60年安保の実質的な主導者であった島成郎の名は、この事件に直接・間接にかかわり、また興味を持って注視してきた人にとっては、あまりにも有名である。しかし安保の敗北後、彼がどのように生きたのかについて知る人は少ない。
彼はその後、東大医学部に復学し、精神科医となって復帰前の沖縄に渡る。そしてその後、家庭にあるいは病室に籠もっていた患者を解放し、地域で支えようとする、地域医療活動を繰り広げていく。
彼はなぜ、第二の闘いの場に沖縄を選んだのか。その選択には、60年安保の経験が色濃く陰を落としている。そして、第二の闘いにおいても彼は、人びとのなかに入り、人びとを「オルグ」し、人びとのネットワークを作って、大きな運動のうねりをつくっていく。 それはまさに、吉本隆明が、島の死に際して沖縄タイムスに寄せた追悼文で「将たる器の人」と語ったとおりの活動ぶりだったと言える。
4年にわたり、島成郎が折に触れ書き残した記録や、周囲の人たちの証言を丹念に集めて、圧倒的な取材をもとに知られざる島成郎の人生と信念をあぶり出した意欲作。
1953年秋田県生まれ。國學院大學文学部卒業。フリージャーナリスト。批評誌『飢餓陣営』主宰。主な著書に『自閉症裁判-――レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』(朝日文庫)、『十七歳の自閉症裁判――寝屋川事件の遺したもの』(岩波現代文庫)、『「自閉症」の子どもたちと考えてきたこと』(洋泉社)、『ルポ 高齢者医療――地域で支えるために』『ルポ 認知症ケア最前線』(以上、岩波新書)、『知的障害と裁き――ドキュメント 千葉東金事件』(岩波書店)、『ルポ 高齢者ケア―― 都市の戦略、地方の再生』(ちくま新書)など。ほかに共著・編著など多数ある。