『全障連』No.46
last update:20220704
■文字起こし
表紙
KSK 全障連 No.46
全国障害者解放運動連絡会議
1985年1月1日発行(毎月2回1、15の日発行)
1984年8月20日第三種郵便物認可
KSK通巻16号
写真省略
目次
年頭にあたって=自覚と決意をもって新たな年を闘おう 中川一二三 1
第3回全障連幹事・活動家組織強化合宿のよびかけ 西岡 務 2
=寄稿=郵便局の仲間が全通障害者連絡会を組織する 同副委員長・O 5
全障連各地ブロックの組織強化進む
1、北陸ブロック=障害者と労働者の対話集会パート1 6
2、中四国ブロック=新役員体制を作りブロック運動再建 7
3、全国=理論強化委員会設置にあたって 8
続発するマスコミの差別事件
1、わかめラーメン差別CM事件に関する協議会開かれる 11
2、平凡社「太陽」差別記事への抗議文に回答返る 13
3、ヴァンサンカン差別記事糾弾闘争を終えて 15
ショート時評シリーズ=「障害者の発生予防」の現実 石川憲彦氏 17
DPIアジア・太平洋会議に参加して 世界の障害者風聞記 八柳卓史 9
時の雷鳴 楠 敏雄 3
p1
年頭にあたって
自覚と決意をもって新たな年を闘おう
全国代表幹事・中川一二三
写真省略
一九七六年に全障連を結成し、今年は十年目を迎えます。
全障連の仲間一人一人の想いは異なるとは思いますが、この十年が短くもあり長くもあったことでしょう。しかし、自らの自立と差別からの解放をめざして闘ってきた仲間にとって、自らの生き方を変えてきた一時代であったことに間違いはありません。
私にとっても、それは例外ではありません。全障連によ※(校正者注:穴あけパンチが空いていて判読不能)学び、今では自分の生き方の大きな位置を占めています。
十年の歩みやそれぞれの総括は別の機会にするとして、現在の情勢の中で、唯一独自の闘いを貫いているのは全障連であると自負しています。この十年の全障連の闘いの中から、地域運動の重要性、障害者の団結の必要性、差別と闘う仲間との連帯の尊さ等を得てきましたが、今日の厳しい状況を突破していく為には、これらのことが更に重要となってくるでしょう。
私たちの運動は、今や一人の満足の為であってはなりません。一人一人が障害者解放運動の相い手として自覚と決意をもって、組織内の不十分さも皆の協立と一人一人の責任で補ない、過去をふり返るだけではなく、前をみながら闘いを進めていこうではありませんか
我全障連もこの十年で、障害者全体、いや社会の大きな一角として位置しはじめました。他組織との共闘連帯を通じて、我が全障連の考えを主張し、より理解を深めていきたいと思います。今年はその為の場も多く設けています。
年頭にあたり、新たな決意で共に運動の前進をかちとりましよう。
挿絵省略
p2
第3回全障連幹事・活動家組織強化合宿のよびかけ 全国事務局長・西岡務
写真省略「第1回組織強化合宿風景」
全障連幹事・活動家組織強化合宿の意義
第三回目の全障連幹事・活動家組織強化合宿を一月一三日―一五日に行ないます。
この合宿は、昨年度東京大会において方針を確認し第一回を一月一五日・一六日に、第二回を六月一六日・一七日に行ってきました。第一回は、身体障害者福祉法改「正」・保安処分国会上程策動・戦争への道といった激しい情勢の移り変わりと、その中で多くの障害者運動が体制内にとりこまれつつある現状の中で、全障連の障害者解放運動の基本戦略を共通認識するものでした。そのために方針としては、とりわけ地域活動の強化と障害者解放基本要求要綱の位置づけ、共闘関係の整理に重点をおき討論をしました。
第二回は、第九回富山大会の全体基調の深化と確認
要綱
1月13日 午前11時 静岡駅南口に集合
1月13日 午後1時~9時 パネルディスカッション・討論(日本平ロッジ)
1月14日 午前8時~午後5時静岡県教育委員会抗議行動(静岡県庁前)
午後6時~9時討論(静岡鉄道職員センター)
1月15日 午前9時~12時 総括討論・まとめ(校正者注:「要綱~まとめ」四角囲み)
p3
にあてられ、全障連運動をみんなで担うための論議を行いました。
このように、この組織強化合宿は、各ブロック幹事、活動家を中心に、情勢認識、全障連運動の総括・障害者解放運動の意義と展望を論議し、全障連運動の全体化と強化を生み出すものとされています。
全障連運動十年の総括と長期展望を語れ
さて、次に開かれる第三回合宿ですが、今回は全障連結成十周年を迎え、長期的な展望、すなわち全障連結成から今日までの運動をふり返り年々の情勢の中で何を方針化し何をかちとってきたかを明らかにして全障連の意義を再確認すること、また障害者の自立・解放運動の原則、基本的立場を再確認し、この激動の情勢の中で自らの存在を明らかにしていこうと考えています。
そのため、一日目は、パネルディスカッション形式とし、全障連結成よびかけ人であり前代表幹事の八木下相談役、結成当時から全障連運動の半分を副幹事で担われ今地域で健闘されている荒木氏、そして楠副幹事(前事務局長)の三人で総括的論議をしていただく予定です。これには、西岡から基調的な問題提起をし、①全障連結成の意義。②養護学校義務化阻止闘争の総括、そして中央闘争から地域闘争重視の方針化の過程。③地域で生きることの意味の再確認。その中での行政闘争と地域拠点づくりの関係。④共闘関係をどう考え
