『科学者として生き残る方法』
Rosei, Federico & Johnston, Tudor 2006 Survival Skills for Scientists,Imperial College Press
=20080609 高橋 さきの 訳,日経BP社,356p
last update: 20130716
■Rosei, Federico & Johnston, Tudor 2006 Survival Skills for Scientists,Imperial College Press=20080609 高橋 さきの 訳 『科学者として生き残る方法』,日経BP社,356p ISBN-10: 4822246698 ISBN-13: 978-4822246693 2940 [amazon]/[kinokuniya] ※
■内容
内容紹介
職業としてアカデミックな世界で科学者として身を立てようとすると、そこには多くのハードルが存在する。
科学者としての経歴の目標をどこに置くかということには、科学者として何を達成したいのかということだけでなく、自分が考えた研究内容を実現にはどのような経歴をたどればよいかという点までが含まれる。
研究室の選び方、ポスドク時代のすごし方、論文はどの雑誌に発表したらいいのか、学会での発表の仕方、大学や研究所のポジションを獲得するための方法や論文のアドバイザーや大学・研究所での上司を満足させるにはどうしたらよいかなど、本書は、科学者としてどのように自分のキャリアを築くかを若い科学者と老練な科学者の二人が詳細に指南。
これからキャリアの階段を登ろうとする若い科学者に、さまざまな研究段階で役立つアドバイスを時にユーモアを交えた軽妙な文章で綴る。
内容(「BOOK」データベースより)
研究室の選び方、ポスドクの過ごし方、論文をどの雑誌に発表すべきか、学会での発表の仕方。研究者としてのキャリアを切り開くための道筋を気鋭の研究者と老練な学者のコンビが詳細にガイドする。
■目次
まえがき
序論
第1章 基本的な選択
第2章 基本戦略と行動
第3章 科学というゲーム
第4章 名声を獲得して、利用する
第5章 自分の科学研究をどう伝えるか
第6章 教訓物語
第7章 エンヴォイ:終わりに
■引用
◆より根底的な問いとしては、「なぜ科学者になりたいのか。自分が科学者になることで、どんな貢献ができるのか」という問いが挙げられる。もし、このうえなくシンプルなこうした内容について考えたことがないのなら、ただちに考えてみるべきだろう。[2008:27]
◆…科学として成功を収めるためには、新規で独創性のある発想こそが重要だということである。[2008:29]
◆科学者が行う作業は多岐にわたっていて…長時間労働はあたりまえで、(特に、アカデミズム内で仕事をしている場合、)週末といえども、仕事がとぎれることはめったにないことを覚悟しておいた方がよいし、できれば、こうしたスタイルに喜びを見出せるとよい。[2008:30]
◆本物の科学者なら、講演や論文はもちろんのこと、助成金の申請書にも熱意はにじみ出るものだ。…自分や自分の学生が新しい結果を出し、これまで誰にもわかっていなかったことを理解できるようになったりすれば、興奮だってする。…こうした興奮や熱狂こそが科学者の真の報酬だし、この職業に付随する欠点や危険や「犠牲」の大半を補って余りある。何をやってもうまくいかない時期というのは必ずやってくるのだから、このことはよく覚えておくべきだ。科学という仕事は、一筋縄ではいかないし、特に研究開始時には、未知の事がらだらけである。しかし、科学者ほど自分の仕事を大切に思っている人は、まずいない。この点は、科学者という仕事についてくる価値ある「おまけ」のようなものだと思う。/科学という仕事は、総労働時間や心おきなくとれる休暇の短さなどを考えると、はなはだ過酷な仕事だといえる。…学会や会議に出席したり、自分の研究についてセミナーを開いたりするために旅行することも多く…[2008:33-34]
◆…アカデミズムで働くことを選択し、教授レベルに達した場合には、科学者であるだけでなく、マネージメント的な仕事も業務に入ってくる。研究を続けるための資金を集め、集めた資金を適切に運用せねばならない。公的資金を得た場合には、研究助成団体に対して、納税者のお金をどのように使ったかについて、かなりの頻度で定期的に報告することも求められる。つまり、研究という職業には、多方面の要素が含まれており、人間の多種多様な活動領域を経験することになる。[2008:34-35]
