ケア/国境 関連新聞記事2003(読売新聞より)
2003年1月6日(東京朝刊A経)「看護・介護労働 外国人受け入れる? 経産・外務省は賛成、厚労省は反対 」
◆FTA交渉にらみ 経産、外務省「賛成」 供給不足解消を見込み 厚労省「反対」
フィリピンのアロヨ大統領が同国の看護師などの受け入れを日本に求めたことが波紋を広げている。外国人労働者が日本人の職を脅かすのか、それとも少子高齢化が進む中では避けて通れない道なのか。今後の重い課題を突きつけている。(石井利尚)
昨年十二月に来日したフィリピンのアロヨ大統領は、自由貿易協定(FTA)を含む経済連携協定を巡る非公式協議の中で、「世界で最も訓練された献身的な労働者」などとして、同国の看護師やホームヘルパーなど介護労働者の受け入れを日本政府に求めた。
海外で働くフィリピン人は労働力人口の約2%の六十四万人。高学歴で社会的地位が高い同国の看護師は、アイルランドやイギリス、サウジアラビアなどに約一万三千五百人(二〇〇一年)が派遣されている実績もある。
タイ政府も、タイ式マッサージ師の派遣を日本政府に打診中だ。両国ともFTAをテコに、規制の壁が厚い日本の医療、介護市場への参入を狙っている。
■異なる立場
こうした要請に乗った形なのが、経済産業省と外務省だ。FTAを規制緩和の外圧にしたい経済産業省は、「看護と介護は経済補完関係が成り立つ分野」(平沼経産相)と前向き姿勢を示す。外務省も、中国の経済影響力が増す東南アジアでの外交戦略上、対日FTAに熱心な両国との交渉進展を重視するため、要請には前向きだ。
一方、厚生労働省は、言葉の壁による医療事故の懸念などを理由に反対の立場だ。「(フィリピン人看護師などを入れたら)医療の質を確保できなくなる。人命に関係ないIT技術者を受け入れるのとは違う」としており、政府内でも対応は分かれたままだ。
また、日本看護協会も、「外貨獲得の貿易手段として、優秀な看護師を海外に派遣する国策は倫理的にも問題だ」などとして、介護労働者を“輸出品”としてアピールするフィリピン政府の姿勢に反発を強めている。
■雇用懸念
雇用の側面で、受け入れを懸念する見方もある。
看護職員(看護師、助産師、准看護師、保健師)の需給は、二〇〇一年末で約三万五千人の不足となっている。しかし、厚労省が出産や育児などで離職した人の職場復帰(再就業)を後押しする政策を進めていることから、二〇〇五年以降は不足が解消する見通しだ。介護分野でも、「日本人の資格取得者は余っている」(同省)状況にある。このため、厚労省などは、国内雇用を確保する観点から、外国人労働者を受け入れる余裕はないとの立場だ。
さらに、政府が看護師を国外から公式に受け入れれば、保育士など女性が活躍する他の職業へも外国人労働者の進出が広がり、賃金低下など女性の雇用環境の悪化につながると心配する声もある。
■少子高齢化
しかし、東京医科歯科大大学院の川渕孝一教授(医療経済学)は、少子高齢化が進む日本社会では、二〇二五年には介護、福祉関係の職員が百万人以上不足すると推測し、「団塊世代が老後、欧米の病院並みのサービスを求めれば看護師も不足する。日本人の看護を受けることがぜいたくな時代がやってくる」と述べ、受け入れ態勢の整備を検討する必要があると訴える。
日本経団連の奥田碩会長も経済成長のための外国人労働力の受け入れ検討を提言し、「世界貿易機関(WTO)やFTA交渉が進めば国境を超えた人材移動の要請が高まる」と述べている。
《外国人の就労》 政府は現在、研究者や語学教師、技術者、芸術家、コック、歌手など「高度な専門技術」を持つ外国人にのみ、就労目的での入国を認めている。「看護」は資格認定が厳格で、研修目的を除き、事実上入国できない。「介護」も認めていない。二〇〇一年に来日したフィリピン人(十一万五千人)の約六割は、ダンサーや歌手など「興行」ビザでの入国だ。
2003年1月18日(東京朝刊2面)「アロヨ大統領会見「日本のお年寄り、比で受け入れ」 介護要員の就労狙い先手」