時(とき)の雷鳴(らいめい)
全国副幹事・楠 敏雄
その十一
八代氏の自民党入党劇は何を意味するのか
「八代氏は、なぜ自民党へ?」この問題は、おそらくかなり多くの障害者が強く抱いたことであろう。「彼はもともと保安だ!」と言ってしまえばそれまでだし、私自身も彼がいつかはこのような選択をするであろうことも十分予期していたとはいうものの、今この時期になぜ八代氏が自民党への入党を決めたのか、という点については、やはり大いに問題の残るところである。いや、実際には統合教育に対する彼の姿勢を一定評価し、彼がDPI日本会議(準)の代表になることも承認し、一定の支援すら行ってきた我々にとってはこれを単なる問題ですませるわけにはいかず、心底から怒りさえ覚るのである。
彼は入党の理由を「未来の一万円よりもあすの二〇〇円」などと評しているが
p4
(校正者注:p2「第3回全障連幹事・活動家組織強化合宿のよびかけ 全国事務局長・西岡務」の前頁「その中での行政闘争と地域拠点づくりの関係。④共闘関係をどう考え」からの続きの文章)
整理するのか、を柱として進めていく方針です。
二日目は、昼間は石川重朗君の飯田東小学校転校闘争の重大な局面を考え、静岡県教委糾弾闘争を組んでいます。そして、夜に、一日目のパネルディスカッションの論議をみんなで行いそれぞれの柱を深めたいと考えています。とりわけ、若い仲間には全障連結成当時、あるいは「昔の話」を聞き及んでいない方もいると思われますので、様々なとりまき情勢も含めて充分話したいと思っています。
そして三日目には、午前中だけの時間しかありませんが、全障連十周年として八〇年代後半期の闘いをバク進するための重大戦略を整理していきたいと考えます。そのためには、全障連運動―障害者解放運動の基本原則の再確認、政治的攻撃とのさらなる対決、そして、地域戦略の確立に向けた大胆な提起を出すことか必要です。
日々の苦悩を熱い想いへと、昔の情熱を今後の大胆な戦略へと、怒りを未来への展望へと、自らが存在する限り自立と解放を求めて止まぬ確信を共に分かちあいましょう。一月一三―一五日への参加を!
*参加者集約は各地ブロック幹事を通して行なっています。最終集約・詳細の案内は関西ブロック事務局・栗原まで。
*なお、1月14日の夜に全国出版部連絡員会議を行ないますので、連絡員は参加してください。(校正者注:「*参加者集約~参加してください。」四角囲み)
(校正者注:前頁の「時(とき)の雷鳴(らいめい)」の「彼は入党の理由を「未来の一万円よりもあすの二〇〇円」などと評しているが」の続きの文章)
これは全くの詭弁にほかならない。今、「福祉」を切り捨て、戦争体制の準備を押し進めるべく、防衛費のGNP六%突破や、自衛隊の海外派兵 、さらには刑法改悪―保安処分新設、拘禁二法の改悪と、やつぎ早に反動的諸政策を実施せんとしている政府自民党 中曽根内閣に、八代氏は一体何を期待しようというのか。まさか、紙きれ一枚の不渡り手形で自ら進んでだまされようというのだろうか 。それとも、ウラにはもっと大きなごほうびが?いやいやここではそんなケチなせんさくはやめておこう。いずれにせよ 、彼の述べた理由は、だれが考えても全く根拠のないものであることは明々白々なのである 。
しかし私たちが彼を許せぬ理由は、単に彼が自民党を選んだことだけにあるのではなく、彼が自立を求める障害者の思いや要求をたった「二〇〇円」という金=物とりの運動に収約させようとしていることである。我々は、そんなケチな闘いをこれまで命がけで進めてきたのではない。そんなことぐらいなら、なにも八代氏に頼まずともいくらでも方法はあったのだ。むしろ、我々はこうした運動と決別するところから、新たな障害者解放の闘いを進めてきたのである。八代氏の今回の選択は、こうした障害者の思いを裏ぎり運動の体制内統合に手をかし、障害者連動に大きな混乱を与えたものである。その意味において、私たちは八代氏を断じて許すわけにはいかないのである。
p5
=寄稿=
郵便局の仲間が全逓障害者連絡会を組織する
全逓障害者連絡会副委員長・O
写真省略「全逓新聞の差別マンガに関する話し合いでは全逓障害者連絡会(準)のメンバーからの発言もあいついだ」
去る八四年一一月二〇日全逓大阪障害者連絡会が誕生しました。八三年の一一月の準備会からちょうど一年目にして結成にこぎつけたわけです。
全逓というのは、郵便局で働く人々で作られている労働組合で、ナショナルセンターは総評に結集しています。
郵便局に働く人々が労働組合に入るか入らないかは本人の意志によって決めるオープンショップ制をとっています。郵便局には大きく言って二つの労働組合があり、かつどちらの組合にも属さない人もいるのです。
さて、このたび結成された全逓障害者連絡会は、その名のとおり全逓に結集する障害労働者によって作られました。準備会として行った活動として特筆すべきことは、中途障害者になり休職中の人を全逓に結集させ、復職をかちとったことです。またその人(車イス)が利用しやすい宿舎もできました。これらは全逓の上部機関の奮闘によるところが大きいのですが、障害者連絡会も本人に対する激励などを行った結果と思います。
