『中国臓器市場』
城山 英巳 20080720 新潮社,239p.
■城山 英巳 20080720 『中国臓器市場』,新潮社,239p. ISBN-10: 4103080817 ISBN-13: 978-4103080817 \1400 [amazon]/[kinokuniya] ot-os ot
■内容
死体を見たら金と思え! 移植大国で横行する驚愕のビジネスを追う――。
“使い放題”の死刑囚の臓器で世界第二位の移植大国となった中国。日本からも最後の望みを託した患者が押し寄せている。ところが、北京五輪を前に中国当局は規制を強化。金とコネにまみれた臓器争奪戦が始まった。夫へ移植するため摘出した自身の肝臓を横流しされた主婦、誘拐され臓器を奪われた障害者……現地からの衝撃ルポ。
・街中で交通事故を見かけたブローカーはタクシーに飛び乗り救急車を追った。「負傷者が死ねば、移植に使う臓器が生まれる!」
・若くて健康的な死刑囚の臓器は人気の的。外国人が手にするには、一体いくらかかるのか?医師への報酬として、月餅にベンツの鍵を忍ばせ渡す人も現れた。
・麻酔から目覚めると妻の肝臓は大方切り取られ、肝臓をあげるはずの夫は死んでいた。肺や角膜まで剥がされた状態で……。
・北京五輪前に政府は規制を強化し臓器争奪戦も熾烈に。医師は携帯電話サイトを通じて遺体を入手。しかしそれは、誘拐されたホームレスのものだった。
■目次
はじめに
第一章 臓器の九割は死刑囚から
ある日本人ブローカーとの出会い
死刑囚ドナーのメリット
世界第二位の移植先進国
臓器争奪戦
売りは「早さ」「安さ」「うまさ」
透析治療の苦しみ
あっという間の手術
立って小便に感激
帰国後に直面する問題
動き出した中国政府
アジア系ならOK
死刑囚八割減の余波
三〇人の駆け込み移植
第二章 臓器を得るには「カネ」と「コネ」
値あがり続ける臓器
拝金主義の医療現場
血で儲ける「殺人病院」
藁にもすがる思いの患者
「特権階級」に溺れる警察
月餅に忍ばせたベンツのキー
中央vs地方
暗躍する「手配師」
腎臓を売る脱北者
裁判所への報酬
死刑囚の家族への説得
役人も巻き込んだシステム
第三章 中国の常識、世界の非常識
「私達の臓器はどこに」
死刑囚ドナーに対する批判
こうして中国は移植大国になった
年一万件!
大量死刑執行
地下一八階に落ちる死刑囚
矢継ぎ早の人権アピール
外国人への移植禁止
死刑削減が招いた殺人事件
生体移植の闇
自分の死体は完全なままで
中国人の死生観と脳死
死刑囚ドナーは廃止できるか
第四章 臓器があればどこまでも
再開された死刑囚からの移植
大切な医師への接待
ブローカーという仕事
板挟みになった中国
大量に押し寄せる韓国人
「草分け」台湾業者のサービス
加熱する仲介ビジネス
移植で死亡する現実
日本の医師たちの見解
地球の裏側でも移植
第五章 臓器問題はどこへ行くのか
フィリッピンの画期的な制度
臓器売買か否か
ジャンボ鶴田のショック
臓器を扱う慈善財団
腎臓を売って起業
うまくいかないビジネス
見せしめの逮捕
おわりに
■書評・紹介
評・天児慧(早稲田大学教授)20080921朝日新聞朝刊より
本書は、中国で臓器移植ビジネスがはびこっている実情を肌で感じた著者が、3年近く東奔西走し、関係の仲介業者、医師、裁判官、患者ら多くの人々に粘り強い取材を行い、新聞、インターネット、内部資料など様々な情報を駆使しながら、その実態を明らかにしようとした成果である。06年11月に中国で臓器移植に関するある重要会議があり、05年に中国で1万1千件の臓器移植が実施され、そのほぼすべてのドナーは死刑囚であったことが報告された。臓器移植は人間の倫理と患者の切実な現実とが正面からぶつかる難題である。国際移植学会も日本移植学会も倫理上の立場を主張しており、中国当局も外国人への臓器移植を禁止し、07年1月に死刑執行が厳格化され死刑囚をドナーにすることが難しくなった。
しかし実際には「禁止」以前は無論、その後もモグラたたき的に死刑囚ドナーによる臓器移植は復活している。なぜか。一方で日本、韓国、欧米などでドナーが極端に不足したまま患者が増加している現実がある。他方で大量の死刑執行が実施される中国で、必要な臓器が容易に供給できるという現実もある。そしてそうした現実を「打ち出の小槌」のように利用しようとするブローカー、医師、裁判・公安関係者らが群がり、拝金主義のネットワークつくってしまった。中央がどんな強い通達を出しても、「上に政策有れば下に対策有り」で、倫理よりも現実が優先されてしまう。他方、現場においては「利益と人脈」、つまり「カネとコネ」で物事が動いていく構造が脈々と生きている。そこでは患者としても幹部らの特権階級や外国人の金持ちが一般民衆より優先され、ドナーとしては死刑囚、貧しい農民、生計のメドがない脱北者といった弱者が選ばれる。もちろん生命が救われた患者からの感謝の声もある。
しかしやはり臓器ビジネスは「矛盾だらけの中国社会構造の縮図」だと結論づける。気鋭の記者が5年余り特派員として中国に滞在し、裏側から中国社会の実像に迫った読み応えのある本格的なルポルタージュとなっている。
*作成:一宮 茂子