【マニラ=源一秀】フィリピンのアロヨ大統領=写真(源一秀撮影)=は十七日、大統領府で読売新聞社など邦人記者団と会見、「我が国内で、日本の高齢者に介護施設を提供する用意がある」と、今後、日本人の高齢者を大規模に受け入れられるように、日比両国間で協議する意向を示した。
比政府は、両国間で協議中の「経済連携協定」に絡み、日本側に、フィリピン人介護要員の就労許可を求めているが、好ましい反応が得られないことから、逆に日本の高齢者を受け入れる姿勢を示したものだ。アロヨ大統領は「我が国は日本と飛行機で三時間程度の距離。日本が冬の間も我が国は暖かい」と、アピールした。日本の高齢化社会を標的に外貨獲得を狙う、比政府側の意思がうかがえる。
また、アロヨ大統領は、天皇陛下が十八日に前立腺摘出手術を受けられることに触れ、「手術の成功をお祈りしています」と話した。
2003年2月18日(東京朝刊外B)「フィリピンで医師が続々と海外流出 高給求め看護師に転身 」
【マニラ=源一秀】国民の一割が海外で働いているとされるフィリピンで、医師が高収入を求め、海外で需要の高い看護師に転身して出国するケースが目立ち、慢性的な医師不足に陥りかねないとの懸念の声が上がり始めている。フィリピンは日本と協議中の「経済連携協定」に絡み、看護師受け入れを求めているが、まず医師流出阻止の国内対応を迫られそうだ。
フィリピン看護師協会のローズ・デレオン常務理事によると、医師の看護師への転身が目立ち始めたのは、「この数年」で、二〇〇一年、二〇〇二年の二年間だけで約二千人の医師が看護学校を卒業した。現役の医師約二万七千人の7・4%に相当する。「ほとんどが出国したか、出国準備をしていると考えられ、看護師需要の高い米国が主な出国先」だ。
転身の最大理由は、海外の看護師の方が国内医師よりもはるかに高収入を期待できることだ。国内医師の月給が、平均的な医師で約五万ペソ(一ペソ、約二・二円)、トップレベルの医師で約十万ペソなのに対し、例えば米国では看護師が七万―十万ペソの収入を得る。
フィリピン人は公用語として英語を話せること、また看護技術が高いことから、米国はじめ英国、オランダなど欧州諸国でも需要が高いことも理由の一つだ。看護学校は四年制だが、医師の有資格者なら、二年で修了できる。
デレオン常務理事は「今後、転身組の増加が予想され、将来的には医師不足を引き起こしかねない」として、今後、医師給与の引き上げや、医師の有資格者の海外就労に制限を設けるなどを内容とした立法措置を、上下両院に働きかけていく方針だ。
2003年3月9日(東京朝刊A経)「[ワールド・インサイド]FTA協議 日本の労働市場焦点」
◆比・タイ、「医療・福祉」開放迫る 対アジア協調問う試金石
自由貿易協定(FTA)を含む経済連携協定の締結を目指す日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)は、交渉方法などの指針となる「枠組み協定」を十月の首脳会議でまとめるため、十日にクアラルンプールで一回目の協議を行う。だが、先行する日本とフィリピン、タイとの予備協議は、フィリピン、タイ両国が医療・福祉などの労働市場開放を要求し、早くも難航している。日本は出足からASEANに難題を突きつけられた形だ。(マニラで、深沢淳一、源一秀)
◆再三の要求
「日本は本格的な高齢化社会を迎え、介護士がさらに必要になる。コストが安いフィリピン人を受け入れれば、我々も雇用拡大につながり、双方に利益をもたらす」
二月下旬、マニラで行われた日本とフィリピンの予備協議。フィリピン政府の高官は、三回目となるこの協議でも、看護師や介護士の就業解禁を求め、強硬姿勢を変えなかった。
フィリピン側が労働者派遣にこだわるのは、国内に条件の良い仕事が少なく、就業先を海外に頼らざるを得ない事情があるためだ。
家政婦や運転手、作業員から技術者まで、フィリピン人は幅広い職を求めてアジア、欧米、中東など各地に渡っている。英語が公用語で堪能なことも強みで、海外就労者は七百四十万人と、実に国民の約一割にのぼると見られている。
