『ビレッジから学ぶリカバリーへの道――精神の病から立ち直ることを支援する』
マーク・レーガン著
前田ケイ監訳
金剛出版 120ページ 1,600円+税
■Ragins, Mark. 2002 A Road to Recovery. Los Angeles: Mental Health Association. =2005,前田ケイ監訳 『ビレッジから学ぶリカバリーへの道――精神の病から立ち直ることを支援する』金剛出版,120p,ISBN-10:4772408703 ISBN-13:978-4772408707[amazon]/[kinokuniya].
■内容
出版社HPより
「ビレッジ」は,精神保健福祉サービスの統合的ケアモデルのパイオニアであり,リカバリー・コミュニティとして活躍しているカリフォルニア州の団体である。リカバリーは,精神の病を持つ人たち,その家族,支援にあたる専門家にエネルギーを与える革新的ビジョンであり,本書では多くのメンバーの物語を織り交ぜながら,具体的な実践原則を述べている。
■目次
日本の友に贈る言葉:ロバート・ポール・リバーマン
日本語版へのまえがき:マーク・レーガン
本書をお読みいただく前に:リカバリーについて:前田ケイ
序 章 はじめに
第1章 リカバリーの段階を考える
リカバリーの四つの段階
第2章 第1段階:希望
伝統的な見方に疑問を持つ
治療に成功することの再検討
可能性を信じる
将来への明確なイメージを持つ
気持ちの内側に入り込む
第3章 第2段階:エンパワメント
事例としてでなく人として見る
医師の役割を再評価する
薬物治療を協働で進める
役に立つ情報と選択肢を提供する
産科とガン治療の分野から学ぶ
エンパワメントを実行する
敬意と誠実を示す
第4章 第3段階:自己責任
ストレスを避けるのではなく,リスクをサポートする
強制ではなく働きかけを続ける
メンバーの選択をサポートする
準備ができているかどうかに関係なく,トライする
私たち自身の内にある差別をみつめて
失敗を覚悟で挑戦するのは,たやすいことではない
リスクに挑むにはよい関係作りが必要
ほかの人への思いやりを増す
第5章 第4段階:生活のなかの有意義な役割
新たな役割を探す
●仕 事
期待を高める
●愛とセックス
●家 族
家族のもとへ帰るということ
●子ども
家族と支援を拡大する
●スピリチュアリティ
道を探し求めて
スピリチュアルな雰囲気を創る
●生きがいのある生活
障害となるものを取り除く
生活を失うということ
有意義な役割を持つ人として関わる
役割を変える
コミュニティを築く
終 章 リカバリー・ビジョンを広める
リカバリー・ワーカーになる
態度の変化に影響を与える
【モーリス・ウィークスさんの手記】ワルの俺にはさよならだ
■言及
■書評・紹介
■引用
pp. 3-4
【リバーマン博士からのメッセージ】いま使うことのできる生物学的治療・行動学的治療のすべてを支持的な環境のなかで動員していけば、リカバリーは気分障害や統合失調症と診断された人びとの75%以上に可能な時代になりました。「ビレッジ」では、利用者の一人ひとりがリカバリーを体験しています。人として尊重され、希望を取り戻し、仲間をお手本として、いろいろ挑戦しながら、自分の生活目標に向かって努力を続け、自信をつけ、変わっていくのです。ビレッジでは「メンバー」と呼ばれる利用者が、スタッフと一緒にリラックスして自分の目標を立て、治療プログラムや活動を決め、自分自身のニーズと好みにあった自分用のリハビリテーションプログラムを作成しています(p.3)。メンバーは、住宅、レクレーション、教育、仕事、ピアサポート(仲間の支援)、金銭管理、継続的な治療と支援、家族教育、地域活動などから、複数のサービスを組み合わせ、自分のためのリカバリー計画を立てるのです。熱意のこもった支持的環境のなかで、包括的なサービスを忍耐強く、必要な限り継続して提供すれば、精神の病をもつ人も必ず、いまより質の高い生活を楽しむことができるでしょう(p.4)。(リバーマンは、カルフォルニア州立大学ロサンジェルス校医学部精神医学教授 UCLA精神科リハビリテーション・プログラム・ディレクター アメリカ精神医学会終身会員)
pp. 7-8
【レーガン博士からのメッセージ】ここ数年の間に、リカバリーは理念とインスピレーションの世界から、政策と実践の世界へと進歩しました。2003年には、大統領の精神保健委員会が報告書を発表し、アメリカの精神保健システム全体がリカバリー基盤へと変えられるべきことを提言し、その目標を達成するための一連の政策が具体的に提案されました(p.7)。日本にとっても、病院中心の医療を地域中心に移すことや、精神保健福祉サービスをさらに人間的で暖かいものに変えていくために、リカバリーの考え方は役立つと思われます。この本ではたくさんの実例を紹介し、個人がどのような過程でリカバリーを経験していくか、専門家がその過程にどう参与していくかについて述べています(p.7-8)
p. 17
【はじめに】1991年に、精神科リハビリテーションの著名なリーダーであるボストン大学のビル・アンソニー博士がビレッジを訪れた時、精神保健で次の大きな動きは何になると思うかを質問したところ、「リカバリー」と答えた。その後、リカバリーを促進させようとする多くの人びとの、心からの声を私は聞いてきました。ダン・フィッシャー医師、パトリシア・ディーガン博士、エド・ナイト……などといった当事者擁護を進める指導的な人びとがいました。
p. 18