八四年六月に「全逓新聞」紙上で残念にも脳性マヒ者に対する差別マンガが載りました。全逓障害者連絡会としても中央本部との話し合いをしてきましたが、その結果、全逓として障害者の要求や意見を充分とり入れていくことになりました。
私たちは現在のところ二〇名ぐらいのメンバーですが、今後はもっと人数を増やしたいと思いますし、全国的な連絡会ができればと思います。
障害者が働きたい職場づくり、障害者が利用しやすい郵便事業をつくるためにも微力ながら頑張ります。
読者の方には判りにくいかも知れないので全逓組合員として一言。職場の労働条件を守り、労働者の権利を守ってきたのは全逓だけです。他の組合でも他の団体でもありません。また、ぼくは全逓に入って良かったと思いました。
p6
全障連各地ブロックの組織強化進む
北陸ブロック=障害者と労働者の対話集会パート1
中四国ブロック=新役員体制を作りブロック運動再建
全国=理論強化委員会設置にあたって
北陸ブロック=
障害者と労働者の対話集会パート1
大和秀雄
去る一一月一一日(日)富山市内で、全障連第九回全国交流富山大会以降、富山県内の労働組合との連帯をつくり出していこうとの試みとして、この第一回目の対話集会がもたれました。
労働組合の立場から、自治労中央本部の中野俊次氏障害者の立場から、富山サンの会の平井誠一氏がそれぞれ共通点をさぐる提起がなされました。
自治労の中野氏からは、七〇年代春闘のいわれる「弱者救済」という労働組合と障害者団体の連帯を、労働組合側の利用、障害者団体の甘えとお互いのもたれ合いと総括されました。その上で、もたれあいを克服し、八〇年代の反動する政治状況に共同に闘っていこうとしています。その中で、労働者と障害者の全国連絡会議、自治労のとりくみについて話しがなされました。
障害者解放運動の立場で、平井氏から、富山市差別照会文書について、「この問題は単に一職員、一管理職の意識のおくれとか、対応のまずさでは片づけられない。行政改革の一環として暴力団の不正受給からはじまった生活保護受給者の洗い直しと厚生部に属する人々の解放運動への無理解と予断と偏見によってつくられた障害者像に基づいて出されたものです。一方的に与えてあげるだけの『福祉』でしかない。法や制度は、本当に必要とする障害者の声を聞きながら、どんどんかえていくとりくみを、革新市政と共にすすめたい」とあり、又、今後の方向性として、障害者の地域での生きる場をつくり出し、労組との共通点を模策したいと結びました。
午後からは、座談会がおこなわれました。
その中では、特に全自交の運動が県労協の清水氏より紹介され、タクシーなどの障害者の足について討論になった。タクシー券の無料券化、ねたきりのまま乗れる福祉タクシー。又、障害者からは「外へ出るには不十分であるとか、運転手がイヤがってのせないなど差別の現実があり、何とか
p7
してほしい」と切実な声がありました。「そういうことをどんどんタクシー協会なり、労組に言ってきてほしい。そんなことのないようにしていこう。」ということで話された。最後に、中野氏から、「このような労組と障害者とが、本音で話し合う場をこれからもつづけて、共同闘争に向けていかなければならないのではないか」とまとめられて、第一回の対話集会を終わった。
中四国ブロック=
新役員体制を作りブロック運動再建
大野忠夫
全障連中四国ブロックの連動は、はっきり言って停滞の一言につきる程、行き詰まりの状況にありました。
その理由はいくつかありますが、全ての面で全国幹事に責任が集中していた事実を認めないわけにはいきません。その他、12月9日に松山で開かれた「中四国代表者会議」では、
①一人一人の声が、全障連の全国幹事会に反映されていない。
②中四国の会議は、いつも闘争の提起のみで時間がついやされ、各地でかかえている問題や疑問(全障連に対する)について話す時間がない等、厳しい意見が相次ぎました。
このことは、中四国の連動の「停滞」を如実に表わしていると思います。そういう意味で12.9の会議は意義があったように思われます。
しかし、後はこれを解放運動の原動力にしなくてはなんにはなりません。
そこで、全ての連動課題より優先する形で、今年2月2・3日の両日、岡山で合宿を開くことになりました。そして、その中で総括をする予定です。
また、この会議で、中四国ブロックでは個人会費制がしかれることになったのと、下記の新役員が承認されましたので報告します。
全国幹事 中川(岡山) 三原(徳島)
事務局長 大野(徳島)
総務 吉川(広島)
次長 山下(旧性・三村―岡山)
全国=
理論強化委員会設置にあたって
理論強化委員会 委員長・楠 敏雄
全障連は、今年度の第9回大会において、組織強化に向けたとりくみの一つとして「理論強化委員会」を新たに設置することを提起し、この11月に開いた今年
p8