外地で稼いだお金は家族に送金され、内需に回る。二〇〇一年の送金額は六十二億三千五百万ドルと国内総生産(GDP)の9%に相当した。地下送金も含めると三割前後にのぼると言われ、フィリピン経済に欠かせない貴重な稼ぎ手だ。
日本に看護師、介護士の受け入れを求めるのは、「技能職である上、需要が見込める職種のため、解禁されやすいと踏んでいるためではないか」(日本政府筋)と見られている。
◆欧米で実績
実際、フィリピンは欧米に多くの看護師や介護士を送り込んでいる。カナダとは介護士の派遣協定を結んでおり、就労資格を得るには学科七百五十時間、実習二百四十時間などの課程を修了する必要がある。
この基準に沿った介護士養成校は国内に約千校ある。昨年十月に開校したマニラの「EXACT」もその一つで、二月末に一期生十二人が卒業した。
教室では、寝たきりの人の洗髪やシーツの取り換え、容体が悪化した際の応急措置、調理の実習も行われ、ノエミ・ナイラ訓練課長は「病院や家庭、介護施設、託児所で即戦力になるよう訓練している」と話す。
受講生の大半は大卒以上の高学歴で、平均年齢は二十代後半。事務や技術者など社会人経験者がほとんどで、約三割が男性だ。
大学で経済学講師を三年間務めた後、介護士転身を目指す女性受講生のジーン・バートロムさん(36)は、「大学の月給は一万ペソ(約二万三千円)だったが、イギリスで十倍以上稼ぎたい」と話す。看護師資格を持つ指導役の女性訓練士ハゼル・チャベズさん(32)も「国内の看護師は一日十二時間働いても月給は良くて一万七千ペソ(約三万九千円)。将来はアメリカの病院で働き、その資金で看護師の再訓練所を開きたい」と海外勤務を希望している。
マニラ近郊にあるメープルリーフ・トレーニングセンターのジョン・ムリョリョ訓練課長も、「カナダや欧州に訓練生を派遣しており、日本にも満足してもらえる卒業生を提供できる」と、受け入れに期待する。
◆安全性で反対
これに対し、日本の厚生労働省は、外国人看護師は言葉の問題で医療ミスが起きる危険があるとして、安全性の観点から受け入れに反対の立場だ。
需給面でも、約三万人不足している看護師、保健師などの「看護職員」は離職者の復帰政策で二年後に人手不足が解消する上、介護士も資格者が介護需要を大幅に上回っており、外国人は必要はないとしている。
タイもタイ式マッサージ師の派遣を求めているが、日本のマッサージ業界は身障者の雇用を確保する役割もあり、妥協は難しい。
ただ、少子高齢化で労働人口が減少に向かう日本にとって、様々な分野で外国人の活用を模索する時期がくる可能性もある。
日本とASEANの経済連携協定の交渉では、日本の農業分野の一層の市場開放が焦点になる見通しだ。しかし、農業分野だけでなく、労働市場の開放問題は、経済格差が大きい日本とアジアが将来、協調関係をいかに深めていくのかを問う試金石になりそうだ。
2003年6月16日(東京朝刊A経)「専門技能持つ外国人受け入れ 8月、タイで本格協議/APEC 」
アジア太平洋経済協力会議(APEC)が、弁護士など専門的技能を持つ労働者を域内の各国が受け入れて活用する「労働者の国際的な移動の問題」について、本格的な協議を始めることが十五日、明らかになった。第一弾として、この問題を討議するAPEC初の国際セミナーを八月中旬にタイで開催する。
弁護士のほか、情報技術者、看護師など専門技能を持つ外国人労働者の受け入れ問題は、入国管理など関係法制の規制を緩和する方向で世界的に議論が高まっている。背景には、少子高齢化による先進国の労働力不足がある。
タイで開催する国際セミナーには、APEC加盟国・地域の政府関係者や学識経験者約百人が参加する。経済協力開発機構(OECD)や世界貿易機関(WTO)の担当者が行う世界の現状報告を基に、看護師、介護士、医師のAPEC域内での移動問題について議論する。
APEC域内では、アメリカなどは外国人労働者の受け入れに積極的だ。フィリピンやタイなども、多数の介護士や看護師が海外で働き、外貨の獲得源にもなっていることから、外国人労働者の受け入れ拡大を他国に求めている。
