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『切磋琢磨するアメリカの科学者たち――米国アカデミアと競争的資金の申請・審査の全貌』

菅 裕明 20041020 共立出版,163p.

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last update: 20130716

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■菅 裕明 20041020 『切磋琢磨するアメリカの科学者たち――米国アカデミアと競争的資金の申請・審査の全貌』,共立出版,163p. ISBN-10: 4320056205 ISBN-13: 978-4320056206  \1890 [amazon][kinokuniya]

■内容

商品の説明
切磋琢磨するアメリカの科学者たち
大学の独立行政法人化や科学研究費の増額など、日本は科学振興に向け、米国にならったシステムを取り入れつつある。科学技術力を強化するために「最も進化したシステム」を手本にすることは妥当だが、「手本はしっかりとその内容を理解し精通しない限り、手本とはならない」と著者。本書は、米国のシステムを理解する一助にとの思いで著された。
大学入試のシステム、大学教育のカリキュラム、新任教員の採用、テニュア(終身在職権)制度とその審査システム、研究費の申請、獲得の方法などが細かく解説されている。

著者がNIH(米国立衛生研究所)に送付した研究計画書に対するNIHからの批評(Summary Statement)全文も掲載されている。日本で科学技術研究費を申請する場合に比べて、審査が厳格に行われている様子がよくわかる。

(日経バイオビジネス 2005/02/01 Copyright@2001 日経BP企画..All rights reserved.)
出版社/著者からの内容紹介
本書は「切磋琢磨するアメリカの科学者たち」と題した。辞書によると「切磋琢磨」とは「仲間同士互いに励まし合って学問を向上すること」とある。英和辞典によれば、「切磋琢磨」は「Work hard together; be in friendly rivalry」と翻訳されている。「friendly〜〜 rivalry」は直訳すれば「友好的競争」である。筆者の意図する「切磋琢磨」とは、後者の翻訳が近い。つまり、「仲間同士がライバル意識を持ちながら互いを磨くこと」である。本書の題名にある「切磋琢磨する」を科学的な言葉に言い換えれば、「ライバル意識を持った仲間同士が建設的にしかも厳正に評価し合うことで学問を向上する」ことである。いわゆるピアーレビュー(Peer-review)による学問の向上である。
米国の科学者たちは、まさにこの「切磋琢磨」で科学の質のボトムアップを図っている。科学者に必要な「切磋琢磨」する基礎学力と資質を身につけるために大学・大学院の教育があり、また科学者を目指す多くの学生は博士学位の取得後、博士研究員でさらに「切磋琢磨」の鍛錬を続ける。アカデミックポストを獲得して独立した研究室を持ってからは、さらに過酷な「切磋琢磨」が待っている。研究計画書の申請と審査は、まさにそれである。アカデミックポストに在留することができるかどうかを決定するテニュア(終身在職権)審査も、この「切磋琢磨」から得られた結果、すなわち科学研究費の獲得と発表論文、さらにそれを総合的に審査するシニア研究者からの評価で行われる〜〜。米国の一流科学者たちは、このように様々な段階の「切磋琢磨」で生き残り、それを退職するまで続けるのである。だからこそ、彼らは世界的に高い水準を持った科学研究を推進し続けることができるのである。

日本の基礎科学と科学技術のボトムアップの必要性が唱えられている中、米国のシステムを模倣したシステムが日本のアカデミアにも導入されつつある。しかし、米国の「切磋琢磨」するシステムを手本にするためには、それを十分理解することが必要だ。表面だけを模倣してしまえば、この最も重要な「切磋琢磨」の部分が欠落してしまう虞がある。それを避けるためには、米国のシステムの全てを理解した上でそれを消化し、日本のアカデミアに適した「切磋琢磨」型システムを立ち上げなければならない。

決して日本のシステムを批判することを目的にして,書くものではない.米国のシステムを表面的に導入することがいかに危険かということを,米国のアカデミックシステムの根本を理解することで読者に分かっていただきたい.今必要なことは,米国のシステムの良い部分を理解し、またその中で日本に適応できない部分もしっかり認識した上で、日本の土壌にあったシステムを作り上げることである.さらに,それが日本のアカデミックシステムの中で,効率良く機能することが重要である.そこには,当然米国とは違う,「独自性・独創性」が要求される.すなわち,前述の各大学の教育の独自性に加え,日本のアカデミックシステム全体の独自性が重要になってくるであろう.したがって,この本を大学教育に関わるひとりでも多くの方,それは現場の大学教員・研究者に限らず,政府・官僚側からその変革に携わる人達,さらには将来携わる可能性のある大学生の方にも読んでいただくことを筆者は希望している.この本の読者が,日本の土壌で効率良く機能するシステムについて議論し,優れたアイディアが生まれれば,この本を執筆した目的は達成される.そのようなシステムを作ることこそが,日本の大学教育の質を向上させ,基礎研究の活性化を促すことになり,その活性化が企業へとつながり,さらに技術大国として末永く世界に貢献できる国となることができるのではないだろうか.
■目次 ■引用

