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予防接種関連・新聞記事(1980年代)

preventive vaccination



1984/12/18 朝日新聞朝刊

インフルエンザにご用心 患者もう6000人

 この冬初のインフルエンザ情報を十七日、厚生省が発表した。集団発生による患者数は八日現在、九都道府県で六千三百六十一人。最近六年間の同時期の発生状況と比べると、昨冬の九千六百十五人に次いで多い。同省は「この段階では、どんな流行になるかを予測できないが、暖冬傾向から急に冷え込みがきつくなっており、注意が必要」と、予防接種やうがいなど呼びかけている。
 今シーズンの集団発生は、十月二十五日、青森県の小学校が最初。以後、北海道、神奈川、東京、大阪、岩手、山梨、埼玉、奈良の各都道府県の学校、保育所、幼稚園などから発生報告があった。このうち、休校は二十五校、学年閉鎖が十三校、学級閉鎖が四十六校。ウイルスは四件が分離されており、三件までがB型で一件がA香港型。




1985/01/26 朝日新聞朝刊

インフルエンザB型大暴れ 学級閉鎖、各地で続出

 インフルエンザが、今週に入って、首都圏などで猛威を振るい始めている。今シーズンの流行はB型。厚生省は、かかったら早めに医師の診察を受けるよう求めるとともに、今からでもワクチンの予防接種を受けるよう呼びかけている。
 厚生省が二十五日にまとめた先週末までの発生報告では、全国の小、中、高校や幼稚園、保育所などでインフルエンザにかかった患者は、昨年十月下旬以降の総計で二万二千五百二十人、うち一万五百四十二人が欠席した。中程度の流行だった昨冬の同じ時期と比べて、患者数で24%、欠席者数で28%と、かなり少ない数だった。
 ところが、首都圏などでは、今週に入って、様相が一変している。神奈川県は、先週末までの欠席者が千八百二十六人にとどまっていたのに、今週は二十四日までの四日間だけで一万二千九百四十一人という激増ぶり。同様に、千葉県は先週末までの欠席者三百九人、今週は二十五日までに三千百七十二人。埼玉県は四百五十八人対三千二百三十五人、群馬県は千百三十二人対四千七百八十三人、山梨県は二百七十八人対二千百三人−−といった具合。先週まで欠席者ゼロだった栃木県や静岡県でも、今週はそれぞれ三百十六人、百五十二人が欠席している。
 東京都はまだ今週の欠席者数の集計ができていないが、先週末までで百八十五校、三百二十二学級だった臨時休業が、今週の四日間だけで四百四校、千六百七十学級も出ている。首都圏以外でも、愛知県で先週末までゼロだった欠席者が今週は百十九人、福岡県では九人対百八十二人。大阪府では、欠席しないが症状のあった人も含めた患者数の比較で、八百八十九人対千四百二十五人となっている。
 厚生省は「厳しい寒さに加えて、太平洋側ではカラカラ天気が続いており、今後、猛威を振るう恐れは十分」とみている。




1985/06/22 朝日新聞夕刊

インフルエンザなど感染症情報、郵便から電算機集計へ 61年度から

 全国の主な医療機関、保健所と都道府県、厚生省をコンピューターで結び、感染症・結核の全国的な流行状況を即時につかんで都道府県に知らせるシステムを、厚生省が来年度から発足させる方針を決めた。現在の感染症サーベイランス(監視)事業は、全国から流行情報を集めたり、集計した情報を送り返す手段を郵便に頼っており、流行ぶりに見合った素早い対策をとるには限界があった。コンピューターの導入でインフルエンザなどの広がりを刻々つかみ、早めの予防接種を進めるなど情報化時代に見合った予防体制を確立しよう、というのが同省のねらい。情報処理能力が高まるため、監視対象の病気の種類をふやしたり、監視網をきめ細かくすることも可能になる。
 厚生省の計画によると、そのあらましは
(1)厚生省−都道府県−保健所をオンラインで結び、流行情報の集計、伝達の速度を早める
(2)集計したデータを、流行度に応じて何段階かの色に置きかえ、お天気のアメダス画像のように一目で各種の感染症の「流行前線」がわかるようにする
(3)この監視網には結核情報を組み入れるほか、これまでの18の感染症に加えてインフルエンザ、肝炎なども新たに監視対象にする
(4)観察医療機関も855カ所ふやす、など。




1986年11月11日 朝日新聞朝刊

インフルエンザ予防接種は有効 公衆衛生審が見解発表

 今年もインフルエンザの流行時期を迎えるが、厚生省の公衆衛生審議会インフルエンザ小委員会(委員長、大谷明・国立予防衛生研究所ウイルスリケッチア部長)は10日、「インフルエンザの予防には、やはりワクチン接種が最も有効」との見解をまとめ、発表した。同委がこの種の見解を、改めて発表するのは異例だが、大谷委員長は「最近、市民団体などから色々な意見が出ており、予防接種の効果について誤解を招く恐れもあったため」としている。
      
 意見書ではまず、「インフルエンザの症状が重くなれば、肺炎のほか『脳症』などを起こす恐れもあり、予防対策が後退すれば大きな社会的影響を及ぼす」と指摘、「いまのところインフルエンザに対する有効な予防手段はワクチン接種しかない」と結論づけている。ただし、インフルエンザウイルスは変異を起こしやすく、ワクチンに用いるウイルスと流行するウイルスとの型が合わない場合は効果が弱まるので、型を一致させる努力は今後も必要、としている。
 また大谷委員長は、「ワクチン製造の段階で、翌年に流行するウイルスの型をまだ完全に予測できないのは事実だが、副作用などは大幅に改善されており、現在用いられている各種ワクチンの中でも一番安全なのがインフルエンザワクチンだ」とも説明している。
 インフルエンザの予防接種については、54年に前橋市内で接種を受けた子どもがひきつけを起こしたことがきっかけとなり、同市医師会が55年以来、小中学生や幼稚園、保育園児へのワクチン集団接種を中止している。その後各地の父母や市民グループの中から、集団予防接種の義務づけやワクチンの効果などに対する疑問の声が上がっていた。
 今回の意見書は、このうちワクチンの有効性に関して答えるのが狙い。51年以来、児童、生徒たちに義務づけている集団予防接種を今後どう取り扱うかなどについては、現在、同省の「インフルエンザ流行防止に関する研究班」で検討を続けており、今年度末には結論を出す予定だ。
 同省によると、現在わが国でインフルエンザワクチンの予防接種を受けているのは約1500万人。今年は、すでに各地で接種が始まっている。




1986/11/11 読売新聞東京朝刊

インフルエンザ予防手段 現状ではワクチンだけ/審議会小委見解

 インフルエンザの流行シーズンを前に、厚生省の公衆衛生審議会インフルエンザ小委員会(委員長=大谷明・国立予防衛生研究所ウイルスリケッチア部長)は、十日、「万全ではないが、インフルエンザに対する有効な予防手段は、ワクチン接種しかない」という見解を発表した。最近、予防接種の効果を疑う声が出ており、見解は、これにこたえる異例の措置。だが、同省は、とくに批判のある児童や生徒などを対象にした集団予防接種のあり方も含め、「インフルエンザ流行防止に関する研究班」(班長=福見秀雄・前長崎大学長)に予防対策の抜本的な見直しを求めることにしている。
 インフルエンザの社会全体への流行を防ぐため、三十七年にワクチンの集団接種が始まり、五十一年から法律による義務接種となった。毎年、保育所や幼稚園の園児や小、中学生など約千五百万人が受けている。
 しかし、ウイルスの型が毎年のように変わることやワクチンの免疫効果が比較的短いことなどから、多い年では百万人を超えるインフルエンザ患者が発生する。このため、医師や市民団体などの間から予防接種の効果を疑問視する声が出てきた。
 これに対し、小委員会の見解はまず、「インフルエンザは医療の発達した現在でも、死亡の大きな原因となっている。肺炎のほか、脳症、心筋炎などを併発する恐れがあり、予防対策が後退すれば社会的影響を及ぼす」と説明した後で、「いまのところ、有効な予防手段はワクチン接種しかない」としている。
 その効果について「ワクチンに用いるウイルス株と実際に流行するウイルス株の類似性の度合によって、弱まることはあるが、予防接種の効果は多数の研究によって証明されており、疑問の余地がない」としている。大谷委員長は「不十分であることは認めざるを得ないが、六〇―八〇%の効果はある」としている。




1986/11/13  朝日新聞朝刊

消費者団体、予防接種有効の根拠求める

 厚生省の公衆衛生審議会インフルエンザ小委員会が、先に「インフルエンザ予防にはワクチン接種が最も有効」と発表したことに対し、日本消費者連盟(竹内直一代表委員)など3団体は12日、同委に
(1)有効と判断する根拠となった研究業績を公開せよ
(2)もし公開できないなら今回の発表を撤回せよ、
などと申し入れた。
 申し入れでは、「インフルエンザ予防接種が有効だと納得できるデータを示さないまま、一方的に『有効である』と発表するのは、専門家としての責任放棄」と指摘。今月22日までに委員会として回答するよう求めている。




1986/11/13 読売新聞東京朝刊
インフルエンザワクチン接種 厚生省見解撤回を 消費者連盟と日教組

 インフルエンザの予防手段をワクチン接種に求める見解を打ち出した厚生省に対し、日本消費者連盟(竹内直一・代表委員)は十二日、「納得できるデータの提示がない」と、撤回を申し入れた。一方、日教組は各都道府県教組に対し、「学校での集団予防接種の中止に向けて交渉をするように」と指示している。
 厚生省の公衆衛生審議会インフルエンザ小委員会(委員長=大谷明・国立予防衛生研究所ウイルスリケッチア部長)はさる十日、「万全ではないが、いまのところ、インフルエンザに対する有効な予防手段はワクチン接種しかない」と発表。異例の見解の背景について「最近、市民団体などから予防接種の効果を疑う声が出ており、このままでは誤解を招く」と説明した。
 これに対し、日本消費者連盟の竹内代表委員、日教組養護教員部の三橋敦子部長らは、「見解には、有効性を立証するデータが示されていない。ことし一月のインフルエンザ小委でも、ある委員はワクチン接種が集団的流行に効果があるという研究はないと指摘している」と反論。効果を示すデータを公開できない場合、見解を撤回するよう申し入れた。




1986/11/14 読売新聞東京朝刊

前橋市が中断措置継続へ インフルエンザの集団予防接種(解説)

 厚生省公衆衛生審議会がこのほど「インフルエンザの予防にはワクチン接種しかない」と異例の発表をしたが、55年以来集団予防接種を中断している前橋市は今後も方針を変えない考えだ。 (前橋支局 玉井 忠幸)
 前橋市では、五十四年にインフルエンザ予防接種を受けた市内の子どもがひきつけを起こしたのをきっかけに、市医師会と市との協議で「副作用の危険を冒してまで効果のはっきりしない集団予防接種を続ける必要はない」と、五十五年から小中学生への接種を全面的に取りやめている。集団接種中止の影響について翌五十六年、市医師会(生方璋会長)は研究班を発足させた。
 研究班の結論は、来月末にも最終報告書として出るが、今回のワクチン“接種励行”の呼びかけにも態度を変更しないのは、これまでの研究結果を受けたことによるものといえる。
 研究班では、さまざまなデータを分析しているが、そのうちの一つ「各市小学生の罹患(りかん)状況」(別表)が興味深い。つまり、接種を行わないからといって前橋市の小学生がインフルエンザに余計にかかっているとはいえないようなのだ。
 他の分析結果も含めて、同研究班では「ワクチンに多少の効果を認めたとしても、それが社会的、集団的な流行の防止に有効であるとはいえない」としている。
 厚生省では、これまで県を通じて予防接種法に基づく集団接種実施を前橋市に指示しているが、同市でも「希望者に対する任意接種は受け付けており、問題はないはず。市医師会の判断を尊重したい」(保健衛生課)と行政の独自性を強調する。
 今回の厚生省の発表に、同医師会の生方会長は「ワクチンそのものが全く効き目がないと言っているわけではない。発育段階にある子供たちに毎年、異種タンパクであるワクチン注射をして『流行の防波堤』にしようという国の考えには同意できない」と主張する。
 今年もインフルエンザの流行期が近づいた。各地の予防接種は今がピークだろうが、インフルエンザ・ウイルスの性質が変異しやすいこともあって、毎年の流行予想に基づいて接種されるワクチンの型は、必ずしも実際に流行するインフルエンザの型に合致しているとはいえない。
 今年度末には「インフルエンザ接種法定化十年をきっかけに、これまでの接種のあり方を振り返る」(厚生省感染症対策室)というが、このような一地方の医師たちの研究と行政の対応が、国の施策にどう影響するか、推移を見守りたい。




1987/02/22日 朝日新聞朝刊

インフルエンザ集団接種の見直し求めてネットワーク

 小、中学生のインフルエンザ集団予防接種に、「効果が証明されておらず、大人のためにと子どもに強制し続けているのはおかしい」と反対している全国の市民グループが、21日、東京・高輪の国民生活センターに集まり、運動の全国ネットワークを結成した。
 厚生省が昨年夏、検討班を設け、集団接種を見直すのか、どうか、近く同班の結論が出るため、この時期に、反対運動側の声をまとめようという狙いだ。
 また、この日は、54年度に集団接種をやめ、以来、世界にもあまり例がない大規模な疫学調査を続けてきた群馬県前橋市医師会が、1月にまとまったばかりの報告書を紹介。
 「集団接種を中止しても、大人を含めての患者発生は他地域と変わらなかった」「子どもは実際に感染することによって高い免疫を身につけ、しかも3年ほどその効果が続いた」「健康な子にはワクチン接種は利益にならない。それを集団強制接種することで、社会を守るという政策も裏付けがない」という内容に、会場からは「この調査を国の検討班はどう評価するつもりだろう」という声が出ていた。