【はじめに】ロサンゼルス郡精神保健協会(The Mental Health Association in Los Angeles Country/MHA)の事業である「ビレッジ統合サービス団体」(the Village Integrated Service Agency : ISA)は、1989年にカリフォルニア州議会によって資金提供を認められて以来、リカバリー・コミュニティとして確実に発展してきました。ビレッジとは、ケースマネジメントとリハビリテーションを目指すケアシステムのことであり、それによって、メンバーが地域で普通に暮らすことを支え、リカバリーを進めていく団体なのです。ビレッジのスタッフは、重い精神の問題を持つ人たちと一緒に働きます。多くのメンバーは統合失調症やそのほかの精神の病を持っています。破壊的な児童虐待の犠牲者も少なくありません。多くの人は物質依存の問題を抱えていますし、ホームレスになったり、刑務所に入ったり、入退院を繰り返しています。昔ならば、地域から恐れられて、遠くに隔離され、大きな病院に閉じ込められて生活していたでしょう。いまでは、よい治療とサポートのものとに復学したり、就職したり、自分たちのアパートで生活したりしています。リカバリー・コミュニティになるために、ビレッジはケアの焦点を、病気の症状からメンバーの生活へと移したのです。
pp. 21-22
【はじめに】リカバリーを心理的に考えて、いくつかの段階を踏んでいく過程として説明したいと思い、その基礎としてキューブラ―ロスの悲嘆(グリーフ)の段階説を応用しました(p.21)。この本では、私を元気づけ、いろいろと教えてくれたメンバーたちの物語が、私たちのリカバリー理論の枠組み作りを助け、リカバリーを基礎とした実践原則を導き出すのに役立ってほしいと願っています。『リカバリーへの道』を読んで、精神保健の専門家が、どうしたら病気の人のリカバリーを助けられるか、そのための道路地図を見付けることができるように願っています(p.21)。
pp. 28, 30, 34, 38
【リカバリーの段階を考える】リカバリーは4つの段階を持っています。1)希望、2)エンパワメント、3)自己責任、4)生活の中の有意義な役割、です(p.28)。希望、自信、自己責任など、リカバリーに伴う特性は、被雇用者、息子、母親、近隣者などの「普通」の役割を本人が引き受けていくなかで発揮されるべきことです。より大きな地域社会に参加していき、精神の病と関係のない人びとと関わっていくことが大事です(p.30)。いまの時代では、大多数の精神の病を持つ人びとは、薬物治療と社会保障制度による障害者年金と、それを補う公的扶助によって、生活が安定しているように見えます。果たしてこれでいいのでしょうか(p.34)。優れた新薬とリカバリーの考えを基礎にしたプログラムがあれば、自分で自分の道を歩むことができます。実際上、障害年金受給者、失業者、扶養者、社会的孤立、隔離の状態で人生を過ごすよりも、一人ひとりと新しくリカバリーの可能性を発見していくほうが、ずっと合理的だと私には思えます(p.38)。
pp. 77-78
公的扶助を受給している人はみな、最低賃金を得ることで公的扶助受給者から抜けるべきかどうかという、経済的なむずかしい選択を迫られます。もし、公的扶助を受給することをやめた後に病気が再発したら、再受給が可能になるまで6カ月もかかるでしょう。その6カ月の間にホームレスの状態になってしまったり、再入院になるおそれがあります(p.77)。より多くの人びとが、患者の役割から働く人の役割へと変わっていくためには、現在の社会保障システムに大幅な見直しが必要です。リカバリーのどの段階においても、仕事をするということは、信じられないほどの効果を発揮しますが、雇用サービスに多くの予算や人材をさく精神保健プログラムは、非常に数が限られています。もし、雇用サービスがすべての精神保健事業の中心に位置づけられ、他のサービスと統合されれば、より多くの人びとにリカバリーが可能でしょう。雇用サービスのために、ビレッジ以外の精神保健団体は平均して予算の5%未満しか使っていませんが、私たちは全予算の25%以上を使っています。私たちの就労実績はどこと比べても最上の結果をあげています。しかし、公的扶助制度の収入制限があるために、私たちがメンバーを仕事に動機づける場合には、金銭的な利益よりも、リカバリーの効果を強調せざるを得ないのが実態です(p.78)。
pp. 98-99
【リカバリー・ワーカーになる】いろいろな人がリカバリーの経験を伝えあっています。たとえば、ダン・フィッシャー医師やパトリシア・ディーガン博士は、精神病の経験があります(p.98)。精神科リハビリテーションについて、実に豊富な経験を持っているビル・アンソニーやロバート・リバーマン博士もいますし、あるいは心理・社会的リハビリテーションでの経験を持つビレッジのスタッフや私がいます。それぞれの人の経験が、私たちのリカバリーへのアプローチをより豊かなものにしてくれます。(p.99)。
p. 114
【ビレッジの紹介】スタッフとメンバーが一緒になって作り上げてきたビレッジの目的は、「重い精神の病を持つ成人が地域で生活し、人と交流し、働くために、自分自身の強み・力を認められるように支援し、教えること」であり、さらに「一人ひとりが自分の目標を達成できるように、制度全体にわたる改善を刺激し、変化を促進すること」です。ビレッジは、米国制し苦く協会の2000年度業績金賞(the Gold Achievement Award)を受賞し、同年、大統領障害者雇用促進委員会(the President's Committee on Employment of People with Disabilities)によって、もっとも優れた実践と認められました。2002年には全国精神保健協会(National Mental Health Association)から、革新的プログラミング賞(Innovation in Programming Award)を与えられました。
p. 117(前田ケイ)
リカバリーに関して言えば、日本でも「べてるの家」の人たちのように、全国的に知られているよい活動を展開している当事者たちもいます。しかし、残念なことに日本の精神保健福祉システムはまだまだ、リカバリー志向からははるかに遠いのです。
*作成:伊東香純