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『人と人との間――精神病理学的日本論』

木村 敏 19720320 弘文堂,238p.

last update:20110408

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木村 敏  19720320 『人と人との間――精神病理学的日本論 (弘文堂選書)』,弘文堂,238p. ISBN-10:4335650086 ISBN-13:978-4335650086 [amazon] ※+[広田氏蔵書] m.

■内容

■目次

はしがき
第一章 われわれ日本人
第二章 日本人とメランコリー
第三章 風土と人間性
第四章 日本語と日本人の人間性
第五章 日本人の精神病理
第六章 文化を超えた精神医学

■引用

第六章 文化を超えた精神医学

 「精神医学的な実例を挙げよう。一般に「分裂病性」といわれる精神病がかなり急性に発病する場合、それは主として妄想や非合理的思考を主症状として、外面的な行動にあまり乱れのこない妄想型のものと、逆に行動面に激しい乱れが生じて錯乱興奮状態に陥り、妄想は形成されてもごく断片的なものにとどまる緊張型のものとに大別できる。妄想型のものにあっては意識の清明度はおおむね冒されることがないのに対して、緊張型のものでは意識障害が著しい。内分泌系統の異常とか脳波異常とかの身体的な異常所見は、おおむね緊張型のものだけに認められる。一般的に言って、男性は妄想型の、女性は緊張型の発病様式を示しやすい。<0230<
 さて、この緊張型の精神病の特に激烈なものは、欧米諸国には非常に少なく、アフリカ、東南アジア、中南米に多いことが知られているが、日本にも欧米のほぼ十倍程度の頻度で緊張型精神病が見られるものと推定される(正確な統計は、メラソコリーの個所でも述べたような理由から不可能である)。日本の国内だけを取ってみると、このような緊張型精神病は都市には少なく、農漁村に多い。荻野恒一氏は最近、農漁村から大都会に働きに出てくるいわゆる「出かせぎ」の人たちが特にこの型の精神病にかかりやすいことに注目している(「精神医学」昭和四六年三月号))。」

 「このように考えるとき、前述の妄想型精神病多発地域と、緊張型精神病多発地域との差異は、両地域の文化的差異によるよりはむしろ、両地域に住む人々の自然との接し方の差異、自然に対する密着度の差異によるものとは見られないであろうか。アフリカ、東南アジア、中南米、それに日本、これらの地域に住む人々は、ヨーロツパやアメリカの人々にくらぺ第て、はるかに自然に近いということができる。それは文化の高さや近代化とは直接には何のつながりもない。文化の高い地域(たとえば京都のような都市)が文化の低い地域(たとえばヨーロツパの農村)より、逸かに自然に近いということは、十分にありうることなのである。ただし、この自然との近さという概念は、実際の生活形態の上での近さとは違ったものでありうることを考えておかねばならない。実際の生活形態の上での自然との近さという点ならば、ヨーロッパの農民はやはりきわめて自然に近いのである。しかし、ヨーロッパの農民は、毎日の大部分を自然の中で暮しながら、しかも存在的には自然に対して一定の距離を保っている。これに対して、都市に暮しながらつねに自然と密着しているような人もありうるのである。」(234)

■書評・紹介

■言及




*作成:山口 真紀
UP: 20110408 REV: 20130622 
木村 敏  ◇精神障害/精神医療  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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