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東京都の「全身性障害者介護人派遣サービス」の概要と制度確定までの交渉経過




東京都の「全身性障害者介護人派遣サービス」の概要と制度確定までの交渉経過

 東京都の「介護人派遣事業」が「全身性障害者介護人派遣サービス」という制度
に改正されました。
 都は財政的理由で、何としても「介護人派遣事業」にホームヘルプ補助金を入れ
る改正を成功させたい意向でした。そのためには、この制度を交渉して作ってきた
全身性障害者の都内の団体の同意を得なければ制度改正が実施できないということ
で、3年にわたって連続的に都と団体の協議が行われました。

 東京都内の、交渉が活発な市区では、従来、都の100%負担の制度の元で、ヘ
ルパー制度ではできなかった「入院時の介護派遣や気管切開者への吸引等の介護」
などをこの制度で行ってきました。このような運用が、国のホームヘルプ事業の補
助金を入れた制度に変わっても引き続き受けられるように、いろいろな検討や厚生
省との調整が行われました。結果、一定の制限があるものの、利用者の困らないよ
うな運用がされるようになりました。(この経過や結果の運用方法については、外
部には公表していないので、詳しく知りたい方は当会制度係に電話でお問合わせく
ださい)。

 また、旧制度では制度利用に当たっての自己負担金がなかったものを、新しい制
度ではホームヘルプ事業補助金を受けるために、そのままでは生計中心者の収入に
応じ負担金が発生することになります。この問題については、「利用者は本人の収
入に応じて負担することになり、さらに負担の水準も「東京都のホームヘルプ負担
基準」(国の負担基準よりも低~中所得者に負担が少なくなる。差額は都が単費で
負担している)を使うことになりました。この結果、本人にかなりの収入がない限
り、大きな負担は出ないことになりました。(差額は都が負担)。

◆利用者負担額の上限を新設

 さらに、この制度では、月の利用時間数が240~248時間と大きいことから、
そのままでは月の収入の半分をこの制度で費用負担するケースもありえるので、月
額の費用負担額の上限も新設しました。具体的には、「本人の前年所得(月額)の
20%を負担の上限」としました。いずれの方策も、厚生省の補助基準との差額は、
東京都が100%単費で負担することになりました。

 この「利用者負担額の上限」は、厚生省に対して全国的なヘルパー制度の改善案
として提案していくために作ったモデルでもあります。(国のホームヘルプ制度は、
平成2年に週18時間上限が撤廃された後も、1時間あたりの自己負担が上限なし
で設けられており、時間数が増えれば、一定の収入がある重度障害者はその収入の
かなりの額を自己負担することになってしまいます。)

 具体的には新しい制度の負担額は実際に以下のようになります。(月に240時間
利用した場合)

(1) 本人の前年度の所得が、所得額263万円
費用負担上限 月額 4万3800円
(2) 本人の前年度の所得が、所得額300万円
費用負担上限 月額 5万円
(3) 本人の前年度の所得が、所得額600万円
費用負担上限 月額 10万円

◆介護人派遣サービスの対象者

 「国の特別障害者手当」を受給しているか、都の「重度手当」を受給している全
身性障害者で、単身者・障害者のみの世帯または、同居家族が、高齢・児童である
か、疾病・出産・就学・就労等で常時介護に当たれない状態であることが条件です。

 全身性障害者の範囲は下の表の通りです。

(1) 脳原性全身性運動機能障害
 乳幼児期以前に発現した非進行性脳病変によってもたらされた姿勢及び運動の異
常をいう。
ア 脳性麻痺
イ 脳炎後遺症(日本脳炎、はしか、熱射病等による熱性脳症後遺症)
ウ 脳外傷(出産時外傷、乳幼児期の脳損傷等)

(2) 全身性(多肢及び体幹)運動機能障害
 乳幼児期以降に発現した全身性疾患に基づく運動機能障害をいう。
ア 進行性筋萎縮性疾患(筋萎縮性側索硬化症、脊髄性進行性筋萎縮症、神経性進
行性筋萎縮症、進行性筋ジストロフィ症 等)
イ 多発性硬化症、スモン、リウマチ等の特定疾患に含まれる全身性運動機能障害

