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『大学教授という仕事』

杉原 厚吉 20100210 水曜社,170p.

last update: 20130401

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■杉原 厚吉 20100210 『大学教授という仕事』,水曜社,170p. ISBN-10: 4880652296 ISBN-13: 978-4880652290  \1680 [amazon][kinokuniya]

■内容

内容紹介
「院に入る前に読んでおけば良かった……」大学院生
「同業者として自身の仕事を振り返ることに役立つ」大学教員など
多くの感想が寄せられています。
最高学府……国公立私立大学の正規教員数は約18万人、そのうちの40%以上が「大学教授」である。
驚くべきことに、教授には教員資格がいらない。では彼等はどのようにキャリアを形成したのか? 学務をどのようにこなしているのか? 研究時間をどう割り振っているのか? 私生活は?
これまで語られなかったなじみの薄いこの職業と仕事を、NHK、民放「世界一受けたい授業」の出演でおなじみの名物教授が、軽快な筆致で独白する。
本書は、入試問題作成、学生指導、学会活動、著作活動、マスコミ出演などまで踏み込み、
つぶさに紹介し、大学教授になりたい人はもちろん、大学教授という社会的存在がいかなるものかを知りたい方々に是非読んで欲しい一冊です。
内容(「BOOK」データベースより)
TV「世界一受けたい授業」などでおなじみの名物教授が明かす、大学教授の講義、研究、論文執筆、学会、出版活動、TV出演、家庭生活…etc。
■目次 ■引用

◆大学は、教育と研究を通して、次世代を担う人材を養成するとともに学問の進歩に貢献する任務を負っている。そのうち教育に関しては、学科などの組織において役割を分担すべき側面も多いが、もう一方の研究に関しては大きな自由をもっている。だから、研究活動を取り仕切る教授は、研究室という名の城に君臨する城主と言ってよいであろう。/教授を城主と表現したくなる理由の一つは、大学という組織の一員であるにもかかわらず、その組織の外の世界と多様な形で直結しているからである。[2010:11]

◆大学の教授は、教育と研究に加えて、学科長や専攻長をはじめ、自分の所属する組織の代表者として、管理・運営にも携わらなくてはならない。そういう立場の仕事は、ストレスが多い。組織を守るためにしっかりしろという内部からの突き上げと、世の中がこんな状態なのだから我慢しろという外からの圧力の板ばさみなどに悩まされる。[2010:13-14]

◆ともかく忙しくてやるべきことが多いので、平日の夜や週末に家へ仕事をもち帰ってこなすことは当たり前になってしまっている。平日の昼間の職場では、講義、会議、学生の相手、管理運営の仕事、電子メールの処理などに追われて、まとまった時間はとりにくい。そのため、論文や本を読むのは電車の中、論文や本の原稿を書いたりするのは自宅でということになってしまう。昼間やり残した雑用的な仕事も家にもち込む。[2010:14]

◆一方、大学の教員になるために、教員免許は要らない。もう一つの仕事である研究の方のプロであることは求められるが、教え方に関しては、なんの訓練も受けないまま、ド素人として教壇に立つことになるわけである。良く言えば自由に個性を発揮して教えることができるのだが、悪く言えば自分勝手にどのように教えるのも自由ということになる。[2010:25]

◆講義を一つ受けもったときの負担はおおよそ次のとおりである。まず、講義自体は一回九十分ぐらいで、それを一つの学期に十五回ほど行う。/これに、講義の準備をしたり配布資料をつくったりする時間が加わる。また、期末試験の問題をつくり、答案を採点して、成績をつけなければならない。さらに、学期の途中で中間テストを行ったりレポート課題を出したりした場合には、その答案やレポートの採点も加わる。したがって講義を一つ受けもったときの負担はかなり重い。/講義は週単位の時間割表に従って行われるので、毎週同じ曜日の同じ時間帯が束縛される。そしてこれが十五週続く。学期の始まる前から、この講義時間がスケジュール表のなかにどっかり居座り、他のスケジュールを組む上で大きな拘束となる。/初めて受けもつ講義の場合は、準備にも相当の時間を割かなければならない。特に基礎科目のように自分の専門に必ずしも近いとは限らない内容の場合には、毎週毎週その講義の準備に追いまくられるような状態となる。[2010:31]

◆研究者のプロの証の一つは、博士の学位である。これは、それぞれの専門分野で新しい研究成果を達成した実績があり、かつこれからも自力で研究を進める力があると認められる者に与えられる学位である。[2010:36]

◆教育と研究が大学人の主要な仕事だと言われるが、教員を採用する際の人事選考では、教育の能力・実績よりも研究の能力・実績に重点が置かれるのが普通である。研究がしっかりできることは、その分野に関して深く理解できていて、進むべき方向も認識できていると考えられる。そして、それが学問を推進するうえで最も重要であるからである。たとえ教え方が少しぐらいまずくても、研究のプロであれば、内容の充実した講義が期待できるわけである。/研究の能力が重視される理由は他にもある。大学での教育の目的は、単に専門分野の知識を伝達することだけではない。その分野で新しく研究開発に加わることのできる研究能力を養成することも大きな目的である。すなわち研究者という人材の養成である。…大学での研究能力の養成という目的は、社会で主体的に活躍できる人の養成でもあり、広く大学に期待されるべきものである。だから大学では、研究の仕方を教えなければならない。このことは特に大学院で重要となる。[2010:37]