1987/02/22 毎日新聞東京朝刊

インフルエンザ予防接種の中止求め全国組織結成

 「事故、後遺症の危険があり、予防効果が薄い」として、児童へのインフルエンザ集団予防接種の中止を訴えている全国各地の二十七団体、約百人の代表が二十一日、東京港区の国民生活センターに集まり「インフルエンザ全国ネットワーク」を結成した。

 集会では、五年前から集団接種をやめている前橋市の医師会関係者が「接種者と非接種者の過去五年間のデータを分析した結果、予防効果が薄いことが判明した」と報告。今後、厚生省に接種中止を働きかけていくことを決めた。




1987/03/01 朝日新聞朝刊

インフルエンザ集団接種の効果に疑問 予防体制を再検討へ 

 インフルエンザ予防体制を検討している厚生省の「インフルエンザ流行防止に関する研究班」(班長・福見秀雄長崎大前学長)で、現行の学童・生徒に対するワクチン強制集団接種について医学的な根拠は疑問、とする中間報告が28日までにまとまった。「研究班」は接種が義務化されて10年経たのを機に昨年厚生省が設けたもので、集団予防接種の根拠と効果に本格的な検討が加えられたのは初めて。最終報告は3月末までに厚生省に提出され、これを受けて厚生省は予防体制の再検討に入る。インフルエンザワクチンはワクチンの全売上高の半分近くを占めており、業界などへの影響は大きい。
    
 集団接種の医学的根拠については3つの中間報告がまとめられたが、ワクチンの効果を明確に否定しているのは、国立公衆衛生院の籏野脩一疫学部長の報告。籏野部長は集団接種を昭和55年から中止している前橋市と熱心に推進している隣接の高崎市などを比較し、同じ診断基準を用いた比較では、両地域の間に発症率の相違は認められない、などと「学童を対象とする現在の予防接種を中断しても、地域におけるインフルエンザの流行や学校内の感染ないし発病の危険を増大することはないと考えられる」と断じている。
 またワクチンの効果に関する外国文献を検討した大谷明・国立予防衛生研究所ウイルスリケッチア部長と杉浦昭・麻疹ウイルス部長の報告は、「ワクチンが被接種者個人に与える恩恵」と、「集団免疫効果」とを分けて検討。被接種者個人に関しては「発病あるいは重症化を防ぐのに有効」とした。しかし有効さの程度は「ワクチン株と流行ウイルスとの間の抗原性の差異の大きさ(いわゆるウイルスの型が合うかどうか)、ワクチン接種から流行までの間の時間的間隔、被接種者の年齢及び過去の抗原刺激の既往歴(インフルエンザに感染したことがあるか否か)等によりかなり変動する」と効果に不定の部分があることを認めている。
 「集団免疫効果」では、集団免疫の有効性を裏付ける唯一の報告であるアメリカの研究については、方法が「疫学的に妥当であるか否か」が疑問と評価。「明らかに認められるほどの集団免疫効果は余り期待しえないと思われる」と、結論づけている。
 一方、国内文献を検討した加地正郎・久留米大医学部教授の報告は、接種を受けると「り患防止」「症状軽減」などの効果がみられるとし、今後の施策として「学童、生徒への接種率を高め、70%以上を確保」「高齢者やハイリスク群(老人などインフルエンザにかかると死亡率が高い人)への接種を積極的に」などと提言している。
 これで、ワクチンの効果についての医学的検討をした3報告のうち2報告までが集団接種には疑問をもつ結果になった。
 同研究班のこれ以外の研究テーマは現場医師の意識、法的基盤、ワクチン生産体制に関するもの、となっている。
 報告の内容について籏野部長と加地教授は「内部的な中間報告なのでコメントできない」としている。
 しかし研究班の成果を踏まえて行政的対応を検討する公衆衛生審議会インフルエンザ小委員会の責任者でもある大谷部長は「ワクチンの能力に限界があり、接種した人の発症をある程度抑えることはできるが、ウイルスの排出までは抑えきれない。従って社会の流行を抑えるのは難しい、ということになる。接種を義務として押し切るのには無理がある。しかし接種を希望する人が受けにくい状況になるのも困る。これからそのあたりを総合的に判断することになるのではないか」と話している。
       
 伊藤雅治・厚生省感染症対策室長の話 現在は研究班の中の5つのグループが、それぞれとりまとめの作業を始めているところだ。今後各グループが見解を持ち寄って全体討議をすることになる。だから研究班としての判断はいまの段階ではまだまとまっていない。
    
 〈注〉集団免疫 インフルエンザ集団接種の根拠とされる理論で「社会防衛」ともいう。流行の拡大に学校や幼稚園が大きな役割を果たしている、とみて、ここでの流行を抑止すれば社会全体の流行を抑える効果をもつ、とする。インフルエンザは、健康な子供にとっては必ずしも恐ろしい病気ではない。しかし、老人や心臓などの病気をもつ人がインフルエンザにかかった場合には、肺炎などを併発して死に至る場合もある。そこで健康な子供を「防波堤」にして老人や病人を守ろうとするものといえる。





1987/05/17 毎日新聞東京朝刊

インフルエンザ集団予防接種見直しの厚生省研究班が結論出せず

 インフルエンザ集団予防接種の効果について見直しを進めていた厚生省の「インフルエンザ流行防止に関する研究班」(座長、福見秀雄・国立予防衛生研究所名誉所員)が、研究班としての結論を出せないまま議論を打ち切り、報告書の作成は座長預かりとなっていたことが十六日わかった。研究班では集団接種の効果への疑問が多く出されたが、厚生省は「効果がゼロという意見はなかった」と、最終的には接種継続となる見通しを明らかにしている。ただし、現行の強制接種については見直しをし、何らかの任意制を盛り込むことになりそうだ。

 インフルエンザの予防ワクチンは、十七年前に副作用の少ない改良型ができたが、それ以後も六十件以上の事故が報告されている。また、集団接種には周囲への感染を抑える効果はない、との研究結果も相次いで発表された。そこで、厚生省はインフルエンザ予防体制を再検討するため、昨年研究班を設けた。

 研究班は医師、国立研究所員ら十二人のメンバーが五つの分科会に分かれ、「学童集団予防接種効果に関する評価」「ワクチン効果についての文献」などのテーマで検討した。その結果、集団接種の効果では「現在の集団予防接種を中断しても、インフルエンザの流行の危険が増すことはない」との報告が出された。文献評価でも「集団免疫効果はあまり期待できない」と、効果への否定的見解が示された。

 だが、ワクチンメーカー側の班員からは「インフルエンザの積極的な予防法にはワクチンしかない。学童だけでなく、成人や高齢者にも接種をすべきだ」と強硬論が出た。研究班の意見は三月中にまとめることになっていたが、結局四月二十七日までずれ込み、そこでも結論が出なかった。このため、最終的には座長預かりという、省庁の研究班としては異例の形になった。

 班員の一人は「なんとなく座長一任ということになった。後は厚生省と座長で最終報告書をまとめることになるのだろうが、これでは何のためにわざわざ研究班を作ったのかわからない。集団接種の効果を否定するデータも出たのだが」と、中途半端な状態で議論が打ち切られたことに不満を示す。

 別の班員も「メーカー側の委員が継続に積極的で、班としての方向性は一本化できなかった」という。だが、福見座長は「私としてはある程度意見が一致したと考え報告書を作っている。効果がないという意見が大勢を占めたとも思っていない」と少し違ったニュアンスで語る。

 一方、厚生省は「最終報告書はまだ受けとっていないが、われわれとしてもその前に対応を考えておく必要がある。研究班では゛効果は全くない゛という意見はなかったが、強制的な集団接種には見直しを求める意見があったので、検討するつもりだ」(感染症対策室)としている。




1987/05/24 朝日新聞朝刊

「流感ワクチンの評価早く出せ」 集団予防接種反対集団が集会

 厚生省の「インフルエンザ流行防止に関する研究班」の最終報告提出が大幅に遅れているため、子供へのインフルエンザ集団予防接種に反対している「インフルエンザ全国ネットワーク」が23日、東京都千代田区で集会を開いた。研究班が2月下旬までに集団接種の効果を疑問視する内容も含む中間報告をまとめながら、最終報告が予定の3月下旬を過ぎても同省へ提出されていないため、結論がうやむやになることを警戒、今後の対処の仕方を話し合おうと開き、「ワクチンの社会防衛効果についての判断を、ワクチンメーカーの事情に左右されず、早急に公表せよ」と決議した。



1987/06/03 読売新聞東京朝刊

厚生省、今冬の流感ワクチン株を決定 集団接種反対派は反発か

 厚生省は二日までに、今冬流行するとみられるインフルエンザの予防ワクチンのタイプをAソ連型、Aホンコン型、B型の三株混合と決め、各都道府県とワクチンメーカーの団体である細菌製剤協会に通知した。メーカー七社は秋までに約千五百万人分のワクチン製造に取りかかるが、学童・生徒を対象にしたインフルエンザの集団予防接種は、その有効性をめぐって、厚生省の研究班が強制的な集団接種を継続するかどうか検討中。結論が出る前のワクチン株の決定に対し、集団接種反対グループからは反発が出そうだ。




1987/06/12日  朝日新聞朝刊

集団接種続ける方向 インフルエンザ・ワクチンで最終報告案

 インフルエンザの予防体制を検討してきた厚生省の「インフルエンザ流行防止に関する研究班」(班長・福見秀雄長崎大前学長)の最終報告案が11日までにまとまった。先の「学童・生徒に対する現行の強制集団接種は、医学的な根拠は疑問」とした疫学検討の中間報告がほとんど生かされない内容で、「少なくとも学校保健上は成果がある」と、学校での集団接種を存続させる方向だ。最終報告は、福見班長によれば「班全体の見解をまとめて」作成したが、疫学検討の中間報告が班員間の正式な討論もなく修正された結果となった。
 最終報告案は、インフルエンザ・ワクチンは、個人を感染から守る効果がある、としたが強制集団接種については、接種によって感染を防げば、接種しなかった人の感染も間接的に防げる、という「集団防衛効果」は判断の材料が十分でないとした。しかし、それでも(1)学級閉鎖が減るなど、学校保健上の成果はある(2)集団接種を中止した時、流行が増加する可能性も否定できない、などの理由から集団接種存続の方針を残した。
 これは、国立公衆衛生院の籏野脩一疫学部長が、群馬県前橋市の調査などから出した結論と真っ向から対立しているが、最終報告は「前橋の調査は、厳密に検討すると不確実な点があり、全面的に採用しがたい」としている。
 この報告を受けて、厚生省は今秋の集団接種を続行する見込みだが、特に批判のあった強制接種については、「希望者」だけに接種することも検討している、という。
 最終報告は、4月27日の最終会議で各班員の報告が出そろったにもかかわらず、長い間まとまらずにいた。その間、厚生省からは班員に報告の修正を求める働きかけもあった、と証言する班員も多い。厚生省が政治的な決着を図ったとみられ、研究班のあり方と厚生省の姿勢に対して議論が起こりそうだ。今後、報告は公衆衛生審議会のインフルエンザ小委員会に提出される。
 研究班の1人で集団予防接種に対する評価を受け持った群馬県医師会の佐藤秀氏は「報告案を見ていないので何とも言えないが、我々の提出した報告の結論とかなり違いがある」と言っている。
                                    
      
 論議の経過は承知
 厚生省の伊藤雅治・感染症対策室長の話 私自身は、研究班の議論の経過は承知しているが、報告書をまだ受け取っていないので、内容に関しては何も申し上げることができない




1987/06/13 朝日新聞朝刊

インフルエンザ・ワクチン集団接種「逆転」の舞台裏(時時刻刻)

 疫学調査の評価で対立 厚生省が修正働きかけ? 流行時の対応を心配
      
 厚生省の「インフルエンザ流行防止に関する研究班」(班長・福見秀雄長崎大前学長)の最終報告案が11日までにまとまった。しかし、その内容は、子供の健康に関心を持つ親や医師ばかりでなく、検討に加わった班員をも驚かせるものだった。先に同班に出された「強制集団接種の医学的根拠は疑問」とする疫学部会の中間報告が大幅に修正され、今回の研究課題のかなめとなる群馬県の調査に対する評価が一転したためだ。(インフルエンザ取材班)
         