◆大学には、優秀な人材となりうる研究者としての資質を学生に植えつけていく使命が課せられている。この使命とは、もちろんアカデミックな環境下での「教育」である。優秀な研究者としての資質を教育する場は、大学の学部4年間に加え、大学院修士・博士課程の「研究重視の教育」であることも忘れてはならない。企業が高度技術研究開発を推進するために改革を進めている今、人材教育に関して重要な使命をもつ大学にも改革が求められるはずである。[2004:1]

◆質の高い研究を行う重要な要素の1つに、その研究を推進する優秀な大学院生の存在がある。…米国では、学部の学生がそのまま同じ大学の大学院に進むことはきわめて珍しい。したがって、優れた大学院生を獲得することは、各大学の研究者にとって死活問題でもある。[2004:9]

◆こういったカレッジでは、先端の研究をすることは難しい。しかし、学生の絶対数が少なく、授業の履修学生数も少ないため、教員は1人1人の学生に対し十分な教育を行うことができる。また、こういったカレッジでは、テニュア(終身在職権、2章2項参照)取得の基準を、研究よりもむしろ教育の質に求めるため、教員の教育に対する情熱は、研究に忙しい総合大学の教員とは比較にならないほど高く、また教育の質も高いことが多々ある。…しかし総合大学の教員は、そのテニュア審査において、学部教育よりも研究指向の大学院教育と研究そのものを重視する傾向があり、また教員は自己の研究室に大学院生をかかえ研究を行っているため、学部学生の直接的指導に割ける時間が限られてくるのは事実である。…アメリカではこういったカレッジこそが総合大学に優れた大学院生を送り出すFeeding schoolとなっているのである。[2004:9-11]

◆米国では、入学時点では理系志望か文化系志望か程度のことしか決まっておらず、Major(専攻学科)は決まっていない。学生は、Sophomoreから自分の進路としてのMajorを決めていくわけであるが、これは途中で変更可能であり…。/Minorは、Majorの補専攻として取得する。このMinorはJuniorになった時点で自分のMajorを変更することを可能にする保険でもあり、また受ける教育の幅を広げるための選択でもある。[2004:11]

◆この授業の評価データは、テニュア審査もしくは昇進の決定の際に、ある程度の重みをもって使用されるので、教員はこれらの学生からの評価をないがしろにするわけにはいかない。[2004:14]

◆米国では、大学の成績がその後の進路を決定してしまうのである。徹底した学歴社会の米国においては、医学部や大学院に進学し、高い学位を取ることが高収入の職に就く確実な方法なのである。そのためには、学部で優れた成績を取る必要があり、またMCATやGREで高得点を取得できるだけの学力を十分つける必要もある。[2004:16]

◆優秀な大学院生獲得には、2つの重要なファクターがある。1つは、大学のランク、すなわち評判である。この評判に関しては、大学の歴史的な背景があるため、大学院教育の質を長い目で向上させていく努力をしなければならない。…第2のファクターは大学と宣伝の情報提供である。学部学生は一般的に、どこの大学にどのようなプログラムがあり、どのような研究室があるか、それほど豊富な知識をもっていない。したがって、情報の提供努力を怠ると、学生からの大学院申込書が減少してしまうことを避けられない。/情報提供には、2つの手段が取られている。1つは学科のホームページを充実させることである。…もう1つの手段は、学生をリクルートするために、…Feeding schoolにセミナーに行くことである。[2004:18-19]

◆では、米国の流動性はどこから生まれるのか。…GREでは、1回きりの受験ではなく複数回の受験も可能で、学生の学力を確実に把握できる。さらに、専攻科目の実力は大学の授業成績、推薦書とエッセイで判断しており、その学生のポテンシャルも量り取った評価も考慮する。…/最も顕著な違いは、実は意識的な問題にあるように思える。米国では、大学院で別大学に移動することを当然のこととして、教員も学生も認識している。[2004:20-21]

◆大学院教育では、立ちはだかる問題を自力で解決に導く能力(この自力には、自分自身の考えばかりでなく、他の研究者とディスカッションすることでその活路を見つけ出す能力も含む)、すなわち研究者としての資質を学生に植えつけなければならない。また、自己のアイディアを他人に納得させるだけの論理的思考能力も同時に育まなければならない。[2004:34]