◆科学の世界で幸せをつかむコツは、人生一般と同じく、十分におのれを知ることだろう。つまり、その後の人生に、おそらくは決定的な影響を及ぼすような、やりなおしのきかない選択を、きちんとしたかたちで行うのに十分な程度に、自分のことを知るということである。[2008:52]
◆…ある分野が「ホット」だというだけでは、その分野に参入する理由にはならないというものである。「ホット」な分野に飛びこめば、競争もそれだけ熾烈である。しかし、その分野の内容自体に十分な魅力を感じ、しかも、無意識のうちに魅力的なアイデアがあふれ出てくるようなら、そうした分野にも、どんどん参入すればよい。[2008:55]
◆…キャリアを選択するときには、以下の点などを念頭においてバランスをとることが大切だと思う。
(i) 自分が関わる予定になっている研究課題を好きになれそうか。…これは、その研究課題に対して責任を持つことになるというだけでなく、まず、研究課題のために懸命に働く気持ちが大切だからである。…
(ii) 指導教員とうまくやっていけそうか。…指導教員には、研究室をやめた後も、最低数年間は、推薦状を書いてもらわねばならない。したがって、指導教員との折り合いの良し悪しは、現時点だけでなく、その後も含めて、キャリアに大きな影響を及ぼすことになる。…
(iii) その指導教員が所属している大学のある町は、自分にとって住みやすそうか。[2008:78-81]
◆大学院を終えて、学位論文の指導教員に指導を受けている学生という立場を脱したら、新たなポジションでは、利害関係のない助言者を見つけて、仕事の方向性を相談したり、アドバイスを受けたりできるようにすることを、おおいに推奨したい。…/アドバイスをもらえるような研究の先達がいれば、何かと助けてもらえるし、誤った選択をした結果悲嘆にくれるといった事態も避けられる。…最良の助言者は、自分より経験が豊かで、研究の具体的な内容に関心があり、自分が科学研究の世界で生き残ってほしいと考えていてくれて、しかも、自分が成功(または失敗)しても、そのことによって得たり、失ったりするものがないような人物である。別の言い方でいうと、優れた助言者というのは、現実について客観的な指標を提供でき、それも、ここぞという重要な選択を目の前にしているような人物に対して客観的な指標を提供できる人物のことである。[2008:82-83]
◆よい共同研究者として、最も大切なのは、その人が性格的に信頼できることだと思う。…/時間や労力を惜しむことなく、常時研究に協力してくれる「ノーマル」で信頼のおける共同研究者と一緒に仕事を進めるほうが、はるかに賢明な選択肢である。[2008:84-85]
◆一般論として、研究と職歴を周到かつ整然と積み上げていくことは、成功への最短距離だろう。自分の研究が将来重要な意味をもつ可能性のある研究者にとって…あらゆることに関して経緯を記録しておくこと、そして何年後であってもその経緯をたどれるようにしておくことは、厳密な科学を実践するうえで、最も重要な点である。報告された結果が、他の研究者にも再現可能だという評価を得ることは…実験系の研究者としての評価を確立するうえで、絶対的に必要な事項である。[2008:89]
◆もう一つ、重要なアドバイスとして、自分の研究に関して厳格であることを挙げておきたい。…大切なのは、査読や発表の後で、愕然とするような事態に遭遇しないためには、最もシビアな批評者よりも、さらになお自分に対してシビアでなくてはならないということである。/自分のデータには、自分以外の誰かが挑戦する前に、自分で挑戦してみること。もし、何か興味深い効果を一度観察したら、再現してみること。それも一度ではなく、数回以上は再現すること。不安な点が残っているときには、自分が実験しているところを、同僚に見てもらうこと。そしてできれば、その同僚に、自分の眼前で、その実験をもう一度行ってもらい、その現象が、観察者に依存するわけではないことを確認すること。さまざまな可能性を視野にいれること。最も単純な説明が正しいことが多いものの、単純な説明ばかりをめざさないこと。他にもっと別の説明のしかたがある場合、査読時にそのことを指摘される前に、検定や計算を行って、そうした説明の可能性を排除しておく責任は、論文を執筆した側にある。[2008:91-92]
◆行き届いた仕事をするということでは、他に、期限を守ることも大切である。…期限を守ることは、同僚を大切にするということでもあるし、人間関係の問題として必須であることも多い。助成金や奨学金に応募する際に厳しい期限を守れなければ、その代償を直ちに支払うことになる。[2008:93]
