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被差別部落における政策的展開と当事者運動をめぐる錯綜
――大阪市内住吉地区における高齢者への聞き取り調査を通じて――
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矢野 亮
20081123・24 日本社会学会第81回大会 於:東北大学
◆報告要旨
1 問題
2002年(平成14年)3月末をもって,同和地区に対する国の特別対策は、最終時限立法である「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(以下,地対財特法)」を最後にすべて終了した.その結果,同和地区では住環境(ハード面)を中心に相当な改善をみた.しかし,一方で,1993年に総務庁がおこなった同和地区実態調査では,教育の面,就労の面,産業面での問題点がいまだ改善されていないことが指摘されている。また、2000年に大阪府がおこなった「同和問題の解決に向けた実態等調査」では,教育や就労面の諸問題に加え,被差別部落住民の被差別による自尊感情の低下といった心理的な問題,介護保険制度の普及率の低さとその背景にある識字問題なども具体的に明らかになっている.また、報告者が地区高齢者を対象に実施してきた継続的な調査からは,地対財特法終焉して以降,地区高齢者は急激な生活変化と諸困難に直面していることが具体的な「語り」から明らかとなった.では,いま感受されている諸困難を孕んだこの現実はいかにしてもたらされてきたのか.報告者がインフォーマントから突きつけられた問いである.この報告では,2001年より大阪市内住吉地区において地区高齢者を対象に実施してきたインタビュー調査を通じて,「現在」という地点に現出している様々な人々の生活史とその語りから惹起した,いくつかの問いを提示しつつ,「現在」へと連なる戦後の被差別部落における政策的展開と当事者運動をめぐる錯綜した状況について考察する必要性を明示する.
2 方法
方法として,本研究では,エリア内部の詳細なポリティクスを照射し緻密かつ詳細な分析を行うため都市部落の典型(山本:1986)とされてきた大阪市内住吉地区を調査対象地区として戦略的に限定した上で高齢者10名をインフォーマントとした継続的な生活史に関するインタビュー調査を実施した.なお,インタビューの方法として初回の面接では構築主義的なライフストーリーインタビューを行い,その後の継続的かつ長期的なインタビューについては徐々に半構造化インタビューを用いておこなった.
3 結果
別紙の通り,第一に,政策的・歴史的文脈や政策的・運動的文脈をより緻密かつ詳細に析出しつつ,現在の当事者においていかなる困難が現れてしまっているのかの社会的帰結を明らかにすること,第二に,戦後における行政的介入がいかなる事態を当事者において現に出来させているのか,さらに第三に,その行政的線引きが当事者間の断絶をもたらし,いかに過酷な状態へと彼・彼女らを追いやってきたという,歴史的帰結を明示することの重要性が確認された.
文献
山本登,1986,「社会学と部落問題」明石書店.
UP:20080624 REV:
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