◆大学の教員にとって、教育と研究は二つの分離された仕事というわけではない。学生といっしょに研究をしながら、研究の仕方を教えるわけで、どれが教育でどれが研究かという明確な区別はない。教育と研究はつながっている。そしてこれが、研究指導とよばれる仕事なのである。[2010:38]

◆大学の研究費は、特に努力しなくても毎年使えるいわば経常研究費と言えるものと、努力して獲得する外部資金・競争的資金と言われるものから成る。このうち経常研究費は…最低限の生活費とでも言うべきものでほとんど消えてしまう。実験装置を購入・維持したり、研究成果を国際会議で発表するために外国へ出張したりするためには、自力で外から研究資金を得なければならない。[2010:64-65]

◆落選のデータは審査には含まれないが、当選のデータは含まれる。その研究者が過去にどのような研究計画で科研費を獲得し、どのような研究成果を挙げたかは、申請書にも書くことになっているし、審査をするうえで大きな要素となる。/これは、計画書に書かれている研究を申請者が実際に遂行する力があるかどうかを判断するためには、過去の研究実績を見るのが一つの確実な方法だからである。研究実績が十分にあれば、申請書が大風呂敷を広げたものではなく、実質的な中身を含んでいると判断できる。/だから、過去に研究費を獲得し、それによって大きな研究成果を上げた申請者は有利である。新しい研究計画に対して、それが信頼性を与えることになる。研究計画が採択されれば新しい研究費が手に入る。研究費が入れば新しい研究ができ、成果が上げられる。すると、それが、次の申請書に迫力を添えることになる。[2010:67]

◆…研究費を獲得したら、倫理的にしっかりした自覚をもつだけでなく、研究費の使い方のルールもしっかり理解しておかなければならない。さもないと、自覚のないまま、不正な使用をしてしまう危険性がある。[2010:69]

◆大学教員の最も重要な仕事の一つが研究の遂行であるが、研究をちゃんとやっているかどうかを葉第三者が判断するための最もわかりやすい目安は、論文がちゃんと書けているかどうかである。[2010:74]

◆大学内の多くのことがらは、皆で合議したうえで決めるため、長のつくものの任務は、権力をふるうことではなくて、多様な意見をまとめて合意へ導く調整役である。…/…大学では、専攻長となったからと言って、専攻長という仕事だけに専念できるわけではない。ふだんの教授としてやるべき仕事はそのまま残る。すなわち、教育と研究は今までどおりに行うことが期待される。…/つまり、専攻長という役職は、それに専念できるものなどではなくて、教授としての通常の任務に加えてこなさなければならない追加の仕事なのである。/その任務は、専攻長会議に出て、大学の執行部からの情報を専攻に伝えたり、専攻の意見や要望を上へ上げたりするのを始めとして、教員の人事、専攻の入試、カリキュラムの編成など多岐にわたる。単位の足りない学生、勉強意欲をなくした学生などのケアや、不祥事の後始末などもある。また、他の専攻との間で、共通科目の分担法や、研究スペースの調整などもしなければならない。…そして、それらの仕事は、通常の教授の仕事に加わる形で降り注ぐのである。[2010:83-84]

◆…大学にとって入学試験が適切に行われるかどうかは、大学が理念に沿った教育を行い、理念に沿った人材を世に送り出すことができるか否かの大きな鍵となる。したがって入試問題をつくる者の責任は重い。[2010:87]

◆学会の会員になると、毎年会費を納めなければならないが、その代わり、学会誌、学会論文誌などが送られてくる他に、その学会主催の研究会、全国大会、各種シンポジウムなどに参加できる。それらは、自分の研究成果を発表する場でもあり、同分野の他の研究者の成果を聞く場でもあり、さらに、まだ完成していなくて発表までには至らないそれぞれの研究者の最先端の知見やアイデアを互いに交換し合うことによって刺激を受けることのできる場でもある。だから、学会の会員になってその活動に参加することは、研究者として研究を進めるうえでとても有益である。[2010:96]

◆研究者がちゃんと研究を行い成果をあげたことは、論文の形で発表できたとき客観的に認められる。ここでいう論文とは、成果を科学技術文としてまとめた資料というだけではなく、審査員に掲載する価値があると判定されて、実際に論文誌に載ったもののことである。[2010:97]

◆二年経っても三年経っても研究成果の講演発表や論文発表がないと、新しい成果が出せていないということが、外からもわかってくる。自己評価のための資料に成果が書けない。新しく研究資金を獲得したくても、申請書に実績が書けない。申請書で求められる実績というのは、最近の三年とか五年以内のものだから、若い頃にこんないい研究をしたと主張したくてもできない。そうなると評価が下がり、研究資金は獲得できず、ますます研究がしにくくなるという正のフィードバックがかかってしまう。[2010:165]

■書評・紹介

■言及



*作成:片岡 稔
UP: 20101122 REV: 20101124 20130326 0328 0401
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