◆科学においては、聡明さだけでなく、どれだけ献身的に粘り強く熱心に仕事をできるかも大切なことは、誰にでもわかるだろう。しかし、科学には、我慢も必要なのである。[2008:95]
◆確かに、ポストや助成金に応募するためには、書類作成にある程度の時間がかかる。しかし、この時間については、無駄にしたのではなく、自分に投資したのだと考えてみてはどうだろう。作成した書類は、次回また使える。つまり、使い回しがきくかもしれない。要は、その特定の応募に関しては、確かにだめかもしれないし、…誰にでもあることで、脇に置いておけばよい。一方、もしうまくいけば、自分が望んでいたオファーが得られることになる。そして、そのオファーを受けるかどうかは、その段階になってから決めればよいだけのことである。つまり、応募することで、自分にとって新たなチャンスを創造したということになるのではないだろうか。[2008:100-101]
◆科学研究という営みは、圧倒的に資金が不足しており、大抵の国では、科学研究は、強固に資本主義的なシステムによって支配されている。…助成金をうまく得ることができていれば、次の助成金に応募したときにもうまくいく確立が高いということである。…「この研究者は、しっかりとした実績があるし、よその研究助成団体もこの人物に投資している。これまでにも、いくつもの重要なプロジェクトを完了しているので、我々もこの人物に投資すべきだろう」というふうになるのである。[2008:105-106]
◆科学研究に十分な資金を投資しない、あるいはできない多くの国では、才能ある若手が故国を離れて才能を開花させようとするので、いわゆる「頭脳流出」が起こる…研究者として成功していれば、確かに数多くの研究ポジションにつくことができる。しかし、ほんとうに重要で、さまざまな可能性を秘めた仕事というのは、いくつかの特定の地域でしかできなかったりする。そして、「頭脳」は、そうした地域に引き寄せられることになる。[2008:115]
◆確かに、英語は、科学研究だけでなく、人類の営みのさまざまな分野を席巻している。それでもなお、英語以外の言語の素養があることに意味がある状況や、場合によっては命拾いする状況というのが確実にある。[2008:119]
◆研究費の配分には、優先順位や流行がある。その結果、優先順位の下がったトピックは、研究費が次第に削減され、場合によっては突然ストップされる。したがって、研究テーマを変更できるようにしておくことは、自分の熱意や創造性を保ち続けるためだけでなく、自分の研究を実施するための研究費を確保するうえでも、実際に必要となる。このように、研究を行ううえでは、応用がきいて柔軟であることは、特に長期で考えた場合には貴重な資質となる。研究の本質は、新たな発見をし、新たな問題に挑むことにあるのであり、同じ題材を、何度もくりかえし料理しなおすことにあるわけではない。/時間をとって、科学研究や研究費の一般動向や、自分の研究分野に的をしぼった動向について目を通しておくことは、極めて有用だろう。また、自分の研究分野の研究費の最新動向を把握しておくことも、同様に重要である。/今日の世界では、情報を収集しておくことが、とてつもなく重要である。しかし、集めた情報をきちんとフィルターにかけて、有用な情報とそうでないものとを峻別しておくことも、また同様に重要である。[2008:122-123]
◆このゲームの基本的な特徴は、論文発表ゲームであることにある。…このゲームでは、得点あるいは預金が、査読された論文というかたちで、プレイヤーの履歴書に蓄積される。論文は、履歴書にリストとして列挙されるだけなのだが、実際には、履歴書を読む側、つまり評価を行う側は、暗黙のうちに、それぞれの論文の重みについても考慮している。その際に考慮されるのは、各論文の影響力または重要性や、広く認められた研究の重要性…論文が掲載された雑誌のインパクト・ファクターなどである。つまり、この履歴書こそ、奨学金、フェローシップ、人事採用、研究助成金などをめざして闘われているルールが不明確な競技において、鍵となる要素なのである。なお、他に論文に準ずるものとしては、学会などでの招待講演や、総説の執筆…がある。/このように、論文発表というゲームを重ねて履歴書を作成するという過程こそ、科学者への道においてよってたつべき基本なのである。したがって、研究者にとっては、論文発表というゲームを勝ち抜くスキルをしっかり身につけ、科学の世界で成功する機会を最大限生かすことが重要になる。[2008:132-133]