 同班が活動を始めたのは昨年夏。班長を含む12人のメンバーが5部会に分かれて内外の資料を検討、今年3月末にはその結果を公衆衛生審議会のインフルエンザ小委員会に提出する予定だった。
 ところが、班の内部で、主として強制集団接種を続けることの是非をめぐって意見が対立。4月27日の最終会議でも結論が出ず、福見班長預かりという異例の形になった。その後、今回の最終報告案がまとまるまで、班会議は一度も開かれないまま。最終的な意見調整は、「密室」の場に移された。
 その中で焦点となったのは、国立公衆衛生院の籏野脩一疫学部長、群馬県医師会の佐藤秀氏が2月に同班に提出した疫学検討リポート。この分科会では、集団接種を昭和55年から中止している前橋市と、熱心に推進している隣接の高崎市などの調査を比較・検討することに主眼を置いた。籏野部長らの結論は、両市の間で発症率の相違は認められず、「学童を対象とする現在の集団予防接種を中断しても、地域におけるインフルエンザの流行や学校内の感染ないし発病の危険を増大することはない」というもの。現行の強制集団接種に全面見直しを迫る内容だった。
 それが、最終案では、「集団接種は、学校保健上、ある程度の成果をあげている」という内容に一転。「群馬のような調査もある」と言及しながらも、「他地域にはこれに反する多くの調査報告がある」と、群馬調査を一蹴(いっしゅう)した。
 急転回の陰に、何があったのか。厚生省は、中間リポートが報道されて以来、班員にかん口令を敷いた。
 関係者の話では、疫学部会が4月27日の最終会議に提出した結論は、中間リポートをほぼ踏襲し、「接種により、ある程度の個人防衛効果を期待できるが、社会防衛の手段として接種を義務づける必要は薄い」という内容だった。これに対し、班員から「群馬の調査は方法論に問題がある」と異論が出された。福見班長は、班員の大勢が異論を抱いた、と判断。班長預かりとなった後、厚生省の担当者を通じて籏野部長らと個別に接触し、意見のすり合わせをした。その結果、疫学リポートは何度も書き直され、「結論」部分が「考察」に変わり、ニュアンスを弱められたようだ。
 この間の事情について、籏野部長は「何も言えない。ただ、『AだがBだ』というのを『BだがAだ』とするだけで、意味が変わりますよね。そのくらいのニュアンスの変化はありましたね」と言葉をにごす。複数の班員は、疫学分科会だけでなく、他の分科会でも厚生省から「働きかけ」があって、文章表現に手を加えたといっている。
 厚生省が現行接種にこれほど「配慮」する大きな理由の1つに、ワクチン業界の事情がある。
 もし集団接種が取りやめになると、業界の「ドル箱」が奪われ、他のワクチンの安定供給にも響きかねないためだ。現在、インフルエンザ・ワクチンは、国内7社のメーカーで生産している。細菌製剤協会によると、昨年の生産量は合計で1万7000リットル。あるメーカーの説明からこれを市町村納入価格に換算すると、約115億円余になる。
 各社ともワクチン売り上げの大半はインフルエンザ用が占めており、毎年確実に量がさばける強制集団接種は、長期の工程を必要とするワクチン製造の支えになっているのが実情。
 もう1つは、業界だけでなく、「減産すれば、いざ大流行の場合に対応できない」などの懸念が学者の問にもあることだ。
 しかし、本来研究班の使命は「客観的・学術的立場」にあったはず。「密室」での修正は、研究班への信頼さえも揺るがしかねない。福見班長は12日、自宅で「こういう会議をまとめる場合には、班長が取捨選択しないと意見がまとまらない。ともすれば政治的な配慮に左右されがちだが、長期的な視点こそ大切」というのだが……。
         
 研究班報告の主な変化
      
 ○死亡率
 [2月末の中間報告]
 前橋市と高崎市の間で超過死亡率の差は認められない
 [4月27日付の報告]
 昭和49年から58年までの間に、前橋市と高崎市の間に超過死亡率ないし死亡率の差は認められない
 [最終報告案]
 昭和49年から58年までの間に大流行がなかったこともあり、前橋市と高崎市の間に超過死亡率ないし死亡率の差は認められない
      
 ○ワクチン接種率と発症率
 [2月末の中間報告]
 学校を単位としたワクチン接種率と発症率との間に関連を認めなかった
 [4月27日付の報告] 
 学校を単位としたワクチン接種率と発症率ないし学級閉鎖率との間に関連を認めなかった
 [最終報告案]
 昭和59、60年の調査では学校を単位としたワクチン接種率と発症率ないし学級閉鎖率との間に明らかな関連は認められなかった
                                    
      
 ○副作用
 [2月末の中間報告]
 前橋市では昭和55年に接種に伴う事故を経験して以来、任意接種に切り替えた
 [4月27日付の報告]  
 同上
 [最終報告案]
 前橋市では昭和55年に接種によるものかどうか不明ながら1事故を経験して以来、任意接種に切り替えた
                                    
      
 ○まとめ
 [2月末の中間報告]
 <結論>現在の予防接種を中断しても、地域における流行や学校内の感染や発病の危険を増大させることはない
 [4月27日付の報告] 
 <結論>ある程度の個人防衛効果を期待できるが、社会防衛の手段として接種を義務づける必要は薄い
 [最終報告案]
 <考察>学童に強制的に接種することは適切でない。しかし現行の接種によっても相当数の者が恩恵を受けており、前橋市の様に完全に接種を中止することも疑問の余地はある




1987/06/14 朝日新聞朝刊

だれのためのワクチン注射か(社説)

 「インフルエンザの予防注射は、あまり効かないらしい」−−という話は、専門家の間では、公然の秘密であった。少なからぬ医師たちがわが子については注射を受けずにすむよう、学校への届け出の書き方を工夫してきた。確率は低いとはいえ予防注射に事故はつきものだからである。
 このワクチンが義務化されて10年経たのを機に、厚生省に「インフルエンザ流行防止に関する研究班」が設けられ、最終報告案がまとまった。公衆衛生審議会のインフルエンザ小委員会がさらに論議を重ねる。
 この論議がガラス張りで行われること、国際的な評価に耐えられる客観性と論理性の通った結果を出すことを期待する。なによりも、毎秋2回痛い思いをし、ときに副作用の危険にさらされるこどもたちの身になって論議してもらわねばならない。
 日本では昭和51年に予防接種法が改正され、3歳から15歳のこどもたちは、毎秋2回のインフルエンザ予防注射が義務づけられた。健康なこどもたちに義務づけている国は、いま、世界中で日本だけである。
 諸外国はなぜ義務づけないのか。
 こどもたちには、必要性が乏しく、効果があまりに少ないと判断しているからである。
 世界で広く用いられているワクチンは、2つの条件を備えている。第1は、かかると死の危険が大きいか、治ってもポリオのように後遺症を残すような病気のワクチンであること。第2に、その効力がはっきり証明されていること、である。
 日本で接種が義務づけられている健康な子どもは、インフルエンザにかかっても、学校を休むのは数年間に2、3日である。この程度の病気に対し毎年数百億円の費用をかけ、半日を奪って予防注射をする日本の行政は、諸外国から奇異の目で眺められている。
 しかも、他のワクチンに比べて効果が著しく低い。このウイルスは毎年新型に変身してしまうからである。そこで、ことしの冬はこの型が流行するのではないか、と予測して製造を始めるのだが、日本では、大量に生産するため、予測の時期がかなり早い。そのせいか、当たったことはめったにない。
 英国の公衆衛生学者たちが、全寮制の生徒たちの協力を得て7年間観察した調査がある。世界的に専門家の評価を得ているこの調査によると、予防注射を受けないグループも毎年受けたグループもインフルエンザにかかった率は同じであり、最もかかりにくかったのはかつて自然感染したグループだった。自然感染によって体が獲得する免疫は、ウイルスが少々変身しても対抗できるのだ。
 日本の「研究班」の疫学部会も同様の結論に達した。集団接種を昭和55年から中止している前橋市と熱心に推進しているお隣の高崎市を比較した結果、差はなかった、とことし2月の中間報告に記している。
 中間報告はさらに「現行の予防接種を中断しても、流行や感染や発病の危険を増大させることはない」とはっきり結論づけていた。ところが、最終案では、説得力ある根拠が示されぬまま結論があいまいにされている。
 こどもたちへの義務接種を打ち切れば、ワクチン製造業界は経営的な問題を抱えこむことだろう。原材料のタマゴを納入する業者も悲鳴をあげるに違いない。「効果あり」として接種を推進してきた厚生省もバツの悪い思いをするだろう。
 しかし、こどもたちは、効果の薄い注射を打たれずにすむ。税金の無駄遣いも減る。その予算を「本当に効くインフルエンザワクチン」の開発にあててほしい




1987/06/26 朝日新聞朝刊

インフルエンザ集団接種、結論は審議会に任せる 厚生省研究班

 児童・生徒への集団接種を義務づけている現行のインフルエンザ予防接種体制の再検討を続けていた厚生省の「インフルエンザ流行防止に関する研究班」(班長、福見秀雄・前長崎大学長)は25日、報告書をまとめ、同省の公衆衛生審議会インフルエンザ小委員会(委員長、大谷明・国立予防衛生研究所副所長)に提出した。報告書は、問題点の指摘にとどめ、「学童に画一的に接種を行う必要性は低いと考えられるが、大規模な流行の可能性も否定できず、慎重な配慮が必要」と、集団接種体制をどう改めるかの最終結論は同審議会の判断にゆだねた形だ。しかし、厚生省は「柔軟な対応もありうる」としていることから、当面今秋の接種は、義務接種の体制を残しながらも強制ではなく、児童・生徒や保護者の同意を得て行う接種方式に変更する公算が大きくなった。63年度以降の接種方法は、同審議会で今年度いっぱい論議を続け結論を出す方針だ。
     
 研究班は、
(1)インフルエンザワクチンの効果に関する文献的評価
(2)ワクチン接種医師の意識調査
(3)学童予防接種効果の疫学的分析
(4)集団接種に関する法体系と今後の体制
(5)ワクチン生産体制、
の5つのテーマについて検討した。
 ワクチン効果については、個人への効果と集団効果の2つに分けて分析。個人の発病防止効果は30−80%程度あるとし、肺炎などを防ぐ重症化防止効果も58%認められる、とした。しかし、一定以上の集団が予防接種を受けた場合、未接種の人も感染を免れるとされる「集団免疫効果」については、「確実に判断できる十分な研究データはない」と結論づけた。
 55年から集団接種を中止した前橋市と、現在も継続中の高崎市などとの比較調査では、「両地域間のインフルエンザ患者発生率の違いは認められない」とした。このため報告書は、「学童への接種を強制的に行うことは適切ではない」と述べる一方、接種者は発病後の症状が軽いことも指摘し、「前橋市のように完全に接種を中止するのも疑問の余地がある」との判断を示した。
 これらの検討結果から報告書は
(1)この10年間のインフルエンザの流行は規模が小さく、今後もこの程度の流行ですむなら重症化の危険の少ない学童に画一的な接種を行う必要性は低い
(2)しかし30年代のアジア風邪のように病原性の強いウイルスによる大規模な流行が起きる可能性も否定できず、社会不安を招かぬようインフルエンザ対策には慎重な配慮が必要
(3)高齢者や病弱者への接種対象の拡大、より効果と安全性の高いワクチンの研究開発も今後の課題、との結論をまとめた。
しかし現在の集団接種をどう改めるかについては、判断を示さなかった。
 報告を受けた公衆衛生審議会は来月以降、伝染病予防部会で今後の集団接種の進め方を検討する。当面は今秋の接種に備え、8月上旬には厚生省が各都道府県に通知を出す必要があることから、それまでにまず今シーズンの接種方法について結論をまとめ、続いて来年度以降の方式を協議する。




1987/06/26 朝日新聞朝刊

市民グループ、厚生省にインフルエンザ集団予防接種の中止要望

 インフルエンザ集団予防接種の中止を求め運動を続けているインフルエンザ全国ネットワーク、日本消費者連盟など5団体は25日、厚生省の研究班がまとめた報告書に対し、「集団接種による社会的な防衛効果が科学的に立証できなかった以上、学童への集団接種は直ちに中止すべきだ」として、厚生省と同省の公衆衛生審議会インフルエンザ小委員会に申し入れた。5団体は、7月以降全国で集団接種のボイコット運動に取り組む方針だ。




1987/06/26 読売新聞東京朝刊

インフルエンザ予防接種 義務から任意へ/研究班が報告書

 インフルエンザ集団予防接種の見直しを検討していた「インフルエンザ流行防止に関する研究班」の福見秀雄班長(前長崎大学長)は、二十五日、児童・生徒を対象にした現行の集団義務接種を、任意制へと緩める方向を打ち出した報告書を公衆衛生審議会伝染病予防部会インフルエンザ小委員会(委員長=大谷明・国立予防衛生研究所ウイルスリケッチア部長)と厚生省に提出した。厚生省は「来年度以降の接種方法は来春までに決めてもらう」としており、今シーズンは従来どおりの形で義務接種が行われそうだ。
 福見班長は報告書で「今のワクチンは個人に効果は認められるが、集団に接種して社会全体の流行を抑えられるかどうかを判断するには、研究データが不十分」と指摘した。そのうえで「過去十年間のように、インフルエンザ流行の規模が小さく、症状も軽いとすれば、学童に画一的に接種する必要性は低い」と現行の集団接種方法の見直しの必要を示した。福見班長はしかし、「大流行が起きる可能性も否定できず、高齢者や基礎疾患のある人への接種拡大、より有効なワクチン開発、変化するワクチン需要に応じられる生産体制も今後の検討課題だ」と強調している。
 同部会は七月中に今シーズンの集団接種の実施方法を決めたうえ、来年度以降の方法を検討するが、任意制が打ち出されれば、接種を受ける児童・生徒、保護者が選択できることになる。
 報告書には、福見班長の総括報告のほか、五つの分担研究報告が載っている。その中で、昨年の東京や奈良の例とし、ワクチンを接種した学校群の学級閉鎖率が、接種しなかった学校群と比べて低く、ワクチンが学級閉鎖防止に有効だったとする報告がある。
 反面、六十年度の群馬県の例で、接種地区(高崎、桐生、伊勢崎三市)と非接種地区(前橋、安中二市)の比較では、症状の発生率に特に差がなく、五十九、六十年の調査でも同県下の学校単位のワクチン接種率と症状発生率、学級閉鎖との明らかな関連は認められなかった。同県のインフルエンザによる死亡率は零―四歳児と老人に高く、接種を強制するのは適切でない――とする報告が注目される。
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1987/06/27 読売新聞東京朝刊