(3) 上記以外の全身に及ぶ障害
ア 頸椎損傷
イ 外傷性脳損傷によるもの(頭部外傷)
ウ 炎症その他の疾病によるもの(脳血管障害、脳炎、脳腫瘍 等)
 ただし、加齢に伴う身体障害は除くことになりました。これは、介護保険の対象
になるため、高齢主管課の制度対象者となることが予想されるためです。
(脳卒中(脳出血、脳梗塞、脳血栓)、骨粗鬆症、痴呆症などがあるが、これらの
疾病を原因とする加齢現象による身体障害は、対象から除く)

◆自立のための家探しをする場合制度を3ヶ月利用可能

 親元にいる全身性障害者が、その所属する世帯から独立することを目的としてア
パート探しや自立生活プログラム受講などの活動を行う場合など(理由は限定しな
い)、3ヶ月に限り、この制度の利用ができるようにしました。(ただし原則とし
て利用者1人につき1回のみの取得に限ります)。

◆ヘルパー研修は介護人登録後に実施を奨励

 この制度と同時に各市区で行われている自薦方式のホームヘルプサービス事業で
も、ヘルパー登録の際にヘルパー研修の条件はついていません。この派遣サービス
についても「都としては、介護人登録を行った後に介護技術の向上のためにヘルパ
ー研修等を受講することについては奨励することとする」ということになりました。

◆介護人の派遣は毎日8時間が基本

 介護人の派遣は、毎日8時間が原則であり、障害者の希望で、1日8時間の範囲
内で1時間単位の分割した派遣決定を行うことができるようになりました。
 また、従来の制度を受けていた障害者は、毎日8時間の制度を必ず受けられると
いうことになりました。
 障害者からの申し出があれば、8時間より時間数を減らすこともできます。

◆緊急に代替の介護人を派遣する必要がある場合

 障害者が推薦した介護人が介護に当たれない等、緊急に代替の介護人が必要なと
き、他の利用者及び介護人の意思を確認のうえ、合意の下に他の介護者を使うこと
ができます。


一般のホームヘルプ事業のサービスとの関係は
 この介護人派遣サービスと一般のホームヘルプ事業のサービスは、1日8時間以
上介護の必要な障害者の場合、当然両方利用できます。

 例えば、毎日12時間の介護の必要な場合、
全身性障害者介護人派遣サービス  8時間
自薦登録ヘルパー  4時間
 毎日16時間の介護の必要な場合、
全身性障害者介護人派遣サービス  8時間
   自薦登録ヘルパー
   8時間
 毎日24時間の介護の必要な場合、
全身性障害者介護人派遣サービス  8時間
   自薦登録ヘルパー
   16時間
このように組み合わせて利用できます。
(ホームヘルパーの利用可能時間数が少ない市の場合は、生活保護の大臣承認介護
料も利用します)

◆介護券方式はやめ、報告書方式に

 今回の改正で、今まで、記入が面倒だった「介護券」方式をやめ、簡潔な報告書
(→28ページに掲載している、「様式3:介護状況確認書」)で各介護者の勤務
時間を毎月報告し、それをもとに介護人の銀行口座に報酬が振り込まれるようにな
りました。利用者は翌月10日までに市に報告し、振込みは更に2週間ほど後にな
ります。
 国のホームヘルプ事業の補助金を受けるため、ホームヘルプ事業の「報告書」を
採用しなくてはなりませんでした。これについては、上記の「介護状況確認書」の
中に、「活動内容○で囲んでください:家事・介護・外出」と、3択のみ記入する
欄を設け、これで「報告書」にかえることで解決しました。
(なお、実施主体が市区町村のため、各自治体で標準様式から少々の変更を加える
こともありえます。問題がある場合は、各市区と各自で交渉を行ってください。)

次ページは、東京都の旧制度の市町村ごとの利用者数や単価などの実績(東京都作
成資料)です。新しい制度を受ける自立障害者の人数が分かります。
 旧制度は「他人介護」と「家族介護」に別れており、今回改正されたのは「他人
介護」の利用者の部分です。親元等の家庭にいる脳性麻痺者のみが利用できる月
12回の「家族介護」の制度は、旧制度のまま残ることになります。

  ◆『全国障害者介護制度情報』1998年1月号より


REV: 20170129
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