◆最悪の不正行為は、査読者が暗黙の信頼関係…を破って、受け取った情報を不公正に利用して研究上優位にたとうとした場合だろう。…/それよりはるかに多いケースは…論文の著者や研究のことを、かねてから知っていて良くないイメージをもっている査読者…にあたってしまうケースである。…/…深刻な欠陥のある論文が無批判に受理され、査読付きの雑誌に暗黙のうちに認められてしまうケースである。こうしたことが生じる一般的な理由としては、査読者が著者の友人であったり、著者のそれ以前の研究を尊敬していたりといった事情を挙げることができる。[2008:145-147]
◆…雑誌の査読の匿名性などといったものが、なぜ、いまだに受け入れられているのか…理由は、純粋に実利的なもので、匿名性がなかったとすれば、システムにきしみが生じて、うまく作動しないからである。長年の運用でわかってきたのは、査読者…がネガティブな審査結果を出した場合、その査読者は、腹を立てた著者から直接抗議を受けることも多く、そうした場合、その人物は二度と査読者を引き受けなくなってしまうということだった。[2008:147]
◆研究発表ということに関する限り、不正行為として最も忌まわしいのは、実験データを公然と捏造する行為だろう。[2008:151]
◆故意の盗用…も、同じくらい問題である。…盗用の嫌疑をかけられないようにするためには、文献検索を十分に行い、引用文献については多めに記載しておくことである。[2008:153]
◆インパクト・ファクターは、一般には、過去二年間に所定の学術雑誌に発表された全論文が引用された合計回数を、同じ二年間にその雑誌に発表された論文の総数で除したものとして定義される。要するに、インパクト・ファクターは、少なくともその所定の二年間について、当該学術雑誌に掲載された論文について期待される平均引用回数を表している。この指標は、雑誌の質を表す指標として、比較的有用だと考えられているものの、インパクト・ファクターという概念は、残念ながらかなり乱用されている。最も重要なのは、平均値に対する各引用回数のばらつきがあまりに大きいので、統計的有意性が極めて限定されているという点だろう。[2008:182]
◆研究論文の最後には、参考文献のリストを添付して、先行研究に言及するのが通例である。…他の人の研究を引用すれば…引用された側は、幸せな気分になれる。引用というのは、所属コミュニティ内で友人を作るのにうってつけの方法なのである。もしあなたの論文で誰かの研究を引用したとすれば、彼らが、あなたの当該論文をもっと注意深く読んでくれる可能性が高まるし、彼らの論文中であなたの研究を引用してくれる確立も高まるという点を見逃してはならない。自分の研究が、誰によってどのように引用されたのかに対して注意を払うことは、単に自尊心の問題だけではない。…今日では、たくさん引用されることが、科学的価値そのものとなっており…研究資金を得たり、ボーナスの査定や、場合によっては昇進さえも、こうした引用の回数によって決まりかねなかったりする。…自分の論文が被引用回数が多いことを示せるかどうかは、今日の科学の世界では、生き残りに関わるような問題なのである。[2008:184-185]
◆学会発表の利点には、短時間で、発表を聴いてくれた聴衆…に、強烈な印象を残す機会が得られるということである。…/学会に出る理由は、発表それ自体以外にも…(1)宣伝とフィードバック、(2)情報収集、(3)広いネットワークづくり、(4)チャンスを探す、という四つである。…新たに知り合いになった研究者と連絡がとれるよう、最近の論文の別刷りや、名刺の束を持参することを忘れてはならない…学会で発表されている結果は、今後三~六ヶ月の間に発表される内容を含んでいるということになる。…学会は、より多くの研究をすすめるうえで必要なインフォーマルな準備のための議論や打ち合わせを行うためのネットワークをつくるのに打ってつけの場である。…学会に出る理由としては、もう一つ、募集情報をチェックしたり…[2008:190-195]
◆学会の招待講演を頼まれるという機会は、そうあるものではないし、頼まれた場合には、そのチャンスを利用すべきである。特に、若いうちに、国際学会で招待講演を行えれば、周囲の研究者から高く評価され、研究がその分野にインパクトを与えていることが示せるので、経歴に箔がつく。招待講演に招かれたということは、信用や知名度が上がっていることを承認されたことにもなるわけで、極めて重要である。[2008:196]