度2回の全国幹事会において、来年2月から正式に発足させることが承認された。本委員会の設置の直接的な契機は、まず、何よりも政府―支配階級の障害者に対する管理と統合、そして、切り捨てと抹殺の激化に対し、彼らの意図を正確に見抜き、それと対決しうる陣型の構築に自ら主体的に参加しうる仲間の育成が急務であるとの認識に基いていると言ってよい。つまり、これまで全障連運動に関わってきた一人一人に求められているのは、単なる個々の闘いへの参加者であったり、あるいは、個々の課題の担当責任者であることのみならず、組織と運動全体に自らどのように責任をとり展望を切り開こうとするのか、という極めて重い任務なのである。確かに、長い間教育を奪われ、文字を奪われ、コミニュケーションの手段において、いちじるしい困難を強いられている多くの障害者にとって、「理論、学習」など、最も縁遠いものであることは否定できないが、そのことは、障害者総体にとってはそうであったにせよ、現在、全障連を担う位置にある仲間にとっては、それを、百回くり返したとしても、それは、組織にとっても自分にとっても、むしろ、マイナスの効果しかもたらさないことになるのである。
本委員会は、こうした活動家の育成を目指しつつ、他方においては、障害者解放運動の長期的展望と基本路線を検討し、明確化する任務をも負わなければならない。そして、それは同時に、来るべき全障連の単一組織化に向け、その綱領作制の足がかりを築くものとならねばならぬのである。
以上の趣旨をふまえ、次に、今後学習すべき課題と内容について、極簡単に、列挙しておきたい。
1、日本及び世界の政治経済社会に関する情勢の学習と討論
2、世界の思想と政治の歴史に関する学習
3、様々な経済の原理や法則に関する学習
4、戦後日本の労働運動に関する学習と討論
5、部落解放運動を中心とする反差別の諸課題に関する学習と討論
6、様々な障害者運動に関する分折及び評価
7、障害者解放運動のつっこんだ総括等々である
このように、本委員会で
p9
挿絵省略
は、学習の出発を障害者運動におくのではなく、むしろ、あえて基本的、もしくは、一般的な情勢や諸課題からスタートし、そうした視点をふまえて、障害者運動をみるという学習方法を試みたいと考えている。
最後に、運営方法についてであるが、委員会は、原則として、隔月とし、講師による問題提起、書物や雑誌の論文等に基く学習、討論を1課題につき2-3回行なうことにしたい。
また、メンバーは、各ブロックから二―五名とし、幹事との重複は一名を原則として、なるべく重複はさける。更に、それらのメンバーは、委員会での学習内容を各ブロックに持ち帰って適時、ブロックことに学習会を主催し、または、機関紙にも積極的に論文を発表して学習の成果の全体化をはかる。
以上、委員会の企画は、まだ不十分ではあるが、とりあえず、一九八五年二月からスタートさせ、除々に体制と内容を整えていきたい。多くの仲間の注目と御協力をお願いする次第である。
DPIアジア・太平洋会議に参加して
世界の障害者風聞記
八柳卓史
八一年に「われら自身の声」を合言葉に結成した障害者インターナショナルのアジア太平洋会議が、南オーストラリアのアデレード市で開かれました。私は、全障連選出で日本代表団の一員としてこの会議に参加してきました。
機動隊の検門と鉄網をくぐって入る成田空港から、シンガポールを経て、真南に飛ぶ。まる1日がかりの旅程で一一月三日の朝、アデレード空港に着いた。時差は二時間と少ないが南半球なので、日本と全くさかさやの季節で、ちょうど五月ごろの陽気だった。
日本からの参加者は、代表一〇名をはじめ総勢四十人。もちろん半数以上が障害者だ。代表団には、障害連の宮一尾さん、視労協の堀さんが参加し、他にオブザーバー参加として、ご存じ八木下相談役、石川闘争を支援している静岡ひまわり
p10
労働センターの田中夫妻、島田療育園裁判闘争の石川さんなど顔見知りの仲間も多く、初めて外国へ行く心細さを柔らげてくれた。
アデレード空港では、オーストラリアドルに換金するため、両替所にならぶ。前の人が大金を両替したためドルがなくなり、一人一〇ドル(二三〇〇円ぐらい)しか換えてくれない。迎えにあらわれた大会実行委員長のキプリアーノ氏が、日本人は金持ちが多いと皮肉を言った後で、土日は店がほとんど閉っているので金は必要ないと教えてくれた。
バスに乗って、宿舎のペニントン・ホステルに行く。ここは、オーストラリアに移民して来た人々のための訓練センターだが、現在はベトナム「難民」も居住している。かつて兵舎だった
写真省略「ペニントン宿舎風景」(校正者注:写真 下に「DPIアジア・太平洋会議に全障連を代表して八柳氏が参加されました。世界の障害者、オーストラリアの障害者の姿をかいまみたく、シリーズで風聞記を書いていただきます。」とある)
らしく、かまぼこ型の建物もところどころにあり、居住棟はプレハブのような作りの平屋で、規則正しく並んでいる。いわゆる障害者用施設ではないので、段差がいたる所にある。それでも、応急的に直したらしく大きな段差にはアスファルトでスロープが作られたり、トイレと浴室は二つ分をつないで広くしてあり、扉はカーテンに替えてあった。宮尾さんから「全障連大会の宿舎みたいだね」と言われたが、全障連のザコネ式とちがい、ちゃんと二人部一屋になっていた。ただし、同室になったのは八木下さんだったので、「やっぱり全障連大会と同じだな?!」
三日の午後は、ほとんどの人がアデレード見物に行く。ぼくは日本DPI準備会の事務局を手伝っていたこともあり、部屋割の調整などのため残る。半分バテ気味のせいもあったけど。
とにかく、オーストラリア第一日目の印象は、空気がうまく、空がすみわたっていること、そして広いことだった。