一方、日本やカナダなど雇用情勢への影響懸念から受け入れに慎重な国もあるだけに、域内での意見調整や共通認識がどこまで深まるか注目される。
2003年10月5日(東京朝刊3面)「[社説]自由貿易協定 まずメキシコとの合意を急げ 」
新多角的貿易交渉(新ラウンド)決裂後、世界各国が力を入れているのは、二国間、地域間の自由貿易協定(FTA)交渉の推進である。
だが、新ラウンドで決裂回避に積極的な役割を果たせなかった日本はFTAでも、「農業」が足かせとなって後れを取りそうな気配だ。
日本は昨年一月にシンガポールと初のFTAを結んだ。これに続く相手国として、メキシコと進めていた政府間交渉が日本側が豚肉の自由化に強く難色を示したことで、膠着(こうちゃく)状態に陥っている。
日本は、来年にかけて韓国やタイ、マレーシア、フィリピンとも、協定交渉開始を予定している。東南アジア諸国連合(ASEAN)とも、来年初めからFTAを柱とする地域経済連携協定の準備協議を始めることにしている。
メキシコとのFTA合意が延びれば、これらの国、地域との交渉も進まなくなる。米欧や中国、インドさらに東アジア諸国が他国との協定締結に活発な動きを見せる中で、日本だけが取り残されれば貿易立国の根幹も揺らぎかねない。
フォックス・メキシコ大統領が来週、来日する。日本政府は、小泉首相との会談でFTA締結に基本合意できるよう、交渉進展に全力を挙げる必要がある。
メキシコはすでに米国、欧州連合(EU)はじめ多くの国々、地域とFTAを締結して相互に関税を撤廃している。日本の進出企業は、他国企業との競争で不利な立場に立たされ、業績悪化で撤退を強いられる企業も出ている。こうした事態の解消が、メキシコとの交渉を急ごうとした日本側の動機だった。
豚肉の自由化について、日本側は、農業関係者の強い抵抗を背景に、輸入を厳しく規制する「差額関税徴収制度」を続ける姿勢を変えていない。メキシコ側も「豚肉で譲歩がないなら、交渉しても意味がない」と態度を硬化させている。
打開の道が全く閉ざされている訳ではない。政府内部に、一定数量の豚肉輸入について無税あるいは低率関税を適用する「関税割当制度」を導入する案で歩み寄りを模索する動きも出始めた。
関税割当制度は、韓国とチリのFTA交渉でも、韓国側が、チリの関心品目である牛肉など四品目への適用に踏み切り、合意のきっかけを作った。
小泉首相は先月の講演会で、メキシコとの交渉について「豚肉の問題で農業関係者からの反発は非常に強いが、協定をまとめていくことが日本全体の利益になる」と早期合意へ決意を語った。
その言葉どおりに、協定合意へ指導力を発揮してもらいたい。
2003年12月11日(東京夕刊夕1面)「日本とタイ・マレーシア・比、FTA交渉入り合意/首脳会談 」
小泉首相は十一日午前、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)による日ASEAN特別首脳会議に出席するために来日中の各国首脳のうち、マレーシア、シンガポール、タイ、ブルネイ、フィリピンの五か国首脳と相次いで会談した。このうちマレーシアのアブドラ首相、タイのタクシン首相、フィリピンのアロヨ大統領との会談ではそれぞれ、二国間の自由貿易協定(FTA)締結に向けて年明け早々にも政府間交渉を開始することで、正式に合意した。
日本はすでに、ASEAN全体との間で、FTAを軸にした経済連携協定の実現に向けて二〇〇五年から交渉を始めることで合意している。すでにFTAを締結済みのシンガポールに加え、ASEAN主要国との二国間FTAの交渉を進めることで、日ASEAN経済連携の実現に弾みをつける狙いだ。
ただ、FTAの内容をめぐり、タイとフィリピンは日本に対し、看護師など労働者の受け入れや農産品の自由化を求めているが、日本側は慎重な姿勢を示しており、交渉は難航も予想される。