◆公募がアナウンスされたら、通常は、応募しようとしているその特定の募集に合わせて履歴書を用意することになる。通常、公募情報には、募集側が求めている技能や経歴が具体的に書かれているので、履歴書や、場合によってはカバーレターでは、そうした方面のことを、きちんと適切なかたちで強調しておく必要がある。また、カバーレターには、自分がどういった人物で、なぜ、その仕事に最適な候補者なのかを簡潔に書いておく。/ポスドクのポジションに応募するのなら、こうした文書類…でまずは十分だろう。一方教員のポジションに応募する場合には、教育理念や研究上の関心対象について記載した文書も提出する必要がある…民間や政府系の研究機関の募集の場合には、もっと別の技能が必要とされる場合も多い。/募集中のポジションには自分が最適であることを、まず文書で、そして次に面接で実際に示す責任は、自分の側にある。その意味で、自分の技能、適性、応募するポジションとのマッチングについてしっかり説明したカバーレターを書くことの重要性は、いくら強調してもしすぎることはない。こうした文書をつくることは、面接の「準備」にもなる。…/こうした一連の過程を上手に泳ぎ切るうえでは、大学という場所の階層構造を十分理解しておくことが重要だろう。…/面接に出かける際には、まずセミナーをはじめとして、必要となるかもしれない各種のプレゼンテーションを中心に準備すべきだろう。…ともかく、たった一つしかないポジションを争っていることは肝に銘じておくこと。つまり、「よい」という程度では不十分で、自分が「最良」だということを示さない限り、そのポジションには就けない。[2008:207-210]
◆面接そのものへの準備は、面接を行う側の立場にたって行うのがよいだろう。…面接者には、安心して、自分を採用するのが正しい選択であるというふうに感じてもらう必要がある。その意味で、雇う側が、具体的に、どのような技能や人格を備えた人材を欲しがっているのかを知っておくことが大切だし、面接に赴く前に、自分を将来雇うことになる人たちのことを調べておく必要がある。/応募書類を準備する段階から、雇う側の各メンバーに具体的に伝わるように、自分の関心対象をはっきり書いておくこと。[2008:213-214]
◆仕事のスキルを身につける過程では、各種の研究助成金に応募して、研究資金を獲得する技術を身につけておく必要がある。…実際に関わってみることで、助成金のしくみがどうなっているのかが体得できるし、その過程で得た経験は、将来自分自身のために助成金に応募する際に必ず役に立つはずである。…応募するのが研究助成金であれ、フェローシップであれ、応募というのは、自分や、自分の着想に投資の価値があることを、研究助成団体に納得させる作業だといえる。このことをどうすれば効果的にできるのかを身につけるのは、早いに越したことはない。[2008:225]
◆…綿密に計画を練ること、十分な情報を入手すること、不測の事態は未然に防止すること、周囲によく目を配って上手に駆け引きをすることなどができれば、競合相手より優位に立てるし、成功の確率も高まるわけで、こうしたことは、面接でも応募でも事情は同じである。[2008:228]
◆おおかたの若手研究者の予測とは異なり…助成金の応募書類の「科学」に関する部分を書くのは、科学論文を書くのと、さほど違わない…主たる違いは、一般論として、論文を執筆するときには、結果がすでにわかっているのに対し、助成金を申請する場合には、どんな結果が出ることを望んでいるかについても執筆するという点かもしれない。研究助成金に応募する際に忘れてならないことは、審査するのは専門家(本質的に査読者)であって、この人たちが評価委員会に対して報告するのか、あるいは評価委員会のメンバーそのものになっているという点である。こうした人たちに納得してもらうことが不可欠なのは言うまでもないだろう。/しかし、委員会のメンバーには、…その分野について多少の知識はあるが、専門レベルとはいえない準専門家も交ざっている…したがって、きちんとした説明を行うことによって、こうした人たちにも納得してもらうことがとても重要になる。[2008:232-233]
