果は高い。
日本の農業社会における意識改革も非常に重要だ。農業に従事する女性の多くは、男性と変わらない労働をしながら報酬を得ていないのが現状である。これは農家において「嫁」は都合のよい働き手とみられているからだ。これでは農家の嫁不足が問題になるのも当然だろう。農業従事者の意識改革や、農業の構造改革などが行われない限りは問題は解決しない。

6章 

 男女共同参画社会のかなめは女性の社会参画を推進することだ。一人当たり平均所得も管理職比率も、男女間ではかなりの格差がある。また、議員や自治会役員もほとんどが男性である。こうした状態の是正がなければ、男女共同参画の実現は不可能である。
 自治体は企業の競争原理を損ねずに、男女共同参画を進めるように企業の行動を誘引しなければならない。たとえば企業における女性の雇用状況について報告をしてもらったり、自治体から仕事の委託を受ける企業が女性の登用を進めるように促すことなどがあげられる。問題はこうした企業の評価をいかに数値化しておこなうかである。育児・介護休暇が整っているかどうか、女性の管理職比率、女性の平均勤続年数などさまざまな尺度がある。それらを総合的評価することが必要である。

7章

 全国の自治体で、男女共同参画に関する基本条例づくりが進められている。基本条例の焦点は、苦情処理と事業者の責務である。条例は実効性のあるものでなければならず、単に訓示的なものであっては意味がないということである。
 たとえば雇用の分野における男女平等の実現は男女共同参画社会づくりのかなめである。事業所に対して、男女共同参画に関する報告を義務付ける、一定の条件を満たした企業を優先的に契約の相手方とする、などの手段が考えられるだろう。それらが可能としたら、その場合それを行う法的根拠として何らかの条例は必要だろうか、もし必要ならそのときこそ男女平等に関する条例をつくらなければならないだろう。条例の内容を検討する場合、こうした順序にそって考えるのが本来のありかただ。条例が単に宣言的・訓示的なものであってはいけないとは、このことである。条例は、それがなければ実効性ある施策を実施しにくいときにつくられるべきものなのだ。
 次に苦情処理であるが、これは相談員の対応のしかたが最も重要である。自治体のこうした相談にのるのは年配の男性が多く、男尊女卑で育った彼らが相談者に適切な対応ができるか、疑問が残る。しっかりした相談体制の構築、人材の要請は非常に大切である。

8章

 行動計画とは、都道府県が男女共同参画にどのように取り組んでいるか一目でわかるようにするものである。学校でいえばカリキュラムであり、当然きちんと実行しなければならない。行動計画をつくって一段落し、つくりっぱなしにしてしまう例もある。それではまるで意味がなく、実行していく体制を整えていくことが必要だ。計画がどの程度進行して、どんな効果があれわれているかを評価していくことが重要だろう。行政の評価は利害対立などから決して簡単なものではない。数値化や顧客満足度で評価する方法などがあるが、いずれもさらなる検討が必要と思われる。
 
感想
 いちばん興味深く読んだ子育てをサポートする、という2章の感想を中心に書きたいと思う。私自身のこととして考えると、やはり結婚して、子どもを産んで、という人生にあまり魅力を感じられないからだ。もちろん結婚に夢はあるし、自分と好きなひととの子どもを欲しいという気もある。しかしそれ以上に襲ってくるであろう負担を考えると、とてもじゃないが子どもを産むきにはならない。せっかく大学まで出て、仕事を得たのに子育てのためにそれを手放すとは考えられない。この本にも書いてあったが、母親は子どもと一日中べったり、おとなと話す時間も、自分の好きなことをする時間もないことが多い。はっきりいってぞっとする。これまでの人生で、自分の好きなことをすることができたのに、それが不可能になり、しかも社会はそれが当然だといわんばかりの目をむける。これで夫にも理解されなかったら・・。あんまりである。
 また、私は二人姉妹の次女である。下に兄弟がいない。近所にもそんなに小さい子どもはいなかったし、親戚にもいなかった。赤ちゃんを抱いたり、子守りをした経験はないに等しい。これがいきなり自分の子どもだからといって上手に子育てできるのか?不安すぎる。それでいて失敗は許されない気だけはある。なんといっても相手が人間だからだ。今の若い母親がマニュアルを欲するのはよくわかる。みんな不安なのだ。
 高齢化社会、元気なお年よりはたくさんいる。子育てを終えたこうした人々に、気軽に相談できる場があれば。地域の子育て中の母親が子どもをつれてあつまれるスペースがあれば。そこに子どもを預けて、お茶をのみながら息抜きできる場所があれば。自治体のバックアップでこれらが設立できたらすばらしいと思う。あくまで住民や民間のバックアップでよいと思うが、自治体が少しでも介入することで、利用しやすい環境を整えられるのではないだろうか。
 「子どもは地域で育てるもの」まさにそうだと思う。親にとっても心強く、子どもにとっても親以外のおとなと接することは非常に大切なのではないだろうか。


REV: 20170426
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