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『エイリアンの地球ライフ――おとなの高機能自閉症/アスペルガー症候群』

泉 流星 20080120 新潮社,206p. 


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泉 流星 20080120 『エイリアンの地球ライフ――おとなの高機能自閉症/アスペルガー症候群』,新潮社,206p. ISBN-10: 4103001127 ISBN-13: 978-4103001126 1300+ [amazon][kinokuniya] ※ a07.


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内容(「BOOK」データベースより)
自閉系・異星人は、どうすれば地球人とうまく共存し、快適に暮らすことができるのだろう?どこかヨソの星から来たように風変わりで社会適応に苦労している広汎性発達障害の妻が、夫の語りを通して日常生活のアイデアを披瀝する。

■著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

泉 流星
1960年代後半、神戸に生まれる。大学卒業後も社会に適応できず苦闘。三十代半ばに、その過程を半生記『地球生まれの異星人』(花風社・2003)にまとめた。2005年、自閉症の傾向を持つ人独特の不思議さ、異質さを夫の視点を通して描いたノンフィクション『僕の妻はエイリアン』(新潮社)を出版(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

■目次

異星人の正体
大丈夫、と思える自分をめざそう
困った時は助けを求めよう
診断についての考え方
医師とうまくつきあうには
異星人と結婚
自分にできる仕事を探す
社会の中でやっていく
異星人の健康管理
ストレスと不安に対処する
生活を便利に、心地よく
自分らしく生きる
半歩先へ踏み出そう

■引用

「四 診断についての考え方

 診断は必要?
 妻の本を読んで、「まだ具体的な診断が出たわけではないんですが、もし自分がアスペルガ症候群だとすれば、今までの自分の全てに説明がつきます……」なんて言ってくる人はかなり多いらしい。また、医療機関を紹介してくれという依頼も多い(申し訳ないけれど、僕らは紹介は一切していない)。
 でも、ちょっと妙な気がする。そう言ってくる人のほとんどが、「診断名」とか、「障害」という言葉に、不思議なぐらいこだわっている気がするからだ。<0063<
 「だよね? 診断されなくても社会の名かで何とか生活している人だって、他にもたくさんいるはずなんだ。自分が感じる不便、不自由や、周囲が感じる迷惑が限度を超えていて、もう当たり前に暮らせないほどになっている時には、それは確かに『障害』かもしれないけど、そうでなければ単なる『特徴』にすぎないと思う。でも、それなりに社会に適応できていて、診断名は必要ないように思える場合でも、とにかく診断名がほしいっていう人がすごく多いの」
 僕の考えでは、どんな人の人生も、テストで測って答えが出るものじゃない。だから、テストや診断で何かレッテルが貼られたからといって、(または、たとえ診断名がつかなかったとしても)その自身が、何か変わるわけじゃない。つまり、自閉系の「特徴や傾向をいくらか持っている」という現実は、同じだ。
 逆に言えば、テストが「高機能広汎性発達障害」とか「アスペルガー症候群」というレッテルを貼られたからといって、突然、その人が「障害者」という別の人種に変身するわけじゃない。妻だって、診断前も診断後も、特に性格が変化したりはしなかった。成人の場合、診断できる医者もまだ少なくて、希望する人が全員診てもらえるわけじゃない、という現実がある。また、たとえ診断を受けても、成人には特別な治療法もないので、診断名があって<0064<も、それだけでは、人生の悩みごとの解決には役に立たない。まあ、学校や職場などで診断名を示して、何らかの特別な配慮をお願いしたい、といった特殊な事情があれば、話は別だけどね。
 「特に目的はないけれど、とにかく診断名がほしい! っていう人がいる一方で、うちの子どもが障害者だっからどうしよう……なんて感じに、何かすごく診断されるのを怖がって、『障害』って言葉にとても強い抵抗感を持っている人もいるよ。でもさあ、たとえ『障害者』に分類されたとして、それのどこがいけないのか、わからないんだけど。[…]」(泉[2008:63-65])
 「僕だって、妻が診断を受けた当時は「妻がとうとう障害になってしまったのか……」と思ったりもしたんだから。それに、診断がつく前には「これは病気なんですか? それとも性格の悪さなんですか?」って、その頃通っていた医者に真剣に聞いたことさえある。
 もちろん、今では自閉系は病気じゃないことも、一人の人の中にある、自閉症の傾向と個人の性格とを、きっちり分けることなんてとてもできないことも、わかっているつもりだ。ただし、わかってはいても、妻がする常識はずれなことで迷惑させられると、やっぱり腹が<0066<立つ。けれど、それはそれでかまわないと思うんだ。僕だって人間なんだから、嫌なことがあれば怒ることもあったって、いいはずじゃないか?

 診断名より必要なこと
 「診断名よりもね、大事なことは、自分の得手・不得手をよく知ることだと思うんだ。たとえば、予想しないことに対処するのが苦手なら、電話を受けることの多い仕事はなるべく避けた方がいいだろうし、普段から『電話の応対がすごく苦手なんです』とか、『急に予定が変わるとすごく焦るたちなんです』って周囲の人に言っておいた方がいい。自分用の電話対応マニュアルを作っておけば、もっと対処しやすいよね」
 なるほど
 「診断名がついたからって、問題が起こるたびに何でも障害のせいにして、自分でできる努力もしなかったら、よけい苦手なことができなくなっちゃうよ。脳って、使わない能力は退化するからね」」(泉[2008:66-67])

 「診断がついた人が通る三段階
 さて、あなたがたまたま、成人を診断してくれる少数の医者にめぐりあい、実際に診断名がついたとする。妻によると、診断を受けたほとんどの成人の人が、大なり小なり同じ過程をたどるんだそうだ。
 診断後の心の変化
 一.診断への過剰な依存の段階
 […]
 二.診断と自己の境界があいまいで不安になる段階<0071<
 […]
 三.受容の段階
 […]自閉症の傾向という特徴を自分が持っていると知ることは、自分の弱点を知り、上手にカバーしていくことの「役に立つ」もので、それ以上でも、それ以下でもない。そのことが実感でき、気持ちも落ち着いて、納得のいく段階。<0072<
 職場などで自分の特別なニーズ(必要とする配慮なと)を説明するためにぜひ診断名が欲しいけれど、残念ながら成人に診断を出してくれる医者にめぐりあえない、という人の場合は、「広汎性発達障害の疑いあり」といった程度の診断でもいいから、何とか出してもらえないか、医者に頼んでみよう。医者が見つかならない場合は、発達障害者支援センターに相談してみよう。何のために必要なのかを具体的に説明し、ていねいに頼んでみれば、うまくいくかもしれない。本当に困っている場合は、試してみる価値はあると思う。

 診断名を誰に言うべきか?
 「これについては、いろいろな本を読んだけど、『アスペルガー的人生』(リアン・ホリデー・ウィリー著)に出てくる基準が一番シンプルでわかりやすいと思った。ただ、日本とは文化的にかなり違うから、自分なりにそれをもとに少しアレンジしてみたのが、これ」<0073<
 診断のことを知っておいてもらう方がいい人たち
・自分の日常生活や将来の進路に、重要な関わりや影響力を持っている目上の人。[…]
・日常生活で親しくしている人や大切な関係を築きたい相手。[…]
・支援を求める相手。[…]」(泉[2008:73-74])

■言及

◆立岩 真也 2008- 「身体の現代」,『みすず』2008-7(562)より連載 資料,

◆立岩 真也 2010 『(題名未定)』,みすず書房


UP:20090502 REV:
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