◆米国のテニュアトラックのAssistant Professorは、例外なく期限つきで採用される。その期限の長さは学科と分野によってまちまちであるが、一般的には3年目の中間審査を含む、6年である。Assistant Professorは、テニュア審査を合格すれば、Associate Professorへ昇進し、終身在職権、すなわちテニュアが与えられる。このテニュアは、本人が退職を申し出ない限り保証される。そういった意味では、テニュアつきのアカデミック職は、国際・国内経済やその他のさまざま要因で雇用条件や解雇が左右される企業の職よりもはるかに高い安定性をもつ。[2004:43]

◆…テニュア審査の審査基準の中で、研究費を取得したかどうかは最重要項目であることは動かしようのない事実である。大学運営側の視点からすれば、優秀な教員=外部資金調達ができる人材=大学に間接経費を落とせる人材、という単純で明快な方程式を使って、その教員の価値を量り、給与などを決定していくのが最も合理的である。[2004:44-45]

◆大学は、教員が科学研究費を取得してくることで、投資額の数倍の額が間接経費として返ってくることを期待している。教員にとっては、この科学研究費獲得はテニュアの取得を左右し、テニュアを取得してからは昇進と自分の研究の継続の運命を決定する。…このような理由から、米国の教員は、1つでも多くの研究費を獲得するモティベーションにかられ、科学研究費申請書を書き、また科学研究費獲得の鍵を握る研究成果を出し、その成果を論文にまとめ発表しているといっても過言ではない。[2004:71]

◆…研究目標ではいかなる審査員でもその重要性を理解できる長期目標を立て、その長期目標向けた達成可能な短期目標を理詰めで明記することで、審査員に対して申請する研究の重要性を強くアピールする必要がある。[2004:80]

◆…研究テーマの背景と重要性を議論する。過去および近年の関連領域の研究でどのようなことが明らかとなり、一方でいまだ何が解明されていないかを明確に述べる必要がある。その結果、Specific aimsで提起された問題と作業仮説がいかに重要であるかを論理立てて説明する。審査を割り当てられた審査員全員が、申請している研究テーマに精通しているとは限らない。したがって、研究内容の背景の十分な説明と関連文献の引用は非常に重要である。さらに、重要論文の引用を落としたり、意図的に引用しなかったりすることは禁物である。審査員の批判の対象になりかねない。[2004:80]

◆NIHのWEBサイト(http://grants.nih.gov/grants/oer.htm)には、さまざまな情報が隠れている。…その中でも、研究計画書を書く上で、重宝な情報を得ることのできるサイトがある…それは、CRISP(Computer Retrieval of Information on Scientific Projects http://crisp.cit.nih.gov/*)と呼ばれるサイトで、これまでNIHが予算を出した、すなわち審査に通過した研究計画書のPIの名前と在籍先、プロジェクトの概要(研究計画書のA概要で記載した内容)、さらにサポート期間とサポートを出している部局(Institute)の情報が1972年までさかのぼり検索できる。…/検索は、PIの氏名や大学名、研究所名はもちろん、キーワードでもできる。したがって、自分の関連している領域でどのような研究計画が最近予算を取得しているか検索することが可能である。…研究のタイトルがどのようにつけられ、継続されてきているか、また研究内容がどのように変化しているかなど、読むだけでかなり勉強になる。また、最近のトレンド、すなわち「はやり」をある程度この検索で読み取ることも可能である。米国のアカデミック研究の半分をNIHがサポートしていることを考えると、この検索サイトは数年先に出てくる研究成果の情報が詰まった情報サイトといえる。[2004:88-89]
*引用作成者(注)現在はhttp://exporter.nih.gov/default.aspx

◆NIHの研究計画書の解説を読んで、日本の科学研究費の申請に精通されている読者の中には、それと大して違いがないと思われた人もいることであろう…ただし、研究計画の部分に関しては、NIHが25ページに対し、日本の科研費は5ページと、かなりページ差がある、実はこの差こそ、NIHの研究計画書の審査に大きく影響してくるのである。[2004:95]

◆…審査員は、通常フォント12ポイントの文字を使い、ダブルスペースで2〜3ページの批評を書く。かなり詳細な批評である。批評を書く上で最も大切なことは、理詰めで批評を書くことにある。感覚的な批評、もしくは一般的で漠然とした記述の批評では、批評を受け取る申請者に研究計画の問題点が伝わらず、建設的にはなりえない。たとえば…どこがどういう理由で重要性に欠けるのか、明確で的確な批評でなければならない。また、研究計画におけるリスクを明らかに申請者が想定していなかった場合は、それを指摘する必要がある。批評は、申請者が今後の研究方針を決定してく上でポジティブな効果を生み出すものである必要がある。[2004:102]