(つづく)
p11
続発するマスコミの差別事件
わかめラーメン差別CM事件に関する協議が開かれる
CM制作者・スポンサー・TV民法各社 大阪府が参加し、確認をかわす
写真省略
「わかめラーメン」差別コマーシャル事件に関する協議が、国際障害者年を機に「障害」者の自立と完全参加を求める大阪連絡会主催で十二月二二日にPLP会館(大阪)で行なわれました。
前号(全障連No.四五号)でも報告したように、この差別事件に関する闘いの方針は、単にマスコミの差別用語の問題だけに終らせず、広告会社、マスコミ全体の障害者差別に対する認識をもたせ※(校正者注:※は穴あけパンチが空いて判読不能)それをなくすための連動と位置づけて闘かれました。会場には、大阪府の立ち合いのもとで、コマーシャル作製会社の東急エージェンシー(本社・東京)スポンサーの東洋水産、TV放映した朝日・毎日・関西・読売の民放各社の代表が出席し、私たちの側は、全障連関西ブロックをはじめ、部落解放同盟大阪府連・部落解放大阪府民共闘・自治労大阪府本・大阪十五教組・社会党の代表がのぞみました。
追及の要点としては、①「より目、ちか目、ワカメ」という表現についての差別認識と障害者観、②障害者・雇用を含む各社の障害者に対する姿勢、③コマーシャルのチェック体制の現状と今後の方向、④社※(校正者注:※は穴あけパンチが空いて判読不能)での
みんな頑張っているな
送られてきた通信からとりあげてみました
*「けんぶんろく」=グループ西遊記=独り暮らし2年目に―3。 *「障害連ニュース」=障害者の生活保障を要求する連絡会議=第3回定期総会。心障法改正をめぐって。 *「釜ケ崎差別と闘う連絡会(準)ニュース」=新今宮小・中学校“跡地”の『解放』を。 *手話講座実行委員会=12・15手話講座忘年会の案内 *「百人委員会ニュース」=刑法改正、保安処分に反対する百人委員会=11・16拘禁二法上程阻止、刑法改悪―保安処分粉砕、全国総決起集会デモの報告。85年3・8拘
p12
(校正者注:前頁「続発するマスコミの差別事件 わかめラーメン差別CM事件に関する協議が開かれる」、p11「④社※(校正者注:※は穴あけパンチが空いて判読不能)での」からの続く文章)
人権問題研修と啓発機構、⑤今後の責任の方針、などについて討論されました。
この中で、とりわけ東急エージェンシー(CM作制社)は、「この表現はカメラ現場で通常使われている『遠目・近目』を引用し、無意識に使ってしまった」「配慮が足りなかった」と障害者差別の認識をまったく欠いた発言をくり返しました。これに対し「障害をもった子が保育所でこの表現を使っていじめられていることをどう考えるか」「重い障害をもつ者ほど傷つき社会から排除されている実態に責任をもつか」と、差別の実態や、教育問題として、また「無意識的に」存在する社会的な差別意識の存在を鋭く追及しました。
また、驚いたことは、広告会社やTV民放各社でのCMチェック機構がまったくズサンでほとんど「やり放題」になっている事実が明るみに出ました。さらに、障害者雇用はいずれも法定雇用率を満たしておらず、職場で障害者の存在すらなく、問題にもされていません。TV民放各社では、国際障害者年の放道はしていたものの、障害者問題(まして差別の認識や人権の立場でのとらえ方は)の研修や学習もされていませんでした。
このように、広告会社。スポンサー・TV民放各社いずれにおいても、障害者差別の認識が無きに等しいぐらいに薄く、障害者の存在すら意識にない実態が明らかになったのです。その上で、今後の責任のとり方としては、
①東急エージェンシーの責任で、CM出演者の明石家さんまとCM作制関係者との協議の場を設ける。
②東急エージェンシー・東洋水産・TV民放4社とも反省文を作る。
③共同で謝罪放送を一月中をメドに行う。
④各社とも、社内での人権問題を積極的に推進する機関を早急に確立する。
⑤障害者に関する社内研修を計画・実施する。
⑥TV民放各社でCMのチェック機能をつくるとともにマスコミの連絡会議を検討する。
⑦広告代理店業界への指導計画を作る(行政)とともに広告代理店業界の連絡会議を検討する。
⑧各社とも障害者雇用計画をつくり、早急に実施する。
⑨TVによる障害者差別
(校正者注:前頁「みんな頑張っているな 送られてきた通信からとりあげてみました」の「85年3・8拘」から続く文章)
禁二法上程阻止・刑法改悪・保安処分粉砕全国集会(日本教育会館)のよびかけ。 *「すたこらさん」=おおさか・行動する障害者応援センター=応援センターって何やろ?―1 *「がっこ」=教育を考える会=就学時健康診断に反対します。 *「三里塚野戦病院ニュース」 *「解放新聞奈良県版」=奈良赤堀実行委・島田事件現地調査、全国集会を闘う。 *「IYDP情報」=国際障害者年日本推進協議会=政策委員会報告 *「リハビリテーション」=国鉄身障者協会日身体障害者福祉法改正の問題点と今後の展望 *「障害の地平」=視覚障害者労働問題協議会=第4回目の全国職よこせ連帯集会を通じての雇用運動。春日電気・栗田争議支援団体
p13
連絡会謙結成集会の報告と経過 。 *「とうきょう青い芝」 =東京青い芝の会=私たちの永年の訴え 、新身障法の基本通知と障害等級の改善で反映 。 *「おたより」=兵庫県スモンの会=神戸市に対する医療ヘルパー実施要請書