予防接種のあり方考えよう インフルエンザ、母親は正しい知識を(解説)

 厚生省の「インフルエンザ流行防止に関する研究班」は、児童・生徒のインフルエンザ予防接種体制について、任意制に緩める方向を打ち出した。
                        (科学部 馬場 錬成)
 全国の千五百万人の幼稚園児、小、中学生を対象に、毎年秋に実施されているインフルエンザの集団予防接種は、さる五十一年に法律で義務づけられた。いわば、学童たちの予防接種を、インフルエンザの社会的流行の防波堤にしようという狙いだった。
 今回、同研究班が厚生省などに提出した報告書は「特定の集団に対して接種することによって、社会全体の流行を抑止すると判断できるほどの研究データは十分に存在しない。(したがって)重症化の危険の少ない学童に、画一的に接種を行う必要性は低い」と結論づけた。
 インフルエンザ・ワクチンは、以前から医師の間で「接種してもあまり効かない」という意見が多く、麻疹(ハシカ)や破傷風などのワクチンに比べると、経験的に言ってもその効き目は、格段に落ちた。
 同報告書は、そうした疑問点にも答えるため、インフルエンザ・ワクチンの有効性と無効性に関する研究報告も記載。結局、将来は、児童・生徒の保護者の同意を得て接種を行う任意方式に、変更する方向を示した。
 さる二十日、仙台市で開かれた臨床ウイルス学会で、山形県衛生研究所の片桐進所長は、インフルエンザの流行の実態を追跡した興味深い研究を報告した。
 従来、インフルエンザの流行は、児童・生徒の間で伝染し、その後、社会的に流行すると思われてきたが、片桐所長は山形県内で行った具体的な調査結果をもとに「初発患者の多くは行動範囲の広い父母などの成人であり、大人が感染源となって家庭内の小流行が起こる。そして、家庭で感染した子供が学校という集団に持ち込み、大きな流行に広がっていく」と報告、注目を集めた。
 今回の厚生省への報告書にあるワクチン接種現場の医師の意識調査でも、「予防接種は、学校や地域社会での流行防止に効果があるとは思わない」「予防接種は、ほとんど効果があるとは思えない」という回答が合わせて五四%もあった。
 一方、こうした意識が他の予防接種の場合にも広がると、大きな危険が出てくる。愛知県衛生研究所の磯村思ブ所長は、臨床ウイルス学会で「最近、有効なハシカの予防接種を軽視する傾向が出ている」と警鐘を鳴らした。
 「ハシカのワクチンを接種しても、ハシカにかかることがある」「ハシカは死ぬような病気ではない」などと考えている若い母親が急増しており、「ハシカに関して正しい知識を持っている母親は、おおむね三分の一くらいしかいない」と報告した。
 これを機会に、各種予防接種の正しい知識の普及について、厚生省と自治体は真剣に取り組むよう望みたい。




1987/07/26 読売新聞東京朝刊

インフルエンザワクチンの集団接種、厚生省が7月中に結論

 毎年千五百万人もの児童、生徒らに接種されているインフルエンザワクチン。集団接種を法律で義務づけているのは、世界中で日本だけだが、これほど予防に力を注いでも流行は繰り返されることから、接種に反対する市民団体だけでなく、一部の医師からもワクチンの効果に疑問の声が出ている。すでに集団接種を中止した自治体もある。こうした現状を踏まえ、予防接種のあり方を検討してきた厚生省の「インフルエンザ流行防止に関する研究班」(班長=福見秀雄・前長崎大学長)は、このほどまとめた報告書で、接種を義務制から任意制に切り替える方向を打ち出しており、予防接種体制は大きな転機を迎えている。
 インフルエンザの集団予防接種は、子供たちの集団接種により社会全体への流行を防ごうとする集団免疫効果が狙いで、さる五十一年、予防接種法によって義務づけられた。毎年春秋の二回、市町村ごとに行われている。ウイルスの型が毎年変わることからワクチンと流行のウイルスが一致しないこともあり、確実に効果があるとは言い難い。
 この十年間でも、三百万人の患者を出した五十二年を筆頭に、毎年平均九十四万人の患者を出している。
 研究班の報告書は、接種効果について「個人の場合、発病防止効果は三〇―八〇%、肺炎防止には五八%の有効性がある」と評価したものの、肝心の集団免疫効果については「判断できるほど十分なデータがない」として評価を避けた。
 さらに、五十五年から集団接種を中止している群馬県前橋、安中両市と、接種を積極的に行っている同県高崎市などの比較調査をしても、「明らかな流行防止効果は認められなかった」と報告、効果への評価が微妙な様子を垣間見せている。
 これらの結果から、研究班は(1)過去十年間のように流行の規模が小さく、症状も軽ければ、学童に画一的に接種を行う必要性は低い(2)大規模な流行の可能性はあるので、社会不安を招かないような配慮が必要−−と総括している。
 この報告書に基づき、厚生省の公衆衛生審議会は今月中にも今秋の接種について結論を出す。
 一方、国の動きに対して、予防接種の義務制に反対している市民グループ「インフルエンザ全国ネットワーク」(本部・東京)、日本消費者連盟など五団体はこのほど、「集団免疫効果と安全性が立証されない以上、集団接種をやめるべきだ」と厚生省に申し入れた。同ネットワーク代表の本谷晴志さん(46)は「インフルエンザは、現代の子供にとって生命にかかわる病気ではない。社会のために子供を防波堤にするような集団接種体制はおかしい。接種が強行されれば、全国的にボイコット運動を進めていく」と話している。
 今冬は、三年前に流行したB型ウイルスの感染が予測されており、三月からワクチン作りが始まっている。神戸市など、“任意制”を導入する自治体も増えており、秋に向けて集団接種是非論議が一段と高まりそうだ




1987/08/07 朝日新聞朝刊

インフルエンザ接種は保護者の同意方式で 公衆衛生審部会

 児童・生徒への集団接種を義務づけている現在のインフルエンザ予防接種体制の見直しを進めていた厚生省の公衆衛生審議会伝染病予防部会(部会長、山口正義・結核予防会理事長)は6日、「インフルエンザについては、ワクチン接種以外に有効な予防手段はない」としたうえで、当面は法律上も義務接種の体制を残したまま、保護者の同意を得て行う同意接種方式に改めることが望ましい、との意見書をまとめた。義務接種をやめ、受けたい人だけが受ける任意接種とした場合、接種に当たる医師やワクチンの確保、万一の事故対策など、公衆衛生行政上多くの問題が生じると判断したためだが、集団義務接種に反対してきた市民グループは「全国的なボイコット運動に取り組む」と反発しており、10月から始まる今シーズンの接種をめぐっては、混乱が起きる恐れも出てきた。
    
 インフルエンザの集団義務接種体制の見直しについては、6月25日に厚生省の「インフルエンザ流行防止に関する研究班」がまとめた報告書が、最終結論を同省の公衆衛生審議会の判断にゆだねたため、同審議会の伝染病予防部会が2回にわたり総合的な検討を行った。
 今回の意見書では、現在の予防接種の問題点について、
(1)いまのワクチンによる予防接種では、社会全体の流行が抑えられると判断できる十分な研究データはない
(2)しかし、個人的には発病防止効果があり、重症化するのを防ぐ効果も認められている
(3)インフルエンザ対策としては、目下、ワクチン接種以外に有効な予防手段はない
と指摘。この現状を踏まえると、当面は接種を義務づけた法律は変えずに、「保護者の意向も反映した国民の自発的意思に基づいて接種を行うのが望ましい」と結論づけた。
 この基本方針に基づき、当面の進め方としては、
(1)予防接種の意義や効果について、児童・生徒や保護者に対し、十分理解が得られるよう努力する
(2)とくに事前の問診をこれまで以上に徹底する
(3)問診票には、子どもの健康状態などに応じて接種を受けるか否かの意向を保護者が記入する欄を新たに設け、その判断を尊重する
などが重要としている。
 今後の検討課題では、国民の自発的な接種を促すためにも、もっと有効、安全なワクチン開発が必要で、感染と重症化の恐れが強い高齢者らへの接種拡大も検討すべきだ、と強調した。
 一方、厚生省はこの意見書を受け、6日、各都道府県に対し、問診の強化や接種に関する事前説明、保護者らの意向尊重を徹底するよう通知した。例示した問診票では、最近の病状や副作用歴などを詳しく尋ね、最後に予防接種を「受けます」「見合わせます」の保護者記入欄も設けている。また問診票と同時に渡す説明書の具体例では、予防接種の効果の限界や過去の副作用データにも触れたうえで、「予防策としてはワクチン接種しかない」と理解を求めている。
 インフルエンザの予防接種は、毎年各市町村が10月から12月にかけて2回ずつ行うが、厚生省では、同意方式によるこの新たな接種を今シーズンから当面数年間続け、世論の動向や全国的な接種率の状況を見守りながら、必要があればまた再検討していきたい、としている。




1987/08/07 朝日新聞朝刊

インフルエンザ予防接種の同意方式、反対派はボイコットの方針

 インフルエンザの学童への義務接種に反対を続けている「インフルエンザ全国ネットワーク」など市民グループ4団体は6日、斎藤厚相あてに「義務接種が社会的な流行防止効果を上げていないことがはっきりした以上、直ちに中止すべきであり、長年、学童に副作用などの犠牲を強いてきたことにも抗議する」との抗議文を提出した。
 各団体では、今後全国的なボイコット運動を組織し、厚生省の決定に反対していく方針




1987/08/07 朝日新聞朝刊

インフルエンザ予防接種の同意方式、国民に判断ゆだねる<解説>

 インフルエンザの予防接種見直し問題は、51年から始まった予防接種法による義務づけをやめるか否かが最大の焦点だったが、結論は、現行法は変えないまま、新たに保護者の同意を得る方式で続けることになった。
 「インフルエンザ流行防止に関する研究班」は、先に現在の義務接種について、「社会全体の流行防止効果を十分実証できるデータはない」との結論をまとめた。にもかかわらず、今回、義務接種体制を続けることにしたのは、公衆衛生審議会として
(1)集団効果は実証できなくても、個人の免疫効果が認められている以上、接種希望者への道を閉ざすわけにいかない
(2)法律による義務づけをやめると、第一線で接種に当たる医師や大量のワクチン確保が困難となり、今後大流行が起きても対応できない
(3)万一、接種被害があった場合も、制度上国が被害補償をすることはできなくなる、などと判断したため。
 ぜひ義務接種を続けなければならない科学的根拠はないが、直ちにやめるのも不適当−−そんな状況から折衷案的に導き出されたのが今回の結論。それだけに、「義務接種の継続は問題のすり替えであり、ワクチンメーカーの利益と一部学者のメンツを守るだけ」と主張してきた反対派市民グループの批判に対しても、十分な説得力を持つとはいいがたい。
 厚生省でも今回の結論は「当面の措置」と認めており、もし今シーズン以降、保護者らの同意方式による接種率が低い状態が続くようであれば、義務接種の中止を検討することもありうる、としている。しかしその一方では、接種事故を防ぐため、問診内容を詳しくするとともに、新たに保護者らに接種の意義を記した説明書も配るなど、接種率の低下防止策も講じる方針。この説明書に対しても、市民グループからは「事実のごまかしがある」との批判がある。
 諸外国にも例のない学童への義務接種の行方は国民自身の選択にゆだねられた形だが、これだけ判断の分かれる問題を国民一人ひとりの選択にまかせるというのでは、国として無責任のそしりも免れない。今シーズンの接種開始は目前に迫っている。国民に少しでも公平な判断材料が提供できるよう、国としても早急に相談に応じる窓口を設けることや、賛否双方の専門家、一線の医師、市民らによる率直な意見交換の場などを作る必要があるのではなかろうか。




1987/08/07 毎日新聞東京朝刊

インフルエンザの集団予防接種で厚生省部会は継続の報告書を提出

 インフルエンザ予防接種のあり方を審議していた厚生省の公衆衛生審議会伝染病予防部会(部会長=山口正義・予防接種リサーチセンター理事長)は六日、「当面、現行の学童集団接種は継続すべき」との意見書をまとめ、同省に提出した。接種の際、保護者に渡す問診票に、接種を受けるかどうか答える項目を新設するなど、強制方式の見直しを含んでいる。これを受けて同省は同日、新しい問診票の形式について各都道府県に通知した。集団接種の効果に関しては、専門家による研究班会議で疑問視する意見が出ており、集団接種に反対する市民グループは「予防部会の意見書は科学性を無視した許し難いもの」と反発、今後、広範な接種ボイコット運動を展開する。

 答申はまず、予防接種の効果について「社会全体の流行を抑止することを判断できるほどの研究データは十分に存在しない」と事実上、学童の集団接種が全国的なインフルエンザの流行防止にはつながらないことを認めた。だが、個人の発病防止や重症化防止の効果はあり、またワクチン以外に有効な予防手段がないことから、当面、現行の予防接種は続ける、とした。

 その際「国民が自発的意思に基づいて予防接種を受けることが望ましい」と、現在の強制方式の転換を求めている。具体策として、従来、一律の形式だった予防接種の問診票をインフルエンザだけ独立、新たに「接種を受けるか、見合わせるか」などの項目をつけ加えた。だが、これはあくまでも児童の健康状態によって判断するもので、任意制とは言い難い。これについて厚生省は「保護者が健康状態以外の理由で拒否しても、無理やり接種を強制したりしないように都道府県に指示する」という。