◆NSFでも、NIH同様、現在サポートしている研究者と研究タイトル、さらにNSFの場合はそのサポート額もWEB上で公表している(http://www.nsf.gov/home/grants/grants_awards.htm*)。…この情報サイトを活用することで、どのプログラムに自分の研究計画書を提出するかを決定できる。[2004:120]
*引用作成者(注)現在はhttp://www.nsf.gov/awards/about.jsp

◆まず、著者が日本の研究計画書を書いて驚くことは、研究計画書を書くページ数が5ページ程度と非常に少ないことである。米国の研究計画書はいずれの連邦機関に申請する場合でも、研究計画は15ページ以上である。したがって、この日本の研究計画書における研究計画を書くスペースは、米国のそれの1/3以下である。この日本の申請書形式では、研究背景、成果、研究計画を書くスペースが十分取れない。実質的には、詳細な研究計画は書くことができないに等しい。まして研究が計画通りに進まなかった場合のバックアッププランなど書く余地もない。これでは、綿密な研究計画で審査員を納得させることもできないであろうし、、また審査も計画の妥当性と綿密さを基準にすることは困難である。[2004:135-136]

◆…研究計画書の内容に対し各審査員が詳細な批評を書き、それを申請者に与える意義は、厳正な評価を下すことだけではない。批評を受け取る申請者側に評価の科学的な根拠を与え、研究者の育成に大きなメリットを与えることこそが、重要な意義である。[2004:137]

◆詳細な批評がない現在の日本のシステムでは、採用されなかった若手研究者は現在の研究計画の改善点を指摘されることがないまま、闇雲に低いレベルの研究を続けることになるかもしれない。たとえ研究費が獲得できて、その研究目標が達成されたとしても、世界的に見るとレベルの低い研究となってしまい、世界に向けて研究成果を発表することがでない中途半端な質の研究に終わってしまうかもしれな。言い換えると、現在の研究計画書申請・審査システムでは、質の高い研究を推進する可能性を持っているにもかかわらず、それを出し切ることのできない若手研究者の量産に陥ってしまう危険性がある。それでは、若くして研究者を独立させる意義を失ってしまう。[2004:139]

◆まず第1の改革は、新任の教員に対し、大学・部局が「投資」するスタートアップ費用の提供である。これは、特に若手教員が研究室を立ち上げるにあたり、研究の推進を助け、加速すらさせる効果がある。[2004:142]

◆次に必要な改革は、テニュア制度である。…/テニュア制度の要は、厳正な審査である。審査は、学科・学部内部だけの審査ではなく、大学全体、さらには全国的なレベルの審査でなければならない。したがって、一度テニュアを取得した教員は全国どこの大学でもテニュア保持者として雇用される保障をしなければならない。その審査を厳正にする1つのフィルターは、全国レベルで審査される研究計画書、すなわち研究費の有無ということになる。…さらにテニュア審査には、国内の学閥的に偏った評価を極力避けるために、また被審査者の研究内容を国際的なレベルで評価するためにも、外国人研究者に審査を依頼することも選択肢の1つであろう。[2004:143]

◆日本の大学院のカリキュラムをみると、大学院生を対象にした授業はあるものの、それ以外は研究のみである。もちろん、学生自身の研究テーマに全勢力を傾け研究を遂行することは非常に重要である。一方で、自分の研究テーマとは異なるテーマを考える創造能力とそのアイディアを論理的にまとめ文書化する能力の育成も、大学院教育では重要なことの1つである。したがって、修士もしくは博士課程のいずれかで、Proposalを書くカリキュラムを取り入れることは重要であろう。[2004:145]

◆もう1つは、英語での発表能力である。特にこれは博士課程のカリキュラムにぜひ取り入れるべきだ。英語を使う能力というのは、国際会議で口頭発表する時にも、論文を書く時にも必要となる能力である。[2004:145]

◆大学院システムで最も改革しなければならないことは、大学院生への経済的サポートであると筆者は思っている。経済的サポートさえあれば、修士・博士の一貫教育も可能になり、日本のアカデミック研究の活性化とレベルアップにもなることは間違いない。[2004:147-148]


■書評・紹介

■言及



*作成:片岡 稔
UP: 20101122 REV: 20101124 20130514 0516 0520 0716
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