~~書籍の案内~~
*「ぼくの手、おちゃわんタイプや」=先天性四肢障害児父母の会編(三省堂=800円)
*「生あるものは皆この海に染まり」=最首悟峯著(新曜社=2200円)
挿絵省略
(校正者注:「続発するマスコミの差別事件 わかめラーメン差別CM事件に関する協議が開かれる」のp12「⑨TVによる障害者差別」から続く文章)
をなくす立場での啓発番組をつくる。
の各点を確認し終了しました。
マスコミによる差別事件の糾弾闘争では、ともすれば「言葉狩り」に問題をそらされがちですが、このように業界全体との協議の場を設け、差別意識・差別事件をなくすための体制・差別意識を克服するための社内研修と責任体制の確立.また啓発報道などの方針を具体的にかちとっていく闘いができたことは、今後の差別糾弾闘争の新たなとりくみの開始と考えます。
続発するマスコミの差別事件
平凡社「太陽」差別記事に対する抗議文に回答返る
前号機関紙で掲載した平凡社「太陽」の差別記事への抗議文に対し、平凡社から回答文が返ってきました。この回答は、問題点を意図的にそらし、「表現の自由」をタテに差別を容認するものです。すべての人々の義務とも言える差別を許さない立場を拒否し居直っています。全障連はこれに対し、更に追及を強める方針ですが、ここではこの事件に関してよせられたお便りを掲載します。
抗議文に対する回答
謹啓師走の候、貴連絡会議には御清栄のことと拝察申し上げます。
さて、貴連絡会議から幣社あてに出されました去る十一月一日付「抗議文」はたしかに拝受・拝読させていただきました。その「回答」が大変に遅れて、今日になってしまいましたことについて、深くお詫び申し上げるとともに、以下、幣社のこの問題に対する考えを述べさせていただきたく存じます。
「抗議文」は、幣社刊行『太陽』九月号に掲載されました「社長ノ顔ハ企業ノ顔」の中、ミサワホーム社長・三澤千代治氏の発言について、医学的科学的根拠があるのか、あるのならばそれを示せということでございますが、以下のように考えております。
三澤氏の発言は、環境と発達として述べられており
p14
ますが、一般的には環境と発達との間に何らかの因果関係があるということは、すでに教育学の常識となっております。しかし、三澤氏のいうような「白い天井と知恵遅れ」という関係については、医学的にも科学的にも検証されたものではないと判断しております。また、三澤氏の発言は好まいか否かと問われれば、好ましい発言ではないと考えております。
そもそも三澤氏の発言は筆者である江波戸哲夫氏のインタビューに対する発言を引用紹介されたものでありますが、江波戸氏は、三澤氏の発言に対して賛意を表しておりません。むしろこの発言に碗曲に揶揄(ヤユ)していることは文脈上明らかなことと存じます。つまり、江波戸氏は三澤氏の発言を
よせられたお便り
保母 渋谷伸江
皆様には、お元気にておすごしのことと思います。
先日、りぼん社の河野編集長より、全障連関西ブロックより平凡社へ抗議文が出されましたとのこと、お知らせいただき、大変力付けられております。
今度、お手紙をさし上げましたのは、「太陽」編集長の鷲巣力さんより長い手紙がまいりまして、ぜひ、皆様へもこのことをお伝えし、読んでいただきたいと思いまして、ここに同封させていただいた次第でございます。大変長い手紙で時候のあいさつ等の部分を省いて本文よりコピーいたしました。(長文ですが、内容は全障連への回答と同じ趣旨なので省きます・編集部)全障連よりの抗議文や、こちらからの抗議の手紙等が行き、平凡社の方でも、事の重大さを感じて、こうして一応返事を書いて来られたようですが、読めば読むほど、障害を持つ人々に対する認識が大変間違った差別的なものであることを感じます。差別ということの本質を理解されておられないようです。
また、今回のことも民主主議の下では、簡単に削除できないというようなことも書かれてありますが、民主主議の名の下で、人間の生命を無視したり、差別することを正当化されておられる平凡社の姿勢に怒りすら感じます。
本当の民主主義は、他者の生命や権利や自由を大切にしていくということからはじまっていると思います。平気で他者を差別し、生命を侵す中で、真の民主主義など生まれるはずはありません。出版社やマスコミの都合の良いように民主主議を意味付けていくことは、間違いだと思います。
このような平凡社の姿勢に対して、これからも当分難しいようですが、粘り強く訴えていく方針です。民主主義が偏りのないものであるのなら、ミサワホームの社長の話だけでなく、私たちの意見をも取り上げていただきたいと願っております。
私たちも、子どもたちと共にがんばります。
皆様の御活躍とご健康を心よりお祈りしつつ、コピー発送のお知らせにかえさせていただきます。(校正者注:「よせられたお便り~いただきます。」四角囲み)
p15
(校正者注:p13「続発するマスコミの差別事件 平凡社「太陽」差別記事に対する抗議文に回答返る」の前頁「江波戸氏は三澤氏の発言を」から続く文章)
批判をもって紹介しております。幣社はその江波戸氏の立場を支持いたします。もちろん、江波戸氏の批判はなまぬるいという批判もありましょうが、引用紹介された発言についての批判がなまぬるいから引用箇所を訂正・削除すべきであるという考え方には立ちません。