〈FTA〉国や地域の間で、実質的にすべての貿易について、関税や制限的な通商規則を撤廃する協定。世界貿易機関(WTO)新多角的貿易交渉(新ラウンド)が暗礁に乗り上げる中で、世界的にFTAを締結する動きが加速している。
2003年12月12日(東京朝刊A経)「FTA交渉入り、タイ・マレーシア・比と合意 「労働」「農業」市場がカギ」
◆国内開放には反発も
小泉首相は十一日、タクシン・タイ首相、アブドラ・マレーシア首相、アロヨ・フィリピン大統領とそれぞれ会談し、自由貿易協定(FTA)の二国間交渉を年明けに開始することで合意した。今月末には韓国と一回目の交渉も行う予定だ。出遅れていた日本のFTA戦略はようやく本格的に動き出すが、外国人労働者の受け入れや農業市場の開放などには反発も予想され、国内改革がどこまで伴うかなどの課題も残る。(深沢淳一)
■メリット
「投資分野の自由化を進めてほしい」
「輸出手続きの簡素化や、知的財産権の保護対策を求めたい」
日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の特別首脳会議に関連して、都内で十一日に開かれたシンポジウム。東南アジア各国に拠点を置く松下電器産業、ホンダ、NEC、デンソー、住友商事の首脳は、出席したASEAN側の経済閣僚に対し、異口同音にビジネス環境の改善を求めた。
ASEANの域内貿易にかかる関税は、ASEAN自由貿易地域(AFTA)計画に基づき、タイ、マレーシアなど六か国はほぼ撤廃している。
しかし、域外からの輸入品には、タイが輸送機械、電気機器に30%を超える関税を課すなど、依然、高関税品目が目立つ。韓国も繊維、アルミ、銅製品などが同様に高関税だ。
外資への投資規制の面でも、マレーシアが民族資本を優遇するため、業種によって出資制限を設けている。各国とも自国産業を保護するため、金融、通信、流通などのサービス分野でも参入自由化はあまり進んでいない。
日本企業側は「FTAを通じ、最適な調達・生産・販売体制が広域に構築される」(宮原賢次・住友商事会長)と、FTAで各国の自由化を促し、ビジネス環境を改善することへの期待が強い。今後の交渉で、これら障壁の撤廃を日本がどこまで引き出せるかがポイントになる。
■国内改革
一方、日本は各国から労働市場と農業分野の開放を強く求められる見通しだ。労働市場を巡っては、これまでの作業部会でフィリピンは看護師・介護士、タイがタイ式マッサージ師の受け入れを要請している。
欧米に派遣実績があるフィリピンは、「日本は高齢化社会で介護士が必要になる。コストが安いフィリピン人を受け入れれば双方に利益がある」(政府高官)と主張する。
日本国内でも、日本経団連などが労働力不足への対策として受け入れを求めている。しかし、厚生労働省は雇用への悪影響や安全性の観点から慎重な姿勢だ。
農林水産品では、タイはコメ、鶏肉、砂糖、でんぷん、マレーシアは合板や丸太などの林産物、フィリピンはバナナやパイナップルなど熱帯産品の輸出を増やしたい。
「日本の自由化が難しい分野には配慮する」(タイ外務省高官)と表向きは柔軟姿勢だが、交渉では要求を強める可能性もある。
日本は交渉の進展を視野に、小泉首相を本部長として全閣僚で構成する「食料・農業・農村政策推進本部」会合を三年七か月ぶりに開くなど、政府を挙げて農政改革に取り組む姿勢を見せる。中国や東南アジアに日本のコメ、野菜、果物を輸出する「攻め」の動きも出ている。
〈外国人労働者〉政府は単純作業の労働者受け入れは認めていない。厚生労働省は介護士やマッサージ師を専門労働者として、資格を取得すれば受け入れるよう検討する方針だが、資格試験は日本語で受験する必要があるなど実質的な制限は残り、フィリピンなどは反発している。
◇FTA交渉の焦点
相手国の関心品目・事項 日本の関心品目・事項
タイ コメ、鶏肉、でんぷん、 サービス、投資、自動車部品、電気製品
砂糖、介護士、マッサージ師、
家事手伝い
マレーシア 合板、丸太 サービス、投資、自動車、自動車部品
フィリピン バナナ、パイナップル、 サービス、投資
看護師、介護士、子守
*作成:永田 貴聖