 意見書は今後の検討課題として、効果が高く安全なワクチンの開発、高齢者などハイリスク群への接種拡大の必要性を指摘した。

 インフルエンザワクチンの集団接種については六月二十五日、接種方法の見直しを進めてきた「インフルエンザ流行防止に関する研究班」(班長=福見秀雄・国立予防衛生研究所名誉所員)が「現行の強制より任意制が望ましい」との報告書を同審議会に提出した。同審議会はこれを受け、とりあえず今年の接種方法を暫定的に決めることになっていた。だが、結果的には「当面」という表現で現行方式の継続を決定、任意制もはっきりした形では採用しなかった。これに対し市民グループのインフルエンザ全国ネットワーク(本谷晴志代表)は「科学的検証に耐えない効果を理由に集団接種を続けることは、子供の健康と安全を軽視した施策。問診票も親に責任を転稼した問題のスリ替えだ」と強く反発している。




1987/08/07 毎日新聞東京朝刊

厚生省部会はインフルエンザ以外の予防接種の全面見直しを決定

 厚生省の公衆衛生審議会政伝染病予防部会(部会長=山口正義・予防接種リサーチセンター理事長)は六日、インフルエンザ以外の予防接種について全面的に見直すことを決めた。

 「予防接種副反応の軽減と後遺症患者の社会復帰に関する研究班」(主任研究者=同)の報告を受けたもの。報告の骨子は1)ポリオ(小児マヒ)は現行(二回接種)に追加接種の必要がある2)ジフテリア、百日せき、破傷風の三種混合ワクチンは二回接種で十分(現行三回)3)麻しん、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、風しん混合生ワクチンを予防接種の対象にする−−。同予防部会は一年後に結論を出す方針。

 また、インフルエンザ予防接種の約一割に使われている自動噴射式注射機について、神経障害を起こす危険が高い、として小児の予防接種には使用しないよう、各都道府県に通知することも決めた。




1987/08/07 読売新聞東京朝刊

インフルエンザ予防接種 秋から「保護者同意」求める/厚生省通知

 インフルエンザの学童集団予防接種の見直しを検討していた厚生省は六日、強制的だったこれまでの接種方法を改め、この秋から当面、保護者の同意を得たうえで学童に接種する方法に切り替えることを決め、保健医療局長名で都道府県知事に通知した。
 公衆衛生審議会伝染病予防部会(部会長・山口正義結核予防会理事長)の検討結果を受けて行った措置で、接種前の問診も従来以上に注意深く行って副作用被害を防止することも指示している。さる五十一年に学童の接種が義務付けられて以来、初の方針転換だが、法律上の義務接種であることは変わりないため、インフルエンザ集団予防接種に反対するグループからは反発する声が上がっている。
 インフルエンザワクチンの予防接種は、五十一年の予防接種法改正で三歳から十五歳の子供は毎年秋に二回、接種が義務付けられている。しかし、副作用事故が後を絶たないうえ、流行阻止の効果に疑問が出されるなどして集団接種の見直しを求める声が高まり、厚生省が設けた研究班がさる六月、「学童に画一的に接種する必要性は低い」という結論を出した。
 伝染病予防部会が先月末、この研究班の報告を審議した結果、「現在の不活化ワクチンの予防接種では、社会全体の流行を抑止すると判断できる研究データは十分に存在しないが、個人の発病防止や重症化防止の効果は認められている」と結論付けた。そのうえで、インフルエンザに対しては現在、ワクチン接種以外に有効な予防手段はないとし、「当面、法律上の取り扱いは変更しないが、国民が自発的な意思で予防接種を受けるのが望ましいので、保護者の意向が反映できるようにしたい」という意見をまとめた。
 意見書はさらに〈1〉より効果が高く、安全なワクチンの開発、改良〈2〉生産期間短縮の技術開発〈3〉高齢者、病弱者らへの接種など対象者の範囲、接種方法の見直し−−の必要を指摘している。
 予防接種時の問診票は、これまでも保護者に配布されていたが、今回の厚生省通知ではインフルエンザだけに限った問診票を新たに作成、添付した。学童の体温、現在かかっている病気の有無、既往症、アレルギー体質かどうかなど従来と同じ質問のほか、該当者にはさらに詳しい設問も設けて特異体質の学童を可能な限り事前にチェックする内容になっている。




1987/08/09 読売新聞東京朝刊

疑問符ついた学童集団予防接種 「保護者同意」にも十分な判断材料を(解説)

 インフルエンザの学童集団予防接種について、厚生省は今秋から保護者の同意を前提に接種する方式に切り替えることを通知した。   (社会部 立川 修)
 厚生省が、強制的な接種から同意接種へと転換した理由には、いわゆる社会防衛論への疑問が強まったことが指摘される。
 昭和三十二年のアジアかぜ大流行を機に、インフルエンザ予防接種を求める世論が盛り上がり、厚生省通達による勧奨接種として行われたあと、五十一年の予防接種法一部改正で学童らの接種が義務付けられた。「自主性を尊重」として罰則ははずされた。
 法律による義務付けの論拠が社会防衛論である。学校という閉鎖社会でインフルエンザが流行すると、学童がウイルスを家庭に持ち込み、感染が広がる。流行の基となる子供たちに予防接種すれば、大規模な流行を阻止できる−−簡単に言えばそういう論理だ。子供防波堤論と呼ぶ人もいる。
 ところが、集団予防効果が疑問視されるケースが後を絶たず、「インフルエンザ流行防止に関する研究班」がまとめた先の報告書には、六十年度の群馬県下の例で、ワクチン接種地区と非接種地区との学校比較では患者発生率に差はなかったと結論付けた報告があった。社会防衛論に公式な形で黄信号がともったのである。
 副作用被害の発生も無視できない事実だ。厚生省のまとめでは、さる五十二年以来、重症と認定された患者数は計十一人で、うち四人が死亡している。千百四十万に一度の発生割合とされるが、インフルエンザによる死亡率が高齢者よりはるかに低い学童が、その予防ワクチンの副作用の危険にさらされることに抵抗を示す保護者も少なくない。
 厚生省が今回、一気に義務接種の大枠をはずさなかったのは「個人の発病・重症化の予防にはワクチンは効果がある」と確信しているからだ。研究班の委員もその意見では全員一致したという。保護者同意方式といっても、問診票の末尾に「(1)受けます(2)見合わせます」という選択項目を設け、特に「お子さんの体の具合などからみて判断してください」と注意書きしているところにその意向が表れている。
 最終的に保護者同意方式に落ち着いた背景には、公衆衛生審議会の〈1〉集団予防効果は確認できないが、個人の発病、重症化防止効果は認められる〈2〉法律で義務付けることで、副作用被害を国が補償できる−−などの判断があった。
 また、ワクチン生産体制を縮小してしまうと、大規模な流行の際に需要に応じ切れない、という危機感もある。有精鶏卵を使ってワクチンを造る現行システムでは、接種の一年半ほど前から鶏の生産をスタートさせて需要予想量のワクチンを確保しており、一度その規模を小さくしてしまうと、接種時期にインフルエンザが大流行してワクチン注文が急増してもお手上げになるという訳だ。
 ワクチンの年間総売上高百数十億円のうち半分ほどがインフルエンザワクチンで占められ、インフルエンザワクチンの売上高の減少は他のワクチンのコスト高にはね返ることになり、ワクチン供給体制全般に影響が出ることも予想される。
 今回の方針転換は、厚生省が名を捨てて実を取った感が強い。義務とはいえ、近年の接種率は五〇―六〇%にとどまっており、以前から全くの任意制を採用している神戸市の接種率は八〇%前後とむしろ高い現象を示している。同省は保護者同意方式を「当面続ける」としているが、「国民の支持があればこの方式でいく」と自信を見せるのも、神戸市の例のように、接種率は極端にダウンしないと予想しているためだ。「国民の健康を守るためにもワクチンの有効性をよくPRしていく」と力説する。
 問診票もインフルエンザ単独のものを新たに作り、事前の問診を一段と厳格にして副作用被害を最小限に抑える姿勢を強めたことは前進と言えよう。
 保護者の意向を接種に反映させることは評価してよいが、自発的な意思を尊重するためには、接種を受けさせるかどうかの判断材料を十分保護者に与えることが必要だ。作成中のインフルエンザについての説明書も、一方的に予防効果ばかりを強調するのではなく、副作用の具体例も盛り込むなどして保護者が総合的に判断できるような内容にすべきだろう。




1987/09/20 毎日新聞東京朝刊

市民グループがインフルエンザ予防接種ボイコット宣言

 児童・生徒に対するインフルエンザの予防接種に反対している市民グループ(約三十団体)や小児科医などが呼びかけた「受けさせません!インフルエンザ予防接種」全国集会が十九日午後、東京・品川の国民生活センターで開かれ「確実な効果も認められないうえ、重大な副作用のある危険な接種をなお子どもたちに受けさせようとするのは許せない」との予防接種ボイコット宣言を決議した




1987/10/03 読売新聞東京朝刊

[社説]予防接種被害の実態を見よ

 この社会から伝染病を放逐するはずだった予防接種が、取り返しのつかないツメ跡を子供たちに残している。
 種痘菌で中枢神経が侵され、一日何回も発作を起こして転倒する少年。彼の頭には、転倒による負傷防止のためのヘッドギアがはめられている。インフルエンザの予防接種で、重度の知恵遅れと発作が残り、いまも施設で生活訓練を続けている青年もいる。
 一般の薬害や公害の被害者に比べると、予防接種の後遺症は極度に重い。その上被害者の家族の負担は大変なものである。父親が転職したり、介護疲れで病気になったケースもある。
 予防接種によって、圧倒的多数の人たちが伝染病から守られている中で、深刻な被害を受けている人たちに対して、だれが補償すべきなのだろうか。
 この問いに対して、先月三十日、大阪地裁が納得できる“回答”を示した。それが「予防接種禍大阪集団訴訟」の判決である。
 予防接種は、伝染病の流行から社会を防衛するために、法律で義務づけられている。その見地から、判決は「予防接種の被害者は伝染病の発生、まん延を予防する公共の利益のために“特別の犠牲”を強いられた」と述べている。
 わかりやすくいえば、一部の人たちの犠牲があるから、その他の多くの人たちが、「健康」という利益を受けていることになる。納得できる考え方ではないだろうか。
 この犠牲を償うために、裁判所は憲法二九条三項(公共のために用いる私有財産に対する正当補償)の規定を被害者に直接適用した。つまり「憲法は国民の生命、身体を財産権より格段に厚く保障しており、予防接種禍のような生命、身体の特別の犠牲に対しても、国は財産権と同程度の損失補償をすべきである」というものである。
 その結果、判決は、未認定被害児を含む四十六人の被害児について、総額約二十六億円の支払いを国に命じた。
 同じ憲法二九条を適用して損失補償を認めた判決は、東京地裁の集団訴訟でも三年前に出されている。二つの有力地裁が憲法を直接適用し、国の救済制度の不十分さを突いた司法判断を示したことになる。その意味は大きい。今後高裁や最高裁がこの判断を支持することを期待する。
 これからは接種の方法、安全性、被害者の救済制度などの見直しがさらに進められなければならない。
 判決も指摘しているように、国の救済制度は決して十分とはいえない。四十五年に種痘禍が問題になり、救済制度がスタートした。しかし現行制度でも死亡一時金が千七百万円、障害年金が月額二十一万六百円(一級)である。交通死亡事故などに比べると、その金額は極めて低い。
 接種によって死亡したり後遺症が残った被害者は、現在厚生省が認定しただけでも二千四百人を超える。ワクチンの改良や種痘の廃止などで、犠牲者の数は減ってはいるが、毎年数十件の事故がおきている。
 国は被害者の実態を直視し、事故防止策の強化と救済制度の充実に努めるべきだ。
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1987/10/08 読売新聞東京朝刊

インフルエンザ予防接種 厚生省報告は“改ざん”/反対団体が発表

 インフルエンザの集団予防接種に反対している日本消費者連盟(竹内直一代表委員)と日教組養護教員部(三橋敦子部長)、さらにインフルエンザ全国ネットワーク(本谷晴志・事務局代表)の三団体は七日、「先にまとめられた厚生省の研究班報告書は接種を継続するため原文を意図的に改ざんしたもの」と発表し、都道府県に対し、集団接種を中止するよう申し入れる方針を明らかにした。
 発表によると、「インフルエンザ流行防止に関する研究班」(班長・福見秀雄長崎大前学長)の最終報告書がさる六月まとめられたが、この中で、国立公衆衛生院の籏野脩一疫学部長と群馬県医師会の佐藤秀氏が担当したリポートが改ざんされたという。
 同リポートは五十五年から集団接種を中止している群馬県前橋市と、集団接種を続けている隣接の高崎市などを比較調査したもの。
 発表によると、原文は「両市での発症率の相違が認められず、現在の予防接種を中断しても、地域のインフルエンザの流行や学校内の感染、発病の危険を特に増大させることはない」と、予防接種を疑問とする内容があった。
 しかし、最終報告書では、この部分が削除され「症状を軽減させる効果はある程度あるが、完全なものではない」と“後退”した表現になった。さらに原文にあった「小中学生に対する現行ワクチン接種によってインフルエンザ流行阻止は達成されていない」「したがって社会防衛の手段として接種を義務づける必要は薄い」という中心的結論が削除されたという。
 三団体側は「書き換えというよりも改ざん、ねつ造だ。これでは、二百億円市場といわれるワクチンメーカー、厚生省のためのものでしかない」(野田克己・日本消費者連盟事務局長)と反発している。
 これに対し、福見班長は「報告書案はすべてみなさんに諮り、独断で書き換えた覚えはない。班全員の合意で報告書は出来上がった」と反論している。