◆論文を執筆するときには、自分の研究、研究のアプローチ、研究結果、そしてそれらの提示のしかた等を、ひたすら批判的な目でみることが必要だろう。最良の方法は、もし自分が匿名の査読者だったとして、この論文を査読するとしたら、この論文をどう評価するかについて自問してみることである。投稿を希望している学術雑誌の水準を満たしているだろうか、受理される可能性は相当程度あるだろうか、といったことを考えながら、査読者から指摘を受けそうな細かい点の数々を、個々に明確にしていくわけである。[2008:261]
◆もう一つ、重要なアドバイスとしては、研究仲間に原稿を批判的な目で読んでもらい…その後、投稿することである。この「内輪での査読」はとても大切で、非公式に、しかも通常は建設的なかたちで行えるので、時間の節約になるだけでなく、フラストレーションが溜まるのを避けられる可能性も高い。[2008:263]
◆一部に例外はあるだろうが、博士論文というのは、通常、莫大な数の読者がいるような文章ではない。一般論として、博士論文は、その分野の専門家しか理解できないし、おそらくはそのせいで、世界中でも読者はせいぜい一〇〇人程度だろう。したがって、博士論文を、熱心な科学者なら誰でも読める英語で執筆しなかった場合、読者の数はさらに限られたものとなってしまう。短期的には、英語以外の言語で書いた方が、その地域の学生がしゃべる言語であったり、自分の母語だったり、英語より上手に書けたりするという理由で便利なように思えるかもしれないが、長期的には逆の結果となるだろうし…その地域の言語で執筆した博士論文は、その地域でしか利用されないことだけはまちがいない。/博士論文を英語で執筆すれば、英語が母語である場合も含め、英語のライティング・スキルはまちがいなく上達するし、このことは、その後の研究生活を通じて大きな力になる…英語の口頭でのコミュニケーションや読み書きのスキルを身につけられれば後々までの財産になるし、長期的には、研究者にとって必ずプラスになるはずである。[2008:281]
◆ここで大切なのは、多くの場合、履歴書を構成する様々な項目のうち、必要なのは一部のみだという点だろう。また、必要な項目についても、その全部を記載する必要があるわけではないし、最近何年間かの発表や助成金の申請のみを記載するよう制限されていることも多い。…履歴書に記載する各項目を検討する前に、問題を一つ解決しておきたい。つまり、それぞれの履歴書で、データをどういう順番で提示するかという問題である。/各記載項目の各事項は、時系列で古いほうから書くべきなのだろうか。それとも、新しい方から書くべきなのだろうか。最も安全なのは、余裕をもって、両方を用意して、その双方を随時更新しておくやり方だろう。[2008:289-290]
◆…履歴書というのは、誰に向かって書くのかで変わってくるという点である。…/考慮すべき文化のちがいというものもある。…/ここでの目的は、求職の市場またはフェローシップや各種の賞の候補者リストでなるべく高い位置につけること、つまり、履歴書やその後の面接を通じて、将来の雇用主や、フェローシップや賞の選考委員会に対して、自分を売り込むことにある。…履歴書は、説得的に書く必要がある。…履歴書やその後の面接では、過去の実績を今後どのように生かしていくのかを示す必要がある。…ちなみに、大学が新たに教員を募集する場合、百件以上の応募があることは稀ではない。…選考委員会が、すべての応募書類を詳細に検討するだけで、どれだけ大変かがわかるだろう。そして、書類が長ければ長いほど作業が増えるわけである。/つまり、盛り込むべき内容を盛りこんだうえで、簡潔かつ総合的な目配りがきいていれば、その応募者の履歴書はまちがいなく目立つわけで、そうすれば、面接に漕ぎつけられる確立も…増えることになる。[2008:295-297]
◆口頭発表で最も重要なのは、配分された時間をしっかり守り、決して超過してはならない点だろう。…/配分された時間内で話を終えるためには、発表…を、友人たちの前で、最低でも一回、できれば二回以上練習してみることが不可欠である。…友人の前で練習してみることで、自分の研究やプレゼンテーションのしかたの弱点や、場合によっては落とし穴…が明らかになるかもしれないわけで、その意味でも、こうした練習は発表全体の質の向上に役立つはずである。…/その分野がなぜ将来性があるのか…なぜ、そのトピックを追求することにしたのか、その分野に対して自分の研究がどのように貢献しているのか、といったことについて明瞭なかたちで説明する必要がある。自分の研究の何に新しさがあるのかを明らかにするためには、自分の研究を適切な文脈に置くことが必要なわけである。/プレゼンテーションを行うときは、物語を語りきかせて(ある意味では、物語を売って)いるわけである。つまり、発表者が語る物語には、はっきりとした(導入部というかたちの)「はじまり」と、「中盤」と、(結論と、できれば今後の展望というかたちの)「終わり」がなくてはならない。[2008:299-301]