『太陽』という雑誌は、直接的に差別問題をテーマにした雑誌ではありませんが、差別を認めたり、差別を助長したりする立場に与くしたいとは考えておりません。三澤氏の発言が、引用文中であるにせよ、御不快を与えてしまったことについては事実であり、残念に存じます。今後このようなことが生じないように細心な注意を払って編集作業に当たりたく存じております。
以上が幣社の考えでありますが、これをもって「抗議文」に対する「回答」とさせていただきたく存じます。
末筆ながら貴連絡会議の今後の御発展を念じ上げます。敬具
十二月十一日
大沢正道
全国障害者解放連動連絡会議
中川一二三様
続発するマスコミの差別事件
ヴァンサンカン差別記事糾弾闘争を終えて
全国事務局
婦人画報社(ヴァンサンカン)糾弾闘争は、四月一五日の糾弾会で確認した五項目要求の最後の一つである啓発記事(ヴァンサンカン、一〇月号、一一月号、一二月号)の発行をもって大きな節をつけました。
私たち全障連は、このヴァンサンカン糾弾闘争を取り組む前に全体で確認したことは形式的な闘争に終わらせずに、真に差別的な社会意識を根本から変革していく闘いの一環として位置づけ、障害連と視労協との障害者団体共闘をめざしたそして、この闘いを通し、差別社会そのものの変革を求め、障害者抹殺と同時に進められる国家主義的「統合」との対決をうち出しました。そのために、女性をはじめ被差別人民の、共闘の必要性も確認して※(校正者注:※は穴あけパンチが空いて判読不能)ました。
こうした位置づけをもってたたかわれた、この糾弾闘争を以下の四点にわけて簡単に総括をしていきたいと思います。
第一には、婦人画報社に対し社会的責任を充分認めさせたことであります。すなわち私たちの五項目を全て婦人画報社に認めさせたことであります。
第二は、婦人画報社の社
p16
会的責任とともに差別・記事を監修した三名の医師に対する糾弾行動を不充分ながら貫徹したことであります。とりわけ、あの宇都宮病院事件で明るみになった「精神障害者」虐殺、病院=東大精神科癒着の大悪人である浅香昭雄東大講師に徹底糾弾を勝ち取ったことであります。体制の権威をかさに、障害者抹殺イデオロギーを公然と広め、自ら障害者に直接手を下す彼らに、今後も糾弾していかなければなりません。
第三は、このヴァンサンカン糾弾闘争を、全障連・障害連・視労協の三団体で実行委員会を作り、反優生思想の立場で最後まで闘い抜いたことであります。
第四は、優生保護法に反対する闘いのなかで、これまで共闘が困難であった女性解放※(校正者注:※は穴あけパンチが空いて判読不能)闘っている八二優生保護法改悪阻止連絡会との問で糾弾闘争が共同で進められてきたことです。それは、この差別記事が障害者差別を通じて女性差別を行うという構造的なものであったため、障害者団体との共闘が可能になったし、またそのように私たちが認※(校正者注:※は印字が消えていてが判読不能)たからに他ならないのであります。
私たちは、このヴァンサンカン糾弾闘争を「勝利」的に闘い抜いたと考えます。しかし、真の「勝利」とは社会的差別の除却であるわけであり、その意味においてはほとんど何も変っていない。なぜならば、この糾弾闘争を進めている間にも日本テレビ「ルックルックこんにちは」の差別発言、全逓新聞差別マンガ事件等々差別事件が続発してきて
写真省略
おり、むしろ社会的差別は強化されてきているのです
最後に、私達は、この糾弾闘争の教訓を一人ひとりの生活の中に返していき、優生保護法、母子保健法等々の障害者抹殺攻撃との願いを反優生思想の闘いとして進めていきたいと思います。
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p17
ショート時評シリ一ズ=
「障害の発生予防」の現実
障害者抹殺の論理と現実~その1~
石川憲彦氏
写真省略
「障害の発生予防」の問題はものすごく難かしいなと思ったんです。なんで難かしいかと言うと、「障害の発生予防」と言う時に、国際障害者年でも「障害の発生予防」にいろんな項目が出てくる。その中で最大のものは戦争・事故・飢えのようなものであると言われている。
そうすると「障害の発生予防」はものすごくキナ臭いものを含んでいるわけですが、日本の場合に例えば「交通事故をなくすことが『障害の発生予防』につながる」という言い方をされると、「障害の発生予防」はひどい話だと言う時に、「では交通事故をなくすのはいけないことですか」と反論されて口ごもらざるをえなくなるところがある
つまり、交通事故をなくす、戦争をなくす話は私たちも基本的に賛成ですが、そのことが「障害の発生予防」と言われると、それはちょっと違うんではないかと感じるところがある。
「障害の発生予防」と言う時にいろんな文脈で言われるがゆえに、「『障害の発生予防』はすべてナンセンスである」とすぐに言いにくいところがあるんですが、しかしそこで一つ考えておかなければならないことがあります。交通事故を防ぐとか、戦争をなくすとか、飢えの問題、これは人類みんなの問題だと言えます。その人類みんなの問題を「障害の発生予防」という言葉に置き換えてくるところに問題が起こってくる気がします。