1987/10/08 毎日新聞東京朝刊

流感予防接種研究班の報告書を厚生省が改ざんと、日消連など発表

 インフルエンザの学童集団予防接種に反対する「インフルエンザ全国ネットワーク」(本谷晴志・事務局代表)、日本消費者連盟(竹内直一・代表委員)は七日、厚生省が、予防接種のあり方を検討する研究班の報告書を改ざんしたと発表した。同省は「研究班長らと協議のうえ、不適切な部分を直しただけ」と反論しているが、反対グループは同日、「ねつ造データに基づいて継続の決まった集団接種は直ちにやめるべき」との要請書を全国の都道府県知事に郵送した。

 問題になったのは「インフルエンザ流行防止に関する研究班」(班長=福見秀雄・国立予防衛生研究所名誉所員)が六月二十五日、同省に提出した報告書の中の「小中学生に対するインフルエンザワクチン接種による予防効果の検討」(主任研究者=籏野脩一・国立公衆衛生院疫学部長)。

 反対グループの入手した資料によると、同研究班の最終会議は四月二十七日に開かれ、その際、籏野部長から出された論文と最終報告書にはかなりの違いがある、という。同論文は、集団予防接種は効果がない、として、接種を打ち切った群馬県前橋市のデータを中心に検討しているが、最初の論文では「結論」として「小、中学生に対する現行ワクチン接種によってインフルエンザ流行阻止は達成されていない……。社会防衛の手段として接種を義務づける必要は低い」となっているのに対し最終報告ではこの部分が全面削除され、「前橋市のように完全にワクチンの接種を中止することも疑問の余地はある」など、前橋市の施策に否定的なニュアンスに変わってしまった、としている。

 同省はこの研究班の報告に基づき八月五日、「当面、現行の学童集団接種は継続する」との見解を示しており、反対グループは「ねつ造によって、集団接種に効果のない点を隠し、むりやり継続に持ち込んだ」と批判する。

 これに対し、厚生省の伊藤雅治・感染症対策室長は「籏野先生の論文については、研究班の中にも疑問の声があった。このため、福見班長と相談しながら、不適切な部分を変えるよう頼んだ。籏野先生も了解していることだ」と話している。

 絽野部長は、書き直しのあったことは認めながらも「この問題についてはあまり話したくない」と口を濁している。




1987/11/05 朝日新聞朝刊

市民団体、インフルエンザ予防接種の中止迫る

 岡山県笠岡市内の小学2年生の男児が先月、インフルエンザ・ワクチンの接種後間もなく死亡したことがわかり、インフルエンザ予防接種の反対運動を続けている市民グループ「インフルエンザ全国ネットワーク」(日本消費者連盟など46団体)は4日、厚生省と各都道府県に対し「これ以上犠牲者を出さないためにも、有効性が立証されていない予防接種は中止すべきだ」と申し入れた。
 死亡したのは笠岡市一番町、会社員岡崎和義さん(35)の長男で中央小学校2年充(たかし)君(8)。10月19日午後、校内で予防接種を受け、同4時半ごろ自宅付近で遊んでいて突然倒れ、病院に運ばれたが、同夜急性心不全で亡くなった。
 充君は最近、内科医で健康診断を受けたが、異常はなく、病気もせずに元気だったという。




1988/01/13 朝日新聞夕刊

インフルエンザ予防接種が激減 都下で10−20%台

 この冬、インフルエンザの予防接種を受けた児童、生徒の数が、全国の各都市で軒並み大幅に落ち込んだ。13日、予防接種に反対している市民グループの実態調査で明らかになったもので、インフルエンザワクチンへの不信感が年々高まっている中、厚生省が今冬、接種を強制から同意方式に切り替えたことによって、一気に父母らの「接種離れ」が進んだらしい。中には「効果なし」と接種を中止したり、接種率が1.1%という自治体もあり、「有効性のPRと国民の支持」を接種続行のよりどころとしてきた厚生省としては、裏目に出た形。この全国的な傾向は、接種の賛否をめぐる論議再燃の火ダネとなりそうだ。
       
 調査を行ったのは、インフルエンザなどの予防接種に反対する全国54の団体で構成された「インフルエンザ全国ネットワーク」。接種が一段落した昨年12月上旬から下旬にかけ、会員らが首都圏、関西地区や全国主要都市の担当課に当たり、市ごとの接種状況を調べた。
 それによると、最も接種率が落ち込んだのは、今冬、集団接種から個別接種に切り替えた東京都国分寺市。3種混合や日本脳炎など他の接種はいずれも、個別接種に切り替えたことで接種率は上がったが、インフルエンザは昨年冬の47%から1.1%に急減。多摩地区の他の25市全体を見ても調査時点で5市が10%台、10市が20%台に低迷。東京23区はまだ最終的数字がまとまっていないが、都防疫結核課によると、各区とも昨年よりかなり落ち込む見通しだ。
 また、埼玉県では、接種中止を求める市民の請願が議会で採択された上福岡市が昨冬の57%から23.9%にダウン、浦和市も70%から40%に、大宮市も2年続いて7%などと軒並み低調だった。
 この傾向は関西地区や九州地区でも同様で、豊中市が61%から6%に落ち込んだのを最高に、茨木市、高槻市が70%台から20%台に、福岡市でも30%台に減少した。大阪市は集計中だが、昨冬の66%から40−50%に落ち込む見通しだ。
 このほか、北海道でも、調査した3市がそろって10%台に下がっており、「効果なし」との医師の号令一下、集団接種を見合わせた長野県軽井沢町のような例も会員から報告された。
 インフルエンザの集団予防接種は、昭和30年代の大流行を経て、51年から法律で義務づけられた。しかし、その後も毎年のようにインフルエンザは流行。一方で、副作用による犠牲者が後を絶たず、学童の父母だけでなく専門家の間からもワクチンの効果を疑問視する声が高まった。そうした中で、厚生省は昨年夏、同省の「インフルエンザ流行防止に関する研究会」の報告を受け、強制から同意方式に変更した。しかし、接種そのものの中止を求める声は根強く、今後の接種のあり方をさぐるうえで、この冬の接種状況が各方面から注目されていた。
 この結果に対し、各自治体の担当者は、「これほど急激に落ち込むとは」と驚きながらも、「インフルエンザワクチンについては、予防の期待より怖いものという感覚が市民に定着しており、接種離れはますます進む」と予測。「インフルエンザ全国ネットワーク」の本谷晴志・事務局長は、「インフルエンザ予防接種はもう要らないという国民の答えがはっきり出たわけで、予想通りの結果。ここまで接種率が落ちた以上、予防接種としての意味はなくなっており、厚生省としてもこの1、2年内には、いやでも中止せざるを得ない事態に追い込まれるだろう」と話している。
      
 厚生省感染症対策室の話
 インフルエンザ予防接種についての最終的な報告は、まだあがってきておらず、現時点では何もいえない。




1988/02/25 朝日新聞朝刊

インフルエンザ接種激減、医師会に費用補償 東京区部

 東京都内ではこの冬、2人に1人の児童・生徒しかインフルエンザの予防接種を受けなかったことが、24日、都衛生局の調査で明らかになった。とくに昨冬まで8割近い接種率だった23区も大幅にダウン。各区から予防接種を全面委託されている各区医師会側では「従来の接種単価契約では、医師、看護婦の人件費も出ない」と悲鳴を上げ、各区がその分を「補償」する、という思わぬ展開になっている。こうした形で医師会の“救済策”がとられたのは全国で初めてといわれる。
 都がまとめた今冬の予防接種率は、区部が平均57%(前年76%)、多摩地域41%(同68%)で、都全体では52%(同74%)までに落ち込んだ。接種事故の続発や有効性をめぐってインフルエンザワクチンへの不信感が年々高まっており、厚生省がこの冬から保護者の同意方式に切り替えたことが「接種離れ」に拍車をかけたらしい。
 東京23区では従来、地元医師会と全面委託契約を結び、各医師会が接種班を編成して学校を巡回する方式をとってきた。ワクチン代、医師・看護婦の人件費などの接種単価は、小学生が1人871円、中学生1007円。接種を受けた人数分の経費を、あとで区が医師会に支払う。
 ところが、医師会側から「班を組んで巡回しても、接種人数が少なければ人件費も出ない」との不安が出て、昨年9月、都と都医師会、23区が対策を協議、接種率が低下した場合、最低補償することを申し合わせた。
 例えば練馬区。接種率83%の前年度実績をもとに62年度予算に接種費1億2000万円を計上していたが、実際にこの冬、接種を受けたのは55%の延べ7万7000人。単価方式では約7000万円にしかならない。このため、接種班が1回出動すれば、人件費相当額を支払う最低補償方式で、最終的に9100万円を医師会側に支払った、という。




1988/02/25 毎日新聞東京朝刊

インフルエンザ・ワクチン接種の子供が大幅減

 インフルエンザ・ワクチンの予防接種を受ける子供が大幅に減っていることが東京都衛生局の調査でわかった。二十四日まとめた一月末現在の接種状況によると、都内の園児、小中学生のうち接種したのは五二%で、昨年同期(七四%)に比べ二二ポイントも下回った。インフルエンザ・ワクチンの副作用が問題になり、六十二年度から「保護者らの同意による接種」に変更された影響とみられる。

 最も接種率が低かったのは国分寺市で、昨年の四四%からわずか一%にダウン。多摩地区二十六市が平均で二七ポイント減の四一%、区部も一九ポイント減の五七%だった。

 園児、児童らへの同市予防接種は五十一年から義務づけられたが、市民団体や一部の専門家が「発熱、筋肉痛などの副作用があるのに、効果が疑問」として、強制接種に疑問を投げかけた。厚生省も法改正をせずに接種を義務づけたまま、「保護者らの同意」方式に切り替えた。




1988/03/02 朝日新聞夕刊

インフルエンザ予防接種、同意方式で来冬も実施 厚相が表明

 この冬、インフルエンザワクチンの接種を受けた児童、生徒の数が全国的に激減したが、2日の衆院予算委員会で藤本厚相は、「当面は昨年8月の公衆衛生審議会の意見を踏まえ実施していく」と述べ、保護者の同意を得て行う「同意接種方式」による接種を来冬も継続していく方針を明らかにした。新型ワクチンについて厚生省の坂本竜彦薬務局長は、噴霧状にして鼻から吸わせる「経鼻式ワクチン」の開発を進めていることを明らかにし、「4、5年後には導入できる」と述べた。木内良明代議士(公明)の質問に答えた。




1988/03/02 読売新聞東京夕刊

インフルエンザワクチン 接種率43%に低下/厚生省の中間集計

 副作用による死亡事故などが発生し、論議を呼んでいるインフルエンザワクチンの予防接種率が、今冬は、全国三十一都道府県の中間集計で例年より十数%も低い四三%まで低下したことが、二日、明らかになった。
 厚生省の北川定謙・保健医療局長が、同日午前の衆院予算委員会で、木内良明氏(公明)の質問に対して答えたもの。




1988/03/17 読売新聞東京朝刊

今冬のインフルエンザ予防接種率は42%

 副作用事故に対する懸念から、インフルエンザ予防接種の是非が論議を呼んでいるが、今冬の全国の接種率は四二%と、さる五十一年の接種の義務化以来、史上最低に終わったことが十六日、明らかになった。厚生省が、今冬から接種を受けるに当たっては、親の「同意」を得るよう指導したことが、“接種離れ”に拍車をかけた格好になった。
 最も接種率が低かったのは沖縄の一五%で、以下、三重二三%、北海道二六%、群馬二七%の順。逆に高かったのは、富山六一%、山口六〇%、長野、佐賀五九%といったところ。




1989/01/24 読売新聞東京夕刊

集団予防接種を転換 新年度からかかりつけ医院で個別に実施/厚生省

 ◆集団接種、40年で転換◆
 厚生省はこれまで、学校や保健所で「集団接種」の形で実施されてきた各種予防接種を、新年度からホームドクターや最寄りの病院で適時受けることができる「個別接種」に切り替えることを決め、二十四日までに都道府県に通知した。接種児童の体質や病歴をよく知っているホームドクターらが事前に問診し、接種による副反応被害を防止しようというもので、昭和二十三年の予防接種法施行以来四十年にして、予防接種は「社会防衛」から「個人防衛」へと大きな転換点を迎えた。同省では、新年度から個別接種を強力に推進するが、こうした背景には、インフルエンザの集団予防接種に対する効果への疑問や副反応被害を懸念する市民運動が急速に盛り上がるなど、予防接種そのものに対する国民の意識の変化が挙げられている。
 ◆問診で副反応防ぐ◆
 現在、法律で接種が義務付けられているのは、百日ぜき、ジフテリア、ポリオ(小児マヒ)、風しん、麻しん(はしか)、インフルエンザ、日本脳炎、BCGの八種類の予防接種。これらの中には、麻しんのように、副反応で発熱しやすいものもあり、安全対策の面からは個別接種が望ましいとされてきた。
 しかし、実態としては、インフルエンザのように、流行期間が限られているため、短期間に集中的な接種を行わなければならず、もっぱら学校などでの集団接種方式が取られてきた。また、ポリオの場合は、生ワクチンで保存期間が短いため、経済性という側面から集団接種を実施してきたものもある。
 しかし、ここ数年、予防接種の副反応被害に対する国民の批判が集中、伝染病の流行を防ぐ「社会防衛」のため、みんなで接種を受けるという説明では理解が得られなくなってきた。特に、接種効果に疑問が投げかけられたインフルエンザの“接種離れ”が著しく、昭和五十年代は六〇%台で推移していた接種率が六十二年には、四四%にまで落ち込んだ。このため、厚生省が、予防接種をわが子の健康を守るための「個人防衛」と位置付けを変えることにした。
 同省では、来年度から麻しん、おたふくかぜ、風しんの「新三種混合ワクチン」を導入するのを機に、改めて個別接種の推進を打ち出し、都道府県に対し、「予防接種に当たっては、個別接種によることを基本とする」という保健医療局長通達を出した。ただ、個別接種が定着するためには医師や病院の協力がどこまで得られるかがカギとなる。
 接種料金は、ほとんどの市町村が全額、公費負担で、市町村と地元医師会の委託契約の中で設定されているが、市町村財政などの事情で、料金は大きくばらついているのが実情。厚生省では、個別接種を推進するためには、接種を担当する医師や病院に対する応分の報酬分を含めた料金設定が必要になるかもしれないとしている。
 このため通知と同時に調査票を都道府県に配布し、各地域の接種料金について報告を求めたうえ、実情に応じて個別接種の普及を指導していく方針だ。




