『からだ――認識の原点』
佐々木 正人 19871111[新装版 20080208] 東京大学出版会,267p.
■佐々木 正人 19871111 『からだ――認識の原点』,東京大学出版会,267. ISBN-10:4130151576 \2520 [amazon]/[kinokuniya]
■内容
出版社からのコメント
従来の身体論では、フィジカルなものかメタフィジカルなものかによらず、常に分析の対象として「語られる」ばかりであった「からだ」を、認識をつくりだす主役として、改めて認識研究のなかに位置づけた本です。
まずは、(1)「見え」をつくりあげる能動的・受動的な「動き」の重なりあう層として、次に、(2)「ひろがり」の認知地図をつくりあげる接点である「可塑的な媒体」として、さらに、(3)イメージや記憶などこころの内部を外部に結びつける「場」として、そして、(4)外界を鏡のように映し出し内なる認識を生み出す「対話」の相手として----模索のなかから浮かび上がった四つのジャンルについて、「からだ」が語りだす事実を丁寧に抽出し、心理学的な解釈を加えてわかりやすく読者に提示していきます。
■目次
序章 認識の場としての「からだ」
1章 見ること動くからだ
2章 ひろがりを描き出すからだ
3章 イメージとからだ
4章 記号としてのからだ
終章 からだをとりもどすために
対談 竹内 敏晴×佐伯 胖
解題 佐々木正人
■引用
「このように、からだの動きの制限が「見る」ことの形成に遅れとある種の“ゆがみ”を引き起こすという事実は、運動に障害を持つ脳性マヒ児の発達研究にも見られる。たとえば中司らは(中司利一・小川義博・藤田和弘 1971 「脳性マヒ幼児の図地知覚障害に関する研究」,『特殊教育学研究』9,35−45))・・・・・・。」p18
「脳性マヒに対してはそれをたんにからだの動きの障害とは見ずに、からだを動かすことの障害とみなし、「動かせるからだ」をつくりあげることを目標とする治療法がある。成瀬(成瀬悟策 1985 動作訓練の理論――脳性マヒ児のために,誠信書房)の提唱する「動作訓練」である」p22
「成瀬の実践は、ギブソンのアフォーダンス理論と結びつけることができる。彼の定義する「動かせる」からだとは、いいかえれば対象に向かい、それがアフォードするアクションを引き起こすことのできるからだなのである。動作理論が治療の目標とする「動く」からだ。「動かせる」からだとは・・・外界がアフォードするものを最大限に抽出できるからだに他ならないのだ」p23
「このように、見るということがからだの動きとかかわっている、しかもその動きが触覚という、非視覚的な感覚系に特徴的な動きと同一であるという事実は、我々に感覚モダリティー全体の相互関係について考えさせる契機を与えてくれる。」p34
「このように「空間」についての素朴な考察は、空間がわれわれのあらゆる経験に先立ち、認識の発生と共に存在している者であるかのように思わせる。しかし、このような空間の線建設に真っ向から反する事実がある。生まれながらの盲人を対象にした数多くの実験報告である。」p59
「ソニック・ガイド(視覚情報を音に変換する装置)をつけるまで一度もリーチングしなかった1歳前後の盲児5名は、わずか10数回、“視野”へおもちゃを提示されると、腕を伸ばし、手で顔の前にあるものに触れようとした。ど>65>の盲児も対象のある位置に正しくスムースに手を運べた。そしてリーチングをあっという間にしはじめた盲児は、自分に向ってくるものを顔をそむけて避ける、からだの前を移動するものを追うなどの、いわゆる視覚定位行動も同時にはじめた。視覚的な情報を音に変えて伝えるソニック・ガイドはつうじょうは発達初期の長い時間をからだという「密室」に閉じ込められる先天盲の乳児に、驚くほどの早さで「ひろがりの世界」の存在を知らせることが出来たのである。バウワー自身は、このような事実を彼が主張する「知覚の分化発達理論」の枠組みで説明してる。それはわれわれが発達の最初>66>期に、最も形式的・抽象的な感覚情報に敏感な世界に住み、発達に伴い、そこから徐々に個々の感覚モダリティーが伝える具体的な刺激の世界を分化させるとする主張である」p64-66
「実際、空間の「からだ起源説」が予測するように空間の探>69>索に能動的な条件を加味した最新の盲人の空間研究は、先天盲にも見えるもの同型な空間のイメージが存在する可能性を認め始めている。空間の「視覚起源説」は、空間の概念の核にある「視覚」の意味を問い直すことから再吟味される必要がある。「空間」を知るための感覚は視覚に限られない。どのモダリティであれそれが本来は視覚的体験に特徴的な、からだの動きの軸として世界の不変性を表現する働き、すなわち真の意味での「視覚性」をもたらすときには、空間を描き出す感覚として働くことが出来るのである。」p68-69
「われわれが日々体験している、イメージというこの生き生きとした認識の現象を「視覚パラダイム」から解放し、「からだ」のほうに引き寄せるためには、まずはイメージのモダリティ観をみなおす必要が>88>あった。」p87−88
「しかし、表象の身体発生論とでも呼べる主張を展開したワロン(Wallon 1956 邦訳『身体・自我・社会』ミネルヴァ書房,1983)には、イメージとからだをつなぐより徹底した議論を見ることができる。・・・」p121
「あらゆる感情、たとえば心地よさ、脅え、恐れなどの内的な状態が何よりもまず我々のからだに弛緩、身構え、震えなどとして現れることが示すように、「姿勢」は認識の生成に関わると同時に、他者への強い伝播力を持つ情動の舞台でもある。」p122
「
*作成:近藤 宏