これは、例えば「障害の発生を予防」するために障害をもっている赤ちゃんを堕ろすのとは違うんです。どう違うかと言えば、その時の「障害の発生予防」は明らかに、ある特定の人間・特別にされた個人とかのまとまりを指してそれを「予防」するわけです。そのことと、どの人間も抱えてる問題について同じように立てることは間違っている。
そこで私たちの気がつくことは、問題を特別化していく方向と、反対に一般化・普遍化していく方向とを見極めていくことが大事なんではないかということです。
ところがは現実には障害者解放運動にたずさわっている人にもこのことの混同がものすごくある気がします。例えば・千葉で自立運動に参加しようとしている筋ジストロフィー症の人と話をしたことがあります。
その人の場合20才を過ぎていて、筋ジストロフィー症の病気の一つの流れとして、自分の命が後限られていると感じている。それで「施設に居るんだけれども、そこから出たい。施設の中で生きていることから解放されたい、ぶち破っていきたい。ただ筋ジストロ一
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フィー症の障害者にとって施設を出るのはとっても厳しいことなんだ」と僕に言うわけなんです。
どうしてかと言うと、筋ジストロフィー症の場合に物を食べていると、それがすぐにノドにひっかかる。かむ力が弱い。はく力が弱い。それで呼吸ができなくなって命がなくなる。そういう形で命をなくしていくことが多いわけです。だから「筋ジストロフィー症の専門施設に居れば、そういう事態が起こっても直ちに救ってくれる医療がある。施設を出るのは死ねって言うのとほとんど同義語である。これは他の障害者が施設によっててまもられている、命を賭けて施設を捨てて出るよりももっときつい。明日にでも起こるような命の危険を犯して出ていくことがきつい。だから筋ジストロフィー症の障害者にとって専門医療がすぐ横にあることが街に出ていく前提なんだ」と言うわけです。
私はそこで「それは違うんじゃあないか」言ってケンカになったんです。どういう話かと言うと、物がノドにつっかかったために息ができない状態は筋ジストロフィー症の専門の話とは違うんです。例えば赤ちゃんとか、老人とか、あるいは筋ジストロフィー症でなくても他の車イスの障害者にも同じ問題は横たわっています。しかもノドに物がひっかかってそれを取り出す技術、これは医療の中の一番一般的な救急医療の原則なわけです。こういう技術は誰が一番うまいかというと、筋ジストロフィーの専門家と言われる医者ではなくて、一般の救急医療をやっている街の外科医であったり耳鼻科医なわけです。たいてい施設の専門家というのはこういう技術は一番ヘタなんです。なぜかというと、専門家というのは一生懸命顕微鏡をのぞいたり、物を調べたりして、また専門家なわけで、それよりは毎日日常茶飯事に救急医療にあたっている医者の方がよっぽど物がノドにつっかえた時に助けるスベはうまい。
そうすると、彼が言っていたのは、救急医療の一番原則的な医療が今の日本の医療の中には身近にない。そのために命の危険な人間がいるんだという話なわけです。決して筋ジストロフィー症の専門の医療がないから外に出られないのではなくて、どの人間にとっても安全な救急医療体制がないから障害者が街に出れないんだと思います。
ところがそこが一つの違いで、どの人間にとっても基本的な要素として問題を把えるのか。それとも自分たちにとって特別な問題と把えるのか。さっき言った「交通事故をなくすのが『障害の発生予防』だ」というように特別の問題にされていくのか。みんなの問題にされていくのか。このことを一つ、特殊化の方向よ普遍化の方向として考えておきたいと思います。
*この欄は、全障連解放講座84(第4期)=「『障害をもつ』ことにこだわる」の第3期目に「『障害の発生予防』ーウソとホント」のテーマで、石川氏に講演をいただいたものを収録しました。編集・文章の責任は出版部にあります。
裏表紙(奥付)
全国闘争の案内
1月13・14・15日 全障連幹事・合宿(日本平ロッジ・静岡鉄道職員センター)
1月14日 石川重朗君の飯田東小学校転校闘争・静岡県教育委員会抗議行動(午前8じ~午後5時・静岡県庁)
*全国出版部連絡員会議(午後9時~11時・静岡国鉄職員センター)
2月17・18・19日 赤堀差別裁判糾弾・刑法改悪―保安処分新設粉砕・拘禁二法国会上程阻止中央行動
2月19日 監獄二法国会再上程阻止!刑法改悪・保安処分粉砕!総決起集会(6時30~ 文京区民センター)=実行委員会
2月24日 障害児と共に生きる親の全国交流集会(静岡)=予定
3月3日 赤堀差別裁判糾弾・再審実現全国総決起集会(静岡)
3月4日~ 石川重朗君の飯田東小学校転校実現連続実力闘争
挿絵省略(校正者注:プラカードを持った人物の挿絵で、プラカードに「1985年今年もよろしく全国出版部Z」と記載がある)
全国障害者解放運動連絡会議
No.46
全国機関誌発行日/1985年1月1日
連絡先/大阪市東成区中本1丁目3―6
ベルビュー森の宮215号
TEL 06―974―0971
月1回発行 頒価 \150
年間定期購読 \1,950(郵送料込)
郵便振込 大阪6ー57342全障連全国出版部
作成:山口 和紀