1989/02/08 朝日新聞埼玉朝刊

市民団体が質問状 インフルエンザ予防接種の危険を訴え 埼玉

「県の資料に疑問点」
    
 インフルエンザ予防接種の危険性を訴えている上福岡、浦和市などの市民グループ「インフルエンザネットワーク埼玉」(前納寛乃代表)は7日、畑知事らに対し、県感染症対策協議会の予防接種専門委員会の資料を基にした7項目の公開質問状を提出した。同グループは「これでワクチン接種は有効といえるのか」と疑問を投げかけており、この日、合わせて新年度のインフルエンザ集団予防接種の中止など3項目の要望書も出した。
 公開質問状は、県がつくった資料、インフルエンザ流行に際しての学童の欠席状況調査を取り上げ、血中抗体検査ではインフルエンザ感染者と認められないのに、かぜ症状で欠席した生徒はどんなウイルスに感染していたのか、など疑問点を指摘、県や専門委員会の見解を求めている。
 質問状作成に協力した医師の高橋晄正・和光大学講師は「インフルエンザワクチンの効果を調べるのに血中抗体は意味がない。今回の県の資料は予防接種がまったく効かないことを裏付けるものとも言える。公開質問状でその点を明らかにした」と話している。




1989/04/09 読売新聞東京朝刊

「インフルエンザ」にワクチン的中 患者は昨季の37% 国立予防衛生研が調査

 今年のワクチンは見事に当たった−−。インフルエンザの予防接種は「ワクチンの効果が薄い」ことから接種離れが進んでいるが、今冬のワクチンは流行ウイルスとピタリ一致、ワクチンの有効性が極めて高かったことが国立予防衛生研究所(予研)の八日までの調査で分かった。流行するインフルエンザウイルスにはA型とB型があり、A型は絶えず変異する特性をもっている。このため、事前に用意するワクチンには当たりはずれがあり、不評をまねく原因となっていた。
 予研では今冬に先立ち、今シーズンは「Aソ連型・山形株」を中心に流行すると予測。同株の配合量を例年より三三%増強した上、「A香港型・四川株」「同・福岡株」のほかB型を配合した。いざフタを開けてみると、今冬流行したウイルスは九割以上がAソ連型・山形株。残りがA香港型・四川株とB型で、わずかながらA香港型・福岡株もあった。このため今年の流行ウイルスをほぼ完全に抑えることが出来た。
 予研では毎年、その年のワクチンがどの程度、流行ウイルスと一致したかを調べるため、患者から採取したウイルス・サンプル五百個にワクチンの免疫でつくった抗体を加える反応検査を行い、“的中度”を良い順に「〇」から「七」まで八段階で判定している。
 その結果、今年のワクチンは流行したウイルスに対して、いずれも最高ランクの「〇」。バッチリ当てはまり、有効率は八〇%を超えたと見ている。予防注射をした人は、しなかった人に比べてインフルエンザにかかった率は五分の一程度ですんだことになる。
 Aソ連型とB型が半数ずつ流行した昨シーズンは、“的中度”が二または四。予防接種の効果が出るのは「二」までで、今ひとつパッとしない結果だっただけに、今年の好成績は際立っている。
 インフルエンザの予防接種は一昨年、これまでの強制方式から父母らの同意方式に改められた。このため接種率は、一昨年六一・〇%、昨シーズンは四四・八%と低下。今シーズンはさらにダウンが見込まれている。だが、患者数は全国で約二十万七千人(先月二十五日現在、厚生省集計)で、低接種率にもかかわらず昨年同時期のわずか三七%にとどまっている。




1989/09/02  朝日新聞朝刊

危険冒しても価値ないインフルエンザ予防接種(声)

   桐生市 森田丈夫(医師 75歳)
 インフルエンザ予防接種は、学童個人の罹(り)病予防にならなかったという、疫学的調査の結果が発表された。今回の調査だけで個人予防効果を否定出来ないとしても、社会的予防に効なしということは承認されているので、効果を評価する側にとって重大な反論となった。
 インフルエンザが危険なのは、むしろそれによる細菌性肺炎だが、最近の抗生剤、抗菌剤の進歩により、死亡率が非常に少なくなっている。予防接種による副作用の危険を冒してまで、接種する価値はないのではないか。
 問題は老人の場合で、自覚症状が少なく発熱等も少ないので受診するのが遅れがちだし、治療の効果も上がり難いので注意を要する。早期受診の必要を十分に宣伝する必要がある。
 個人に対する予防評価はさらに検討を要するだろうが、関係方面が協力して、速やかに疫学的調査を完成してもらいたい。




1989/09/28 朝日新聞埼玉朝刊

インフルエンザワクチン接種、「予防効果はある」 埼玉県が初調査

 インフルエンザの集団予防接種に反対する市民運動などが盛り上がり、接種率が年々低下していることを踏まえ、県はワクチンの効果について初めて調査を実施、27日中間報告を発表した。それによると小学生の場合、2回接種を受けた子供たちでインフルエンザのため学校を欠席したのは24%なのに対し、接種を受けなかった子供たちの欠席率は31%で、「明らかに差が認められ、ワクチンの予防効果はある」とした。だが、ワクチンの効果を疑問視し、副反応の危険性を訴えているグループなどは「比較の方法に問題があり、ワクチンの有効性を結論付けるのは無意味だ」と批判している。
 この調査は県が感染症対策協議会予防接種専門委員会(委員長・前田和一埼玉医大教授)に委託した。浦和、大宮、所沢、熊谷、岩槻の5市の全小中学校について各学年ごとに1クラスを選び、担任か養護教諭が欠席状況などを記録した。調査期間は昨年12月1日から今年3月10日までの100日間で、今回の中間報告は12月分のみの集計結果に基づいている。
 それによると、小学校では2回接種を受けた児童で、インフルエンザと思われる症状で欠席したのは24.3%、1回だけ接種した児童の欠席率は29.1%で、接種を受けなかった児童では31.5%だった。中学校では、それぞれ15.4%、21.2%、22.0%の欠席率。
 同委員会は「小学、中学とも2回接種を受けたグループはその他のグループより欠席率が低く、延べ欠席日数も短い」とし、「このことは接種や個人に対するワクチンの予防効果を示している」と報告した。
 県保健予防課では「中間報告とはいえ、予防接種は有効、という根拠が得られた」とし、従来通り、県内各市町村に小、中学校の児童・生徒を対象とした接種の実施を通知した。実施期間は10月1日から12月末まで。
 これに対しインフルエンザ予防接種の問題点を追及している医師の高橋晄正和光大学講師は「接種を受けない子供たちのグループはもともとアレルギーや体の弱い子が多くインフルエンザが流行していなくても欠席率が高い。それを考慮せずに流行時だけ比較しても意味がない」と批判。「逆に、接種を受けたグループの欠席率は流行前の3.5倍に増えているのに、受けなかったグループでは2.5倍にしかならないことが分かっている」と話している。
 県内のインフルエンザ予防接種率は一昨年58%から38%に急減、昨年度は29.4%にすぎない。全国的に学校や保健所を使っての集団接種を中止する市町村が増えており、県内でも昨年上福岡市が中止に踏み切った。
 今年度は北本市の9月定例市議会の民生経済委員会で「インフルエンザ集団予防接種の中止を求める請願」が採択され、28日の本会議で可決されれば、中止されることになる。
        
  ●接種状況と欠席率の比較
 小学校    2回接種   1回接種  0回接種
   対象者  5894人  2947人  13947人
   欠席者数 1431    859    4397
   欠席率    24.3%  29.1    31.5
 中学校
   対象者  2241人   872人   3527人
   欠席者数  344    185     776
   欠席率   15.4%   21.2    22.0




1989/10/04 朝日新聞埼玉朝刊

集団かぜの予防接種効果、「調査方法にトリック」 埼玉の市民団体

 インフルエンザの集団予防接種に反対している市民グループ「インフルエンザネットワーク埼玉」(前納寛乃代表)は3日、県が先月27日に「ワクチンの予防効果はある」とする調査結果を発表したことについて「調査方法にトリックが隠されている」などとして文書で抗議。調査にあたった県感染症対策協議会予防接種専門委員会(委員長・前田和一埼玉医大教授)に公開質問状を提出した。
 調査は昨年12月から今年3月まで、県が同専門委に委託して実施。浦和、大宮、所沢など県内5市の全小中学校を調べた結果「インフルエンザのワクチンを2回接種した子供たちは、接種しなかった子供たちに比べインフルエンザの流行期に学校を欠席する比率が低い」として、インフルエンザ予防接種は効果があると結論づけている。
 これに対し、インフルエンザネットワーク埼玉は「2回接種した子供たちはアレルギー体質もなく丈夫だが、接種しなかった子供たちにはアレルギー体質や以前の接種で副作用の出た子、病気で医者に禁忌と言われた子などが多数含まれているためインフルエンザの流行期以外でも欠席率が高い」と指摘したうえで、「2回接種した子供たちの欠席率が低いからといって、予防接種の効果を証明したことにはならない」と主張。県に抗議するとともに、同専門委に対し公開質問状を提出し、早急に公開の場で文書で回答するよう求めている。




1989/11/10 毎日新聞東京朝刊

インフルエンザ予防接種効かぬ−−日教組調査

 冬に向かいかぜの季節になってきたが、日教組の養護教員部(三橋敦子部長)は九日、小学生に対するインフルエンザ予防接種が実際には効果が上がっていないというデータをまとめた。「全国規模の調査で明らかにしたのは初めて」(同養護部)で、各地で進められている学校での接種を廃止する取り組みに影響を与えそうだ。

 調査は二十三県の小学二、三、四、五年生の保護者約一万七千人を対象に(1)接種の有無(2)非接種の理由(3)昨秋から今年三月までのインフルエンザ様かぜ症状による欠席日数−−などをアンケート方式で聞くとともに、養護教諭が各児童の年間病欠日数を調べ、このデータを国立公衆衛生院の母里啓子・感染症室長らが分析した。

 この結果、インフルエンザ様疾患での病欠は、二回の接種を受けた子供五千六百二十八人の内千八百十八人(三二・三%)▽一回の接種者千七百四十五人中六百五十七人(三七・七%)▽接種を受けなかった子供九千四百八十一人中三千五百二十一人(三七・一%)で、表面的には、二回の接種を受けたグループの方がかかりにくかった。

 しかし、接種を受けなかった子供のうち、接種を希望しなかった六千五百四十一人をみると、インフルエンザ様疾患で欠席したのは三五・四%で、二回接種組とあまり変わりながなかった。




1989/12/12 朝日新聞朝刊

そっぽ向かれた流感ワクチン(子どもと予防接種:上)

 伝染性の病気を防ぐためにと、子どもにさまざまな予防接種が実施されている。役所からは「受けなければならない」という案内が来るし、子どもによかれということで、親たちは受けさせてきた。ところが近年、インフルエンザ(流行性感冒)ワクチンの効果への疑問が広がり、今年4月に実施が始まった新3種混合ワクチンでは、接種後に副作用が報告されている。いったい予防接種については、どう考えていくのがいいのだろうか。
       
 ○厚生省が方向転換
 本格的な冬の到来を前にした10月から12月にかけて、子どもたちが保健室などに並んでインフルエンザの予防注射を受ける。3、4年ほど前までは全国各地の保育園、幼稚園、小、中学校で見られた光景だが、ここ1、2年、この学校行事は姿を消しつつある。その転機となったのが、一昨年、厚生省がインフルエンザ予防接種について示した方針転換だ。
 それまでは、集団生活をしている子どもに接種することで、子ども自身の発病を抑えると共に、社会へ流行が広がらないようにするという考え方で、1976年に改正した予防接種法では、義務接種となった。
 ところが、それからも毎冬になると流行するし、子ども自身も、受けても結構インフルエンザにかかるという、ワクチンの効果への疑問が出てきた。「日常健康な子どもなら、インフルエンザにかかっても治る。効き目もあまりないのに、まれとはいえ、毎年のように副作用で死んだり神経障害を起こすという事故が起きているワクチンを、どうして健康な子に接種しなければならないのか」と反対を唱えた市民運動も活発になった。
 公衆衛生審議会の検討班でも、社会への流行阻止ができていないという意見が出るなどした結果、厚生省が方針を変えたもので、集団接種は続けるが、保護者に希望の有無をとったうえで接種することになった。
                                    