◆時間が短い以上、本当に重要な概念を一つだけ伝え、プレゼンテーションを混乱させるような、関連性の低い枝葉末節の事項を多数織り込んだりすることのないよう注意が必要だろう。…発表を終えた後も、聴衆に覚えておいてもらいたいのは、自分の発表で最も大切な点であって、細かな点ではないはずである…/わかりやすいグラフや画像は、なるべく多用すべきだろう。…/色についても注意が必要だろう。色覚に異常のある人は多く、発表者にとっては全く別の色にしか見えないような色同士を区別できない場合もある。…また、背景に複雑な色が使われていると、肝心の図や文章が見えにくくなってしまう。こうしたことも、プレゼンテーションの予行演習のときにチェックすべき事項だろう。/スライドに載せた文章は、特に重要で強調したい箇所以外、全文を読み上げるのはやめておいた方がいい。…聴衆は文章は読めるのだから、映し出した図版や文章のいくつかの側面についてコメントするだけで、大抵の場合、発表者の意図は伝わるはずである。原稿を用意するというのは、良い考えであるにせよ、高校生ではないのだから、原稿を棒読みしないこと。立派なプロフェッショナルに見えることも重要なことだ。[2008:302-304]
◆英語でのプレゼンテーションに不安を感じている場合、特に英語が母語ではない場合、プレゼンテーションに自信が持てるまで、繰り返し練習したほうがいい。…/はなしが上手で研究も一流、ということになれば、講演に招待される回数も増える。…招待講演の回数が増えることは、キャリアアップ上有利である。[2008:305-306]
◆…ポスターにも、おおざっぱにわけて二種類のお客さんがいる。一つめは、プロフェッショナルで、ポスターで扱うトピックについてすでにたくさんのことを知っていて、重要な点や独創的な点について関心をもっている人たち、そして二つめは、アマチュアで、ほとんど何も知識のない人たちである。…/戦略という意味では、ポスターは…概要と人目を引く画像を、一番目立つウィンドウに並べて、前を通った人が思わず立ち止まるようにするわけである。/このことは、ポスターでは、ちょうど頭の上くらいの高さに重要なものを配置して、通りがかった人が見やすいようにするのと対応する。…当然のこととして、多くの人々は、ポスターを一瞥しただけで、次のポスターに行ってしまう。しかし、最上段に並んでいる画像に目をとめた人は、立ち止まって質問をしてくるかもしれないし、その人には、整理されたはなしを聴く権利がある。その意味で、ポスタープレゼンテーションを(きちんと)行うのは、口頭発表に似たところがある。一つのちがいは、この場合、二種類のレベルのストーリーを語れるようにしておく点にある。つまり、一方で、最新事情や方法論などを知りたいと思っている専門家用のストーリーを、その一方で、はなしを聴いて、そこそこ楽しみたい人向けのストーリーを用意しておくということである。…/せっかくポスターを見に来てくれた人たちが発表者や研究のことを忘れてしまうことがないように…ポスターに記載した研究の別刷り…や、相当数の名刺(メールアドレスは必須)を用意した方がいいだろう。…もし、見に来てくれた人が研究を気に入ってくれれば、そのトピックを扱った論文を実際に読んでくれるかもしれないし、共同研究を申し入れてきたり、少なくとも、自分の論文で引用してくれたりするかもしれない。[2008:308-311]
◆日本から海外に留学する場合、本書で前提とされているような欧州言語を母語とするケースとは異なり、ことばの問題が大きく立ちはだかることになる。…最近は、日本からアメリカのポスドクに応募した場合、受け入れ先との電話でのインタビュー(面接)は必須になりつつあるようだ。…留学を計画する場合、こうしたインタビューに対する準備も怠らないようにすべきということなのだろう。/現地に赴いた後も、ことばの壁は大きい。ただ、現地で必要となる語学のスキルについては、…アメリカ的な発音や身振りでしっかり挨拶をし、自分の考えを主張できることも大切かもしれないが、聴き取る力の方を忘れないでほしいということである。聴き取る力が欠けていると、双方向のコミュニケーションは成立しないし…現地に何年いても語学は上達しない。[2008:353-354]
■書評・紹介
■言及
*作成:片岡 稔