◆筆記試験や面接によって選考がある日本の大学院と違って、普通、アメリカの大学院の入学審査はすべて書類選考である。…一般的に、応募書類は、いくつかの要素から成り立っている。/ひとつは、学部時代(大学院にも在籍したことのある人は、大学院も)の成績証明書。…/次に、TOEFL(Test of English as a Foreign Language)およびGRE(Graduate Record Examination、ロースクールの場合はLSAT<Lawschool Admission Test>、ビジネススクールの場合はGMAT<Graduate Management Admission Test>)の点数。…特にTOEFLに関しては、大学や学部の側が入学のための最低点を設定していることが多いので、それをクリアしていなければ問題外である。…応募書類の中で一番重要視されるのは、エッセイ(Statement of Objectives)である。…エッセイが内容の濃い、形式もしっかりしたものでなければ、高レベルの大学院に合格するのは難しい。逆に、多少点数が悪くても、エッセイがとてもよければ、かなり好材料になる。応募の準備にあたってどこに一番努力を集中すべきかと言えば、間違いなくエッセイである。/…一般的には、これからその大学院でなにを勉強するつもりなのかを述べよ、という大まかな指示があるだけである。…通常、以下の項目は必ずカバーしておくべきである。/まず、これからその学部に入って、どんな分野を専門にし、どんな内容の研究をしていきたいと思っているのか、具体的で焦点を絞った説明をすること。これには、いくつかの目的がある。一つには、自分がこれからしようとする研究について真剣かつ具体的に考えており、それについて明瞭に述べる能力があることを示すこと。二つには、自分がその分野の基礎知識をある程度はもっていることを示すこと。このエッセイで述べることは、拘束力があるわけではないので、大学院に入ってから興味が変わって別方向の研究をすることになっても構わない。それより、今の段階での知識と思考力が有効に示せればよいのである。…いずれ修士論文や博士論文で取り扱いたいと思っている研究テーマを、具体的に述べるのも大切である。…これも、あくまで現時点での自分の興味の範囲と思考能力を示すのが目的であるから、数年後にまったく違う論文を書くことになったとしても、誰も文句は言わない。/ただし、ここで注意しておきたいことがある。興味の焦点が絞られていることを示すのは大事だが、あまりに絞られ過ぎていて、他のことを広く勉強する意思がなさそうに見えるのは困りものである。…アメリカの大学院では、初めの数年間は、広い土台づくりのために幅広い授業を受けさせられる。このコース・ワークを通じて、これまでその分野でとりあげられてきたさまざまなテーマやアプローチを学び、自分が専門とするエリアを定めるための基盤とするのである。そして…資格試験では、自分の選んだ分野で入門レベルの講義から大学院レベルのセミナーまで教えられることを示さなくてはならない。要するに、幅広い勉強と、オープンな頭が要求されるのである。/だから、論文で扱いたいテーマがすでにはっきりと頭の中にある場合も、それをより大きな文脈の中に位置づけることが大事である。さらに、それを研究するためには自分はこれからどういう分野の勉強をする必要がある、ということまで説明できるととてもよい。…/次のエッセイで示さなくてはならないのは、自分が、大学院のレベルでその分野の勉強をするために必要なバックグラウンドをもち、さらに、…研究テーマを遂行する能力がある、ということである。/一番手っ取り早い説明は、学部(大学院にすでに在籍している人なら、大学院)での自分の専門である。なにを専攻し、どんな授業をとって、卒論ではなにを扱ったのか、といったことを具体的に説明しよう。…/バックグラウンドや能力は、必ずしも学問に根ざしていなくてもいい。大学外のさまざまな経験、これから取り組もうとする研究に関係のあることなら、きちんと説明するのがよい。…/学部時代の専攻とこれから勉強しようとする内容が大幅に違う場合や、これまでしてきた勉強や仕事が応募している学部の内容と関係ないように見える場合は、なぜ自分がその分野に興味を持つようになったか、、そしてその分野の勉強をどのようにしてきたか、ある程度説明する必要がある。…/次に、なぜその大学・学部が自分にとってよいと思うのか、これも具体的に書く。応募先大学院を選ぶにあたって、それぞれの学部が強みとしている分野や教授の顔ぶれなどを調べているはずであるから、そうした事項を述べる。…/また、学部そのものとは直接関係がなくても、その大学の図書館が所蔵している資料が自分の研究テーマに欠かせないとか、大学のある都市や地域が自分のテーマと密接に関係しているといった場合も、そのことを述べておくべきである。/エッセイは、ポイントを押さえ、明瞭で具体的かつ簡潔に書いてあることが重要である。これからしようとする勉強に関係のないことは書かなくてよい。書くとかえってマイナスになることもある。…だらだらと長いのも、読むほうは面倒なだけである。。語数制限を設けてあるところもあるが、なければ大体五百語くらい、どんなに長くても七百五十語以内にまとめるべきである。[2004:38-47]