      
 ○「個別式」増える
 しかし、それ以降、接種する子どもは大幅に少なくなった。70%前後だった接種率は、昨年度約32%となった。このため集団接種も崩れつつある。
 札幌市は今年から個別接種にした。「接種率が10%ほどに下がって、クラスで数人。子どもがまったく受けない学校もある。これでは集団接種をするのは無理だと判断し、とりあえず今年は学校医のところでやってみようということになった」(同市保健予防課)
 東京都も今年、23区内の保育園、幼稚園については個別接種とした。福岡市は昨年から、接種会場を保健所にし、保護者同伴で実施している。厚生省も次のような言い方をする。
 「インフルエンザだけでなく、予防接種は原則的には個別接種が望ましい。が、もっともかかりやすい学童に対して、短期に多くの接種をしようとすれば、集団でやらざるをえない。ただ、医師会などの協力が得られて、個別接種でできる条件が整っていれば、それもやり方の1つだ」(結核感染症対策室)
 接種率が大幅に減った結果、流行はどうなっただろうか。
 87年から88年にかけてと、88年から89年にかけての2シーズンだから、即断はできない。今年1月中旬、本紙は、中学生以下の子どもたちの患者発生が「過去最悪だった年の同時期に比べて5倍になっている」と報じた。しかし流行は毎年その山の時期が違う。同シーズンでは1月ころまでがピークで、以後終息に向かった。厚生省の伝染病統計に現れた数字でも、患者発生は3月までに急減して、シーズンを通じての患者数は、結局例年並みだった。
       
 ○欠席の差ほぼなし
 日本教職員組合養護教員部と国立公衆衛生院疫学部は、全国23県約1万7000人の小学2−5年生について、昨冬のインフルエンザ予防接種の有無と年間の病欠日数を調査した。
 すると、流行期でないときにほかの病気で欠席する日数が長い子どもほど、インフルエンザ流行期の病欠も長く、病欠日数の差でワクチンの効果を見るには、日常の健康状態による差を調整しなければならないことがはっきりした。
 調査にあたった同院疫学部の里見宏客員研究員はこう言う。「日常の健康状態の差をそろえたうえで、ワクチンを規定どおり接種した子どもと、接種を希望しなかった子どもを比較すると、欠席日数の差はほとんど無かった。さらに、かかってしまった子どもが、接種したかしなかったかで重い症状になったかどうかを見たが、差はなかった」
 この冬も、インフルエンザ予防接種は行われている。だが、個別接種に移行した自治体が増えたことなどから、接種率はさらに低下している模様だ。




1989/12/14 朝日新聞朝刊

判断データ、親にあるのか(子どもと予防接種:下)

 現在、義務接種とされているワクチンは、結核に対するBCGをはじめ、ポリオ(小児マヒ)、百日ぜき・ジフテリア・破傷風の3種混合、新3種混合(MMR)、インフルエンザ、日本脳炎などだ。
    
 ○結核も新たな患者
 しかしポリオ、ジフテリアなどの発生は激減し、若い親には身近なものではない。なぜその予防接種が実施されているのか、わからないままに受けているのではなかろうか。
 例えば、結核はほとんどなくなったと思われ勝ちだが、毎年、未成年でも2000人ほどが新たに発病している。
 BCGは、結核菌に感染した人が発病するのをある程度抑える。患者が減れば、菌を出す感染源が減る。新たな感染が減り、さらに患者が減る。このサイクルが続いてきた。
 しかし、ときどき集団感染事件が話題になることがあるのはなぜだろう。今では、20歳になるまで3%しか結核には感染していない。BCGでは感染に対しての免疫は出来ないから次々に感染する恐れがあるわけだ。
 BCGをやめ、ツベルクリン反応を徹底して感染者を見つけ、薬で抑えた方がいいという声もあるが、結核予防会結核研究所の青木正和所長はこう言う。「アメリカ、オランダ並みに感染源を減らすには、あと20年ほどかかる。それに結核性髄膜炎や粟粒(ぞくりゅう)結核は、かかったら半分以上が死ぬか重い後遺症が出るが、これらにはBCGの効果は高い。発生は14歳未満は年に20人ほどだが、BCGを止めたら、増えるかもしれない。副作用は非常に少ないから、日本では当分はBCGを使った対策を続けたほうがいいと判断している」
    
 ○ポリオにも流行地
 BCG1つとっても、「功罪」を考える要素は複雑だ。それにしては行政からは来る案内は、ほとんど説明なしに、「受けることになっているから」というのが現状だ。
 ポリオは、国内での発生が皆無に近い。例外は、国外で感染したか、ワクチンが毒性を回復してかかってしまったものだ。
 それなら接種しなくてもいいのではないか。実はそのことも考えられている。世界保健機構(WHO)で天然痘根絶に従事した蟻田功・国立熊本病院長は、2000年までのポリオ根絶計画を日本主導で、と訴える。
 「天然痘の経験で、人のみに伝染する病気は根絶の可能性があることがわかった。なくしてしまえば、ばく大な費用をかけた上、副作用を心配しながらのワクチン接種をしなくてもすむ」
 いつやめられるのか。
 「天然痘は、英米では国外からの感染がないことを見極めて早めに、種痘を中止した。ポリオはまだ見極めがつかない。また、アジアは流行地を抱えている。副作用の出る率は、天然痘に比べてはるかに低く、100万から300万接種に一例くらい。そう考えると、流行地との交流の多い日本では当分は、今の高いワクチン接種率を維持したほうがいい」
    
 ○詳しい米の説明書
 伝染病の流行状況の変化に伴って、私たちにとっての予防接種の意義も変わった。それに沿った情報を示してこそ、予防接種行政への信頼は回復するはずだ。
 手元に、アメリカの3種混合ワクチンの実施で親に渡されている説明書がある。病気、副作用を詳しく説明し、ワクチンの利益と危険を理解した上での同意を求め、その際、担当者への質問を受け付けている。
    
 ●私はこうみる
 行政の姿勢に古さも 大阪市立大学病院・小児科医 宮田雄祐さん
 ワクチンは、体に異物を入れるのだから、もともと好ましくないもので、絶対安全ということはない。だから、ワクチンは有効性が際立っていなければならないし、接種を受ける人がどう評価するかが大事になってきている。それにしては、かつての国力維持を目的とした行政の流れがまだ残っているようだ。
 そうして見ると、インフルエンザは老人や乳児には、必要な場合もあるが、健康な学童は必要ないと思う。はしかはまだ重い病気だ。ワクチンの値打ちはある。しかし、MMRのおたふくかぜ、風しんは強制的に乳児から、男も女も受けるべきとは、私は思わない。
 ポリオ、ジフテリア、破傷風、BCGは、私は必要だと思う。百日ぜきは2歳未満での感染が恐いのだが、その上の年齢の流行を抑えることで間接的に守るという意義があると思う。
    
 副作用への配慮必要 予防接種情報センター所長 藤井俊介さん
 予防接種を親の同意をとって実施する自治体が出てきたが、悪いデータをきちんと出していないから、自治体の責任逃れの道具になりかねない。予防接種をやるからには、副作用、事故のデータを国がきちんと集めるべきなのだが、いまのシステムでは、医師の届け出を求めているものの、その医師が接種医だったら、消極的になるだろう。
 たくさんの子どもにワクチンをうっていれば、副作用で大変な目にあう子が必ず出てくる。このことを前提に、予防接種を考えるべきだ。止めれば流行が心配だというとき、その流行は人口のうち、どのくらいになるのか。今日の衛生、健康状態に即した検討が必要だ。また、母が実際に病気になることで母体免疫ができ、乳児が病気から守られるという自然の仕組みも大事だ。なんでもかんでもワクチンという考え方はおかしい。




1990/02/06 読売新聞東京朝刊

猛威振るうインフルエンザ 病原性強く症状も重い 予防接種離れが拍車(解説)

 インフルエンザが、猛威を振るっている。世界的に大流行する勢いで、近年になく病原性が強く、死亡率も高いので注意を要する。(科学部 前野 一雄)
 「一月に入ってから爆発的に患者が増加しています。今回は異例ずくめ。今週に入って、さらに勢いが増せば大流行になる危険性がある」と、国立予防衛生研究所の根路銘国昭ウイルス第三室長は、警戒する。
 インフルエンザが流行する場合、十二月初旬から兆候が現れるそうだ。今冬は、昨年十二月九日段階で患者数はわずか一万二千人。例年の五分の一以下。流行の片鱗(へんりん)すら見られなかった。
 ところが正月休みが終わり、三学期が始まるや一気に爆発。子供の患者数は十三万人を数え、学級・学年閉鎖、休校に追い込まれた小中高校は、全国で千八百九十三校(一月二十日現在)にのぼっている。
 今冬のインフルエンザは、三十九度を超える高熱が一週間以上にわたって続き、気管支炎や、肺炎、胃腸炎といった重い症状を伴うのが特徴。いずれも主流はA香港型で、わずか一週間で四百七十人が死亡した英国のと同じウイルス。ヨーロッパ各国や米、ソ、中国、カナダなどでも検出されている。
 「今回の型は最近になく病原性が強いウイルスであることは、米国防疫センター(CDC)と世界保健機関(WHO)の見方で一致している」と根路銘室長。通常は感染して一週間もたてば、体内で免疫防御反応が働いて、ウイルスは検出できない。今回はその常識を覆して十日後でも、検出出来る。抗体に負けずにウイルスがどんどん増殖しているわけで、十分に注意するよう警鐘を鳴らしている。
 流行するインフルエンザには、A型とB型に大別される。いずれもウイルスの表面にクリのイガのような突起物があって、これにはHA抗原とNA抗原の二種類がある。
 さらにHA抗原にはH1、H2、H3、Hswの四種のタイプがある。NA抗原にはN1、N2の二種類が分かっている。
 B型インフルエンザは、抗原の変化が少なく、比較的狭い地域で、突発的にはやることからゲリラ型とも呼ばれる。
 これに対してA型は、抗原の構造を少しずつ連続変異させる。また、十―二十年の間隔で大変異を遂げることが多く、この不連続変異によって登場した新型ウイルスが、世界的な大流行を巻き起こしている。
 近年流行しているA型には、HA抗原のタイプがH1、NA抗原がN1の「ソ連型」や、H3、N2の「香港型」が知られているが、大正七、八年に全世界で二千三百万人が死亡し、わが国でも三十八万人が犠牲になった「スペイン風邪」はHsw、N1で、それぞれ抗原タイプが異なる。
 特に今回、大流行が心配されているのは「突然変異によって、ウイルスの勢いが強くなって、ハイスピードで広がっている」(根路銘室長)こと。またB型がどちらかというと子供中心に感染する傾向があるのに対して、今回のA香港型は子供と働き盛りの四十―六十代に二つの大きな山があることが多く、米英で成人を中心に感染者の二・八%が入院している。
 今冬のワクチンにもA香港型が含まれており、「ワクチンで十分抑えられるはず」としているが、近年の予防接種離れも加わって、広がりに拍車をかけているようだ。
 関東、関西の大雪による湿気がどう影響するか注目されるが、このまま流行が拡大していくと、百万人以上が感染した昭和五十―五十一年以来の規模が予想される。たとえワクチンを接種しても一か月たたなければ予防効果が発揮出来ないうえ、完全な治療法がない以上、お年寄りや受験生はここしばらく、人込みを避けるのが無難だ。
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1990/03/02日 朝日新聞埼玉朝刊

「インフルエンザの集団接種やめて」 市民グループが請願 浦和 

 浦和市の市民グループ「知ったらできない!インフルエンザ予防接種の会・浦和」が1日、市内の小・中学校で行われているインフルエンザの集団予防接種を来年度から中止するよう求めた請願を岩崎政晃浦和市議会議長に提出した。
 請願によると、インフルエンザ集団予防接種は過去30年以上にわたって児童生徒の80%以上に続けられたが、流行を止められず、効果に疑問がある上、副作用の被害もあとを絶たないといい、集団接種から個別接種に切り替えるよう求めている。
 浦和市では、親の同意が得られない場合は、接種を見送っているが、今年度の接種率は30%を切ったといい、また、県内でも、上福岡市が昭和63年から集団接種をやめ、個別接種を実施しているほか、北本市も来年度から集団接種を中止することにしている。




1990/11/07 読売新聞東京夕刊

[ヘルス]効果あった?児童のインフルエンザ予防接種

 本格的な冬シーズン到来を前に、全国の学校で、そろそろインフルエンザの予防接種が始まる。
 インフルエンザワクチンについては、その効果が疑問視されたり、接種禍と思われる事故がまれに起きたりしている。厚生省がこれまでの全員接種から事実上の任意方式に切り替えたこともあって、接種率は年を追うごとに低下、昨シーズンの数字は、三割を切ることは確実だ。
 しかし、判断をゆだねられた各家庭は、接種したらいいか、迷うのが正直なところかもしれない。
 インフルエンザが大流行した昨シーズン、果たしてワクチンの効果はどうだったのか−−。
 東京都港区立青南小学校の養護教諭だった松浦光子さん(現同世田谷区立梅丘中学)が、同小での結果を先の日本小児保健学会で発表した。
 調査対象は、虚弱、重症ゼンソク児らを除いた七百三十三人。これをワクチン二回接種群、未接種群に分類(一回接種群は少数のため除外)して、風邪の流行期であった今年一月二十三日から二月末までにインフルエンザ症状で二日以上欠席した全児童の接種状況を調べた。
 その結果、予防接種を受けなかった児童が、インフルエンザ症状になったのは五五%であったのに対し、二回接種群は二八%と約半分だった。特に低学年の未接種群の罹患(りかん)率が高く、六〇%を超えていた。
 欠席日数との関係では、未接種群は三―五日が最も多かった。これに対して接種群は二日以内が多く、インフルエンザにかかっても軽い症状で済んだと、いえそう。
 「この結果だけで、集団接種の効果を論じることは出来ないが、今回は流行期と接種時期のタイミングがよく、児童の免疫力が最も高まった時と重なった」と、松浦さんは分析している。

UP:20071114
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